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最終章
【第五話】「デリカシーって知ってますか?」①
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あれから数日が過ぎ、終業式の日が来た。
両親の御墓参りは月命日に行こうという事に決まり、柊華は今一人(仮)の状態で図書館横のカフェでカプチーノを飲みながら、手帳とにらめっこをしている。
『て、照れます…… そんなに見詰められると』
セフィルの声が柊華に聞こえたが、彼女は眉にシワを寄せただけで黙ったままだ。
そもそも声だけの彼を柊華は目視出来ないので、そう言われても『そうですよ、うふふ』なんて、甘い空気になどなりそうが無かった。
(一、二、三…… うぅ、大丈夫かなぁ…… )
手帳を見ながら真剣に計算している時に茶々を入れられ、甘い雰囲気になるどころか、どう見ても柊華は不機嫌顔だ。
どうしたんでしょうねぇ?とセフィルは不思議に思ったが、思い当たる事柄が無く、彼は仕方なく黙っている事にした。
「父さんは馬鹿ですねぇ。女性が手帳とにらめっこをしている理由なんて、『生理がこないが大丈夫か?』の一択でしょうに」
突然聞こえた一言と声の主に向かい、柊華がこれ以上ないくらいのしかめっ面を向けた。彼女の背後からは怒気が漂い、心火を燃やしたその眼差しは、人を刺しかねない雰囲気を纏っている。
そんな柊華の顔を見て、近くまで来ていた雪丞が一歩後ろに下がった。
発言にミスがあった事に気が付きはしたが、どう挽回すればいいのか咄嗟には思い浮かばない。
「…… 雪丞さんは、デリカシーを学んだ方がいいですよ?」
カフェには柊華以外にも多数の生徒達が居る。そんな中、先ほどのような発言をされて怒らない女性は皆無だろう。
「す、すみません。あ、えっと、お詫びにここのガナッシュショコラをご馳走するから許してなんて…… 」
キッと睨まれ、雪丞が肩を落とした。
マズイ…… 母さんに嫌われたか?と、雪丞の心が不安でいっぱいだ。だが、セフィルはちょっと嬉しそうだった。
『ならもう、仕事に戻ればいいじゃないか。ほらほら』
「父さんは黙って下さい」
柊華の手帳に向かい、雪丞が小声で言った。
その場で挽回せねば夜も眠れない。柊華に嫌われたままでいるなど、彼の中ではあり得ない事態だ。雪丞は許可を取る事無く柊華の隣に座ると、手帳の側に置かれた彼女の手にそっと手を重ねた。
「ごめんなさい。もう二度と言わないから許して…… 」
瞳を潤ませ、雪丞が頼む。
ロマンスグレーの紳士に子どもっぽい口調でそう言われ、柊華は喉を詰まらせた。ギャップ萌えとも何か違う、なんとも言えぬ違和感が——むしろ良い。
柊華は「くっ」と声をこぼすと、雪丞から顔をさっと逸らしながら、「もうしないで下さいね!」と言って、あっさり彼を許してしまった。
『柊華さんは雪丞に甘過ぎます!教育上よくありません!もっと叱って、放置しないと!』
「母さんに甘々な父さんには言われたくないですねぇ」
雪丞が、ふっと勝ち誇った顔をする。先程の態度が嘘のような表情だ。
「教育が必要なご年齢では無いでしょうし、躾は私の関与するところではないので」
柊華の言葉に対し、うんうんと雪丞が頷く。
セフィルが舌打ちをした音が二人に聞こえたが、どちらも彼を宥めるような事は言わなかった。
両親の御墓参りは月命日に行こうという事に決まり、柊華は今一人(仮)の状態で図書館横のカフェでカプチーノを飲みながら、手帳とにらめっこをしている。
『て、照れます…… そんなに見詰められると』
セフィルの声が柊華に聞こえたが、彼女は眉にシワを寄せただけで黙ったままだ。
そもそも声だけの彼を柊華は目視出来ないので、そう言われても『そうですよ、うふふ』なんて、甘い空気になどなりそうが無かった。
(一、二、三…… うぅ、大丈夫かなぁ…… )
手帳を見ながら真剣に計算している時に茶々を入れられ、甘い雰囲気になるどころか、どう見ても柊華は不機嫌顔だ。
どうしたんでしょうねぇ?とセフィルは不思議に思ったが、思い当たる事柄が無く、彼は仕方なく黙っている事にした。
「父さんは馬鹿ですねぇ。女性が手帳とにらめっこをしている理由なんて、『生理がこないが大丈夫か?』の一択でしょうに」
突然聞こえた一言と声の主に向かい、柊華がこれ以上ないくらいのしかめっ面を向けた。彼女の背後からは怒気が漂い、心火を燃やしたその眼差しは、人を刺しかねない雰囲気を纏っている。
そんな柊華の顔を見て、近くまで来ていた雪丞が一歩後ろに下がった。
発言にミスがあった事に気が付きはしたが、どう挽回すればいいのか咄嗟には思い浮かばない。
「…… 雪丞さんは、デリカシーを学んだ方がいいですよ?」
カフェには柊華以外にも多数の生徒達が居る。そんな中、先ほどのような発言をされて怒らない女性は皆無だろう。
「す、すみません。あ、えっと、お詫びにここのガナッシュショコラをご馳走するから許してなんて…… 」
キッと睨まれ、雪丞が肩を落とした。
マズイ…… 母さんに嫌われたか?と、雪丞の心が不安でいっぱいだ。だが、セフィルはちょっと嬉しそうだった。
『ならもう、仕事に戻ればいいじゃないか。ほらほら』
「父さんは黙って下さい」
柊華の手帳に向かい、雪丞が小声で言った。
その場で挽回せねば夜も眠れない。柊華に嫌われたままでいるなど、彼の中ではあり得ない事態だ。雪丞は許可を取る事無く柊華の隣に座ると、手帳の側に置かれた彼女の手にそっと手を重ねた。
「ごめんなさい。もう二度と言わないから許して…… 」
瞳を潤ませ、雪丞が頼む。
ロマンスグレーの紳士に子どもっぽい口調でそう言われ、柊華は喉を詰まらせた。ギャップ萌えとも何か違う、なんとも言えぬ違和感が——むしろ良い。
柊華は「くっ」と声をこぼすと、雪丞から顔をさっと逸らしながら、「もうしないで下さいね!」と言って、あっさり彼を許してしまった。
『柊華さんは雪丞に甘過ぎます!教育上よくありません!もっと叱って、放置しないと!』
「母さんに甘々な父さんには言われたくないですねぇ」
雪丞が、ふっと勝ち誇った顔をする。先程の態度が嘘のような表情だ。
「教育が必要なご年齢では無いでしょうし、躾は私の関与するところではないので」
柊華の言葉に対し、うんうんと雪丞が頷く。
セフィルが舌打ちをした音が二人に聞こえたが、どちらも彼を宥めるような事は言わなかった。
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