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最終章
【第五話】王の決意②
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「静粛にぃぃ!国王の意思を尊重するのが、家臣のあるべき姿でというものではないのですかぁ!」
謁見の間に怒号にも似た声が響き渡り、一斉に視線が声の主へと向く。案の定そこには司祭であるウネグが鼻息荒く、戦士の面持ちで仁王立ちしていた。柊也達の到着の報告を受けて、急いで城を訪れた様だ。
「…… ウ、ウネグさん!」
大声のせいで耳鳴りのする両耳を強く押さえながら、柊也が叫んだ。
「トウヤ様!お久しぶりですなぁ!昨日は突然やり取りが途切れたので心配しておりましたぞぉぉ!」
両手を広げ、獰猛な牛の様な勢いで柊也へ向かいウネグが突進して行く。柊也の華奢な脇の下に逞しい手を入れたと思ったら、次の瞬間には赤子を抱き上げる様に柊也の体を高らかに持ち上げた。完全に『高い高い』をしてもらっている子供と化してしまった。
「は、恥ずかしいから!王様の前だから!」
「おぉ!そうでしたな。これは失礼を」
素直に従い、ウネグがそっと柊也を絨毯の上に降ろすと、それらの流れを見ていたレーニアが楽しそうに腹を抱えて笑いだした。
「あはははは!私では溶かせなかったトウヤの緊張を、まさか一瞬で無にするとはね。流石はウネグだ、君には一生勝てる気がしないよ」
レーニアの目には笑い過ぎで涙が少したまっている。
そんな父王の横で、ライエンは顔しかめていて、複雑な気持ちを抱えていた。
「えっと…… 何の話だったかな?あぁそうだ、『完全なる解呪を』って話だったね。他国の件はちゃんと考えているよ、なので心配は無い」
まだ苦しい呼吸を無理に整えながら、レーニアが家臣達に向けて言った。
「記録院バベルが我々に対し全面的協力を宣言してくれたんだ。今まで各国が“孕み子”から得ていた恩恵を補填できるだけの叡智を、分け隔て無く与え続けてくれる事を約束してくれたよ」
「…… なんと。あの偏屈集団が?」
「まさか…… 国内にありながら、今まで一度も協力的な姿勢を見せぬままだった者達が、急に態度を変えるものか?」
「フリだけに決まっておろう…… 。完全に解呪出来た途端、手にひらを返すに決まっておるわ」
家臣達はにわかに信じきれず、顔を見合わせている。
ほんの一部の者と司祭・ウネグ以外は全て、『国王は呪いを抑え込む事で得られる“孕み子”の恩恵を望んでいる』と思い込んでいた為、どうしても受け入れきれない様だ。
「レーニア様のお言葉は事実です。先程、記録院の長であるセフィルからも直接打診がありました」
そう言ったのは、先程この部屋へ入って来たばかりの宰相・テリスだった。
だが彼は誰の事も見ておらず、自らの父であるウネグが破壊した扉をじっと見詰め、暗い顔をしている。『この扉だけでどれだけの価値があると思ってんだ、あのクソ親父がぁぁ!』と怒りで胸がいっぱいで、他の事に気持ちを割く余裕があまり無い。テリスと同時にやって来た双子の兄弟である近衛隊長のハリスも、同じ様に壊れた扉を見上げて顔色を真っ青にしていた。
「では何故我々に、もっと早くその事を伝えてはもらえなかったのですか?」
白い髭を揺らしながら、不満顔をした家臣の一人がレーニアに詰め寄る。
「おいおい、私はユランが生まれた日にハッキリ言ったではないか。『呪いを解く』と、大声でな。まさか国王たる私の宣言を『知らぬ』『聞いていない』などとは言わせないぞ。なぁ、テリス」
そう言って、レーニアはニヤリを笑った。
「はい。しっかりと記憶しております。お疑いでしたらそれそこ記録院までお尋ね下さい。“孕み子”が関わる件ですから、一言一句漏らさず記録されておりますので」
そこまで言われ、家臣達は一斉に口を噤んだ。ここに集まっているのは当時から仕える者達ばかりだ。王の指示を聞いていなかったとは言える訳が無い。
「さて、話はこれで終わりだ。ユランが待っているでしょうから、お疲れで無ければ……すぐにでも解呪を頼めますか?」
レーニアにニコッと微笑まれ、すっかり緊張の解けた柊也が『はい』と答えようとした時、柔らかな花の香りが謁見の間に居る者達の鼻孔をくすぐった。
「お待たせいたしました。あら?どうしたのかしら、扉が無いわ?前に来た時はちゃんとあったと思うのだけれど…… 不思議な事もあるものね。あ、レーニア!トウヤ様は何処かしら?もうここへいらっしゃっているのでしょう?用意が出来たの。素敵な物を揃えられたわ」
のんびりとした口調で話し、部屋の空気を読まぬままはしゃぐ愛らしいラモーナの姿を見て、レーニアが破顔して喜んでいる。『俺の嫁可愛い!』オーラが全身から出ていて、宰相と近衛隊長の二人はちょっと呆れ顔だ。
だが柊也は、王妃様が自分を“純なる子”だと認識しないままキョロキョロと部屋の中を探す様子を見て、少しだけ嫌な予感を感じたのだった。
謁見の間に怒号にも似た声が響き渡り、一斉に視線が声の主へと向く。案の定そこには司祭であるウネグが鼻息荒く、戦士の面持ちで仁王立ちしていた。柊也達の到着の報告を受けて、急いで城を訪れた様だ。
「…… ウ、ウネグさん!」
大声のせいで耳鳴りのする両耳を強く押さえながら、柊也が叫んだ。
「トウヤ様!お久しぶりですなぁ!昨日は突然やり取りが途切れたので心配しておりましたぞぉぉ!」
両手を広げ、獰猛な牛の様な勢いで柊也へ向かいウネグが突進して行く。柊也の華奢な脇の下に逞しい手を入れたと思ったら、次の瞬間には赤子を抱き上げる様に柊也の体を高らかに持ち上げた。完全に『高い高い』をしてもらっている子供と化してしまった。
「は、恥ずかしいから!王様の前だから!」
「おぉ!そうでしたな。これは失礼を」
素直に従い、ウネグがそっと柊也を絨毯の上に降ろすと、それらの流れを見ていたレーニアが楽しそうに腹を抱えて笑いだした。
「あはははは!私では溶かせなかったトウヤの緊張を、まさか一瞬で無にするとはね。流石はウネグだ、君には一生勝てる気がしないよ」
レーニアの目には笑い過ぎで涙が少したまっている。
そんな父王の横で、ライエンは顔しかめていて、複雑な気持ちを抱えていた。
「えっと…… 何の話だったかな?あぁそうだ、『完全なる解呪を』って話だったね。他国の件はちゃんと考えているよ、なので心配は無い」
まだ苦しい呼吸を無理に整えながら、レーニアが家臣達に向けて言った。
「記録院バベルが我々に対し全面的協力を宣言してくれたんだ。今まで各国が“孕み子”から得ていた恩恵を補填できるだけの叡智を、分け隔て無く与え続けてくれる事を約束してくれたよ」
「…… なんと。あの偏屈集団が?」
「まさか…… 国内にありながら、今まで一度も協力的な姿勢を見せぬままだった者達が、急に態度を変えるものか?」
「フリだけに決まっておろう…… 。完全に解呪出来た途端、手にひらを返すに決まっておるわ」
家臣達はにわかに信じきれず、顔を見合わせている。
ほんの一部の者と司祭・ウネグ以外は全て、『国王は呪いを抑え込む事で得られる“孕み子”の恩恵を望んでいる』と思い込んでいた為、どうしても受け入れきれない様だ。
「レーニア様のお言葉は事実です。先程、記録院の長であるセフィルからも直接打診がありました」
そう言ったのは、先程この部屋へ入って来たばかりの宰相・テリスだった。
だが彼は誰の事も見ておらず、自らの父であるウネグが破壊した扉をじっと見詰め、暗い顔をしている。『この扉だけでどれだけの価値があると思ってんだ、あのクソ親父がぁぁ!』と怒りで胸がいっぱいで、他の事に気持ちを割く余裕があまり無い。テリスと同時にやって来た双子の兄弟である近衛隊長のハリスも、同じ様に壊れた扉を見上げて顔色を真っ青にしていた。
「では何故我々に、もっと早くその事を伝えてはもらえなかったのですか?」
白い髭を揺らしながら、不満顔をした家臣の一人がレーニアに詰め寄る。
「おいおい、私はユランが生まれた日にハッキリ言ったではないか。『呪いを解く』と、大声でな。まさか国王たる私の宣言を『知らぬ』『聞いていない』などとは言わせないぞ。なぁ、テリス」
そう言って、レーニアはニヤリを笑った。
「はい。しっかりと記憶しております。お疑いでしたらそれそこ記録院までお尋ね下さい。“孕み子”が関わる件ですから、一言一句漏らさず記録されておりますので」
そこまで言われ、家臣達は一斉に口を噤んだ。ここに集まっているのは当時から仕える者達ばかりだ。王の指示を聞いていなかったとは言える訳が無い。
「さて、話はこれで終わりだ。ユランが待っているでしょうから、お疲れで無ければ……すぐにでも解呪を頼めますか?」
レーニアにニコッと微笑まれ、すっかり緊張の解けた柊也が『はい』と答えようとした時、柔らかな花の香りが謁見の間に居る者達の鼻孔をくすぐった。
「お待たせいたしました。あら?どうしたのかしら、扉が無いわ?前に来た時はちゃんとあったと思うのだけれど…… 不思議な事もあるものね。あ、レーニア!トウヤ様は何処かしら?もうここへいらっしゃっているのでしょう?用意が出来たの。素敵な物を揃えられたわ」
のんびりとした口調で話し、部屋の空気を読まぬままはしゃぐ愛らしいラモーナの姿を見て、レーニアが破顔して喜んでいる。『俺の嫁可愛い!』オーラが全身から出ていて、宰相と近衛隊長の二人はちょっと呆れ顔だ。
だが柊也は、王妃様が自分を“純なる子”だと認識しないままキョロキョロと部屋の中を探す様子を見て、少しだけ嫌な予感を感じたのだった。
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