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【それでも俺は貴女が好き】
好きの先にある欲②
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要と鈴音が初めてデートの約束をした日がきた。
この日が来る事を心待ちにしていた要は、もう前日からでも駅前で待機していたいくらいにそわそわして夜も眠れそうに無いくらいのテンションだったのだが、いつも通りの時間にはぐっすり眠りに落ちていた。体内時計がきっちり仕事をした結果だろう。
一方鈴音の方はあまり眠れず、起きてすぐに鏡を見ていると、ちょっと目の下にクマが出来ていた。
「んー…… コンシーラーで隠せるかねぇ」
顔を洗い、化粧をする為に鏡を見ていると、昨夜の様に色々と考えてしまう。
彼女は、自分からデートの誘いをしておいて、今この瞬間でもまだ、ものすごく後悔している。まるでこれでは『さぁ今日は存分に襲ってくれ』と言っているのと同義じゃ無いかと思うと、何故あんな事を言ってしまったのだろうかと考えてしまう。
だが、あの時はあぁでも言わないと引き下がりそうに無い程、要は頭とかに血が上っていた。適当に誤魔化し、なあなあに出来る感じも全く無かった事を考えると、仕方がなったのだとは思う。だからと言って、そんな『仕方がなかった』くらいの気持ちで初デートとか、いいのか?人として。
でも、デートが出来ると知った時の要の顔を思い出すと、ちょっと頬が緩む。こんな気持ちは学生の頃以来だ。あまりに昔過ぎて凹みそうになるも、くすぐったい気持ちが勝ってしまう。
「…… こんなものでいいか」
鈴音はあまり化粧が得意では無い。なので下手にいじるよりはと、薄紅色の口紅を塗って、目元を少し誤魔化す程度にとどめた。
◇
「待たせたか?」
待ち合わせの場所に立っていた要に、鈴音が声をかけた。天気はとても良く、駅にある大きな時計は十時を指している。まだ今は四月なのに少し暑く、日陰が恋しくなるくらいなのに…… 鈴音の格好を見た要が絶句した。
「…… それ、変装かなにか?」
長い髪を大きな帽子の中に全て隠し、目元はサングラス、口には大きな布マスクをつけていて、お忍びの有名人とかよりは、ちょっと不審者くさい。だけど服装は膝丈までの綺麗な水色のワンピースで、ちぐはぐなのは愛らしいと思えた。
「誰が見ているかわからないからな」
そんな状態なのに堂々と胸を張っている鈴音の姿は不思議とカッコイイが、ちょっと笑えるものでもあった。
「まさか、家からずっと?」
「そこまで馬鹿じゃぁ無い。この近くに着いてからだ。…… そ、それにしても」とまで言って、鈴音がちょっと黙る。スカートをちょっと掴み、勇気を出して、一言。
「に、似合うな…… その格好も」
制服かジャージ姿ばかりだった高校生時代とは違い、大学生になってからは私服を見る機会が随分と増えた。とは言っても、バイトしやすい様にTシャツにジーンズなどのラフな格好か、やっぱりジャージ姿がメインだったので、今日みたいなジャケットを上に着る様なコーディネートはとても新鮮で、鈴音はかなり緊張してきた。
「ありがとう。仲のいい先輩と選んできたんだ。ウチの大学に“オトコの娘”の先輩がいてさ。学部も何もかんも全然違うんだけど、同じく格闘…… あ、先輩は護身術だけど、まぁそっちの関係で仲良くなってさ。彼、服のセンスもいいからお願いしたんだ。でも良かったー!服がいいものであっても、似合わんとか言われやしないかとかさ、心配だったんだ。美人の彼女の横をやっと堂々と歩けるんだもん、自慢の彼氏ってやつになりたいなと思ってさ」
照れ臭いからなのか、やたらと饒舌に要が言った。
「…… 良かったな」
要が学生生活をとても楽しんでいる様子を垣間見て、ちょっとだけ鈴音は息苦しくなった。本当に、本当にこんな若い子と、デート何か出来るのか?と、ずっと付き纏う影法師の様な不安がまた姿を現す。
「さぁ行こうか!綺麗な服が汚れちゃわないよう、気を付けないとだね。鈴音さんも、すっごく似合ってるよ!裏路地にでも連れ込んじゃいたくなるくらいに」
「何だい?その褒め方は…… 」
「ふふふっ。わかんないなら、そのままで。さてと、どこに行こうか?この周辺だったら、映画館とか美術館もあったはずだし——」と、悩み出した要の服の袖を掴んで、鈴音が引っ張った。
「向こうに車を停めてあるんだ。まずはそれに乗って、隣の県に行こう」
「…… 鈴音さんが車を持ってる事に驚いたけど、それ以上を更に続けてきたね。…… だけど、隣まで?そこまで、する?」
「この辺はまだ、買い物好きなおばさん達が足を伸ばす!」
「警戒し過ぎだと思うけど…… 。何か、触手の生えた化物扱いだねぇ」
「案件にしたく無い!パパラッチ気分で何をするかも知れん!本人は善意のつもりで色々やらかす人も居るから、タチが悪いんだ!」
「わ、わかったよ。鈴音さんがそうしたいなら、そうしよう。でも俺は、もう未成年じゃ無いんだし、犯罪じゃ無いから、ね?」
「わかってる。わかってるが…… 万が一でも、ホ、ホテルとか入る姿を…… その、見られたら、恥ずかしくて…… 」
俯き、要の服の袖を掴んだまま、小声で鈴音がボソッと呟く。マスクとサングラスで見えないが、きっと顔は真っ赤だと思う。
「…… じゃあさ、このままホテルに直行してくれるなら、いいよ。鈴音さんの好きな場所選んで?」
「——っ⁉︎」
声にならぬ悲鳴をあげ、袖を掴む鈴音の手に力が入る。だが、要から満面の笑顔を向けられてしまい、鈴音はあっさり折れてしまったのであった。
【続く】
この日が来る事を心待ちにしていた要は、もう前日からでも駅前で待機していたいくらいにそわそわして夜も眠れそうに無いくらいのテンションだったのだが、いつも通りの時間にはぐっすり眠りに落ちていた。体内時計がきっちり仕事をした結果だろう。
一方鈴音の方はあまり眠れず、起きてすぐに鏡を見ていると、ちょっと目の下にクマが出来ていた。
「んー…… コンシーラーで隠せるかねぇ」
顔を洗い、化粧をする為に鏡を見ていると、昨夜の様に色々と考えてしまう。
彼女は、自分からデートの誘いをしておいて、今この瞬間でもまだ、ものすごく後悔している。まるでこれでは『さぁ今日は存分に襲ってくれ』と言っているのと同義じゃ無いかと思うと、何故あんな事を言ってしまったのだろうかと考えてしまう。
だが、あの時はあぁでも言わないと引き下がりそうに無い程、要は頭とかに血が上っていた。適当に誤魔化し、なあなあに出来る感じも全く無かった事を考えると、仕方がなったのだとは思う。だからと言って、そんな『仕方がなかった』くらいの気持ちで初デートとか、いいのか?人として。
でも、デートが出来ると知った時の要の顔を思い出すと、ちょっと頬が緩む。こんな気持ちは学生の頃以来だ。あまりに昔過ぎて凹みそうになるも、くすぐったい気持ちが勝ってしまう。
「…… こんなものでいいか」
鈴音はあまり化粧が得意では無い。なので下手にいじるよりはと、薄紅色の口紅を塗って、目元を少し誤魔化す程度にとどめた。
◇
「待たせたか?」
待ち合わせの場所に立っていた要に、鈴音が声をかけた。天気はとても良く、駅にある大きな時計は十時を指している。まだ今は四月なのに少し暑く、日陰が恋しくなるくらいなのに…… 鈴音の格好を見た要が絶句した。
「…… それ、変装かなにか?」
長い髪を大きな帽子の中に全て隠し、目元はサングラス、口には大きな布マスクをつけていて、お忍びの有名人とかよりは、ちょっと不審者くさい。だけど服装は膝丈までの綺麗な水色のワンピースで、ちぐはぐなのは愛らしいと思えた。
「誰が見ているかわからないからな」
そんな状態なのに堂々と胸を張っている鈴音の姿は不思議とカッコイイが、ちょっと笑えるものでもあった。
「まさか、家からずっと?」
「そこまで馬鹿じゃぁ無い。この近くに着いてからだ。…… そ、それにしても」とまで言って、鈴音がちょっと黙る。スカートをちょっと掴み、勇気を出して、一言。
「に、似合うな…… その格好も」
制服かジャージ姿ばかりだった高校生時代とは違い、大学生になってからは私服を見る機会が随分と増えた。とは言っても、バイトしやすい様にTシャツにジーンズなどのラフな格好か、やっぱりジャージ姿がメインだったので、今日みたいなジャケットを上に着る様なコーディネートはとても新鮮で、鈴音はかなり緊張してきた。
「ありがとう。仲のいい先輩と選んできたんだ。ウチの大学に“オトコの娘”の先輩がいてさ。学部も何もかんも全然違うんだけど、同じく格闘…… あ、先輩は護身術だけど、まぁそっちの関係で仲良くなってさ。彼、服のセンスもいいからお願いしたんだ。でも良かったー!服がいいものであっても、似合わんとか言われやしないかとかさ、心配だったんだ。美人の彼女の横をやっと堂々と歩けるんだもん、自慢の彼氏ってやつになりたいなと思ってさ」
照れ臭いからなのか、やたらと饒舌に要が言った。
「…… 良かったな」
要が学生生活をとても楽しんでいる様子を垣間見て、ちょっとだけ鈴音は息苦しくなった。本当に、本当にこんな若い子と、デート何か出来るのか?と、ずっと付き纏う影法師の様な不安がまた姿を現す。
「さぁ行こうか!綺麗な服が汚れちゃわないよう、気を付けないとだね。鈴音さんも、すっごく似合ってるよ!裏路地にでも連れ込んじゃいたくなるくらいに」
「何だい?その褒め方は…… 」
「ふふふっ。わかんないなら、そのままで。さてと、どこに行こうか?この周辺だったら、映画館とか美術館もあったはずだし——」と、悩み出した要の服の袖を掴んで、鈴音が引っ張った。
「向こうに車を停めてあるんだ。まずはそれに乗って、隣の県に行こう」
「…… 鈴音さんが車を持ってる事に驚いたけど、それ以上を更に続けてきたね。…… だけど、隣まで?そこまで、する?」
「この辺はまだ、買い物好きなおばさん達が足を伸ばす!」
「警戒し過ぎだと思うけど…… 。何か、触手の生えた化物扱いだねぇ」
「案件にしたく無い!パパラッチ気分で何をするかも知れん!本人は善意のつもりで色々やらかす人も居るから、タチが悪いんだ!」
「わ、わかったよ。鈴音さんがそうしたいなら、そうしよう。でも俺は、もう未成年じゃ無いんだし、犯罪じゃ無いから、ね?」
「わかってる。わかってるが…… 万が一でも、ホ、ホテルとか入る姿を…… その、見られたら、恥ずかしくて…… 」
俯き、要の服の袖を掴んだまま、小声で鈴音がボソッと呟く。マスクとサングラスで見えないが、きっと顔は真っ赤だと思う。
「…… じゃあさ、このままホテルに直行してくれるなら、いいよ。鈴音さんの好きな場所選んで?」
「——っ⁉︎」
声にならぬ悲鳴をあげ、袖を掴む鈴音の手に力が入る。だが、要から満面の笑顔を向けられてしまい、鈴音はあっさり折れてしまったのであった。
【続く】
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