想いはいつも突然に

月咲やまな

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本編

想いはいつも突然に

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 ギシギシッと、私では名前もわからないトレーニング用の器具が軋む音が部屋中に響く。
 それと一緒に聞こえる、粗い2人分の呼吸音。
 後ろ手に両腕を縛られ、器具の上に腰掛ける進藤君の膝の上に、私は今全裸で跨っている。ガッシリとした大きな手で私の腰を掴み、荒っぽく無理やり上下に私を動かし快楽を欲している進藤君の顔は少し眉間にシワがよっている。
 体の小さい私では進藤君の全てを体の中に受け入れるには少し無理があるのか、感じるのは快楽というよりは激痛に近く、気分はもう拷問中の捕虜のようなものだった。
 ああ……どうしてこんな事になっているんだろうか……。思い出したくても、頭が動かない。
 口から出る声は全て「あ」だ「んんっ」ばかりで、壊れた玩具かレコードみたいに同じ音ばかりを繰り返す。
 時々吸われる胸の先はもう、吸われ過ぎて赤くなり、ジンジンして痛いのに……吸われるたびに不思議と気持ちがいい。
 何か言葉でも発してくれればいいのに、進藤君はずっと無言で、何で私にこんな事をしてきているのかさっぱり検討がつかない。
 自分の身に何が起きているのかくらいはわかる、子供じゃないんだから。
 本や映画でしか見た事がなかったが興味はあった。
 でもこんな事はずっと先の話で、今日今失うよなモノじゃないと思っていたのに……。


 話はほんの30分前に遡る。
 私はバトミントン部のマネージャーで、今日は部室の片付けをしていた。今までずっとほぼ男所帯だったせいかあまり片付ける人がいなかったみたいで、部室内はとてもゴチャゴチャとしている。入部して以来ずっと片付けたくてしょうがなかったんだが、大会だミーティングだ練習だなんだと色々大忙しで、あまり手が出せていなかった。
 仕事にも慣れ、やっと空き時間が出来たのでロッカールームから掃除を開始したのだが、2時間経ったはずなのに一向に終わる気配がない。
 うちの学校は結構全国でも強豪チームの部類にはいるんだとかで部員数がそれなりに多い。わざわざ他県からうちの部を目当てに入学してくる人もいる。
 部の大半は男子生徒で、女子はマネージャーを含めてもたったの5人と少ない為、練習は男女合同だ。男子とも対等に練習をこなす彼女達を見ていると、もう尊敬の一念しか抱けない。
 そんな彼女達のためにも、私はこの部屋を綺麗にしてあげねばと片付けを始めたはいいが——汚過ぎるってこの部室!
 マネージャーは今現在私1人で、誰かに手伝って欲しいと思っても頼める相手がいない。
 練習の終わった部員に掃除もやってと言うのは酷というものだし……あぁ……何でマネージャー私だけなんだよ、まったく。
 ため息をつきながらも、手を休める事無く黙々と掃除を続ける。
 着替える為に何人か部員が入って来たりもしたが、誰かを確認する余裕も無くひたすら掃除をする。部室を掃除する為にと、一度室内の物を男子更衣室へ置かせてもらったので更衣室は今使えない状態だ。最初は女子が居るという事実に部室内で服を脱ぐ事に躊躇して、なかなか着替えなかった人も、全く私が見ていないと気が付いたのか皆着替えを済ませ、1人・2人と帰路についていった。


 更にあれから2時間経った今、もう大半の部員が帰ったというのに……掃除がまだ終わらない。
 いったい何年分の汚れが溜まっていたんだろうか?
 それとも私が几帳面過ぎるのか?
 でも、ここまでやってはもう後には引けない。終わるまでとことんやってやろうじゃないのと決意を新たにし、雑巾をバケツの中に放り込み、何度目になるのかわからない水の交換に行く。
 小さい体に大量に水の入ったバケツはどうしても重く、移動はゆっくりとなってしまう。それでも急ごうと必死に歩いていたら、横から誰かの手が伸びてきてバケツを取り上げられてしまった。
 誰?と思いながら横を見ると、部で一番の長身である進藤君が無表情で立っていた。
 今までずっとトレーニングをしていたのか、額や腕には汗が滴り、着ているTシャツが汗で張り付いている。
 何も言えずに呆然としていると、進藤君が水飲み場までスタスタと歩き出した。
『重そうだね、持とうか?』とか『大丈夫?手伝うよ』とか言えないのかよお前は……。そう思うも、私も何も言葉を発してはおらず、言う立場では無いのだが、心の中ではぼやいてしまった。

 彼、進藤君は私と同じ1年生だ。顔もよく、実力もあるため部の中でも一・二を争う人気者。一年の女子部員の中には、彼が目当てで入ってきた人もいるとかいないとか。
 口数が少なく、笑った顔なんか一回も見た事がない。練習量がすごくて、実力のある真面目な人だ。自分にとってはそれだけの存在で、何故人気があるのかさっぱりわからない。
 寡黙で素敵ーとか、クールな感じが最高!とか叫んでる人を試合中の応援席で見かけたが……人の趣味とは多様だなと思うだけで、理解は出来なかった。

 進藤君は相変わらず何も言わないままバケツに入っていた汚水を捨て、中をゆすぐ。
 同じくその様子を何も言わないまま後ろで見ていると、彼が振り返り、視線を下に落としてきた。
 見られてると感じた私は顔を上にあげて、進藤君に視線を合わせる。推定40センチと思われる身長差は思いのほか大きく、首が痛い。
 高校一年で貴方の身長は犯罪ではありませんか?と言いたくなったが、冗談が通じるとは思えないのでグッと堪え、言葉を飲み込む。
「これまた水入れるのか?」と不意に聞こえる低い声。
「あ、はい。満杯まで入れなくていいです、重いんで」
 同じ部員で同学年ではあるが、距離を感じているからか、彼がデカイからか、第一声が敬語になってしまった。……これはもう、突き通すしか無い。
「随分綺麗にしてくれたんだな、部室」
「気が付いてくれました?よかったー、目に見えて綺麗に出来てる自信なかったんで嬉しいです」
「相当汚かったからな」
「そうなんですよね、ずっと気になってて。何で今までのマネージャーさん掃除しなかったんですかね?」
「この数年いなかったんだよ、マネージャーが。後藤が久しぶりに入った女子マネで、先輩達大喜びだったらしいよ」
 へー知らなかった。
 ずっと業務に追われていて、そんな話を聞く余裕もなかったもんな。
 洗濯や片付け、主務の仕事を手伝ったりと色々忙しいし。
 ってか、意外と話すのねこの人。
「まだ残るのか?もう俺達しか居ないけど」
「え?本当に?うわーどうりで静かな訳だ」
 私の言葉を聞き、進藤君の口の端がクッと少し上がった感じがした。
 ……笑ったんだろうか?
「終わるまでやるんなら手伝うよ」
「いえ、私の仕事ですから。今まで練習しててお疲れでしょうし気にせずに」
「そう言われて、本当に帰れる奴はいないと思うけど」
 水の溜まったバケツを軽々と持ち上げ、進藤君が部室へと戻る。
 雑巾が洗われずにそのまま水飲み場に残ったままになっていたので、私はその場に残り雑巾の汚れを少し落とし、絞ってから部室に戻って行った。


 私が戻ると、部屋の隅にバケツが置かれ、どこかから新しい雑巾を出してきたのか、進藤君が雑巾を片手にまだ手を出していなかった汚れのある壁を丹念に拭いていた。
「いいですよ、本当に」
「2人なら早く終れるだろう?4時間かかっても終わってない掃除を1人で抱え込むなよ、俺も部員なんだし」
「でもトレーニングで疲れているでしょう?私は進藤君みたいに今まで運動していた訳じゃないんで、気にしなくてもいいんですよ」
「掃除を4時間もやってる方が、トレーニングするよか精神的面も加算されて俺だったら疲れるな」
「掃除好きですし」
「……掃除がでなきゃ、……ぃ一言なんだがな」
「え?」
 小さな声で言われたせいかよく聞こえず、訊き返したが「何も」と言われ、聞きとれなかった部分は教えてもらえなかった。
「とにかく、遠慮するようなことじゃないんだ。そうこうしている時間の方が惜しいとは思わないのか?」
 進藤君は手を休める事無く話し続けているというのに、私は雑巾を持ったままの状態で立っているだけだった事に気が付き、慌てて動き出した。
 慌てたせいで、思いのほか近くにあった棚にぶつかり、棚が大きく揺れる。
「危ない!」と進藤君が叫び、こっちへと走ってきてくるのがチラッと視界に見えた時、棚の上の方からペットボトルのようなものが降ってきて、それの中身がバシャッと私の体にかかってしまった。
「きゃああああっ」と叫ぶももう遅く、胸から足に至るまで、何かの腐ったような臭いがして気持ちが悪い。
「ぎゃあああ!やだっ!何この臭い!くさいいいっ」
 涙目になりながら叫ぶと、進藤君が私の腕をガッと掴み、歩き出した。
 部室の隅にあるシャワー室のドアを開け、私を中へと押し込み、温度も確かめずに彼はシャワーを出し始めた。
 頭から生ぬるい温度のお湯が思いっきりかかり、髪も服もどんどん水を吸っていく。
「きゃあああああっ!」
 ペットボトルが落ちてきた時以上の大声を上げるも、もう全身はびしょぬれで、着ていたジャージが重たくてしょうがない。
「あ、悪い。臭くて」
 謝ってはいるが、あまり悪いとは感じていない様子だ。それにしても女相手に臭いだなんて酷い!事実なんで否定は出来ないが、それでもショックだった。
「いやっ止めて!」
 シャワーの勢いが家とは段違いに強いせいで、眼を開けていられない。
 瞼を閉じながらシャワーを止めようと壁に向かい手を伸ばすが、使い慣れていないせいで場所がわからない。空を掴むばかりの私を見かねたのか、進藤君が代わりにシャワーを止めてくれた。
 ありがとうと言おうとして、やめた。
 だって、コイツが勝手に私にお湯とも水ともつかない温度のシャワーをかけてきたのだ。礼を言う気になど全くならない。
 口をヘの字にしながら、臭いはなくなったものの、今度はぐっしょ濡れで気持ちが悪いジャージを見ていると、進藤君が私のジャージのファスナーを下ろし始めた。
「なっ⁈ちょっと、自分で脱ぎますから!」
 手を掴んで止めようとするが、筋肉質の腕はビクともせず、そのまま慣れた手付きで上のジャージを脱がされてしまった。
 呆れたような声と顔で進藤君が口を開く。
「後藤は文句ばっかりで動かないからやってやるよ」
 カチンとくる一言に「はぁっ?!何その失礼な一言!」と怒鳴るも、今度はTシャツに手をかけられ、慌てて押えた。
「待って!何考えてるんですかぁ‼︎」
「もうブラ透けて見えてるから、脱いでも同じだろ」
「同じじゃない!絶対に全然これっぽちも同じじゃないですー!」
 顔を真っ赤にしながら必死に押えるも、鍛えている男子の力に敵う訳が無く、濡れて気持ちが悪いTシャツを上へとずらされてしまった。
「いやああああっ」
 万歳したような状態でピタッと脱がせる手が止まり、進藤君の表情が真剣なものへと急変した。
 呆れ顔が真面目な、普段の顔に急変したのが少し怖くて、喉の奥で言葉が詰まる。
 ヤダ、何考えてるの……。
 不安が募り、心がざわめく。困惑した表情を浮かべながら止まっていると、上がったままの手をシャワー室の壁に押し付けられ、抵抗もできない状態になった。
 絶対にこの状態はマズイと本能で感じるも、何も出来ず硬直していると、進藤君の整った顔がゆっくり私の方へと近づいてきた。
 ちょっと待って!駄目!嫌!これって絶対に——
 音もなく、重なる唇。何度も啄ばみ、私の唇を舌先で擽ぐる。
 ああああああっ私のファーストキスがぁ!
 部活が一緒だというだけの、好きでもない相手に奪われたショックで涙が目元に浮かぶ。無理に進藤君の舌が私の唇を割って入り、口の中に生暖かいく柔かいモノが蠢くように動き出した。
「んくっ……ふ……んんんっ」
 押えていた手を離してくれたと思ったら、かろうじて腕の辺りに残っていたTシャツを取られ、ブラまでも外されてしまった。
 外す時少しもたついて、爪で背中を引っかかれたりもしたので、慣れているというわけではなさそうだ。——って、そこ冷静に感想述べてる場合じゃないよ私ー!
 上半身がすっかり露わになった体を隠そうと、手を下におろし胸の方へとやろうとする。だが、両腕を進藤君に掴まれ、私の後ろへと回し、ブラで両手を縛られてしまった。
 ちょっと⁈使い物にならなくなるじゃない!
 文句の一つも言いたい気分になるも、すぐにそんな考えは飛んで消えてしまった。
 進藤君とのキスは刺激的で、自分からも舌を絡めたくなるくらいに甘く心地よかった。嫌なのに……付き合ってもいないのに……その背徳感が、気持ちよさに拍車をかける。
 無理やり、しかもここは学校の部室だという状況に、今の私は酔っているのかもしれない。彼のキスが上手いせいもあるんだろうけれど……。
 クチュッと卑猥な音がたったと同時に進藤君の唇が離れ、私を真っ直ぐに見詰めてきた。
 無言のまま、射るような眼差し。肉食獣に掴まったかのように動けないでいると、私の体を縦に抱きかかえ、シャワー室を出て行く。
 いったん部室の入口まで行ったかと思うとドアに鍵をかけ、電気を消した。
「ちょっと待って……何してるの?」
 震える声で訊くも、返事は無い。
 進藤君はトレーニングルームへと進路を移し、足早に歩く。心臓の鼓動が嫌でも速度を増し、冷たい汗が額から落ちてきた。
「離して!今だったらまだ無かった事にしますからっ!ね?」
「……無かった事に?」
 普段以上に低い声が返ってきた。私の言葉に不快感を感じているのが、嫌でもわかる。
 歩みを止める事無く、トレーニングルームに入り、そちらにも鍵をかけ、電気を消す。
 ——ガチャッ……パチッ
 聞こえる音に不安感が増し、体が震えてきた。
 やだ……この状況でやろうとする事って一つしか思い付かないんだけど、まさか、ね?無いよね?ただの同じ部活って以外に共通点ないんだし、今までほとんど話した事だってなかったんだから……。
 目が慣れていないせいで周りがよく見えない。ギュッと進藤君の服を掴んで、顔のあると思われる方を見上げるも、何となく外輪が認識出来るだけで表情までは読み取れなかった。
 トレーニングルームの奥へと移動し、ストレッチをやる為に敷いてある巨大なマットの上に進藤君は私を下ろした。
 そのままドンッと私の肩を押して倒し、彼が膝を付いて私を見下ろす。
 早くなる鼓動、苦しくなる呼吸。縛られた腕が腰に当たり、背中が反れてちょっと痛い。不安を通り越し、怯えた子犬のような顔で私は進藤君を見上げた。
 少し慣れてきた目で、何とか相手の考えが読めないかと思ったんだが、その顔は無表情で何を思っているのかさっぱりわからない。
 何故こんな事するの?
 そう訊こうとした時、私の濡れている脚にべったりと張り付いていたジャージを進藤君が掴み、一気に引っ張られてしまった。
「んな⁈ちょっ!」
 止めさせようと足をバタつかせるが足首を掴まれ、動きを封じられる。
「何するの……やめて、ホント嫌なの……」
 ブンブンと首を横に振りながら訴えるも、聞く気は……ないようだ。
 ゆっくりと私の脚の間へと進藤君の顔が近づいてくる。
嘘でしょ、待ってよ!嫌だって!!
 腰を動かし何とか逃れる事が出来ないものかと試みるも、全くの無意味で、一番恥ずかしい場所へ下着越しに舌の当たる感触を感じた。
「ふあああっ」
 そんな所……ちょっと待って……。
 下着越しとはいえ、温かくて生々しい舌の感触に、背中に痺れに近い何かが走る。
 自分でも触った事ないのに……。
 瞳にうっすらと涙が浮かぶ。グイッと脚を持ち上げ、腰を浮かせた状態で一心不乱に私の恥部を進藤君が下着越しに舌で舐める。掴む手を足首から太股に移し、開く脚を閉じれぬ様に、ガッチリと固定してきた。
 ただでさえシャワーのせいで濡れて気持ちが悪い下着が、進藤君の唾液で更に湿り気を増し、ベッタリと張り付いてしまっている。彼の呼吸はひどく粗くなっていて、まるでランニングでもしてきた後の様だ。
 グチュッと、舐めているせいでたつ水音が、静かなトレーニングルームの中でやけに響いて聞こえた。腰はくの字状態に、脚は思いっきり開脚されている姿勢が恥ずかし過ぎる。
「待ってくだ……ああっ!」
 何とか今の行為を止めてもらいたくて懇願しようとした時、下着越しとはいえ恥部の肉芽をカリッと噛まれ、声すら出せなくなる。進藤君は私の脚を肩に乗せ、右太股を掴んでいた手を放し、下着をずらして直接恥部を舐めだした。
 シャワーの水と唾液のせいだけで濡れていたと思っていたそこは、グチュグチュと卑猥な音をたて、自分自身の奥からも溢れ出るものがあった事に初めて気がつかされる。
「ふあぁぁっ……やぁっ……くっ!」
 襞部分を丹念に舐め、中に進入してくる進藤君の熱い舌。初めて感じるその感触の衝撃は大きく、叫びとしか表現できぬ声が私の口から出た。
 何これ……ちょっと待って、駄目やだ、変になる。
「あああああっ」
 口をはしたなく大きく開き、端から涎が零れ落ちる。
 体格差のせいか進藤君の舌は大きく、指でも入ってきているみたいな感じだった。もっとも……指すらも入れた事ないから、たぶんそうなんだろうと推測する事しかできないのだが。
 入ったり出たり、膣の中をぐるんっと舐め回す動き、一つ一つに対し体が過剰に反応する。
 言葉にならぬ変な声が、口から次々に出てくる。壊れた玩具みたいに同じような声を繰り返し、全身に走る快楽に体を支配されていく。
 抵抗も出来ず、されるがままになっていると、進藤君がそっと私の恥部から舌を抜き取って、腰をマットの上にそっと下ろしてくれた。
 肩で呼吸し、涙目のままの顔で進藤君の方を見ると……何となく少し頬が赤い感じはするも、やはり顔は無表情のままだ。呼吸だけはひどく粗いので、興奮状態なのだろうとは思う。
 進藤君が、汗とシャワーのせいで濡れたTシャツを脱ぎ捨て、床に投げる。露わになった上半身は、鍛えあがっており、とても高校生の裸には見えなかった。
 何度かトレーニング中に見た事はあったものの、こんな間近ではなかったし、状況も違ったので何とも思わなかったのだが……改めて見ると、割れた腹筋や筋肉のせいで太くなった腕に男らしさを感じて、心臓がドキドキしてきた。
 あんなに練習しているんだもん、これくらい鍛えあがっていても当然だよね。
 ベンチプレスの記録は何ぼだったろう?
 確か100近かったような気がするけど……何て、別の事に気がいきそうになっていると、進藤君が私の脚に触れ、太股をそっと撫でてきた。
「いやぁっ」と短い声を出し逃げようとすると、右太股を掴まれ逃げれなくされる。何も言葉を発する事無く、進藤君の右手が私の恥部へと触れ、上下に動かし始めた。
 入るか入らないかくらいの微妙な状態で恥部を擦り上げ、肉芽に時々指が当たる度に、恥部を刺激された時以上の快感が全身に走る。
「んあっ」
 我慢しようとしても出てしまう喘ぎ声。
 自分からこんな声が出ているなんて信じられない……どこか客観的視点でそんな事を考えていると、進藤君が私の首筋に顔を寄せ、下から上へ、耳の裏へと向いながら舌を這わせてきた。
 ゾワゾワッとした感覚に身を捩り、目をギュッと強く瞑る。
 恥部を撫でているだけだった指が、ゆっくり、ゆっくりと中へと入ってきて、私は更に強く目を瞑り「いやあああっ」と小さな声を漏らした。
 ぬちゅぬちゅ……ぬぷっ……
 舌などとは比べ物にならぬ長い指が、どんどん中へと入っている感触は異質で、内臓器官を直接素手で触られている感じがする。柔かさなどなく、運動をしているせいでゴツゴツとした指は、何も受け入れた事のない私の中に、想像を越えた異物感を与えてくる。
「あぁぁぁっ!」
 舐められて濡れていたとはいえ、一度もこういった経験のない膣内は強く進藤君の指を締め付け、動かすたびに擦れる感触が痛い。慣らすのが目的かのようにゆっくりと動く指先。
 耳の裏を舐めたり、耳たぶを丹念に舐めた舌は、今度は鎖骨に下りてきて、ラインに沿って優しく動く。
 手の平の部分で私の小さな果実のような肉芽を撫でながら、ゆっくり動く指の感触に、少しづつ気持ちよさを感じ、自然と表情が柔かいものになってしまう。
 激しい快楽ではなく、何か柔かいものに包まれているような感じがする。体の奥から、何かドロッとしたものが下りてくるような感触を微かに感じると、進藤君の指の動きがスムーズなものになってきた。
 少しだけ早くなる指の動きと、進藤君の呼吸音。
 鎖骨を舐めていた舌は更に下へと移動してきて、私の胸の膨らみの部分を噛んだり、吸ったりを繰り返す。
 お世辞にも大きいとは言えない胸が、横になっているせいで余計に小さくなっている。それでも女性の胸を舐めるという行為は、進藤君をかなり興奮させてしまうようで、膣の中に入る指の動きが少し雑になった。
 彼が呼吸する度に吐息が胸の先端にあたり、くすぐったい。
 ぐちゅぐちゅ……っと、わざとなのか、そんなつもりはないのかわからないが、恥部の方から進藤君が膣内を弄る度に、卑猥な水音が呼吸音に混じり聞こえてくる。
 ずっと胸の膨らみだけを堪能していた舌が今度は先端に触れ、口の中で転がすようにいたぶる。少し硬さをもっていたそこはすっかりと膨れ上がり、進藤君の口内で飴玉のように遊ばれる。
 やだ、もうやめて——そう言いたいのに、言葉が出ない。
 進藤君の口からも言葉を聞けず、何故こんな状態に私達はなっているのか、どうしてこんな事をされているのかがわからない。
 快楽に表情を歪め、潤む目で彼を見る。
「なん……で?」
 無理に言葉を紡ぎ問いかけたが、一瞬目が合った程度で、すぐに視線をそらされてしまった。
 気難しい、眉間にシワのよった表情をして、また進藤君が私の胸を誤魔化すようにいたぶりだす。
 何か言ってよ。
 何もわからないまま、こんなふうに純潔を失っちゃうの?
 自分はもっと体を大事にしたかったのに……。
 悲しさが込み上げてきては、快楽に押しつぶされ、その事にまた悲しくなってくる。腕を目の上に置き、泣き出してしまいそうになるのを堪える。
 一瞬進藤君の動きが止まったが、少し乱暴な動きでまた膣の中を刺激しだした。何だか自棄になっているとも感じられるくらい、最初よりも雑な動きだ。
 さっきから弄られているせいで濡れているとはいえ、初めての体にはちょっとその動きは痛い。
「やぁぁ……」
 私がそう言うと、進藤君が顔を上げ、何か言いたげな顔でじっとこちらを見詰めてきた。口を開けては、言葉を飲み込んでしまうように閉じる。
「なんで?何か言って」
 か細いながらも、どうにか声を出し訊いてみる。
 無理にいたぶられている私以上に悲しげな、悲痛に満ちた表情になり、進藤君が「後藤の聞きたい言葉なんか、今は口から出てこない」と小声で言った。
「聞きたくない言葉しか出せない。だからもう、お前も黙ってろ」
 何よそれ……。
 言葉も行動も何て勝手な人なんだろう。
 ズルッと音をたてながら進藤君が私の中から指を引き抜いた。
 抜かれる時の感触が気持ちよくて、変な声を上げながら背をそらせると、進藤君の表情がちょっとだけ嬉しそうになものになった。
 私の上半身を起こし、ギュッと抱き締めてくる。抱き締めたまま、進藤君が私の後ろ頭を優しく撫でてくれた。
 やめてよ、勘違いしちゃうじゃない、そんなふうに抱かれたら……。
 私を抱き締めたまま彼は立ち上がり、進藤君がベンチプレスをやったりするトレーニングマシーンに似た器具の黒いベンチ部分に座って、私を彼の膝の上に跨がさる状態でおろした。
 恥部に当たる硬いモノの感触に眉をしかめていると、首の後ろの髪を軽く掴み、私の顔を進藤君の方へ近づけさせられる。
 互いの唇が触れ、彼の舌が容赦なく口の中に入ってきた。
 水音をたてながらされるキス。彼の手は私の胸を丹念に揉み、もう片方の手は腰を抱いてきた。
 舌を絡め、唇の形をなぞるように舐めた後、進藤君の唇が離れていく。
 進藤君が自分のジャージのズボンに手をかけ、少しだけ下におろすと、露わになる男性の象徴ともいえる怒張部分に、私の体が硬直した。
 弟の小さい時に見た事のある男性器とは全く違う形と色に戸惑い、怯えるような表情なる。
 本当にする気なの?
 やめようよ、まだ今なら間に合うから——そう言いたくとも、声が出ないまま硬直していると進藤君が私の腰を持ち上げ、少し先端の濡れる怒張を、私の恥部へとあてがってきた。
 襞部分に触れているだけで、指とは比べ物にならぬサイズだとハッキリわかり、体が震える。
 入る訳が無いないじゃない、無理、そんなモノ入るような体じゃない!
 出ない声の変わりに、必死に首を横に振って『無理だ』『やめて』と伝えようとするも、全く進藤君は受け入れてくれない。
 粗い呼吸に頬を少し赤くして、彼が私の腰をゆっくり下へとおろし始めた。
 ぐちゅぅぅぅっ。互いの蜜のせいで卑猥な音が恥部からたち、ズズッと中に進藤君の怒張が徐々に膣内へと入ってきた。
 さっきまで指や舌が入っていたとはいえ、ここまでのモノなど受け入れた経験のないそこははちきれてしまいそうなくらいに痛い。純潔をしめす血が膣の中から流れ出て、進藤君のモノを伝い落ちる。
「いやぁぁぁっ」
 涙を流し、体を震わせながら痛みに耐えるも、体格差のせいもあって、進藤君のモノは私の中に入るには大き過ぎて辛い。
「ぅくっ」と進藤君が声をもらした。痛みに耐えるというよりは、気持ちよさを耐えているといった感じだ。
 徐々に私の腰をおろし続ける進藤君。入る度に激痛とも快楽ともいえぬ激しい感覚が全身に走り、叫ぶような声が出てしまう。
「だめぇぇっ!」
 ズクッと音をたて、完全に進藤君のモノが私の最奥に達したが、それでも彼は私を下へとおろそうとする。
「いたいっ」と叫ぶとピタッとやめてくれ、ちょっと心配そうな顔をしながら私を見下ろしてきた。
 きっと彼の全てを私の中へ受け入れるのは無理があるのだろう。震えながら進藤君の肩に頭をのせると、彼が優しく撫でてくれた。
 ビクビクと膣の中で進藤君のモノが動き、ジワッとした快楽を感じ甘い声をもらしてしまうと、彼が私の腰を掴み上下へと動かし始めた。
「ふああっ!あああっ」
 グチュグチュ音をたてながら膣の中を進藤君が激しく出入りし、最奥を突きまくる。私には大き過ぎる彼の怒張が膣壁を擦り上げ、痛みと快楽の混ざったものを感じるも、激しく擦られるとまだ激痛という表現が近い。
 叫び声をあげていると、進藤君が私の口を唇で塞いできた。
「んんっ」
 動きながらするそれは雑なのだが、舌の柔かさが心地よく、痛みを少し忘れさせてくれる。
『ごめん』とでも言いたいかのように頭を軽く、でも優しく撫で、自らの腰も動かし進藤君が快楽を貪る。
 ああ、撫でてもらえるの……気持ちいいかも……。
 そう思った時、膣の奥から大量の蜜が溢れ出て、彼のモノに絡みつき、動きを助け始めた。
 その途端、存在感のすごいそれは私の中で激痛から快楽に急変し、激しすぎる動きのせいもあって、全身に感じた事の無い痺れに近いものが走る。
「あああっ!」
 なにこれ、何かくる感じ……怖い、何?いやぁぁぁっ!
 気持ちよ過ぎて頭が真っ白になり、膣がギュッときつさを増し、進藤君自身を締め付ける。
「ぅあっ」
 低い声を進藤君がもらし、私の腰をギュッと掴む。
 背中をそらせ、口を大きく上げながら「いやぁぁっ」と叫んだと同時に、私の体はビクッと痙攣し、ガクンッと力が抜け落ちた。
 進藤君の胸に全身を預け、肩で息をしながら何がおきたのか考えていると、彼が嬉しそうに口もとをほころばせ私にキスを落としてきた。
 ゆっくり口を放し「……いったんだ?」と、進藤君が私に対し、嬉しそうに訊いてきた。
 わかんないよ……初めてなんだもん……。
 私が困った顔をしていると、進藤君がクスッと笑い、私の腰を掴む。そしてまた私を上下へと動かし、膣の感触を楽しむように何度も何度も私へと出入りしてきた。
 頬を舐め、耳を咬みながら私の恥部が彼に与える快楽を貪る。顔には余裕の色は全く無く、整う事のない呼吸。入ったままの状態で私を抱き締め、立ち上がり、柔軟用のマットの上へ私を再び寝かせた。
 正常位の状態になり、進藤君が私の胸を揉みながら腰を動かす。
 最奥が擦れ、膣を弄られ、一度頂点まで達したらしい体はもう快楽しか感じず、気持ちよ過ぎてしょうがない。
 こんなに気持ちがいいものが世の中にあったなんて知らなかった……。
 虚ろにな瞳で、進藤君を見詰めながらそう考えていると、また彼が唇を重ねてきた。
 止まる事無く動き続ける腰の動きは早くなったりゆっくりになったりを繰り返し、随分長い時間私の中にいる気がするけど……どうなんだろう?
 恥部の肉芽を突然撫でられたその瞬間、また全身に抗えぬ大きな快楽が包み、ビクッと体を動かしながら達してしまうと、進藤君が目をキツク瞑った。
 そのままその赤い果実のような肉芽を撫でながら、私の耳元で「かわいいな」と彼が囁く。低いその声にゾクッとしながら酔っていると、ペロッと耳を舐め、軽く咬まれた。
 ゆっくり口が離れると、軽くため息をつき耳の横に手をついたと思ったら、再び腰を激しく私の中へと打ち付けてきた。
「んああっ!」
 我慢出来ず声をあげると「ごめん……」と小さく呟き、膣の中に入る進藤君の怒張がグッと存在感を増す。
「くっ」と声をあげ、進藤君の怒張が軽く痙攣すると、子宮へと向かい熱い白濁とした欲望そのものが注がれ、それと同時に私も三度目の大きな快楽を感じ達してしまった。
「……んぁぁぁ……」
 進藤君の白濁液を注がれてしまった感触の心地よさに、自然とうっとりとした目になる。
 全身力の入らない体の私の膣から、ゆっくり進藤君が達した怒張を引き抜くと、互いの蜜が中からゴボッ……と流れ出てきた。
 ジャージのズボンの中にモノをそそくさとしまい、スクッと立ち上がると、私をその場に残しどこかへと進藤君が歩いて行く。
 何も考えれないまま、ボーッと余韻に震えながらマットで横になっている。
 ——パシャッ
 突然の眩しい光と、機械音に顔をしかめながら進藤君の方を見ると、女子高生並みの早い指使いでスマホをいじっているのが目に入った。
 嘘……まさか写真撮ったとか言わないよね?
 信じられない、何考えてるのこの男。
 散々人の体弄んで、写真まで撮るなんて……。
 悔しさと怒りが込み上げてきて、動かすのも辛い体を無理に動かし、拘束を解く。おぼつかぬまま立ち上がると、進藤君の手からスマホを取り上げた。
 まさか私が動けるとは思っていなかったのか、少し驚いた顔で彼がこちらを見てくる。
 取り返される前に消してやる!
 そう思った私は、写真用のファイルを開き、一番上の今日の日付の含まれるデータを消去した。
 鬼の様な形相で彼を向かいスマホを投げ返したが、進藤君は顔色一つ変えずに「意味ないよ」と言ってきた。
「もう家のパソコンに送ったから」
 無表情でそう言い放ち、私の顔をじっと見てくる。
「パソコンって……酷い!何でそこまでするの?」
 顔が青ざめ、最悪の事態を考えていまい怖くなってきた。
 頭を抱えながらその場にしゃがみ込むと、ドロッと膣から進藤君の精液が床に流れ出て、少しの水たまりが出来た。
「……保険だよ。流出の心配はいらない、後藤が誰にもこの事を言わないなら」
「そんな事しなくても言える訳が……」
「無いとは言い切れない。一回体を重ねたくらいじゃ、犬に咬まれたもんだと割り切れる奴もいるし」
「そんな風に思える訳ないじゃない!」
「じゃあ責任とらせてくれるのか?くれないだろ。君の為に人生設計を考え直すのは構わないが、君のせいで人生捨てる気はない。だから、俺には保険がいるんだ」
 責任って……何、謝罪でもしてくれるっていうの?私が求めれば。
 その後に続く言葉も……何か随分気になる言い回しなんだけど。
「……進藤君の言う、『責任を取る』って……どういったものなの?」
「付き合うとか、今の行為で子供が出来ていたら認知して結婚するとか、そういった意味だ。それ以外を求められたら困るから、保険がいる。わかった?」
 こど……そういえば、避妊してない……。
 今更その事に気が付き、背筋がザワッとした。
「何言って……」
「それだけの事を俺はしたんだよ、衝動的にじゃなく確信を持って」
 確信……?
 意味がわからず黙ったまま進藤君を見上げていると、私の側に来て腰を下ろし、顎をグッと持ち上げ視線を無理やり合わせる。
「後藤が1人で残るの日をずっと待ってたんだ。抱きたくて」
 口の端で笑い、ゆっくりと顎から手を離して進藤君が立ち上がった。
 出口まで歩き、少し振り返りながら「着替えとタオル持ってくるから、そこに居て」と言いながらトレーニングルームから出て行った。

 ……抱きたくて?
 残る日をずっと待ってた?
 何で?どうして?それって……好きとかそういった理由で?
 ならどうして告白とかそういった段取り踏まないのよ!
 達した事による余韻も抜け始め、理性的にものを考えれるようになってくると、今までの事が許せなくてしょうがなくなってきた。
 けどそれは、強引に事を起こしたことに対してというよりは、何かもっと別の感情だ。言葉に上手く表現できなくてモヤモヤとしてしまい、何だか気持ち悪い。
 体育座りになり胸や恥ずかしい部分が見えないように隠し、うだうだと色々考えていると、頭の上から大き目のタオルが降ってきた。
「ありがとう」と言いながらそのタオルで体を包むと、今までで一番驚いたとハッキリわかる表情で進藤君が私を見てくる。
「なっ……なんなんです、その顔は」
「強姦されたのに、その相手に言うセリフじゃないなと思って」
「優しくされたらありがとうで返すのは当然です。知らない人じゃないし……」
「知らない奴じゃないってだけで、そこまで温和になれるのか、お前は」
 そう言う顔はどこか物悲しく、言われたくない一言を言われたかの様な雰囲気だ。キツイ言葉など言っていないのに、何をそこまで落ち込んでいるのだろうか。
「写真……消して下さい。本当に誰にも言いませんから」
「じゃあ、責任取らせろ」
「……それって、進藤君と付き合えって事ですか」
「ハッキリ言えばそうなるな」
「……何で?何でそう遠まわしなんです?」
「一回抱かれたくらいでそいつのモノになってくれる奴なんで、もうご時世的にいないだろ」
「そうじゃなく、そういった事って、告白して付き合ってから、互いの合意の上でする事ですよね?」
「お前俺に興味の欠片もないじゃないか」
 だからって、いきなり行動起こすのかいアンタは!
 ため息をつきつつ私が自分の額を押えると、進藤君がちょっと拗ねた表情でそっぽを向いた。
「振り向かせる努力はこれでもしてたんだ、全く気が付いてもらえなかったら別の手段にって思うのは当然だろう?」
 開き直った態度でそう言われたが……もちろん納得など出来るはずがない。
「当然って……コレはいき過ぎです!」
 噛み付くような勢いで言うと、進藤君も納得出来ないと身を乗り出しながら「じゃあどうしたら俺の方を向いたって言うんだよ!」と叫ぶように言い返してきた。
「好きだから付き合えって言えばいいでしょう⁈」
「わかったよ!す……あ……ぁ……」
 勢い任せに最初の一文字だけは口から出たものの、途中で言葉が止まり表情が硬くなった。
 どうしても言えない……そんな風に考えているのが私にまで伝わってくる。
 黙ったまま進藤君がどう出るのか見ていると、眉間にシワをよせながらボソッと呟くように「……写真を盾に脅してるようなもんだから、言いたくない」と言ってきた。
 確かに。
 私は今彼に、誰にも見られたくない写真を所有されており、付き合えと言われれば断る事は出来ないだろう。
 だが、それとこれとは別問題だ。
「写真はありません、撮っていませんでした。そのうえで考えて下さい。進藤君は私をどうしたいんですか」
「……付き合いたい」
 ボソッとギリギリ聞こえる程度の声で、進藤君が言った。
「付き合う為には伝えるべき言葉がありますよね?」
「意地でも言わせたいみたいだけど、お前はどうなんだよ!」
 うっ……と言葉に詰まってしまった。
 正直全く今まで眼中になかった人だし、こうなってしまったからどうにかせんとみたいな気持ちで話してはいるが……私はどうしたいんだろう?
 努力家で、真面目で……好みのタイプではなくとも、世間一般的にはカッコイイ部類に誰が見ても入れる顔立ちの進藤君。
 背も高いし、スポーツマンで将来も期待されてて……と、いい部分しか浮かばない。
 ちょっと感情がいき過ぎてる気もするが、愛情がそれだけ深いとも取れなくもない。
 ……愛情の深い強引な人って、私のツボだったりするんですが、ここでそれを認めてしまっていいものなのか。抱かれたのがきっかけで好きになっちゃいましたって、何か私軽過ぎないか?
 私はそんな女じゃないもん!という考えが先にきてしまい、冷静に自分の心と向き合えずにいると、進藤君の顔がいきなり目の前に現れ、ビックリして後ろにさがり、両手で体を後ろの方で支えた。
「訊いてるんだけど。お前はどうなの?どうしたい?写真は後藤の希望通り捨てる。その上で、発言してくれ」
「……わ、私は……えっと……」
 後ろに手を着いて体を支えているせいで胸が完全に露わになっている事に気が付き、慌ててタオルで前を隠す。
 進藤君の方は胸が見えていた事に対して照れるとか動揺するとかいった事も無く、ひどく真剣な眼差しで私に詰め寄ってきた。
 ズリズリと後ろに下がって逃げようとするも、距離は一向に縮まる気配は無い。
 ハッキリ言う?今まで興味ありませんでしたって。本人もそれには気が付いてるみたいだし、今更その事実を付きつけても悲しんだりはなさそうだけど……。
「強引な人が……好みかな……」
 目を大きく開けて、黙ったまま進藤君が私を見てくる。
 出てしまった言葉に今更恥ずかしくなって、カァッと私の頬が染まった。
「愛情がある事が、前提ですけどもね」
 今更言っても言い訳にしか聞こえないかもしれないだ、一応付け足す。まともに進藤君の顔が見られない。
「つまり……あれか?」
 眉間のシワが消えぬまま進藤君が言い難そうに口を開いた。
「……お前は、誰かに襲われるたびに、そいつに惚れるって事?」
 んな⁈——何でそうなるのよ!
「違いますよ!そんな軽い女に見えてるんですか?最っ低!」
 この際だから全ての怒りを込めて引っ叩いてやろうと手を上げたが、あっさり腕を掴まれ、叩く事が出来なかった。
「……ごめん、違う。そんな事が言いたいんじゃないんだ」
 苦しそうにそう言われ、手から力が抜ける。
「……ごめん、ホント今更だけど冷静に考えたら、いや……考えるまでも無く、俺……酷い奴だよな」
「わかればいいんです!」
 掴まれていた手の力が緩まり、離してくれた。上がったままの手を下げずに進藤君の頭の上にのせ、そっと髪を撫でてみる。
 汗のせいで重たくなった髪はちょっと撫でにくく、シャワーを浴びてから帰った方がいいんじゃないかなってくらいの状態だったけど、大きい犬の毛を撫でているみたいで私にはちょっと楽しかった。
「私の事、軽い奴だって思いません?」
「それは俺のセリフだろ?誰にでも手を出す奴だと思わないで欲しいんだ」
 こほんっとわざとらしく咳をして、進藤君の目を真っ直ぐ見上げる。
「……じゃあ……どうやら好きになちゃったみたいなんで、責任取ってもらえませんか?」
 無理に奪われた後で言うセリフでもないよなと思いつつも、今の本心を正直に伝える。進藤君の真剣さとか、何気ない仕草が今は可愛くてしょうがないと感じるから。
「ずっと前から後藤の事が気になってたんだ。暴走して……間違った気の引き方したけど、責任は喜んで取らせて欲しい」
 クスッと互いに笑いあい、どちらからともなく、唇を重ねた。
 同意の、意味を込めて。


 ——それからというもの、私は部活に行くのが楽しみでしょうがない。
 相変わらずの無表情で、黙々と練習をする進藤君だが、私と目があった瞬間だけ口の端で少しだけ笑ってくれる。
 現金な奴だと言われるかもしれないが、ファンの子達の『寡黙で素敵』だ『ク-ル』だという褒め言葉が最近ではわかる気がする。
 そのファンに対して最近は、『進藤君には寄るな触るな近づくな』としか思えない自分は、なんと変わり身の早い奴なんだろう……。

「今日は?」
「んとね、平気だよ」
「旅行なんだ」
「行きます!」
『今日はこのあと暇か?』『親が旅行に行っていて誰もいないから、うちに泊まりにこないか?』と言いたいんだとわかってしまう様になった私は、迷う事無く返事をする。
 あの日は随分と頑張ってしゃべっていたらしく、付き合い始めるとかなり言葉が短く、何が言いたいのか他人じゃ理解出来ないんじゃ?と思う事もある。だが、それが自分にはわかるのも、ちょっと特別な位置にいる優越感を感じられて嬉しい。
 部の先輩達も『何で進藤が後藤を射止めれたんだよ』とぼやく事がたまにあるが、貴方達にはあの行動力はなかったよね?と心の中で返事をした。
 もっとも、あったからといって同じ結果になっていたのかなは疑問だが……。
 でもまぁ、私は今の立場に満足しているし、進藤君も進藤君なにり幸せそうなんでいいよね。

「そういえば、私まだ一回も『好き』って言われてない」
「そうだっけか」
「ですよー言って欲しいな、今この瞬間。すぐにでも!」
「……俺が死ぬ時、言ってやるよ」
「は⁈何十年待たせる気なんですか、君は!」
「……それまでは一緒にな。聞き逃すなよ?」
「……えぇぇぇ…」と言うも、遠い未来の約束を交わせた事に、ちょっと嬉しい自分がいた。


【終わり】
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