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最終章

【第八話】幽閉塔①

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 美しい花々で溢れるよく手入れの行き届いた庭を抜け、場違いな格好をしたまま柊也が二人と共に幽閉塔へと歩いている。
 目的地まではしっかりと道が整備されていて、足元に敷き詰められたレンガはきっちりはまっているおかげでとても歩きやすく、高いヒールの靴でも躓く事なく進む事が出来ている。
 ちらりと視線をあげると、頭にかぶったベール越しに鬱蒼とした雰囲気を漂わせる幽閉塔が目に入り、柊也がごくりと唾を飲み込んだ。歩くたびに『本当に上手くいくんだろうか』と不安が募り、頭の中では何故か軽くドナドナの歌が流れている気がして、暗い曲調に自然と気分が滅入る。こんな気持ちでは完全に満足させるどころか、抑え込む事すら出来ないのでは?と心配になるレベルでやる気が起きない。
 軽く視線を落とし、手首にはまる銀色のブレスレッドを見て気合いを入れねばと思ったのだが、どうにもダメだった。


 三人とも口数はとても少なく、ラモーナ王妃の部屋を出てから彼等はほぼ一言も会話をしていない。案内役であるライエンは相変わらずしかめっ面をしたまま手から血を垂らしているし、ルナールは頰を染めていて完全に教会へ向かう花婿気分だ。
 そんな彼らの心境を察する余裕の無い柊也は、モヤモヤした気持ちを持て余していた。

『二人目の子がまだ来ないけど、マジでどうするんだ。その事を誰も話題にしないし、気にした気配が無いのが、かえって怖いぞ…… 。もう、この件は完全に僕だけに一任されたって事なのか⁈』
『こんな格好の僕を、“孕み子”の居る場所まで連れて行くとか…… 何でルナールは平気なの?』
 ——考えるのはそんな事ばかりだ。

 せめてルナールが何を考え、何を望み、柊也の事をどう思っているのかをきちんとシラフだと認識し合った状態で確認する事が出来ればまだ気持ちも晴れるのだろうが、『どんな結果になろうが、ルナールとはもうすぐ離れ離れになるのだ』という思い込みが邪魔してしまい、柊也は声をかける事すら出来なかった。

       ◇

「ここになります」
 ライエンはそう言うと、見るからに幽霊の出そうな塔の前で立ち止まった。
 外壁は老朽化により所々崩れているし、巻きつく蔦が多過ぎて強度が心配になってくる。真昼間で雲の無い透き通る程に青い空を背負ってもなお、陰気な雰囲気を幽閉塔は漂わせていた。
 ルナールに片手を支えられていなければ、Uターンをして『んじゃ僕はここで帰ります』と言いたいレベルで入るのが怖い。『崩れるって!こんな建物!』と文句を言いたい気持ちでいると、一階にある待機室から一人の男性が顔を出した。
「何か御用でしょうか?」
 茶色い髪にイヌ耳の生えた懐っこそうな獣人が、三人の姿を見てキョトンとした顔をした。順々に三人の顔を軽く見て、柊也の所まで来た時に「まさか……生贄的なアレですか?」なんて呟くもんだから、柊也は反射的に「あ、なんかわかる!」と答えてしまったのだった。
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