ヤンデレ公爵様は死に戻り令嬢に愛されたい

月咲やまな

文字の大きさ
上 下
57 / 88
【第四章】

【第十話】講義・後編(カーネ・談)

しおりを挟む
「次は『神力』についてです。『神力』はその名の通り、神の力を借りる行為です。『器』となる体との親和性により、どの程度の『神力』を扱えるかが変動します」
「…… (ホント、何でシスさんはそんなに詳しいんだろう?)」

 宿屋に泊まった日の夜。同じ様な話をララからも聞いたが、その時に『きちんと研究はされていない』と言っていた。だけどそれと共に『シスさんは色々学んでいると思う』みたいな事も言っていっけ。

「『神力』を持つ者が軒並み『神官』になるのは、『神力』を発現した者の噂を聞き付けた神殿から勧誘が来るからというのが一番の理由でしょうが、『神の力』を借りる行為であるのだから神に感謝し、敬う神殿に仕えるべきという個々の考えも関与しているでしょう。『神力』を扱える者は治癒能力しか持たないのですが、一部例外がいます」
「『聖女』ですか?」
「はい、そうです。我々ルーナ族では『大神官』が同等の存在となります。『聖女』と『大神官』の扱う『神力』は特別です。それこそ何だって出来ます。大陸の中央部にある二柱を祀る巨大な神殿の遺跡があるのですが、それは初代の『聖女』と『大神官』が『神力』で創り上げた建物です。今はアイビーが絡みに絡み付いていて当時の美しさは見る影もありませんけどね…… 」
 シスさんの表情が曇る。何か悲しい記憶にでも囚われているみたいに。

「——っと、脱線しましたね、すみません。『神力』を引き出すのは魔法と同じく『想像力』です。治る様子をイメージして治療していくんです。元医療師だったりすると治癒能力が高かったりするのはそのおかげです。何を源として治すかの違いがあるだけで、実の所『魔力』での治癒との差はありません」
「そうなんですね。それなら私でもやれそうです」
「えぇ、貴女ならすぐに上達しますよ」と言って、シスさんがまた私の頭を撫でてくれた。すると本当にやれそうな気がしてくるんだから、自分の単純さに呆れてしまう。

「さて、よかったらこの流れでちょっと外に行きませんか?魔導書やマジックアイテムの専門店が近くの商店街にあるんですよ」
「行ってみたいです!」
 鏡で確認せずともわかるくらいに自分の瞳が輝いている気がする。元々本を読むのは好きだが、『魔導書』という響きが心をくすぐる。シリウス公爵家の騎士団に属している魔法使い達が杖と魔導書を手に呪文を唱えて、淡く光る魔法陣を空中に描いていく様子をこっそり遠くから見るのが好きだった。このまま魔法の鍛錬を続けていけば自分もあんなふうに出来るのかも、と何度も空想したものだ。

(…… 追い抜いていたなんて、予想外だったけども)

「決まりですね。じゃあ、僕はこの部屋の片付けをしておきますので、今のうちに貴女は出掛ける用意をして来て下さい。準備が終わったら、一階の玄関ホールで会いましょう」
「わかりました」と返して席を立ち、部屋を出て三階の寝室に向かうと、ララがずっと足元をついて来る。部屋の扉を開けて室内に入り、後ろ手で扉を閉めて寄り掛かると、私はずるずるとその場に膝を立てた状態で座った。

(顔が、熱い)

 じわじわと頬が熱くなり、それを冷やそうと両手で覆う。けど手も熱くって意味なんかなかった。
『どうしたノ?カカ様。具合でも悪イ?』
「あぁ、違うの。大丈夫だよ」
 体力は無いが健康的な体だし、筋肉も無いけど栄養をしっかり取れているおかげで調子は良い。なのに心臓がバクバクと騒がしく高鳴っている。頬も手も熱いだけじゃなくってちょっと震えてもいた。

 褒めてくれた時に撫でてもらった頭にもそっと手を置く。頭を撫でてもらっただけなのに、普通こんなに胸が苦しくなるものなんだろうか。優しくされたからって、親切にしてもらえたからって、沢山助けてくれたからって、皆容易くこんな気持ちになったりするものなの?

(相談相手どころか、比較対象すらいないから答えが出ないや)

 不意にベッドが視界に入り、カッと全身が熱を持つ。背後からぎゅっと強く抱きしめられた状態で今朝方目を覚ました事を思い出し、恥ずかしさも加算されて心臓がもう止まってしまいそうだ。
『大丈夫?』
 心配そうな声でララに訊かれ、いつの間にか伏せていた顔をあげる。
「うん。初めてのお勉強で、ちょっと疲れちゃっただけだよ」と言って小さな頭を撫でると、彼女の大きな赤い瞳には不安が滲んでいた。
『ベッドでおやすみしたラ?シス様に言えバ、お出掛けは延期にしてもらえると思うわヨ?』
「平気よ。——さて、外出着に着替えようかな」と言って立ち上がる。クローゼットを開けながら、ボソッと小さな声で「…… ねぇ」とララに声を掛けた。『ン?』と首を傾げるララの仕草がとっても可愛い。

「…… この職場って、雇用主を好きになっても、良いものなのかなぁ…… 」

 些細な音にすら掻き消されてしまいそうな呟きだった。ララに訊いている様で、そうではないような。そんな声に言葉を返そうと、『カカ様——』とララが口にした声が、ドンッ!という大きな音に突如打ち消される。

「——え?」

 驚き、慌てて窓の近くに行って音の発生源を探す。一度目以降も、何度も何度も大きな音が聞こえてくる。まさか魔法の暴発や爆弾とかじゃないよね?と少し不安になったが、外を見ると音の正体はすぐにわかった。

「…… は、花火?」

 大きくって綺麗な花火が真っ昼間なのに何故か何発も大空にあがっている。一瞬巨大な闇が青空に広がり、その中で花火が花開くから青空の中だというのにとても綺麗だ。でも、何故花火があがっているんだろうか?何処かから打ち上げているような様子も無く、花火イベントの予定も無いのか外を歩く人々も足を止めて空を見上げ、室内に居る人達もこぞって窓の外を注視している。

『アー…… ごめんなさイ。嬉し過ぎてちょっと魔力が暴走しちゃったワ』

「じゃあ、この花火はララの魔法なの?」
『えェ、まァ、そうネ』
 そうは言うが視線は外を見上げたままで、歯切れも悪い。
「ところで、嬉しいって何が嬉しかったの?」
 窓の側に並び立ち、ララに訊く。今もまだ花火は上がり続けている。どうやら魔力の暴走はなかなか止められないみたいだ。

『カカ様の心に恋の花が咲いた事ガ、ヨ』

 他者からそう言われたからか、自分の中にある恋心を改めて実感した気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...