コイシイヒト

月咲やまな

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本編

【第1話】妻の心境

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 日向 唯ひむかゆい、現在二十五歳、A型。
 只今新婚生活一ヶ月目で幸せいっぱい!——の、予定でした。
 将来有望視されている刑事さんな素敵過ぎる旦那様に恵まれたくせに、予定で終わってる幸せ。
 なんでこうなっちゃうのかなぁ…… 。

       ◇

 事の発端は四ヶ月くらい前に遡る。
 私は仕事からの帰宅中、暗い路地で酔っ払いのおじさんに絡まれてしまった。
『や、やめてください!』
 そう言うも相手はすごく酔っていて、全然こちらの言う事を聞いてくれない。
 仕舞には『おじさんといいところ行こうか』とか言い出すしで、私は気持ち悪くなり、反射的に相手を引っ叩いてしまった。
 でも百四十五センチの小さい体では、どんなに強く叩いたつもりでも悲しい事に全然効果がなかった。むしろ喜ばれてしまい、ひたすら悔しい!

『放して!いやあああ!!』

 もうこれは、誰かに助けてもらうしか手段は無い。そう咄嗟に判断した私は、大声で叫んだ。正直無意味ではないかとの諦めもあったが、何もしないよりはマシだ。あの時ああしていればと後悔だけはしたくなかった。
 だが意外にも『放しなさい、嫌がってる』と、若い男性の声が即座に聞こえてきた。
 突然現れた彼は、キッと鋭い刃物の様な視線でおじさんを睨みつける。
 たったそれだけの事だったのに、すごい気迫があり、おじさんも怯える表情のままそそくさと逃げていってくれた。

『あ、ありがとうございます!助かりました、すみません!』
 必死に頭を、何度も何度もさげる。
『…… そのままにもできないから』と、困った色の声が返ってきたが、それでもとにかく礼を言った。だが彼は、私とは視線も合わせず、少しぶっきらぼうだ。
『私じゃどうにもできなくて…… 怖かった…… 』
 ちょっと涙ぐみ、声が震える。知らない人の前だ。ここでは泣き出すまいと堪える為、俯いてギュッと手に力を入れた。
 そんな私を見て彼は、私の頭をそっと撫でてくれる。
 温かい手が…… 妙に心地いい。
『子供がこんな時間に一人で歩いてはダメだ、家は?ご両親に遅れるって言ったのか?』
『…… え?あ、私仕事帰りで——』
『こんな時間までバイトって、条例違反じゃないか。どこでやってる』
 聞こえる声がちょっと声が怖い。どうやら本気で怒っている様だ。
『正社員ですけど…… 』
『…… は?身分証あるの?』

 なんでそこまで確認したがるんだ、この人…… 。

『私これでも二十五歳なんですが…… 』
 その言葉に、彼はが黙り込んでしまった。

 ——あぁ、またか。

 心に諦めの気持ちが浮かぶ。コレはいつものパターンだ。
『あの、私全然気にしてません。こんな事いつものなんで、飲み屋でも絶対に免許書必要だったりするし、コンビニではお酒買うの面倒だし!ね?だから気にしないで下さい!』
 手をパタパタと動かし、必死に説明する。
 いつもの事だからと諦めている自分よりも、彼の『まだ信じられないけど、信じるしかない』感の漂う雰囲気をどうにかしてしまいたかった。
『…… あ、いや…… ごめん』
『いえ!だから本当に全然っ』
『家は近いのか?』
『ええ、ここから…… 十分くらいかな』
『送って行く。また変な奴が居ても困るから』
 カァーと自分の頬が、赤に染まっていくのがはっきりわかる。

 いいのかな?こんなカッコイイ人に送ってもらちゃって…… 。
 断る?貴方が不審者に化けないとも限らないし。
 いや!ダメだ、絶対こんなチャンス、二度とない!

『お、お願いします!!』
 近所迷惑かもと思う程大きな声で、私は答えた。

          ◇

 その日以来、私はすっかり彼の虜になってしまった。
 迷惑だろうが!って思うくらいに何度もアタックをかけた。完っ全に、どこに出そうが恥ずかしくないレベルの一目惚れってやつだった。

 出会った日から一ヶ月後には、私からの告白で付き合ってもらえる事に。
 付き合って、もっともっと彼が好きだーって思った私は、その一ヵ月半後には逆プロポーズを決行した。

 かーなーり困った顔をされてしまったが、しつこく頼んで承諾してもらい、半月くらいの間に親に挨拶をしたりして、速攻で籍を入れた。彼を逃したくなかったのだ。
 周囲には『もっと慎重になれ、早過ぎる』って怒られたりもしたが、私は後悔なんてしてない。

 こんな素敵な人他に絶対にいないんだって確信してるから。

 ——なのに…… 最近はため息ばかりだ。
 新婚だというのに、というか付き合った時からも含めて、私達夫婦は一度も旦那様である司さんと、その…… 恥ずかしい事に、抱き合った事がない…… 。

 いわゆる白い結婚状態だ。

 毎晩のように熱い夜を過ごしてる友達の話を聞くたびに、正直羨ましいなぁと思ってしまう。
『アンタもでしょー?いいなぁ刑事さんだっけ?体力ありそうだからすごいでしょ!』
『ま、まぁねぇー』なんて、見栄張って言っちゃうけど、経験がないから実のところどうなのかわからない。


 籍を入れ、いわゆるドキドキいっぱいの結婚初夜。
 今日やっと結ばれるのね!って期待して、すごく緊張していた。
 年相応の行為が出来る事に正直期待もしていた。なーのーにーだ、下着まで可愛い物を買っておいてたのに『おやすみ』ってキスしてくれただけで、彼は別の部屋で寝てしまった。
 しないで終わるのは、まぁ疲れているのかもしれない。

 でもさ…… 別の部屋で寝るって何よ。

 そう思うも、司さんにも何か考えがあるのかなーと起きた事をそのまま受け入れ、相手に文句も言えない気の弱い自分が——少しだけイヤになった。

       ◇

 私は結婚を機に仕事を辞め、生活に慣れるまでは専業主婦をやる事にした。
 掃除も終わり、お昼ご飯を食べるついでに観ていたテレビで『女の人の風呂上りの姿はもう神だね』って言ってる芸能人のコメントを聞き、私は『これだ!』と思った。

 芸能人だって思うんだもん、きっと司さんも風呂上がりのうなじとか見たら、私にドキドキしてギュッて、ギューッってしくれるはずだ!

 夕飯の材料を買いに行ったついでに、もしかしたらあの時はコレがなかったからしなかったのかもと、恥ずかしいのを我慢してドラックストアで男性用の避妊具を購入した。
 ついでに保険として、友達が『すごい効くよ!』と褒め称えていた赤マムシドリンクとかってやつも。
 レジの人がすごく変な目で私を見てきたが、そんな視線は無いものとした。


 ご飯を二人で食べている時に、コップに移した赤マムシドリンク出す。
『…… 何これ?』と訊かれるも、『最近疲れてそうだから』『試供品の栄養ドリンクだよ』と、適当に誤魔化しながら司さんに飲ませて、自分はその後お風呂入った。

 いよいよか?いよいよ今晩、本当の大人の仲間入り⁈

 ——なんて、ドキドキしながら全身を丹念に洗い、居間に戻ると…… 彼がいない。
 あれ?まだお風呂も入ってないのにどうしたんだろう?
 いつもなら、居間で私がお風呂からあがるまで、テレビとか難しい本読んでたりするのに。
 私の部屋を覗くも当然彼は居るはずがなく、ため息をつきながら司さんの部屋のドアをノックしてみると返事があった。

 こっちに居たんだ…… 。

 心に不安がよぎった。これでは『風呂上がりの神がかってる私』をアピール出来ない。
「お風呂あいたよ?」
「わかった」と返事があったが、全然部屋から出て来てくれない。
 そのままドアの前に居ても開けてはくれなさそうだ。
 計画の失敗した私は…… 肩を落としながら仕方なくとぼとぼと私室へ戻った。


 一時間くらい経っただろうか。
 部屋でぼーっと本を読んでいたが、正直飽きてきた。
 暇を持て余した私が居間に戻ると、お風呂上りの司さんが台所で必死に何杯も水を飲んでい所に遭遇した。
 後ろからこっそり近づき、水を飲んでるってわかりきっているのに『なにしてるのー?』と言いながら背中に抱きつく。
「うわぁ!」と、普段冷静な彼が珍しくすごく驚いてくれて、なんがたとっても嬉しい。

 …… いい匂い、女性だけでなく男性の風呂上りも、神に等しいね!

 ほんわかとした幸せ気分のに全身が満たされて、さっきまでの不安が自分の中から消えていくのがわかる。

 司さんが持っていたコップを流しの中に置き、私の頭を撫でてくれた。
「うふふ、大好きー司さんっ」
 嬉しい気持ちいっぱいで伝える。
「…… 俺もだよ」
 言葉にするのがまだ照れ臭いのか、ちょっと困った顔をされた。

 困りながらも、司さんは頬を撫でてくれた。こうやってちゃんと返してくれて、すごく嬉しい。頬に触れる事なんて、彼は私の夫なのに滅多にない。

 もしかしたら、今日こそいける?

 甘い雰囲気の中で私がそう思った時、「もう寝るから、おやすみ」と私に背を向けて、自分の部屋へそそくさと入って行ってしまう。
「え?…… あ…… 」
 手を伸ばし追おうかとも思ったが…… 悲しすぎて、出来なかった。

 あーあ、どうしてこうなるのかなぁ…… 。
 でも嫌われてるって訳じゃないんだし、きっと…… そう、きっと疲れてるだけだ!

 そう自分に言い聞かせ、その日も結局は何事もなく終わったのだった。

          ◇

 その日以外にも、私は懲りずにお風呂上りに抱きついてみたり、友達の新婚生活の話なんかも話してみるが司さんからはあまり反応がない。
 最近じゃ『疲れてるから』と部屋にすぐ入ってしまったり、仕事で遅くなる日も多くなってきた。

 一週間前からは職場に泊り込んでるみたいで、帰って来てもいない。
 メールもないし、電話での連絡もない。
 刑事という仕事柄、忙しいであろう事は覚悟していたのだが…… ここまで全く繋がりがないと、さすがに寂しい。
 結婚したらもっと会えると思っていたのに、これでは付き合っていた時かそれ以上に離れているんじゃないだろうか?
 付き合う為の告白も、プロポーズも私から。
 もしかしたら、私は——司さんに愛されてないのかなぁ…… と、考えてしまった。


 専業主婦って、時間があり過ぎるのかもしれない。
 すごく頑張れば昼前で一段落するし、自分の分だけでいい日なんて食事も適当に済ませられる。
 時間があるせいで余計なことばかり考えてしまう。
 せめて子供でもいてくれれば、忙しくて、でもとっても楽しいんだろうにとも思うが、子供を授かるような事をしていないのでそれも望めない。

 パートにでも出ようかな、そしたら一人で抱え込まないで済むかも。

 考え過ぎのせいで変な行動とっちゃったりとか、しなくなるかもしれないと思い始めていた時だった。大学時代の後輩から『短期でいいから、居酒屋のホール手伝ってもらえないですか?』と電話があったのだ。
 急に何人かが同じタイミングで辞めてしまったらしく、人手が足りないらしい。
 学生時代にアルバイトした経験がある店だったので、勝手のわかってる私にペルプを頼めないかと、店長さんご指名のお願いだったそうだ。仕事しようかな?と思っていたタイミングで渡りに船ではあったが、自分は夫のいる身だ。さすがに司さんに相談しないとと言い、その場は電話を切った。


 十五時くらい、『今日は何作ろうかなー、一人ならもうお茶漬けでもいいや』とか考えていた時、私の携帯にメールの着信があった。
「つ、司さんだ!」
 急いで携帯を手に取り、メールを確認すると『今日は帰れる』と短い文章が表示された。
「うわぁぁぁぁぁ、何作ろうかな!久しぶりの手料理だし、美味しいのにしないと」
 俄然やる気の出てきた私は、財布を手に食材の調達をしようと、軽い足取りでマンションを出た。


 一時間後、大荷物を持っての帰宅。
 最近は全然まともに食材を買っていなかったせいで、足りない材料が多かった為、買い物量がすごいことになってしまった。
「車使えばよかったかも」
 玄関に荷物を降ろしながらぼやいたが、終わった事をどうこう言っても仕方がない。

 今日は久しぶりに旦那様が帰って来るんだ!張り切って作らないとね。
 まだ十六時だというのに、私はせっせと料理を始めた。
 品数が多すぎるかなーとか思うも、司さんの好きな物を片っ端から作ってみる。
 見た目と年齢の割に、子供っぽい料理を好む司さん。組み合わせなんか気にせず、ハンバーグ、カレー、刺身、シャーベット、グラタン、筑前煮にすき焼などなど…… 主食としかならないようなものばかり大量に出来上がった。余れば冷凍して、私の昼ご飯にすればいい。
 だけど無駄な事はしたくない。
 作ったそれらを少量づつお皿にわけて、テーブルに並べる。二人しか使わないしと買ったダイニングテーブルは小さく、全ての食事が乗り切らなかったのは残念だったが、これだけあれば夫の帰宅を喜ぶ気持ちは伝わる筈だ。

 誇らしい気持ちになり、微笑んで頷く。

 早いかもしれないがお風呂もいれておこう。冷めたら追い炊きすればいいし。
 そう思いながら風呂場を軽く洗い、お湯をはりはじめた時、玄関のドアが開く音と「ただいま」の声が聞こえてきた。

 帰ってきた!嬉しい!すごく嬉しい!

 気分はもうご主人様帰宅を喜ぶ犬だ。風呂場から飛び出し、足をあちこちにぶつけながら司さんの元へと急ぐ。

「おかえり‼︎」

 そう言いながら、ぎゅーっと強く抱きつく。
 飛びつかれる事を予想済みだったか、驚く事無く「ただいま」と言いながら、司さんは私の頭を優しく撫でてくれた。
 このまま離れたくない。そう思うも、司さんはお腹を空かせてるに違いない。名残惜しい気持ちを抑えきれず、ゆっくり離れる。
「ご飯が先でいい?お風呂は今入れ始めた所だから」
「ああ、問題無い。ありがとう」
「えへへ」
 直接聴ける『ありがとう』の一言が、涙が出そうなくらい嬉しかった。
 …… 大丈夫だ、私はちゃんと愛されてる。


 すっかりくたびれた背広を脱ぎ、ネクタイをゆるめながら司さんが居間に入る。泊まってきたせいで溜まってしまった荷物の入る鞄を床に置いて、彼が一呼吸ついた。が、すぐにテーブルが目に止まったの様だ。
「…… うあ」
 司さんが硬直してしまった。口元を押さえて、眉間にはシワがある。
 あれ?喜ぶと思ったんだけどなぁ…… 。
「…… これから誰か来るの?」
「来ないよ?」
「じゃあ、あれは?」
 ダイニングテーブルを指差し、司さんが困った顔をする。
 あー…… この様子だと、失敗だったみたいだ。もっと普通のものがよかったんだろうか。いや違う、どう考えても量のせいだ。やからした!
「あんなには食えないだろう、どう考えても」
 予想通りの言葉に、少し拗ねてみせる。
「余ったら私がコツコツ食べるもん…… 」
 子どもっぽい言い方をしてしまい、ちょっと後悔したが、今更訂正はしにくい。
「ったく…… 」
 後頭部をかきながら、司さんがため息をつく。

「ごめん…… 」

 ちょっと泣きそうだ。どうしていつもこうなんだろう?
 なんかベタな失敗ばかりしている気がする。
「まぁいい。ケーキあるから食べられるよう、ご飯はほどほどにしておけよ」
「え?ケーキ?」
 簡単に、落ち込みそうな気持ちが復活した。
「まぁ、まずはそこに座れ。脚あちこちぶつけてたから軟膏塗ってやる」
 そう言いながら、司さんは棚から薬箱を探し始めた。風呂場からの移動時の音で、脚を散々ぶつけていた事を気がつかれていたみたいだ。
「…… 司さん」
「ん?」
「ありがとう」
「…… まだ何もしてないぞ」
「いいの、ありがとう」
「…… どういたしまして」
 そう言って、司さんがフッと笑みをこぼしてくれた事が、すごく嬉しかった。


 すぐにご飯だし、と思った私はダイニングの椅子に座った。背が壊滅的に低い私は、椅子に座ると大人のくせに足が下につかない。
 足をブラブラと揺らして司さんが来るのを待つ。
「ますます子供に見えるからやるな」
 怒られてしまった。なので今度は、言いつけ通りじっとしてみる。
「いい子だな」
 そう言いながら、司さんが頭を撫でてくれた。撫でてもらえるのは嬉しいのだが、こんなやり取りの後だと、それこそ子供扱いされてるみたいでちょっと悔しい。
 …… まぁ、結局は喜んでしまうのだけど。


 椅子に座る私の前に、司さんが膝をついて座る。自分の太股に、私の足手に取りそこへ乗せた。

 司さんが私の足に触ってる…… 。

 そう思うだけで、なんだかすごくドキドキしてきた。
「慌てて走るな。帰ってきただけで飛びつく必要もない」
 軟膏の蓋を開けながら司さんが言う。
「…… 久しぶりだったから」
「一段落したから、明日からは一応家には帰れる。…… たぶん」
「本当⁈」
「期待はするなよ」
「——うん」
 嬉しい…… 帰って来てくれるかもってだけで、待つ甲斐があるもん。

 軟膏をちょんと私の脚にのせ、指でのばす。ぶつけたばかりでさほど変色はしていないのだが薬まで塗る意味はあるのだろうか?とも思うが好きにさせた。司さんは心配性なのだろう、きっと。
 ゆっくりと塗り込む手と足裏に感じる司さんの体温が心地いい。
 でも、くすぐったいような……気持ちいいような…… 司さんの指先の体温を必要以上に感じてしまい「…… んっ」と変な声が出てしまった。
 私の声に驚いたのか、バッと手を離し、司さんが慌てるようにして足を太股から降ろした。
「も、もう終わったから。あまりぶつけるなよ?」
 明らかに声がうわずっている。
 薬を片付け始める司さんの姿を、私は不思議に思い見詰めた。
 何でこんなに動揺しているんだろう?
 そのまま流れでどうなっても私はいいのに…… 夫婦なのになぁ…… 。


「ごちそうさまでした」
 司さんが手を合わせ、食器を下げようとしてくれる。
「いいよ?私が後でやるから」
「いや、こんなにあったら大変だから」
 大変なのは司さんの絶対に胃袋の方だ。テーブルに上がっていた分を完食してくれたんだもん。すごく嬉しいが、申し訳なかったかなとも思う。
 こういう何気ないところで『自分はちゃんと愛されてるんだな』って、また実感出来た。


 食器を私が洗い、司さんが拭いて棚へとしまってくれる。おかげですごく早く片付けが終わった。
「お風呂先にいいよ、私お茶の用意とかしておくから。ケーキは今すぐじゃない方がいいでしょ?」
「…… ああ、今すぐはお茶もはいらないかな」
 トントンと司さんが胸を叩いている。どうやら食べ過ぎで、胸焼けしてしまっているようだ。
 うう、ごめんなさい…… と、私は心の中で謝った。きっと口には出さない方が良いだろうと思ったから。


 お風呂から司さんがあがるのを待つ間にお湯をヤカンで沸かし、紅茶の準備をする。ティーパックなんかじゃなく、ちゃんと葉っぱから煎れてあげよう。紅茶の缶を並べてある棚から、一番司さんが気に入っていたブルーベリーと書いてある缶を取り出す。食器を並べ、コップも出し、自分のお風呂の準備もしようと下着やパジャマを取りに行った。

 脱衣室に入り、自分の下着などを棚の上に置こうとした時、司さんの換えの下着がそこに無い事に気が付いた。
 いつもは自分で出すのに、疲れてて忘れてたのかな?
 そう思い、司さんの部屋に取りに行く。クローゼットを開け、着替え一式を持ち再び脱衣室へ。
 そっとそれらを目立つ場所に置き、バスタオルも出しておこうと棚に手を伸ばした瞬間、風呂場のドアがガラッと開いて湯上りほっかほかの司さんとバッチリ目が合ってしまった。
「い、いたのか?!」
 そう言うが同時にバタンッ!と勢いよく風呂場のドアが閉まる。
 早かった。こんなに人間は俊敏に動けるのかと、感心した。私なんか、硬直したまま、返事もできなかったというのに。そして、その…… 

 ——なんていうか、その…… みちゃった。

 初めて旦那様の裸を見てしまった…… 。
 そのせいで、カァーと顔が一気に赤くなる。きっと今なら林檎にだって負けていない。
 普通だったら当たり前に見ていて、風呂場に引き返したりもせずに着替えを始めるんだろうけど、きっと私がここに居ると恥ずかしいんだろう。
 だって、私も今すごく恥ずかしいし。
 自分は裸を見られていないのに、何かすごく照れくさい…… 。いたたまれないレベルだ。
「ご、ごめん。下着用意し忘れているみたいだったから…… 」
 ドアの向こうに見える影にまでドキドキしてしまう。
 職業柄なのかなぁ、あんなにしっかり鍛えてたんだ。
 学生時代は陸上部だったって言っていたからもうちょっと細いのかと思ってたけど、違ったんだなぁ。
「わかった、ありがとう。でも、そこから出てもらえるか?」
 司さんの声がうわずっていて、動揺を全然隠しきれていない。
「あ、ごめん」
 彼の声色にこちらまで動揺しだし、そそくさと脱衣室から出る。なんだか物凄く気まずい。

 微かに「くそっ…… 」と、彼のぼやく声が聞こえた。


「 ……… 」
「 ……… 」
 司さんが買ってきてくれたケーキと、私のコレクションの美味しい紅茶。
 こんな素敵なコンボを前に、黙り込む二人。
 できれば司さんから何か言ってもらえるとありがたいんだけど、その気配もない。
 何でこれしきの事でこうなっちゃうかなぁ。

「えっと…… いただきます」
「はい」
 短い返事しか返ってこない。
 仕方がないので、黙々と食べる。私の大好きなお店のレアチーズケーキを買ってきてくれたというのに、味がよくわからない。気が散ってしょうがない。
 さっきの裸を思い出し、にまぁと笑いそうになったりしてしまうのを必死に堪えたり、何とかこの雰囲気をどうにかできないかと落ち込んだり、彼の態度に不安を思ったり。
 顔には出ないよう必死に誤魔化しながら、とにかく食べる。
 その間、司さんは視線も合わせてくれない。

「…… 怒ってるの?」

 我慢しきれず、私から口を開いた。
「怒る事はなにもしてないだろう?」
 司さんの声が硬い。
「でも黙ってるから…… 」
「口数が少ないのは元からだ」
 まぁ確かにそうなんだけど、どう考えてもいつもの雰囲気じゃない。
 それぐらい私にだってわかる。でもきっとこれ以上追求しても司さんが理由を話してはくれない事も、残念ながらわかってしまう。

 ——そうだ、これはもう何か話題を変えた方がいいな。今のうちに、アルバイトの事話してみよう。
「ねぇ」
「ん?」
「今日大学時代の後輩から電話あってね、アルバイト手伝ってもらえないかって言われたんだけどやってもいい?短期みたいなんだけど」
「どこで?」
「駅前の居酒屋なの。火の家ってお店なんだけどね、昔バイトした経験あるから私に頼みたいって。人すごく足りなくて困ってるらしいの」
「ああ、あの店なら知ってる」
「いい?夜になるけど、ご飯は用意してから行くから」
「んー…… 」
 顎をおさえ、司さんの眉間にシワがよってる。これはダメって事かな。
「あんまり遅くなるなよ、心配だから」
 うそ!やった!
 これは無理だろなーと思ったから、正直嬉しい。
 久しぶりに仕事ができるってのが楽しみになってきた。私でも役に立つんだって実感できるから。
「ただし条件がある」
 いつも真面目な顔の司さんなのだが、さらに真剣さが増した表情になった。
「ん?何?」
「指輪は外すな。誰に誘われても飲みには行くな。知り合いでもだ」
 その言葉に、にまーっと顔が崩れる。

 これ絶対心配してくれてる!
 お前は俺のなんだった言われてるみたいで嬉しい!

 テーブルがなかったら絶対に抱きついてた。
「大丈夫だよ、司さんしか見えてないから」
 自分に出来る、最大限の笑顔で私は答えたのだった。

          ◇

 次の日の昼過ぎくらい。
 後輩に電話しアルバイトを引き受ける事を伝えた。いつから出られるかと訊かれたので、今日の晩からでも大丈夫だと言った。あの後、ちゃんと詳しく話し合ったんだ、問題ない。
 昨日作り過ぎたご飯もたっぷり余っているので、晩御飯を新しく作る必要もないだろう。
 十七時開店の店だが、制服合わせやメニューの説明もしたいから早く来て欲しいと言われた。急いで準備しないと。そんなに遠くはないが、少し買い物もしたいし。
 薄くメイクをし、邪魔にならないよう髪を結い上げる。
 駅前まで出るのならちょっと大人っぽい服を着ていかないとな、帰りに補導されてはたまらないから。そう思った私は、最近は使ってなかった唯一持っているブランド物の鞄を奥から引っ張り出し、荷物を詰めてマンションを出た。


 駅前まで出て、早速紅茶の缶を専門店で購入する。
 司さんに似合う服はないかと色々吟味もし、この間クタクタになっていた背広とネクタイを思い出した私は、ネクタイだけ新しいのを買った。背広はサイズをみて買わないとダメだからだ。
 いいデザインのがあったから、休みの日にでもまた誘って来てみよう。
 あ、でも背広は作業着みたいなもんなのかなぁ?刑事さんって。
 それなら安いやつを大量に?
 うーん…… どうしたものか。

 色々考えながら見ていたらちょっと疲れてきて、少しだけ休憩をしようと喫茶店に入った。そこでお茶を飲みながら再び色々と考えているうちに、もう移動した方がいい時間になっていた事に気が付いた私は、慌てて店を出た。
 小走りになりながら、なんとか言われた時間ギリギリに到着。息を切らして店内に入ると、店長さんに「お前はいつもそうな」と大笑いされてしまった。
 もうすでに後輩は到着していたみたいだ。
「すみませんでした、急に頼んじゃって…… 」
 私がギリギリの到着を詫びる前に、向こうから今回の件を平謝りされてしまった。
「いいよ、生活慣れてきて時間も取れるようになってきてたし。それより私が仕事の手順覚えてるかの方が心配だよ…… 」
「大丈夫!唯先輩、接客中って人が変わったみたいにすんげえから!」
「どう、すんげぇのか具体的に言われないと解らないよ?」


 一番小さな制服を受け取り、急いで着替える。それでも少し大きいのが非常に残念だ。
 まぁTシャツだからいいか。
 下に履く揃いの黒いズボンはさすがにちょっと折って長さを誤魔化す。どうせこうなるだろうと思っていたので、持ってきた安全ピンで落ちないように留めた。

 ホールに出て、後輩から新しいメニューと今日のオススメなどを教わる。極端な変更や追加が無かったおかげで、すぐに何とかなりそうだ。
「…… 覚えれました?」
 不安そうな声の後輩。
「大丈夫だよ、こういうのはちゃんとできるの」
「そうでしたよね、唯先輩はしっかりしてて尊敬してますよ。…… 天然だけど」
「て、天然じゃないよ⁈」
 そう叫ぶも、ニコッと笑って誤魔化され、その笑顔に悔しながらちょっと照れてしまう。
 うぐぐ…… こやつも相変わらずカッコイイこと…… 。
 まぁ、我が夫である司さんには負けるけどね。


 開店してすぐ団体の予約客が来て、ちょっと慌てたりしたものの、なんとか昔の感じを取り戻してきた。待たせてしまったり、ミスしたりする事なく仕事をこなす。
 酔ったお客さんに無意味な内容で声をかけられたり『中学生がいいのか?こんな時間に働いて』と注意されたりもしたが、まぁソレは笑って流した。前にバイトした時も毎日そうだったし。
 その時一緒だったアルバイト仲間はもうほどんど社会人になったりで辞めていて、知らないメンバーが大半だけど、いい人ばかりでやりやすかった。
 気心の知れた後輩も一緒だし、短期で終わるのがちょっと残念かもしれない。


 二十二時、店長さんが「唯ちゃんはもうあがっていいよ」と声をかけてきた。
「え?まだお客さん結構居ますよ?」
「いやいや、もう旦那さんに悪いしね。これからの時間は飲む人はいてもあまり食事の注文は多くないから平気だよ」
「あーそういえばそうでしたっけ」
 ちょっと悩んだが、あまり遅くなっては心配かけるかもしれない。お言葉に甘え、今日は帰る事にした。
「明日も開店時から頼むわ」
「わかりました!では、お先に失礼します」
 私服に着替えた私は、買い物した袋を持って店を出ると、一直線にバス停へ急いだ。
 この時間の飲み屋周辺は、ナンパする人や酔っ払いも多い。声をかけられては迷惑なので、走るように通り抜けてしまうのが一番だ。

「きゃああああっ!」

 突然、絹を切ったような悲鳴が横から聞こえビックリした。慌てて声のした方を見ると、女の子がビルの階段からドドドッと滑り落ちている。
 そして周囲に響く、ドスンッ!という大きな音。
「いたああああい!」
 悲鳴を聞き、周囲が騒つく。でも、すぐに皆通り過ぎて行き、誰も助る気配は無い。
 足を押さえたまま動かない彼女が心配になり、私は駆け寄って「大丈夫?」と声をかけてみた。
「いたい!超ーいたい!!」
 涙目で、落ちた女性が首をブンブンと横に振る。
「ちょっと見せてね」
 断りを入れて、彼女の手をよけると脚が赤く腫れていた。これは折れてるか、よくてもヒビが入っているかもしれない。
「自分で動かせる?折れてないかみたいんだけど」
 そう言うと、彼女は痛がりながらも動かして見せてくれた。
「よかった…… 多分だけど、折れてはいないね。家どこ?病院の方がいいかな、タクシー拾おうか?」
「…… うううっ」
 痛がるばかりで返事が無い。困ったなぁ。
「…… み、店の方が近いから、店まで戻りたいんだけど。戻ればまだ友達残ってるはずだし、あとはそっちに助けてもらう。ゴメン、店まで肩貸してもらってもいい?」
 泣き顔でお願いされては断れない。痛がっていただけのままよりも、こうやって要求してくれただけ良しとしよう。
「いいよ、案内して?」
 彼女の腕を私の肩に回し、なんとか立たせる。痛がるせいで歩くのは遅かったが、何とか目的地までは行けそうだ。


「ここなの、ここの二階」
 そう言って彼女が止まった場所の看板を見て驚いた。裸に近い女の子達の写真がいっぱいだったからだ。周囲を見ても、全て似たようなものばかり。こんな場所が駅付近にあった事も知らなかった私は、どうしていいのかわからず身体が固まる。
「ちょ、早く入ろう?痛いから早く座りたいっ」
 不機嫌に言われてしまった。
 しぶしぶ、かなり怪しい店へ彼女と入る。友達がいると言っていたが、本当に友達なんだろうか?

 店内に入ると、すぐに受け付けらしいお姉さんが心配そうに飛んできてくれたので、速攻で彼女を引き渡す。状況を説明して、多分だけど骨は折れてはいないと伝える。でも腫れ方が結構酷いからヒビくらいは入ってるかもしれないので、病院へ早く連れて行く様に念を押した。
 店長さんみたいな男の人にお礼を言われ、お茶でも飲んでゆっくりと言われたがキッパリハッキリ断った。怪しすぎる店にこれ以上長居などしたくないし!
 名刺を渡され『お金に困ったらいつでもバイト受け付けてますよ』なんて笑いながら言われたが、冗談なのか本気なのか。
 店のドアを開け、キョロキョロと周りを見渡す。出来ればこんな店から出る所など誰にも見られたくない。
 そう思い、私は人通りが少ないタイミングを見計らって、逃げ去るようにその通りを駆け抜けた。

 早くバス乗って帰らないとっ。

 バス停まで急ぎ、丁度運良く着ていたそれに乗り込む。空いていた席に座ると、あとは家の近くまでゆっくりしようと瞼を閉じた。

          ◇

「ただいまー」
 ドアを開けて入り中から鍵をかける。靴を脱ごうかと思うが、玄関も部屋もすごく暗くて何も見えない。
 まだ帰ってなかったのか、よかった。司さんよりも早く帰れた事に安堵する。
 電気をつけようとスイッチのある筈の方へ手を伸ばした時、暗闇の中から「遅かったな」と司さんの声が聞こえた。
「うわああっ!び、びっくりした…… 帰ってたの?」
 居ないと思っていたのでかなり驚き、心臓がバクバクと騒いだ。
「少し前に」
「それなら電気つければいいのに。何も見えないんじゃない?」
「こっちはもう、目が慣れてるから」
「そう…… 」
 そんな長い時間、なんで暗いままでいるんだろう?
 遅かったから怒ってるのかな?
 でも、日付は変わる前に帰ったし、飲み屋でのアルバイトではこのくらいでも早く終わった方だと思うんだけどなぁ。

「危うく騙される所だったよ」

 ため息混じりにそう言う声には、なんだかすごく怒っているような色を感じる。
 一体何の話だろう?サッパリわからない。
「騙す?何の事?」
 私が不思議に思っていると、暗闇の中からシュルッと何かを外す音が聞こえた。
「しらばっくれるな。ずっと大事にしてきたのに…… まさかバイト先があんな場所だとはなぁ」

『あんな場所』の一言でピンときた。

「え?やだな、見てたの?」
 きっと私が怪しい店から出てきた所を偶然見てしまったのだろう。そう思った私は、「あれはね——」と、理由を説明しようとした。

「…… 黙れ」

 聞いた事もない司さんの低い声に、ビクッと身体が震える。
 結婚して初めて、夫が怖いと思った。命令に従うみたいに声が出ない。それでも誤解を解きたくて、どこから話そうかと迷っていたら、暗闇から伸びてきた手が持っていたネクタイを私の口元で二重にグルっと巻き、後頭部で縛って口元を塞がれてしまった。

 これでは何も話せない!

 焦った私は、それを解く為に手を後ろに回そうとすると、司さんが片手で私の両手首を掴み、壁に押し付けてきた。
「…… んっんっ」
「言い訳なんか聞きたくない」
 そう言いながら、司さんが私の首に噛み付く。
「んんんっ」
「人がどれだけ我慢してたと思うんだ。なのにお前は、誰でもいいんだな。そんなに性欲の強い女だったとは、流石に思ってなかったよ」
 普段あまり話さない司さんが、堰を切ったかのように話し出す。
「変なもん飲ませてきたり、やたらと抱きついたり…… そのくらいだったらまだ我慢出来たのに…… 」
 キャミソールをグッと下にずらされ、ブラが露わになる。
「——んん⁈」
「普段こんな服着てないのにな、誰を誘惑する気だったんだ?」
 胸に噛み付くように口を付け、強く吸われた。
「んくっんっ」
 少し痛いが、唇の温かな感触が気持ちいい。
 そのまま口が下へと移動し、指でブラを少しだけずらして胸の尖を舐められる。初めて感じる彼の舌の動きに、全身が気持ちよさそうに震えてきた。
「感じるのか?淫乱め…… 知らない男としてきたばかりなくせにまだ足りないのか」
 え?ま、待って、何を言ってるの?
 店から出てきたくらいで、何故そこまで怒っているんだろう?
「とぼけたような顔をするな。あそこはな、未成年者に売春を斡旋してる疑いがあって、警察が目をつけてる店なんだよ」
 嘘っ!じゃあさっきの子もそんなことしていたの?
 可愛くて、私なんかよりずっと大人っぽかったけど、まさか未成年だったなんて事だろうか?
「お前だったらたとえ年齢は大人でも未成年で通るだろうしな、騙して売りなんて簡単だったろう」
 そう言って、きつく乳首を吸い、でもすぐに、詫びるようにペロッと舐められ、結局は司さんが何をしたいのか戸惑ってしまう。
「身長に似合わず大きな胸なのも、散々男にやらせてきたからなのか?」
「んんんん⁈」
 ガリッと尖に噛み付かれ、悲鳴をあげるも声にならない。
 ポロッと涙が出てくる。悪い事なんて何もしていないのに、何故ここまで罵られないといけないの?
「泣いたって無駄だ、大事にする必要がないとわかった以上、今まで我慢してきた分を全てぶつけてやるよ」
 私を見下すような目で見詰め、司さんは耳に噛み付いてきた。
「んんくっ…… んん…… 」
 息を吹きかけ、ペロッと舐める舌にビクビクッと反応してしまう。
「こんな小さな体じゃ、俺が抱いたら壊れるだろうと心配していたのに…… 」
 とんでもない状況だっていうのに、たった一言でキュンッと胸がときめく。抱いてくれなかった理由がわかった気がしたからだ。

 ああ、私は本当に司さんに愛されてるんだなって嬉しくなった。

 状況は最悪で、彼は怒っていて、口も塞がれてるけども。
「欲求は強いほうなんだ。本能のままに抱いてしまいそうで、どれだけ我慢してたかお前にわかるか?」
 頬を染め、嬉しさで涙目になりながらコクコクと必死に頷く。
 だって、私だって我慢していたんだ。
 正直、会ったその日にそのまま抱かれてもいいと思ったくらいに、私は司さんの虜なのだから。
「くっ…… 」
 司さんが私の顔を見て、辛そうな表情で顔をそらす。私もやっと目が慣れてきたみたいで、彼の表情がなんとかわかった。
「俺が、どんなに愛してるのか、唯にはわからないだろうな」
 私の肩におでこをのせて表情を隠し、腰を屈め、私のお尻を司さんギュッと鷲掴みしてきた。
「ずっと、ずっと好きだったんだ。でも、お前は俺の顔すら覚えようともしないし…… 」
 え?いやいや、何のこと?
 私は初めて会った時から、司さんの虜だったというのに。
「それだけならまだいい。いや…… よくないけど、でも我慢はできた。なのに、よりにもよって、他の奴なんかに…… どうして?」
 怒りというよりは、ここまでくるともう悲しそうな声にしか聞こえない。
 手を自由にしてもらえるのなら頭を撫でてあげたいんだけど、掴んだ手首は全く放してくれる気配が無い。でも抵抗したら傷つけそうだし…… 。
 頭を傾けて、司さんの頭に頬をよせる。スリスリと、いとおしむように頬を柔かい髪にこすりつけた。
「くっ…… やめろ、同情するな」
 逆効果だったのか、司さんは自分の背広のズボンからベルトを外し、私の腕を背中の方へまわしたかと思うと、後ろ手に縛ってしまった。
 身動きも出来ず、声もでない…… 一体私はどうしたらいいというのか。

 どうにか誤解を解かないと。司さんの心が苦しそうで辛い。

「逃げるなよ?どうせ籍は既に入ってるんだ、唯は俺のものなんだから」
 私の体を軽々と持ち上げ、玄関から居間へとつながる通路にドサッと、でも痛くない程度の高さから投げるように置かれた。履いていた靴を脱がせ、にじり寄りながら私の体を上に向かせる。そして胸を丹念に揉み、司さんが赤子の様に乳首に吸い付いてきた。
 何度も吸われ、噛まれて少し痛いが、気持ちよさの方がどうしても上になり、とろんっとした気分になる。
「……っんん…… ン」
 スカートも乱暴に捲られ、ショーツの中に指が入ってきた。
 二十五歳にもなり、人妻であるにも関らず男性経験は無い。正直興味はあったせいで知識だけはすごくいっぱいあるのだが、幼い見た目のせいで、私と付き合おうだなんて思ってくれたのは司さんくらいなもんだった。そ、それが、とうとう!

 痛いに違いない、だって本にそう書いてあった。
 どうしよう、すごくドキドキする。

 今の司さんでは、ゆっくり入れてくれたりとか、じわじわ慣らしてからとかは期待できそうに無い。私が他人に身体を売って来た後だと、思い込んでいるからだ。
 目を瞑り、痛さを覚悟していたのだが、司さんの指は私の中にあっさりと入っていった。蜜がもうとっくに溢れていたみたいで、それが絡んだ指は抵抗なく動けているようだ。

 ん?な、何故?…… でも、そんな事より…… あぁ…… 気持ちいい…もっと——

 乱暴にグチャグチャと動かされるも、気持ちくて堪らない。もっと…… と、求めるように腰が勝手に動いてしまう。そんな私を見て、司さんの表情が苦痛に歪んだ。

 でも、ごめんなさい…… 我慢できないの。勝手に動いちゃって…… 

「淫乱め。乱暴にされるのがそんなにいいのか?とんだ変態だな、どんな男とも寝るだけあるよ」

 ちょっ!ち、違う…… 私が好きなのは司さんだけだ。誰とも寝てなんかいない!

 ずっと貴方とだけ結ばれるのを夢見ていたのに。
 プルプルと首を振って否定するが、見てもいないようだった。
 ズボンのチャックが下りる様な音がして、司さんが私の脚の間に入ってきた。
「欲しかったんだろう?これが…… ずっと俺の体を、喰いたそうに見ていたもんなお前は」
 まったくのその通りで否定出来ず、ビクッと震えた。
 秘部にヌチャッと音をたてて、司さんの突起があたったような感触がある。肉芽を緩く擦られると、そのせいで全身に快楽が走った。
 ちょっと触れているだけなのに、すごく熱い…… 。鼓動がどんどん早くなる。

 やっと私たちは本当に夫婦だといえる関係になるんだ…… 。

 心も体も、歓喜が満たす。これからくるであろう破瓜の痛みなんか、些末事のように思えた。
「たっぷり咥え込むといい…… 何度だって抱いてやるよ。もう他の男の所になど行かせないからな」
 冷たい言葉をぶつけるくせに、司さんは気遣う様に、ゆっくりとゆっくりと入ってきてくれた。充分に溢れ出ている蜜が彼に絡み、すんなり侵入を許してしまう。
 ああ、初めてだっていうのにすごく気持ちがいい。破瓜の痛みなんて、不自然なくらい全く無かった。
「よくこの体で受け入れられるよ…… 」
 少し呆れた感じの声と言葉が心に刺さる。
 無言になり、彼が腰を動かし始めた。激しい動きでは無い、慣らすような、形を教え込ませようとしているような優しい挿入だ。
「ふっ…… くっ…… 」
 声が我慢出来ない、だけど口が塞がれたままで苦しい。
 私の腰を掴んで自分の方へと引っ張りながら、司さんが上半身を起こし、彼が膝をついて座った。腰が浮き、動き難い上に、司さんと突起がすっぽりと私の中に入っているのが、少し顔を上げると見えてしまう。
 恥ずかしくてしょうがない。頬がこれでもかと熱くなる。恥ずかしくて見たくないはずなのに、顔を反らせない。夫婦であるが故に望んで、渇望していた行為なのだから当然だ。
 その状態で腰を動かし始められ、奥を突かれる。
「んっ…… んっ…… んん…… 」
 その度に、意味を持たない声が出て、胸が揺れる。
 グチュグチュと水音がたち、擦られ続ける膣の中が気持ちくてしょうがない。胸を揉み、私の太股を撫でる。揉む力が強くて痛い。
 でも膣で暴れるように動きつづけられ、もう痛みすら全て快感へと変換されてしまう。
 体を持ち上げられ、私は司さんにまたがるような状態にされた。
 ギュッと抱き締められ嬉しかったのも、束の間。
 自由に動けない私の体を、激しく上下に動かし、最奥へと突起をズンズンと突き上げてきた。激しい動きに汗が落ち、二人を濡らす。彼の呼吸が乱れてるのが、最高の音楽の様に耳に響いた。

 ああああ!もっと!そこ…… 気持ちいいの…… 

 膣がキューと閉まったのか、司さん自身の大きさが増したのか。存在感の増したそれが私にくれる刺激が強過ぎて、だんだん頭が真っ白になるような感覚に襲われる。

 きもちいい…… ぁぁんっ。

「イキたいなら勝手にイけよ…… こっちはこっちで勝手にやるから」
 突き放したような冷たい言葉が耳に届く。

 でももうダメ…… もっとこのまま続けて、もう——あぁぁぁぁ!

 体に力が入らない。動かす時の深さがもっとすごくなり、突き上げられるたびに体中に電気が走るみたいな感じがする。

 そんなに動かないで。でも——もっとグチャグチャってして欲しい。

 声が出せない状況でよかったかもしれない。とんでもない事を口走りそうなくらい、頭の中が快楽に支配される。
 腰を回すように動かしたり、抜ける寸前まで私を持ち上げ、一気に降ろしたり。
 乱暴にされるなんて誰だってイヤなはずなのに、私の体は全てに快楽を感じ、もうそれは限界にきてしまったようだ。
 ビクビクッと痙攣し、意識がフっと一瞬飛んでしまったのだ。
 それでも、彼は自分には関係無いとばかりに動きを止めない。
「イッたか…… 」
 呟き、私をまた床に置いた。
「これで加減しなくていいな」
 そう言い放ち、自分の快楽を求めるようにガンガンと動き出す。すぐに私の意識は引き戻され、言いようのない激しさに息も絶え絶えになっていた。
 イッたばかりなせいもあり、全く動けないでいる私に、今意識があると司さんは気が付いていない様だ。目を閉じて、ただひたすらに膣で快楽を堪能している。

 ああ、気持ちよさそうな顔。
 息も上がっていて、余裕のない表情をしている。
 ——もっと私で感じで?

 そんな事を思った瞬間、キュッと膣に力が入り彼を中から抱きしめる。
「くっ」
 司さん短い声をこぼしたが、達したわけではないようで、まだ膣をいたぶり続ける。
 ああ、ダメだ。私の方がまたイってしまいそうだ——
「んんっ!」
 目をギュッと瞑り、再び果てる瞬間に、声が出てしまった。
 ビクッと驚いたような反応をし、司さんが私を凝視した。ギュギュギュッと閉まる膣が流石にかなり気持ちよかったのか、ビクッビクッと司さん自身も痙攣し、子宮の中に熱いモノをドクドクッと注がれてしまった。
 二度、三度と奥に怒張を叩きつけられる。その度に中で熱を感じ、私の心が満たされた。全てを一番奥に出し尽くし、ゆっくりと司さんが自身の怒張を引き抜いた。
 蜜と白濁した物で汚れたであろうモノをズボンにしまい、司さんは自分の乱れた服を簡単に整える。私を抱えてくれたと思ったら、今度は立ち上がり歩き始めた。

 どこに行くんだろう?

 暴れる事無く黙って連れて行かれた先は、司さんの私室だった。
 ベットに体を投げられ、スカートを捲られて焦った。脚をガッと持ち上げ、恥部を大胆に晒される。すると彼は、私の秘部から垂れ落ちる白いモノを中へと戻したいかのような動きで指を入れてきた。
「んんんっ…… んっ」
 気持ち良さに身をよじる。
「イヤか?だよな、妊娠したらその間、誰とも寝られないものな」

 ち、違うっ!ただ、気持ちがいいだけで…… んあぁぁっ。

 グッと体を押され、回された身体がうつぶせになる。腰だけを持ち上げられたかと思ったら、再び司さんのモノが蜜口から容易く入ってきた。
「んんっ!」
 動物の交尾みたいな格好に、私は羞恥の声をあげた。
「ハハッ、幼女を強姦しているみたいで、変な気分だな…… 」
 戸惑った色を背中に感じる。本心でそう思っているんだろうなとわかった。
 だけど、布団で乳首が擦れ、ズンズンと突いてくる膣もすごく気持ちいよくって、そう思われても気にならない。
 彼の指が私の肉芽に触れ、ギュッと強く摘んだ。
「んんんんん!」
 快楽の強さに私が叫ぶも、止める事なく行為を続けられる。

 よかった、嫌がってるなんて勘違いをして止めれらなくて…… 。

 安堵した。拒否されてるなんて微塵も思わせたくない。むしろ、もっともっと彼が欲しいと全身が訴えているんだと伝えたい。
 膣を刺激しながら、肉芽までも刺激され、私はまた容易く達してしまった。
「くっ…… またイったんだな…… 気持ちいいよ。もっと、何度だってイクといい俺しか抱けないようにしてやるから」


 言葉通り司さんは私を抱き続け、その行為は朝になってもまだ終わらなかった。どうやら今日は運がいいのか悪いのか彼は非番だったらしく、時間を気にする必要はないみたいだ。途中で口を塞いでいたネクタイは外してくれたが、説明はさせてもらえなかった。出来ないくらい、頭が動いていなかったと言った方が正しいかもしれない。

「うく…… んんっあっ…… 」

 司さんの衰えぬモノを私は口に含み、顔を動かす。
 体に比例して口も小さいせいで端が少し切れた。が、それでもどうしても口でしてあげたくて、私は痛いのを我慢した。
「ずいぶん美味しそうに咥えるな…… いったい誰に教わったんだか…… 」
 ため息交じりでそう言い、司さんが眉をひそめる。私が否定しようとしているのがわかったのか、顔をガッと押えられ口からモノを抜く事ができなかった。

 知識だけを頼りに何とかしているだけなのに。

 唾と舌を絡め、丹念に舐めあげる。その様子を司さんが満足げな顔で見詰めてくれる。それだけで、頑張る甲斐があった。
 でも、何度も達しているそれは私の口だけではイケないみたいだ。
「もういい、横になって」と言われ、仕方なく口を離す。
 チュッと優しく唇にキスをされ、舌を絡めてくれた。
「ン…… あぁん…… 」

 そしてまた私の中に司さんが入ってくる。何度も何度も、もうずっとこのままでもいい。そう思えてしまうくらいに、初めての夫婦の営みは——甘美な時間だった。

          ◇

 時計を確認していないので断定は出来ないが、多分昼頃だと思う。
 ハッと目を覚ました私は、体を起こして時計を確認しようと思い動こうとしたが、何故か全く動けない。不思議に思いながら横を見ると、私に腕枕をした状態の司さんが、私の腰を抱きながら子供みたいな可愛い寝息でぐっすり寝ていた。

 当然か、あれだけずっとしていたんだから。
 ってか、なんであんなに出きるの?
 女の人ならわからなくもないけど、男の人って…… そんなにできるものなの?

 可愛いと思えてしまう寝顔を見ていると、あんなに激しい事をしたり、激しい感情を持っているようには全然見えない。見かけによらないんだなってちょっと思う。
「好きだよ、司さん」
 小さな声でそう言って頬にキスをすると、彼はパチッと目を覚ましてしまった。
「ごめん…… おこしちゃった?」
 可愛かった寝顔が一変、眉を寄せ気難しそうな顔になる。
「どうしたの?」
 不思議に思い、小声で尋ねる。
 司さんの表情は、私の言葉が理解出来ないと言いたげだ。
「…… もっと、違う事が言いたいんじゃないのか?」
「違うこと?」
 思い当たらずにキョトンとしていると、腕枕を私の下から引き抜き、ガバッと上に覆い被さってきて、私を見下ろした。
「別れたいとか…… そういう…… 」
「なぜ?好きな人と別れる必要があるの?」
「す、好きって…… お前、自分が何をされたのかわかっているのか?」
「えっちでしょ?夫婦でしちゃダメなんて決まりはないよ?」

「あんなもん、強姦みたいじゃないかっ」

 司さんが声を荒げた。
「で、でも…… すごくよかったし…… 」
 恥ずかしくって、布団で口元を隠しながら言った。
「くっ…… 」
 黙って私から視線をそらし、彼が私の上から離れていく。頭を抱えて布団にうずくまり、腕で顔を隠す。まるで何にか耐えている様だ。
 だるい体を起こし、彼の背中へそっと寄り添った。
「あのね、言い訳じゃなくちゃんと伝えたい事があるの」
「 …… 」
 黙ったままで、返事を返してくれない。でも、昨日みたいに聞こうともしない態度ではないので、私は今がチャンスだと思い、言葉を続けた。
「バイトが終わった後にね帰ろうと走っていたら、女の子が階段から落ちて怪我をしてたの。そしたら友達が居るから店まで戻りたい、手伝ってって言われて」
「 …… 」
 司さんはきちんと聞いてくれている。そう思い、更に言葉を続けた。
「送った先がいかがわしい店だったから凄く焦ったよ。お金に困ったらいつでもって名刺も渡されたんだけど、もちろん断ったけどね」
「——つまり、俺が見たのはその店へ女の子を送った帰りの唯だって言うのか?」
「うん、だって私あの直前までちゃんと居酒屋で仕事してたもん。お店に訊いてくれてもお客さんに訊いたっていいよ」

「…… 勘違い?」

「うん」
「嘘だろ…… 」
「嘘じゃないよ、私が好きなのは司さんだけだもん」
「でも…… それなのに俺は君にあんな事して…… 。酷い事を沢山、話も聞かず傷付けて…… 」
 怯えているのか、彼の体にグッと力が入る。
 私は慌てて布団から出て、裸のまま司さんの背中にキュッと抱きついた。
「傷ついてなんかいないよ、むしろ嬉しいの…… やっと抱いてくれたから」
 少しの沈黙の後、司さんが「…… 昔」と、小さい声で呟いた。
「ん?」
「付き合った彼女達に、初めての夜の後、必ずフラれたんだ」

 ——いきなり昔の彼女達の話⁈

 いや待て、達ってオイ!何人いたんだ!
 うぐぐ…… 。予想はしてたとはいえ、司さんとえっちした女が自分の他にいると思うとものすごく腹が立つ。嫉妬心で煮えたぎる腹が気持ち悪い。
「『こんな事ついていけない』ってさ」

 …… えっと、それはもしかして。思い当たる事しかない。

「…… もしかして、エッチが激しいからって事?」
「だろうな。まぁ…… 別に何となく告白されて付き合っただけで、好意があったわけじゃないから、別れるのはよかったんだが…… 」

 待てコラ、好きでなくても付き合えるんだ。
 その上、抱いちゃうんだ…… 

 二重のショックだった。
「全てやった後に必ずフラれると、さすがにそういうのが怖くなって…… 」
 司さんに抱きつく腕の力が、無意識のうちに強くなる。
 会ったこともない昔の彼女達への嫉妬からだ、コレ絶対。
「私とも、なんとなく付き合ったの?だからプロポーズした時も困った顔だったの?」
 体をゆっくりと起こし、司さんは私の腕をそっと触てきた。
「違うよ、本当に好きだったから付き合った。でも自分からしたかったんだ、プロポーズは。先越された!って思ったら悔しくて、どうしていいのかわからなくなって」
「…… 私のフライング?」
「あぁ、あんなに早いとは予想もしてなかったよ。もっとゆっくり付き合っていくのかなと思ってたから」
「ご、ごめん…… 」
「せめてちゃんと、自分の…… その、性癖っていうのかな。乱暴に本能のままやってしまう事を伝えてから、それでも俺がいいと許可を貰えたら、きちんとプロポーズしたかったんだが」
 コツンッと私の頭に、彼が頭をぶつけてきた。
「俺がこんな奴だって知ったら唯を失うんじゃないかと思うと、怖くて話せなかったんだよ」
「…… そう、だったんだ」
「ごめんな、あんな事して。怖かったんじゃないのか?」
 当然私は首を横に振った。怖かったのは怒ってると感じた最初の一瞬だけだったし、嘘ではないだろう。
「私は平気だよ、全然怖くない。だから止めないで?もっといっぱい、お互いにしたい時にしよ?」
「…… いや、それはちょっと」
「え?なんで?!私じゃイヤ?気持ちよくなかったの?」
 勢いで、あられもない事まで訊いてしまった。
「…… 違うよ、まさか!でも、非番の前の日だけな。仕事休めないから」
 あ、今回並みのが毎回だったらそうなりますよね、納得です。

 ——私達の新婚生活が、やっと甘美なものになる。

「了解しました、旦那様」
 私は嬉しさのあまり、敬礼の真似をしてそう答えた。
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