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最終章
【第七話】一方その頃、古書店では——
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柊華の通う学校の終業式も終わり、不本意ながらも雪丞との三人で、カフェでのお茶会を楽しんでいた時、古書店のレジ側に置かれている電話が鳴り出した。
古書店にはおらずとも、その事を察知したセフィルが苦い気持ちなる。
今は雪丞という邪魔者が居はしても、柊華との寛ぎの時間を邪魔されたくない。だが、電話の主が誰なのかもわかってしまう為、彼は電話に出る事を優先した。
『…… 柊華さん。すみません…… ちょっと用事が出来たので、私は席を離れますが…… 柊華さんはここから一人でも、大丈夫ですか?』
とても、とても悔しい思いを抱えつつ、舌打ちをしながら、セフィルは雪丞に柊華の事を事を任せた。
誰も居なかった閉店中の古書店の中に、スッとセフィルが姿を現す。
どっちも同時にこなす事も出来るが、他にも彼は同時進行で並行世界に対して色々やらかしている為、これ以上意識を割くのは流石に面倒だ。なので仕方なく、はぁとため息を吐きながら電話の受話器を手に取った。
柊華を外で一人にするのは不安だが、雪丞が一緒ならば少なくとも危険は無い。何を話したのかは後で監視役の烏に訊けばいいし、まぁ今は割り切ろうと自分へ言い聞か、セフィルは「もしもし」と電話をかけてきた相手に言った。
『もしもし。…… セフィルか?』
「えぇそうですよ。お久しぶりですね、日向さん」
電話の相手は、警視庁に勤務している警察官の日向司だった。
『今忙しかったか?』
「そうですね、妻との憩いの時間を過ごしていた所だったので」
『つまり、暇って事でいいな』
「何を言っているんですか。妻と過ごすひと時が暇とか、何ほざいてるんです?貴方だって、奥さんとの時間を邪魔されたらキレるタイプでしょうに」
『…… 全くもってその通りで、反論出来ないな』
受話器越しにでも、日向が何度も頷いている事がセフィルには見て取れた。こういったが妻大好きなタイプの人間は嫌いじゃない。互いに共感でき、ちょっと信頼度が上がった気がした。
「で、本題は?」
『あぁ、ニュース見たか?事前に店へ報告に行ったんだが…… なんかあの、取り込み中だったから入らずに帰ったんだ。でも、やっぱりちゃんと言うべきだったかと思ってな』
「えぇ、見ましたよ。大丈夫です、来ていた事にも気が付いていましたし、書類を用意して下さった時点で全てこちらに情報は着ますから」
『…… 深く訊かんつもりでいたんだが、お前いったい何者だ?——あ、イヤ…… やっぱり言うな。俺じゃ理解出来ない気がする。こういった事は俺の領分じゃない』
「そうですね。ただの便利屋だと思っておいて下さい。あ、頼まれていた事件の証拠を摘みましたので、近々取りに来て下さい。それとも、こっそり机に置いておく事も出来ますが、どうします?」
『…… お前が居たら、俺らの存在意義が無くなりそうだな』
「私とは無関係な事件の捜査など、本音では一件たりともやりたくないので、居てくれないと困ります。存在するだけで抑止力にもなりますしね」
『ははは。まぁまぁそう言わずに、また頼むよ。治安が良くなればお前だってありがたいだろう?』
「…… まぁ、そうなんですけどね。そうなんですけど…… 日向さん、私に色々頼み過ぎでは?こちらからは一件だけしか頼んでいないのに、もう貴方からの依頼は十二件はこなしましたよ?」
『そう言わずに、頼むよ』
「まったく…… 」
ふぅとため息をつき、セフィルが「ではもう切りますね」と言ったのだが、『いやあともう一つ』と日向が止めた。
『一つ…… どうしても訊きたい事があってな。ずっと引っかかってるんだが…… 』
そう言って、日向の言葉が途切れた。訊くと決めたはいいが、まだ迷いが感じられる。
「何ですか、急に黙って?私に貴方の心でも読めと?」
『いや、それはキモいから止めろ』
即座に拒否し、息を吐きつつ日向が口を開いた。
『斎藤家の事件…… お前なら事前に止められたんじゃないか?柊華ちゃんのご両親が死ぬ前に』
「 ………… 」
セフィルが黙り、様子を伺う。
『あれだけの証拠集めは、事前に動いていないと出来ない物ばかりだったからな。母親が長年溜め込んでいた物を見つけ出したんだと言われたら、まぁそれまでだけど』
「その通りですよ、わかっているじゃないですか」
『…… そう言うんなら、そういう事にしておいてやるか』
納得は出来ていそうにはなかったが、追求は無駄だろうと感じた日向がそう言い、電話を切ろうとした。
「…… もし」
『ん?』
不意に聞こえたセフィルの声で、日向の手が止まる。
「もし、事前に知っていたとしても、私は止めなかったでしょうね。妻が家を出るいいきっかけになりますし、戻る場所が無い者は…… 逃げませんから」
淡々とした声を聞き、日向の背筋にザワッと悪寒が走った。仄暗い情念を感じ、手が震える。絶対に敵に回してはいけない存在が電話の向こうにいると、日向は本能的に感じた。
『…… 仮定の話をしても、仕方無いよな。まぁもう済んだ事だし、この質問は忘れてくれ』
「そうですね、もう…… 済んだ事です」
ニッと笑ったセフィルの笑みは、とてもじゃないが柊華に見せていい顔では無かった。
電話を切り、セフィルがふぅと息をつく。
「…… 柊華さんを、あるべき場所から攫った者など、私が許すと思いますか?愛情を持って育てた事は評価しますが、それで挽回出来るものではありませんからね」
そう言葉をこぼし頭を軽く横に振る。
次の瞬間には詰め襟の制服を着た少年の姿にセフィルは変化した。長い銀髪は普段よりはとても短く、首くらいまでしか無い。右目のにはモノクルをしたままで軽く厨二病感があるが、端正な顔付きのおかげで違和感は皆無だ。
「さて、さっさとカフェに戻りますか。いつまでも雪丞に任せておけませんからね」
ぽつりとそうこぼした途端、セフィルは古書店の中から消えて居なくなった。
古書店にはおらずとも、その事を察知したセフィルが苦い気持ちなる。
今は雪丞という邪魔者が居はしても、柊華との寛ぎの時間を邪魔されたくない。だが、電話の主が誰なのかもわかってしまう為、彼は電話に出る事を優先した。
『…… 柊華さん。すみません…… ちょっと用事が出来たので、私は席を離れますが…… 柊華さんはここから一人でも、大丈夫ですか?』
とても、とても悔しい思いを抱えつつ、舌打ちをしながら、セフィルは雪丞に柊華の事を事を任せた。
誰も居なかった閉店中の古書店の中に、スッとセフィルが姿を現す。
どっちも同時にこなす事も出来るが、他にも彼は同時進行で並行世界に対して色々やらかしている為、これ以上意識を割くのは流石に面倒だ。なので仕方なく、はぁとため息を吐きながら電話の受話器を手に取った。
柊華を外で一人にするのは不安だが、雪丞が一緒ならば少なくとも危険は無い。何を話したのかは後で監視役の烏に訊けばいいし、まぁ今は割り切ろうと自分へ言い聞か、セフィルは「もしもし」と電話をかけてきた相手に言った。
『もしもし。…… セフィルか?』
「えぇそうですよ。お久しぶりですね、日向さん」
電話の相手は、警視庁に勤務している警察官の日向司だった。
『今忙しかったか?』
「そうですね、妻との憩いの時間を過ごしていた所だったので」
『つまり、暇って事でいいな』
「何を言っているんですか。妻と過ごすひと時が暇とか、何ほざいてるんです?貴方だって、奥さんとの時間を邪魔されたらキレるタイプでしょうに」
『…… 全くもってその通りで、反論出来ないな』
受話器越しにでも、日向が何度も頷いている事がセフィルには見て取れた。こういったが妻大好きなタイプの人間は嫌いじゃない。互いに共感でき、ちょっと信頼度が上がった気がした。
「で、本題は?」
『あぁ、ニュース見たか?事前に店へ報告に行ったんだが…… なんかあの、取り込み中だったから入らずに帰ったんだ。でも、やっぱりちゃんと言うべきだったかと思ってな』
「えぇ、見ましたよ。大丈夫です、来ていた事にも気が付いていましたし、書類を用意して下さった時点で全てこちらに情報は着ますから」
『…… 深く訊かんつもりでいたんだが、お前いったい何者だ?——あ、イヤ…… やっぱり言うな。俺じゃ理解出来ない気がする。こういった事は俺の領分じゃない』
「そうですね。ただの便利屋だと思っておいて下さい。あ、頼まれていた事件の証拠を摘みましたので、近々取りに来て下さい。それとも、こっそり机に置いておく事も出来ますが、どうします?」
『…… お前が居たら、俺らの存在意義が無くなりそうだな』
「私とは無関係な事件の捜査など、本音では一件たりともやりたくないので、居てくれないと困ります。存在するだけで抑止力にもなりますしね」
『ははは。まぁまぁそう言わずに、また頼むよ。治安が良くなればお前だってありがたいだろう?』
「…… まぁ、そうなんですけどね。そうなんですけど…… 日向さん、私に色々頼み過ぎでは?こちらからは一件だけしか頼んでいないのに、もう貴方からの依頼は十二件はこなしましたよ?」
『そう言わずに、頼むよ』
「まったく…… 」
ふぅとため息をつき、セフィルが「ではもう切りますね」と言ったのだが、『いやあともう一つ』と日向が止めた。
『一つ…… どうしても訊きたい事があってな。ずっと引っかかってるんだが…… 』
そう言って、日向の言葉が途切れた。訊くと決めたはいいが、まだ迷いが感じられる。
「何ですか、急に黙って?私に貴方の心でも読めと?」
『いや、それはキモいから止めろ』
即座に拒否し、息を吐きつつ日向が口を開いた。
『斎藤家の事件…… お前なら事前に止められたんじゃないか?柊華ちゃんのご両親が死ぬ前に』
「 ………… 」
セフィルが黙り、様子を伺う。
『あれだけの証拠集めは、事前に動いていないと出来ない物ばかりだったからな。母親が長年溜め込んでいた物を見つけ出したんだと言われたら、まぁそれまでだけど』
「その通りですよ、わかっているじゃないですか」
『…… そう言うんなら、そういう事にしておいてやるか』
納得は出来ていそうにはなかったが、追求は無駄だろうと感じた日向がそう言い、電話を切ろうとした。
「…… もし」
『ん?』
不意に聞こえたセフィルの声で、日向の手が止まる。
「もし、事前に知っていたとしても、私は止めなかったでしょうね。妻が家を出るいいきっかけになりますし、戻る場所が無い者は…… 逃げませんから」
淡々とした声を聞き、日向の背筋にザワッと悪寒が走った。仄暗い情念を感じ、手が震える。絶対に敵に回してはいけない存在が電話の向こうにいると、日向は本能的に感じた。
『…… 仮定の話をしても、仕方無いよな。まぁもう済んだ事だし、この質問は忘れてくれ』
「そうですね、もう…… 済んだ事です」
ニッと笑ったセフィルの笑みは、とてもじゃないが柊華に見せていい顔では無かった。
電話を切り、セフィルがふぅと息をつく。
「…… 柊華さんを、あるべき場所から攫った者など、私が許すと思いますか?愛情を持って育てた事は評価しますが、それで挽回出来るものではありませんからね」
そう言葉をこぼし頭を軽く横に振る。
次の瞬間には詰め襟の制服を着た少年の姿にセフィルは変化した。長い銀髪は普段よりはとても短く、首くらいまでしか無い。右目のにはモノクルをしたままで軽く厨二病感があるが、端正な顔付きのおかげで違和感は皆無だ。
「さて、さっさとカフェに戻りますか。いつまでも雪丞に任せておけませんからね」
ぽつりとそうこぼした途端、セフィルは古書店の中から消えて居なくなった。
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