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最終章
【第話】願い②
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口元に弧を描き、ユランが淫靡に微笑む。その笑みは明らかに人を堕落させる性質を持った娼婦の様な笑みだったのに、柊也は心が騒つくどころか、今から起きるであろう事を期待して心を弾ませてしまった。
「いいですよ、トウヤ様。でもね、今日はちょっと違う事をしましょうか」
ぼぉっとした瞳のまま柊也がユランの次の行動を待つ。体には力が入らず、すっかり抱かれる事に慣れきった体は、期待に満ちて勝手に受け入れ体制を万全にし始めた。双丘に潜む蕾がヒクつき、ルナールに体を作り変えらているせいでとろりと蜜が流れ出て、早くユランの熱が欲しいと訴えている。
なのにユランはひどく興奮した顔をしながら柊也から離れ、ベットの端に置かれてあった大きなクッションに背中を預け、脚を伸ばして座った。
髪で押さえられていた腕が上へと引っ張りあげられ、横になっていた柊也の体がゆっくりと起き上がる。両手を吊るされた様な姿勢にされると、触手の様に動くユランの銀色の髪は、本体のの元へと柊也を運んだ。
膝立ちでユランの前に座らされ、拘束が解かれる。
「…………?」
どうしたんだろうか?と柊也が不思議に思っていると、彼の目の前でユランは長くて筋肉質な脚をあられもなく開脚させてきた。
ルナ…… ちがっ。ユ、ユランの格好エロッ!
そう思いつつも、柊也は状況が掴めなかった。
眼前で、凶器と例えるに相応しいユランの怒張がヒクつき、先走りの汁が垂れ出していている。白い肌は汗でしっとりとしており、逞しい腹筋や胸筋の溝に淫靡な輝きを与えていた。胸の先の尖りは桜色で美しく、白い肌の中でぷっくり綺麗に咲き、長く艶やかな銀の髪には窓から差し込む日光が当たっていて、現実味の無い存在が目の前に居るみたいな印象を柊也は持った。
インキュバスにも似た微笑みを浮かべながら、呼吸の荒いユランが、形の綺麗な自身の双丘へと後ろから手を伸ばし、奥にひっそりと潜む蕾をくぱぁと指先で開く。
潤滑油に似た蜜が蕾からとろりと垂れ落ち、ひくひくと快楽を欲する様子が柊也の視界に入り、彼は本能的にゴクリと音をたてて唾を飲み込んだ。
男性体のそんな箇所を見て興奮する日がくるとは!と、柊也はちょっとだけ思ったが、ユランが唇をペロリと舐めて誘う様な仕草をした瞬間、全てが吹っ飛んだ。雄として本能が刺激され、柊也の頭の中が真っ白になった。
入れたい、早く、すぐにでもユランと一つになりたい——
それしか考えられず、思考を支配され、柊也はウェディングドレスを着ている者には似つかわしくない行為をユランに求めた。
自分から進んで下着をさげて怒張を晒し、彼の望むがまま体に縋り付き、弾けそうな怒張を蕾へと擦り付ける。
「ルナール……ルナ、ルゥ…… 」
もう自分が何を言っているのかわからないくらいの蕩けっぷりだ。
「可愛いですね、トウヤ様…… でも、出来れば、ユランと呼んで頂けませんか?」
柊也の怒張を指先で軽く掴み、ユランが自らの蕾へと誘導する。互いに蜜や汁とでぐちょぐちょでかなり滑り、擦れ合うだけでもかなり気持ちがいい。
ユランが微笑みながら、そっと柊也の頰を撫でる。
「トウヤ様…… 私はこの身に繁栄などでは無く、貴方の子こそを孕みたいのです…… 。子種を、この腹にくださいませんか?」
“孕み子”と呼ばれる存在に、そんな事を言われてはもうひとたまりもない。柊也は誘導されるがまま自らの怒張を蕾へと押し込み、とうとうユランの体を欲望のままに深く、深く、抱き締めた。
「あぁぁぁぁ!」
慣らす事無く貫かれ、ユランが嬌声をあげた。目が見開かれ、口元が震え、飲み込めぬ涎が零れ落ちて白い首をつつっと伝う。
「トウヤさ、まぁ…… あぁ、きもちぃ…… 」
体を歓喜に震わせながら言われ、柊也の背筋が喜びに打ち震えた。抱く側の経験値がゼロの身としては現時点でもうかなりヤバイ状況なのだが、歯を食いしばってユランの求める快楽を与えようと無意識に体が動く。小さな体で高身長のユランを抱く姿ははたから見れば少し滑稽かもしれないが、必死に腰を打ち付け、一心に与えられる快楽を享受した。
「ル、ユラ…… ル?あ、え…… んんっ」
上手く頭が動かず、でも何とか愛しい名を呼ぼうとするが、きちんと出来ない。
そうな柊也の蕩けっぷりが嬉しくって、可愛くって、喰べてしまいたいとユランは思った。
「トウヤ、さまぁ。可愛い、好き、好きすきぃ」
触手の様に髪が意思を持って動き出し、柊也の着るウエディングドレスから覗く胸の先を撫で始めた。耳を弄り、肌を撫でられ、柊也がとても困惑した顔になった。
「ル、ルナールの、こ、コレ何?」
まるでメデューサの様な状態になりながら愛撫され、気持ちいいのにちょっと困ってしまう。
「便利でしょう?トウヤ様を、こう、愛しながら…… 愛してもらえるんです、から」
ニコリと笑いながら、ユランが頰を染めた。
ドレスのスカートの中にまで髪を入れ、器用に柊也の下着を裂いていく。スカートの中で愛らしく揺れる双丘も髪でゆるゆると撫で、蕾を目指して肌の上を這う。そんな事をされてしまうもんだから、もう柊也は、自分がユランを抱いているのか、抱かれているのかわからなくなってきた。
「む、無理!もっ——あぁぁんっ」
ユランの中を満たしていた柊也の怒張がぐっと質量を増し、白濁とした快楽の塊を最奥へと一気に吐き出した。びゅるるるっと吐精された欲望を腹の奥で感じ、ユランは両手で包む様に下っ腹に触れ、感嘆の息を吐いた。
「あぁ…… コレが、コレが欲しかったのです」
満たされた瞳が喜びに打ち震え、ユランの肌に刺青にも似た紋様がジワリと浮き出てきた。蛇の様な、東洋の龍にも似た模様が全身に現れ、生きているかの如く這っている。
「ユラン…… だ、だいじょう、ぶ?」
欲を吐き出し、少しだけ冷静になった柊也が心配そうな声で訊いた。だがユランは聞いておらず、愛おしそうに腹を撫で、口元はニタリと微笑んでいる。頰は高揚に染まり、瞳は満ち足りて蕩けたままだ。
「トウヤ様、トウヤ…… 好き、すきぃ…… 愛してま…… お、ぉお前が、心の底から愛おしいぞ——」
地を這う様な低い声がユランの中からこぼれ出た。柊也は一瞬恐怖を感じ、彼から離れようとしたが、髪で体を固定されて動けない。
ユランの肌の中を這っていた紋様が彼の下腹部へ一斉に向かい、辿り着いた瞬間、全てが中へと溶ける様に消えていく。すると、ゆっくりユランが瞼を閉じ、表情が少しづつ穏やかなものへと変わっていった。
「…… ユラン?」
閉じていた瞼がゆっくりと開くと同時に、ユランの額にツツッと線が入り、その部分が綺麗に裂けていく。
何が起きているのか全くわからない柊也が動揺しながらその様子を見守っていると、閉じていた瞼が完全に開いたと同時に、ユランの額に縦長な第三の目が現れた。腕や脚にはよく見るとうっすらと灰色に近い色をしたニャルラトホテプを象徴する紋様が刺青の様に刻まれ、再び這い出してきた龍にも似た柄が腹の辺りを拠点にしてゆったりと動き、彼の人間離れした容姿を更に昇華させていた。
「それ…… 痛くない?平気?」
「痛くはないですよ。むしろとても気分が良いです。やっと…… あるべき場所に辿り着けたみたいな…… 満たされた高揚感があります」
「…… でも、コレ動いてる、よ?」
肌の中を這う柄をツンツンとしながら、柊也が訊く。キツネタイプの獣人だったルナールが、ドラゴンだったり中性的美人になったと思ったら、今度は神懸かり的な容姿になってしまい、色々と追いつけない。
「トウヤ様のおかげで、この世界へ溶け込んでしまっていたニャルラトホテプの全てが、この身と一体化した様です」
「…… それってつまり?」
「もう、新たな“孕み子”は生まれないという事です」
穏やかな笑みを浮かべ、ユランが自身の胸にそっと手を当てながら言った。
「私の根底と彼の魔力が完全に溶け、この身の中で一つと化したので、もう外へ魔力が這い出て人々を苦しめる事は無いでしょう」
「じゃあ、彼は…… 彼の怨念やら執着やらといった類の困った思いは、解消されたって事?」
「あ、いえ、まだ全く満足はしていません」
「…… え?」
「だって、彼はどんな形になろうが、所詮は邪神だったモノですから。この程度で満足する事など…… ねぇ?」
にっこりと笑い、ユランが「んっ」と吐息をこぼしながら、その身に受け入れていたままだった柊也の果てた身を引き抜く。『い、入れたまま…… だった』と今更気が付き、柊也の顔が羞恥に染まった。
そんな柊也を今度はユランがベットへと押し倒し、悪戯っ子の様な笑みを顔に浮かべた。
「私はまだ、トウヤ様を抱いていませんから」
「マジですか…… 。攻守交代…… 的な?」
「はい。…… それとも、ここまで容姿の変わった私では…… 流石に、気味が悪いですか?」
狐の様な尖った獣耳は、ドラゴンの様に歪な形をした長い角に。
茶色かった腰までの髪は銀色の長髪へと変化し、つるりと白かった肌には今、蛇とも龍とも言える柄がゆるりとした動きで這い回っている。額には縦長な第三の目までもが現れていては、ユランの瞳が心配に揺れるもの仕方がないといえよう。
心境を察し、柊也はティオとエリザの夫婦の事を思い出した。
『姿がどんなに変わろうが、エリザがエリザである事は揺るぎませんからね』
そう言った彼の言葉が今、骨身に染みる。聞いた時は感動しつつも他人事であったが、今では我が身にも降りかかった問題だ。自分も今の姿をしたユランを受け入れられるだろうか?
そっとユランの頰に触れ、肌を撫でる。僕の指の動きを追いかけるみたいに肌の中の柄が動き、擦り寄るみたいに近寄ってくるのを見て少し驚いたが…… 何故かちょっと可愛いかもと感じた。
ギョロリとした額の瞳は僕と同じ真っ黒で少し怖いかもと思ったが、目の奥に動揺が見て取れて、チクリと心が痛んだ。僕程度の存在に嫌われるのではと怯えるなんて…… 。
あぁダメだ、何を見てもどこに触れても、結局僕は——ルナールが、ユランが愛おしい気持ちを感じてしまう。
彼が彼であれば。根底が変わらなければ…… それに、今の姿ってむしろ格好いいのでは?
「トウヤ…… 様」
ユランの揺れる瞳にうっすらと涙がたまり、堪えきれぬ怯えが、涙という形となって零れ落ちる。
そんな彼に向かって両手を伸ばすと、柊也はユランの体を引き寄せた。ぽすんっと力無く倒れてきた体と体が重なり、ユランの後頭部を優しく撫でる。
「…… 大丈夫だよ。どんな姿になろうとも、僕は…… 君が好きだよ」
「ト…… ウヤさまぁ…… 」
泣き声に近い声が柊也の耳をくすぐった。顔を胸に擦りつけ、ユランが甘える様な仕草をする。尻尾があった頃ならば、きっとぶんぶんとそれを振り回していた事だろう。
あぁ、可愛いなぁ…… うん、うん。やっぱり、どんな姿になろうとも、ルナールはルナールだ。
しんみりとそんな事を柊也が考えていると、ユランの呼吸がだんだんと荒くなり、頭に擦りついていた頰が、胸、ウェディングドレス越しの腹へと移動し、太ももへとおりていった。
「ルナ、ルナール?あの…… 」
頰を染め、柊也がユランの肩に手を置いた。
「二回戦目といきましょうか、トウヤさま」
うっとりとした、嬉しそうな顔でそう言われ、柊也は『そういえばそうでしたよね!』と思いながらも、自分の体力がどこまで彼についていけるのか、心配でならなかった…… 。
「いいですよ、トウヤ様。でもね、今日はちょっと違う事をしましょうか」
ぼぉっとした瞳のまま柊也がユランの次の行動を待つ。体には力が入らず、すっかり抱かれる事に慣れきった体は、期待に満ちて勝手に受け入れ体制を万全にし始めた。双丘に潜む蕾がヒクつき、ルナールに体を作り変えらているせいでとろりと蜜が流れ出て、早くユランの熱が欲しいと訴えている。
なのにユランはひどく興奮した顔をしながら柊也から離れ、ベットの端に置かれてあった大きなクッションに背中を預け、脚を伸ばして座った。
髪で押さえられていた腕が上へと引っ張りあげられ、横になっていた柊也の体がゆっくりと起き上がる。両手を吊るされた様な姿勢にされると、触手の様に動くユランの銀色の髪は、本体のの元へと柊也を運んだ。
膝立ちでユランの前に座らされ、拘束が解かれる。
「…………?」
どうしたんだろうか?と柊也が不思議に思っていると、彼の目の前でユランは長くて筋肉質な脚をあられもなく開脚させてきた。
ルナ…… ちがっ。ユ、ユランの格好エロッ!
そう思いつつも、柊也は状況が掴めなかった。
眼前で、凶器と例えるに相応しいユランの怒張がヒクつき、先走りの汁が垂れ出していている。白い肌は汗でしっとりとしており、逞しい腹筋や胸筋の溝に淫靡な輝きを与えていた。胸の先の尖りは桜色で美しく、白い肌の中でぷっくり綺麗に咲き、長く艶やかな銀の髪には窓から差し込む日光が当たっていて、現実味の無い存在が目の前に居るみたいな印象を柊也は持った。
インキュバスにも似た微笑みを浮かべながら、呼吸の荒いユランが、形の綺麗な自身の双丘へと後ろから手を伸ばし、奥にひっそりと潜む蕾をくぱぁと指先で開く。
潤滑油に似た蜜が蕾からとろりと垂れ落ち、ひくひくと快楽を欲する様子が柊也の視界に入り、彼は本能的にゴクリと音をたてて唾を飲み込んだ。
男性体のそんな箇所を見て興奮する日がくるとは!と、柊也はちょっとだけ思ったが、ユランが唇をペロリと舐めて誘う様な仕草をした瞬間、全てが吹っ飛んだ。雄として本能が刺激され、柊也の頭の中が真っ白になった。
入れたい、早く、すぐにでもユランと一つになりたい——
それしか考えられず、思考を支配され、柊也はウェディングドレスを着ている者には似つかわしくない行為をユランに求めた。
自分から進んで下着をさげて怒張を晒し、彼の望むがまま体に縋り付き、弾けそうな怒張を蕾へと擦り付ける。
「ルナール……ルナ、ルゥ…… 」
もう自分が何を言っているのかわからないくらいの蕩けっぷりだ。
「可愛いですね、トウヤ様…… でも、出来れば、ユランと呼んで頂けませんか?」
柊也の怒張を指先で軽く掴み、ユランが自らの蕾へと誘導する。互いに蜜や汁とでぐちょぐちょでかなり滑り、擦れ合うだけでもかなり気持ちがいい。
ユランが微笑みながら、そっと柊也の頰を撫でる。
「トウヤ様…… 私はこの身に繁栄などでは無く、貴方の子こそを孕みたいのです…… 。子種を、この腹にくださいませんか?」
“孕み子”と呼ばれる存在に、そんな事を言われてはもうひとたまりもない。柊也は誘導されるがまま自らの怒張を蕾へと押し込み、とうとうユランの体を欲望のままに深く、深く、抱き締めた。
「あぁぁぁぁ!」
慣らす事無く貫かれ、ユランが嬌声をあげた。目が見開かれ、口元が震え、飲み込めぬ涎が零れ落ちて白い首をつつっと伝う。
「トウヤさ、まぁ…… あぁ、きもちぃ…… 」
体を歓喜に震わせながら言われ、柊也の背筋が喜びに打ち震えた。抱く側の経験値がゼロの身としては現時点でもうかなりヤバイ状況なのだが、歯を食いしばってユランの求める快楽を与えようと無意識に体が動く。小さな体で高身長のユランを抱く姿ははたから見れば少し滑稽かもしれないが、必死に腰を打ち付け、一心に与えられる快楽を享受した。
「ル、ユラ…… ル?あ、え…… んんっ」
上手く頭が動かず、でも何とか愛しい名を呼ぼうとするが、きちんと出来ない。
そうな柊也の蕩けっぷりが嬉しくって、可愛くって、喰べてしまいたいとユランは思った。
「トウヤ、さまぁ。可愛い、好き、好きすきぃ」
触手の様に髪が意思を持って動き出し、柊也の着るウエディングドレスから覗く胸の先を撫で始めた。耳を弄り、肌を撫でられ、柊也がとても困惑した顔になった。
「ル、ルナールの、こ、コレ何?」
まるでメデューサの様な状態になりながら愛撫され、気持ちいいのにちょっと困ってしまう。
「便利でしょう?トウヤ様を、こう、愛しながら…… 愛してもらえるんです、から」
ニコリと笑いながら、ユランが頰を染めた。
ドレスのスカートの中にまで髪を入れ、器用に柊也の下着を裂いていく。スカートの中で愛らしく揺れる双丘も髪でゆるゆると撫で、蕾を目指して肌の上を這う。そんな事をされてしまうもんだから、もう柊也は、自分がユランを抱いているのか、抱かれているのかわからなくなってきた。
「む、無理!もっ——あぁぁんっ」
ユランの中を満たしていた柊也の怒張がぐっと質量を増し、白濁とした快楽の塊を最奥へと一気に吐き出した。びゅるるるっと吐精された欲望を腹の奥で感じ、ユランは両手で包む様に下っ腹に触れ、感嘆の息を吐いた。
「あぁ…… コレが、コレが欲しかったのです」
満たされた瞳が喜びに打ち震え、ユランの肌に刺青にも似た紋様がジワリと浮き出てきた。蛇の様な、東洋の龍にも似た模様が全身に現れ、生きているかの如く這っている。
「ユラン…… だ、だいじょう、ぶ?」
欲を吐き出し、少しだけ冷静になった柊也が心配そうな声で訊いた。だがユランは聞いておらず、愛おしそうに腹を撫で、口元はニタリと微笑んでいる。頰は高揚に染まり、瞳は満ち足りて蕩けたままだ。
「トウヤ様、トウヤ…… 好き、すきぃ…… 愛してま…… お、ぉお前が、心の底から愛おしいぞ——」
地を這う様な低い声がユランの中からこぼれ出た。柊也は一瞬恐怖を感じ、彼から離れようとしたが、髪で体を固定されて動けない。
ユランの肌の中を這っていた紋様が彼の下腹部へ一斉に向かい、辿り着いた瞬間、全てが中へと溶ける様に消えていく。すると、ゆっくりユランが瞼を閉じ、表情が少しづつ穏やかなものへと変わっていった。
「…… ユラン?」
閉じていた瞼がゆっくりと開くと同時に、ユランの額にツツッと線が入り、その部分が綺麗に裂けていく。
何が起きているのか全くわからない柊也が動揺しながらその様子を見守っていると、閉じていた瞼が完全に開いたと同時に、ユランの額に縦長な第三の目が現れた。腕や脚にはよく見るとうっすらと灰色に近い色をしたニャルラトホテプを象徴する紋様が刺青の様に刻まれ、再び這い出してきた龍にも似た柄が腹の辺りを拠点にしてゆったりと動き、彼の人間離れした容姿を更に昇華させていた。
「それ…… 痛くない?平気?」
「痛くはないですよ。むしろとても気分が良いです。やっと…… あるべき場所に辿り着けたみたいな…… 満たされた高揚感があります」
「…… でも、コレ動いてる、よ?」
肌の中を這う柄をツンツンとしながら、柊也が訊く。キツネタイプの獣人だったルナールが、ドラゴンだったり中性的美人になったと思ったら、今度は神懸かり的な容姿になってしまい、色々と追いつけない。
「トウヤ様のおかげで、この世界へ溶け込んでしまっていたニャルラトホテプの全てが、この身と一体化した様です」
「…… それってつまり?」
「もう、新たな“孕み子”は生まれないという事です」
穏やかな笑みを浮かべ、ユランが自身の胸にそっと手を当てながら言った。
「私の根底と彼の魔力が完全に溶け、この身の中で一つと化したので、もう外へ魔力が這い出て人々を苦しめる事は無いでしょう」
「じゃあ、彼は…… 彼の怨念やら執着やらといった類の困った思いは、解消されたって事?」
「あ、いえ、まだ全く満足はしていません」
「…… え?」
「だって、彼はどんな形になろうが、所詮は邪神だったモノですから。この程度で満足する事など…… ねぇ?」
にっこりと笑い、ユランが「んっ」と吐息をこぼしながら、その身に受け入れていたままだった柊也の果てた身を引き抜く。『い、入れたまま…… だった』と今更気が付き、柊也の顔が羞恥に染まった。
そんな柊也を今度はユランがベットへと押し倒し、悪戯っ子の様な笑みを顔に浮かべた。
「私はまだ、トウヤ様を抱いていませんから」
「マジですか…… 。攻守交代…… 的な?」
「はい。…… それとも、ここまで容姿の変わった私では…… 流石に、気味が悪いですか?」
狐の様な尖った獣耳は、ドラゴンの様に歪な形をした長い角に。
茶色かった腰までの髪は銀色の長髪へと変化し、つるりと白かった肌には今、蛇とも龍とも言える柄がゆるりとした動きで這い回っている。額には縦長な第三の目までもが現れていては、ユランの瞳が心配に揺れるもの仕方がないといえよう。
心境を察し、柊也はティオとエリザの夫婦の事を思い出した。
『姿がどんなに変わろうが、エリザがエリザである事は揺るぎませんからね』
そう言った彼の言葉が今、骨身に染みる。聞いた時は感動しつつも他人事であったが、今では我が身にも降りかかった問題だ。自分も今の姿をしたユランを受け入れられるだろうか?
そっとユランの頰に触れ、肌を撫でる。僕の指の動きを追いかけるみたいに肌の中の柄が動き、擦り寄るみたいに近寄ってくるのを見て少し驚いたが…… 何故かちょっと可愛いかもと感じた。
ギョロリとした額の瞳は僕と同じ真っ黒で少し怖いかもと思ったが、目の奥に動揺が見て取れて、チクリと心が痛んだ。僕程度の存在に嫌われるのではと怯えるなんて…… 。
あぁダメだ、何を見てもどこに触れても、結局僕は——ルナールが、ユランが愛おしい気持ちを感じてしまう。
彼が彼であれば。根底が変わらなければ…… それに、今の姿ってむしろ格好いいのでは?
「トウヤ…… 様」
ユランの揺れる瞳にうっすらと涙がたまり、堪えきれぬ怯えが、涙という形となって零れ落ちる。
そんな彼に向かって両手を伸ばすと、柊也はユランの体を引き寄せた。ぽすんっと力無く倒れてきた体と体が重なり、ユランの後頭部を優しく撫でる。
「…… 大丈夫だよ。どんな姿になろうとも、僕は…… 君が好きだよ」
「ト…… ウヤさまぁ…… 」
泣き声に近い声が柊也の耳をくすぐった。顔を胸に擦りつけ、ユランが甘える様な仕草をする。尻尾があった頃ならば、きっとぶんぶんとそれを振り回していた事だろう。
あぁ、可愛いなぁ…… うん、うん。やっぱり、どんな姿になろうとも、ルナールはルナールだ。
しんみりとそんな事を柊也が考えていると、ユランの呼吸がだんだんと荒くなり、頭に擦りついていた頰が、胸、ウェディングドレス越しの腹へと移動し、太ももへとおりていった。
「ルナ、ルナール?あの…… 」
頰を染め、柊也がユランの肩に手を置いた。
「二回戦目といきましょうか、トウヤさま」
うっとりとした、嬉しそうな顔でそう言われ、柊也は『そういえばそうでしたよね!』と思いながらも、自分の体力がどこまで彼についていけるのか、心配でならなかった…… 。
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