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【第二章】嫁々パニック

【第十一話】三人目に、是非!・後編(スキア・談)

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「ところで、二人で料理をしたりはしないのか?」
 もぐもぐと、一口サイズにちぎったパンを食べつつシュバルツが訊いてくる。
「料理は僕の担当だ。ルスに任せると…… その、節約メニューになるからな」
 調味料の必要性すらピンときていないレベルだ、調理を任せる気になどなれない。ルスも一応は“知識”としてちゃんとした料理の手順くらいは知っているみたいだが、知っているだけでは作れないので、今後も僕が作る事になるだろう。

(久しぶりの食事だ、ちゃんと美味しい物を食べたいしな)

「じゃあさ、今度手が空いている時で良いんだ、ボクに料理を教えてはくれないか?嫁達にばかり任せては、夫として失格だからな」
 瞳を輝かせて素晴らしい台詞をさらりと言うが、お前はまだ独身だろ。
「あのなぁ…… 。そうやって理想を語るのは悪いことではないが、複数の相手に同時に結婚を申し込むのは失礼じゃないか?」
 溜め息を吐きつつそう言うと、「…… そうなのか?」とシュバルツがきょとん顔をする。ルスもちょっと困り顔になってこくりと頷く。

「えっと、ワタシの暮らしていた世界では一夫一婦制の地域が圧倒的に多かったらしいから、正直理解に苦しむ、かな」

 ルスの発した『』という言葉が妙に引っ掛かったが、そこに触れる前にシュバルツが「そうなのか。ボクの暮らしていた世界ではそれ程珍しいものではなかったから、そういう感覚は失念していたな。——すまない」と、また素直に謝ってきた。
「…… まぁ、アンタの元の世界と同じくこの世界でも複数の者との婚姻は公式に認められてはいるし、アンタの行動は間違っちゃいない。…… ただ、『相手を選べ!』とは思うけどな」
 独身であるマリアンヌに結婚を申し込むのはまだいい。所詮は他人事だし。だけど、愛情の無い仮初の関係だとはいえ、『結婚している』と宣言している僕らにするのは止めてくれ。

(事実婚のままじゃなく、早めに届出の方もやっておくか)

「そうか…… ボクなりの誠意のつもりだったんだが、迷惑だったのかな」
「誠意?」
 複数への同時求婚が何故に誠意を示す事になるのだと思いながら、不思議そうな顔をしているルスと共に夫婦揃って首を横に傾げた。

「これは完全に私事なんだけど…… 。——ボクの父親は、そりゃもう気の多い人でさ」
「だろうな」

 シュバルツの言葉をぶった斬るみたいにツッコミを入れる。ルスも激しく同意しているのか珍しく何度も頷いていた。朝食を食べ終わったリアンはこの状況に飽きたのか、一人、子供用の椅子から飛び降りて自分の部屋の方へ戻って行く。

(僕もリアンの方について行きたいくらいなんだが、ルスを一人にするわけにもいかないか)

 僕らの反応に対して「あはは!だよねぇ、うんうん」と言い、シュバルツは話しを続ける。
「本妻はちゃんといたんだけど、浮気しまくっていてさ。父が『隣街の人間は既に全部抱いた』なんて冗談を言っても、その場の全員が嘘か本当か迷うくらいには、浮世を流したらしいんだ」

「…… クズだな」
「ワタシも、理解に苦しむなぁ」

「息子として謝っておくよ、すまん!」

 二人掛けの小さなテーブルに両手を付き、シュバルツが謝った。随分と腰の低い奴だ。
「そんな父だったからさ、『自称・父の子供』や恋人も、そりゃもう多くって、父を恨んでいる奴らも相当多かったんだ」
 溜め息を吐いてシュバルツが座っている椅子に体を深く預ける。その視線は遠く、記憶を遡っているかのようだ。
「『ウチの子は彼の子供だ』と言い張っている女性達の中にはさ、『きっといずれ父が後継者として迎えに来るはずだから』って教育にめちゃくちゃ力を入れて、借金までしていた人達もいたらしいよ」
「だけど、アンタの父親は愛人の子供達を認知はしていなかったって事か?」
 そう僕が言うと、シュバツルがこくりと頷く。
「うん、認知は一人としてしなかった。閨を共にした事までは否定していないけどね」
「交合していたのは、事実なのか」
 僕が呆れ声で指摘すると、ルスが気まずげに俯く。耳が少し赤いから気恥ずかしいのかもしれない。
「僕の比じゃないくらいに惚れっぽい人だったみたいだからね、愛人達の証言もある程度は事実だと思うよ」
 テーブルに頬杖をつき、シュバルツは父親の不誠実な失態をあっさり認める。

「そんな中さ、本妻が子供を産んだんだ。生まれてすぐに父はその子供を唯一の後継者として決め、『この子以外は一切後継者として認めない。例えこの子が死のうとも』なんて言ったもんだから、かなーり荒れたらしいよ」

「だよねぇ」とルスが素直なコメントをこぼす。
「結局さ、そのせいでブチギレた愛人達に追い詰められて、父は無理心中の末に死んじゃったんだ。母は母で、唯一の後継者である僕を生かそうと必死に守り、神経を擦り減らしていって、結局は心労が祟って死んじゃってさ…… 。そうなると、なんか、全部どうでも良くなって、家も家督も全部代償にして差し出して、僕をスカウトに来たこの世界の魔法使いと一緒にこっちに逃げて来たんだよね。そのおかげで魔法を使える様にしてもらえたし、仕事はまだ見付けていないけど、代償の余剰分の資産はこっちで換金もしたおかげでお金はあるから、嫁達を養うにはなんの問題も無いぞ!」
「アンタの嫁になる気は無いと、何度言えば…… 」とぼやく僕の傍で、ルスも「ははは」と苦笑いを浮かべていた。


 ——その後も暫く奴の話は続きに続き、色々な事を聞かされた。
 なんでも、父親とそっくりの容姿で生まれてきたのはシュバルツだけだったそうだ。他の自称・息子達は一人とて彼の父親とは血縁が無く、愛人達が他の男と作った子供達だったらしい。
 無理心中は愛情の独占を狙った行為だったのか、財産目当てだったか、もしくは地位を狙ったものかは今となっては不明らしい。僕的には強い愛情が一転して憎しみに変化した末の無理心中であったに一票入れておこうと思う。シュバルツの容姿とそっくりな父親なんぞ、さぞかし美青年だったに違いないからな。
 シュバルツも同じ様に考えているのか、『だからボクは、好きになった人には平等に愛情を注ぎたいんだ。父譲りの惚れっぽい気質はどうにもならないからね』と最後に語って、奴は自分の部屋に帰って行った。これからマリアンヌへのアプローチのついでに近隣への挨拶もしておきたいそうだ。

「…… ワタシはやっぱり、一夫一婦のままがいいなぁ。仮初ではあっても夫である以上、スキアには浮気しないで欲しいんだけど…… 無理?」

 シュバルツの話を聴き終えたルスに上目遣いで不安気に問われ、「は?当然の事だろ?無理な訳あるか」と不機嫌顔で返した。内緒話でもするみたいな小声と上目遣いとか…… マジで勘弁してくれ、無駄に股間に響くから。
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