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【童話に対して思うこと】(作品ミックス・一話完結)

【騎士団長は恋と忠義が区別できない】シド×ロシェルの場合

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「シド!丁度良かった。見てみて下さい、コレ」
 一冊の本を手に持ったロシェルが、神殿内にある図書室から出て来るなり、彼女を迎えに行くため、仕事帰りに廊下を歩いていた所だったシドに声をかけた。
「走ると危ないぞ、ロシェル」
 子どものように明るい笑顔を振りまきながら、シドの腰にタックルするに近い体勢で抱擁をおこないながら、ロシェルが「えぇそうね。ごめんなさい、つい嬉しくって」と言って謝る。
 そんな彼女を腕の上に座らせるような状態にして抱き上げると、シドは二人の私室へと向かって歩き始めた。

「嬉しいと言っていたが、何か面白い物でも見付けたのか?」
「実はそうなの。神官の一人がウチの母から聞いたお話を、童話として本にまとめてくれた事があったのだけど、もう随分前の事で、どこにしまったのかわからなくなってしまっていた本が数冊あったんです」
「まぁ…… あの広さだ、司書もいないしそうなるだろうな」
「母の手描きの絵本の方は、父が永久保管するんだとか言って自室に仕舞い込んでしまっているので、読んでもらった記憶はほとんど無いの。私はもっぱらこちらの童話の方を読んでいたのだけど、ここ数年はなくしてしまっていたせいで読めなかったから、また読めるのだと思うと、嬉しくって嬉しくって」
「まるで宝探しをして、掘り当てたような気分な訳だ」
「その通りよ、シド!流石ね、わかってくれて嬉しいわ」
 幸せいっぱいそうな顔をしながら、ロシェルが彼の胸に寄り掛かる。頭に当たる逞しい胸板が心地よく、彼女はほぉと息を吐いた。
「タイトルは?」
「あ、えっと…… 」と言い、ロシェルが本の表紙を確認する。
「『美女と野獣』という話ね、これは」
「…… ほぉ」
「シドの世界にも無かったお話?」
「読むのは実用書か報告書ばかりだったからな。物語を読む機会はなかったから、あったのか、なかったのかもわからないな。すまない」
「気にしないで、シド。無いほうがむしろ嬉しいわ。だって、一緒にこのお話を楽しめるのだから。母達なんて、ここには無いと思ってこのお話を父に用意したのに、二人が浮世離れしていたせいで知らなかっただけで、既に神々がこのお話の本をばら撒いた後だったから、その話を知らないのは父だけでしたってオチまであったのよ、ふふふ」
「それは…… イレイラ様は相当ガッカリしただろうなぁ」
「えぇ、そうみたい。でも、父はそれすらも喜んだでしょうけどね。『僕だけが知らなかっただなんて、運命みたいだ』って」
「確かにそうだな」

(…… しかし、俺も読むのか。タイトルを聞いただけでは中身が想像出来ないし、案外分厚いから最後まで読める気がしないのだが、大丈夫だろうか)

 シドの心配に気付かぬまま、ロシェルは話を続ける。
「あのねあのね、この本…… 村娘が、呪われてしまった野獣と恋に落ちる話なの。見た目や体格差のある二人の恋物語だなんて、ちょっと私達っぽくないかしら」
 そう言って、ロシェルが照れ臭そうに本で顔を隠した。
「まぁ確かに俺達はかなり体格差はあるとは思うが、俺が…… 野獣?そんなに酷いか?」
 言葉の響きから、シドは相当酷い獣の姿を想像していた。この世界に来てから、ロシェルからを筆頭に、これでもかというくらい容姿を褒められる機会が多くなったというのに、まだ自己評価がかなり低いみたいだ。
「酷いだなんて微塵も思っていないわ。むしろ何と言うかその…… この、逞しい腕だとか、厚い胸板だとか、全身にある傷跡だとかは…… 野獣的でうっとりとしてしまうくらいですもん」
 シドの痴態を思い出し、ロシェルが頬を染め、とろけた瞳をしながら彼の胸に体をすり寄せる。褒めながら甘えてくる彼女を、彼が驚いて一瞬落としそうになり、慌てて体勢を整えたせいで、両腕でしっかりと抱きしめてしまった。
「…… シ、シド…… 」
 すっかりスイッチの入ったロシェルが、さらに猫撫で声をしながらシドの名を呼ぶ。
「んな! ロ、ロシェル⁉︎ちが、これはお前を落としてはまずいと思っただけで、別に他意は——」と、大声で言うシドの口をロシェルが唇で塞ぐ。
 チュッチュッと啄むような口付けをし、ゆっくり離れると、上目遣いをしながらロシェルは、シドにおねだりを始めた。

「…… いいんですよ?獣みたいに激しく抱いてくださっても。私はいつだって、シドになら全てを奪われたいのですから」

「——っ!」
 子どもにしか見えない妻に、淫靡な表情を浮かべ、囁き声でそんな事を言われては、タガを外すなと言う方に無理があったらしい。彼らはこの後すぐ寝室に引き篭もり、完全に理性を失い、獣のように一晩中盛り上がったそうだ。

 童話『美女と野獣』に関しては、本の表紙を見るたびに二人揃って熱い夜の事を思い出してしまい、それどころではなくなってしまった為、まともに読み始めるまでには数ヶ月を要したのだった。


【終わり】
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