愛と呼ぶには歪過ぎる

月咲やまな

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【最終章】

【エピローグ③】贈り物※R18※(カストル・談)

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 “メリーバッドエンド”

 人生はまだまだ続けども、七音を手に入れるという節目を迎えた今を振り返って、最初に浮かんだ言葉はこれだった。
 果てしなく続いていた回帰の繰り返しが終わりを迎えるきっかけとなった“ナナリー”の自殺。帰りたいとひっそり足掻いていた“七音”は帰る事が出来ず、彼女が元の世界に残してきた弟妹や祖父母達はきっと今頃、七音が背負ってきた分を肩代わりして苦労を重ねているに違いない。

 愛おしいと感じられる相手を手に入れたこの状況は僕にとっては最高の終わりでも、これでは七音も『幸せだ』とは言えないだろう。

 だからせめてと僕は、ゆったりと過ごせる時間を彼女に贈った。
 友人を与えた。
 取り戻して欲しかった、今までの“七音”が経験出来なかった青春を。

 番持ちである事を知らせる仮面をしているから他の獣人型に狙われる心配も無いだろうし、僕に執着しているヒト達から狙われる可能性も低い。身を守る類の魔装具も一式常に身のつけさせている。街から出なければうっかり魔物に食われる危険も回避出来るはずだ。道端の石ころすらも死への脅威になった“ナナリー”とは違い、“七音”は一度も危険な目にあっていないので、もしかしたら“ヨミガエリ”となった時点で彼女の魂が抱えていた死の運命は消え去ったのかもしれない。
 …… 以前の“ナナリー”の死に易さは、もしかしたら“ヨミガエリ”になるべくして生まれた者だったのかもとさえ思えるくらい酷かったが、今の“七音”は違うようだ。

 この先は、僕が感じている幸せを“七音”にも享受してもらいたい。

 どうすればそれが出来るのか…… 一人思い悩んでいると、雑な呼吸を繰り返す七音に袖を引かれ、僕は微笑みながら彼女の傍に腰掛けた。
「辛そうですね…… 」と呟きながら汗ばむ額をそっと手の甲で撫でてやると、七音の体がビクッと跳ねた。赤みの強い膝丈まであるキャミソールと薄手のショーツ姿でベッドに横たわっている七音の姿はとても官能的だ。不定期で訪れる発情期に入ってしまい、とても辛そうに見える。白磁の様な肌は薄く色付き、細長い脚をモジモジとさせている様子を前にして、僕の喉がごくりと鳴った。

「…… うぅっ、もぉ…… コレ、イヤぁ」

 眦に溜まった涙を切なげにつつっと零し、否応無しに発情してしまう我が身を呪う言葉を七音が吐き出す。
 愛らしい八重歯が覗く口でベッドのシーツを噛み、やり場のない体の熱に抗おうとしているが、腰が無意識に揺れている。股ぐらからは甘い匂いを纏う蜜が流れ出て太腿を伝い落ち、止まる事を知らない。

 獣人型の遅発情は、発情期を迎えた時の状態がかなり重くなる。通常の発情期は二、三日で終わり、一年間でそれが二、三度あるくらいだ。
 陥る状態もヒトそれぞれで、クルス体の様に魔物狩りをする事で欲求を発散出来る者もいれば、ゆきずりの相手とでもいいから閨事に興じなければ熱が治まらぬ者もいる。今ではエンゲージリングの様な役割を果たしている仮面の着用は、元々後者の者達の為に始まった慣習だ。この時ばかりは正体を隠し、お互いに責任を取らなくても済むために。

 “ヨミガエリ”は往々にして遅発情が多いので発情状態がかなり重く、期間も一週間近くと長い。それが一月に一度来るとあっては、七音の様に未経験だった身には酷だと思う。

「カ、カス、ト…… ル…… さ…… っ」

 懇願する瞳をこちらに向けながら、七音が名前を呼んでくれる。“エルナト”も“クルス”も一人の存在であるからか、彼女は二人きりになると僕を苗字で呼ぶ様になった。どっちに話し掛けようが全ての情報を共有しているので、『個々の名前で呼ぶ事に違和感を覚えるから』らしい。

「傍にちゃんと居ますよ」

 ベッドに横たわる七音の赤い髪が水面で広がる様子に見え、見惚れてしまう。スタイルの良さも相まって一つの芸術品みたいだ。いつまでも見ていたと思うが自分も限界に近い。七音の発情に促され、クルス側の体もすっかり発情期に突入しているからだ。

「今夜も綺麗だな、七音は」

 うっとりとした声色でそう囁き、横たわる七音の体をクルスの腕に抱く。力が入らずに全身がぐったりしており、今は可愛い抵抗すら出来ないみたいだ。
 寝室にはもう月下香のポプリは置いていない。あれはまだ発情期が来ていない者の発情を促す効果があるが、無事に発情期を迎えた今の七音では、過剰反応を引き起こす恐れのある毒になってしまうからだ。だが彼女から漏れ出るフェロモンの甘い香りが部屋中に満ちていて、鼻腔を擽っている。早く、早く抱いてと言われているみたいに感じられ、クルス体の方はすっかり獲物を前にした獣と化している。
 七音の胸の下に腕を回して背後から抱きしめ、右手を彼女の恥部へと伸ばす。『まずは先に愛撫を』と思うのに、興奮し過ぎて脳が上手く働かない。
 ヘッドボードに寄り掛かり、白くて細い首筋を舐め上げると、七音が甘い吐息をこぼした。着ているキャミソールは生地が薄く、豊かな胸の双眸にある愛らしい尖りが布をそっと持ち上げている。口をだらしなく開け、端からこぼれ落ちる唾液が肌を伝い落ちる様子な淫猥そのものだ。それを全面からエルナト体で舐め取った為、七音の肌には熱い舌が二人分這い回った。

 傍から見れば二人の男に襲われている様にしか見えないのだろうなと思うと、少し笑えてくる。一人の女性を他者と共有するなど、僕には到底耐えられないというのに。

「気持ち良さそうだな。舐められるが好きなのか?」

 クルス側の少し低い声で問い掛けると、七音が珍しくこくりと頷き応えてくれた。
 発情状態に入ってから少しの間ベッドに放置されていたのがよほど堪えたとみえる。たまには意地悪してみるか…… なんて考えた事は、言わないでおこう。

 褐色の肌色をした指先で七音の着ているキャミソールを捲り上げると、紐で両端を結んであるショーツが露わになった。白いレースのみで作られたそれは隠部を隠すなんて効果は全く持っておらず、控えめな赤い下生えが透けて見えている。手背でそっと触れると、奥から流れ落ちる蜜せいで布地はぐっしょりと濡れていた。当然か、既に太腿までもが濡れているのだから。

「普段よりも濡れていますね。…… 誘ってます?」

 クスッと笑うながらそう訊くと、すごく困った顔をして視線を逸らされてしまった。そんな姿が可愛くって、レースの上から指先で充血した花芽を優しくつつくと、「ひぅっ!」と声をあげて七音が背中を反らした。とても気持ちよかったのだろう。両腿がガクガクと震え、花芽の傍で愛密に濡れる隠部がひくひくと熱を欲しているのがこちらにまで伝わってくる。

「…… 達したのかな?何度見ても、その姿は可愛いですね」

 白い指先でそのまま花芽を撫でてやり、褐色の指先は肌とショーツの隙間に差し込んで、蜜壺の浅い箇所をねちっこく弄ってやった。勃起した自身の熱を七音の背から押し付けつつ、前側からは喘ぎ声しか出せなくなっている七音の唇に食い付く様な口付けをしてやる。前から、後ろからと同時に攻められているからか、七音の瞳から零れ落ちる涙が止まらない。濡れる頬を空いていた手で優しく包み込み、僕は七音の脚の上に跨った。
 穿いている寝衣を押し上げる熱を表に出し、彼女の前に晒す。「触って?」とエルナトの甘えた声でお願いすると、口元を震わせながらも七音は従ってくれた。鈴口に溜まる淫液を指先でなぞり、濡れた手で恐る恐る扱いてくれる。クルスの視点から自身の痴態を見てしまう気恥ずかしさはあれども、下手くそな扱きが快楽を高めてくれる。止められない、大好きな人が僕の一番恥ずかし箇所に触れてくれている事がたまらなく嬉しい。

「ふ…… んっ…… あっ。な、七音、七音…… 」

 名前を呼びつつ、何度も唇を重ねる。エルナト側には発情期なんか無いのに、僕まですっかり当てられているみたいだ。七音の発情期のたびに媚薬でも飲まされたみたいに体が疼いてしょうがない。柔らかな粘膜同士が激しく絡み合い、いやらしい反応を返してもらえる事に歓喜して、より深く舌を入れていく。上顎や歯の裏を舐めるたびに体を震わせてくれ、その度に頭の中が真っ白になる。

 駄目だ。もう我慢がきかない。

「七音、一度四つん這いになりましょうか」
 名残惜しさを感じながら舌を七音の熱い口から抜き取ると、ほおけた顔で七音の体が崩れた。背後に居るクルスの方に振り返り、もっとキスが欲しいと強請るみたいに見上げてくる。上気した顔を向けられたせいでまた口付けてやりたくなったが、それ以上に起立したモノが痛いくらいに快楽を欲している為、僕は生唾をごくりと飲み込みながらどうにかして、この可愛いおねだりを受け流す事にした。

「でも、七音だって…… こっちに欲しいんじゃないのか?」

 蜜がとめどなく淋漓りんりする隘路の浅い箇所をぐりぐりと少し強めに指先で弄ってやると、一際大きな声をあげて七音が体を震わせた。白いシーツをぎゅっと掴んでいた手を離させて、エルナト体の方で手を握ってやる。

「一緒にもっと気持ちと良くなりましょう?」
「キスもちゃんとしてやるから、安心しろ」

 七音の胸の下に回していた手で肌をそっと撫でてやると、恥ずかしそうに顔を俯かせつつ、力無く頷いてくれた。もう何度も肌を重ねているというのに初心な反応を返してくれる七音の姿に心をぎゅっと掴まれてしまう。こればかりは何度見ても慣れる気がしない。

 力の入らぬ体で無理に四つん這いになってくれたが、腕を伸ばし続けるのは辛かったのか、すぐに上半身が崩れ落ちて七音はお尻だけを突き上げる様な状態になった。「うぐっ」と蛙みたいな声をこぼす姿すらも可愛いとか、もう僕を全力で殺す気でいるとしか思えない。心臓がバクバクと煩くって酷いし、下半身の滾りはもう最高潮だ。
 クルスが穿いている寝衣を下にずらし、腹まで反り返った昂りを晒す。そしてひくひくと愉悦を欲している七音の恥部にそれをあてがうと、彼女の腰が優ゆると動き始めた。尾骨辺りから生えている長い尻尾をクルスの腕に絡ませる様子は完全に挿れて欲しいとせがんいるとしか思えない。

「か、可愛い…… 」

 こんなのを前にして我慢なんか出来る訳がない。
 役立たずになっているショーツを少しずらし、濡れそぼる七音の蜜口に自身の鈴口を数度擦って互いの艶液を絡ませる。そして七音の最奥まで一気に穿つと、先程よりも大きな嬌声がまろびでた。舌をだらしなく外に出し、何度も肩を震わせている。最奥までいきなり突かれるとは思っていなかったのだろう。虚をつかれたせいでかなり驚いてしまったみたいだ。

 でも…… すごく気持ちよさそうにも見える。

 ペタンと猫耳を垂れさせ、アヘ顔ですら愛らしとか存在がズル過ぎるだろ。
 興奮を隠せぬまま、エルナト体で七音の前に座り、顎を掴み上げる。事前に出しておいた反り上がる陰茎を彼女の頬に擦りつけ、「咥えて、くれますよね?」と熱っぽい瞳でお願いすると、七音は唾液をたっぷりと含んだ口を大きめに開けてくれた。覗く八重歯が今回は少し怖いが、赤い舌がぴくんと動いて誘惑している気がする。

 動物みたいに背後から激しく狭隘な淫道を突かれながら、口淫に及ぶ七音の姿に興奮が止まらない。

 抽挿する度に蜜がグジュグジュといやらしい音を室内に響かせ、互いを耳までもを犯しているみたいだ。
 何度も何度も、二体で同時に七音の名前を呼び、両方の熱塊が快楽を求めて腰を動かす。耽溺した思考は快楽の事しか考えられず自分本位な動きしか出来ない。
 こちらの動きに合わせるみたいに七音も腰を振り、『もっと、もっと擦って欲しい』と揺れるしなやかな体から滲み出る汗の粒が肌を滑り落ちるだけでも気持ちいいのか、狭い内部をきゅっと締めてくる。法悦に赤く染まる頬を撫で、喉の奥まで届きそうなくらい奥まで咥え込ませると、七音は綺麗なキャッツアイを見開いた。息が詰まって苦しいだろうが、そんな表情さえも嬉しく思えてしまうのは困ったものだ。そのせいで、もっともっとと交合を続ける。

 このまま何時間でも挿入し続けていたいとまで思うのに、果てはいきなり訪れた。

 七音が達してしまったのか、しとどに濡れた膣内がクルス体の熱塊をぎゅうぎゅうに締め付けてきたからだ。
 両の尻たぶを乱暴に掴み、無理に奥まで押し込んで、白濁した欲望を吐き出す。ペース的には不本意ではあったが、彼女の中で果てる事だけは譲れなかった。

「…… はぁはぁはぁ…… 。きゅ、急に締め付けるから、我慢が出来なかったじゃないか」
「でも…… もっと出来ますよね?次はこっちで楽しませてあげますから、ね?」

 にゅぽんっと音を立てながら七音の口から唾液にまみれた陰茎を引き抜き、再び彼女の頬をソレで撫でる。達したばかりなのにうっとりとした瞳で見上げられ、硬く勃起したモノが脈動する。
 嬌態した体を猫みたいにゆるりとしならせ、七音が自らシーツの海に横たわり、大胆に脚を開いてショーツの紐に手を掛けた。サイドを軽く引っ張るだけで難なく解け、水分と白濁液で重くなった布が下へと落ちる。赤く充血した蜜壺から溢れ出す白い液が僕の欲望の強さを教えてくれている気がした。量が多く、中からソレが溢れ出てくるたびにこぷっと小さな音まで鳴っている。

 膝立ちしていたクルス体の熱塊を指先で撫で上げ、七音が『早く続きを』と言わんばかりに誘惑までしてくる。

 そのせいで達したばかりだった陰茎はすぐに硬さを取り戻し、ニヤリとした笑みを浮かべてしまった。いつも発情期明けには『やり過ぎです』と怒られるのだが、いつもこうやって誘惑を繰り返すのは七音の方じゃないか。そんな細やかな不満は胸の奥に仕舞い込み、「「お望みのままに——」」と二体で同時に呟くと、僕は七音の発情期を存分に、心ゆくまで楽しんだのだった。


       ◇


「…… やり過ぎです」
 頬を膨らませながら、毎度お馴染みのセリフを七音がこぼした。『や、君もね?』と言いたいが、これも毎度胸の中に押し込んで、「すみません。七音があまりにも可愛くって」や「可愛い方が悪い」と返事をした。拗ねたまま枕に顔を預ける姿が愛らしく、両方から七音の頭をくしゃりと撫でてやる。
 どうせ無理なので、『次から気を付ける』とも言えず、ただただ苦笑いを向ける事しか出来ない。だが七音もそれをわかっているのか、「…… 言いたかっただけですよ」と、はにかんだ笑み返してくれた。

 この笑顔を、死ぬまでずっと守りたい。
 心の底から七音に笑ってもらえたら…… どんなに幸せだろうか。

「「——七音」」

 思い余ってエルナトとクルスの双方から同時に声が出た。よく似た声質だが、エルナトの方が少し音が高い。
「何ですか?」
 ちょっと楽しそうにクスッと笑みをこぼして七音が気怠げにゆっくりと上半身を起こす。ヘッドボードにもたれかかり、枕をぎゅっと抱きしめた。既に綺麗な物に変えてあるとはいえ、肌着一枚しか纏っていないのが恥ずかしいのだろう。

「…… 弟妹達を、こちらに呼ぶ気はないか?」

「…… え…… 」と小さくこぼし、七音が目を見張った。
 二の句が出ないのか黙ったまま口をぱくぱくとさせている。

「ヴァイスの召喚魔法をベースにしたら、七音と縁を持つ弟妹と祖父母くらいまでならこちらに呼べる術式を組めると思うんです。ただ、彼の使う魔法は魔力のみを使うものではなく、火や水などといった自然要素の力を使う術式である為、七音でも使える魔法に術式を書き換える為には、少々時間をもらう事にはなると思います」

「…… あと、呼ぶ場合は弟妹達本人達の意志を尊重して欲しい。幸いにして事前に彼らの意思確認を出来るアテがあるから、『来たくない』と言われたら、その時は諦めてくれ。無理に連れて来て、後から『帰りたい』と言われても、状況的に戻してやるのは難しいからな。それにウチは客商売だから、『誘拐された』と騒がれるのも外聞が悪い」

 クルスの口からも“僕”の考えを述べた。
 神隠しを起こすも同然になるだろうから、後で元の世界へ戻っても、困惑されるだろうと思っての事だ。そもそも戻せるのかも怪しいから、事前に憂いは取り除きたいというのもある。
 術式を転用する件に関しては、もう既にヴァイスの許可は得ている。七音の生まれた世界にも居るセフィル経由で弟妹達の意思確認をしてもらえる様に交渉済みでもあるので、あとは七音がどうしたいかだけだ。

「…… い、いいんですか?本当に?」

 無理に出した声は震え、涙が今にもこぼれ落ちそうだ。
「いいに決まってるだろ?」
「もちろんですよ」
 そっと寄り添い、七音の体を双方から抱き締める。すると歓喜に満ちた落涙を頬に伝わせ、「あ、ありがとう…… ございます」と掠れる声で呟き、七音が二体を同時に抱き締め返してくれた。

 実際には到底弟妹とは言えぬ血縁者だとはいえ、七音はその真実を知らない身だ。ほぼ七音が育てたに近い子供達だから、ずっと心残りであった事は想像に容易い。向かい入れたらしばらくはこの家も賑やかになるだろうが、ヒト型の人生なんか、エルフ型や獣人型とは違ってどんなに長くても百年程度だ。そのくらいならいくらでも耐えてみせる。

 七音が、幸せなら、それで満足だ。

「でも、一番下はまだかなり小さいんですけど大丈夫ですか?それに…… 祖父母は介護も必要で…… 」
「大丈夫ですよ。そういった事を手助けしてくれるゴーレムは創れますし、大変な部分はもう、全てお金で解決しちゃいましょう」
 にっこりと笑い、七音を抱く腕に力を込める。
「うぐっ…… ふ、…… ぐすっ」と静かに嬉し泣きする七音の頭をクルスの褐色の手で撫でてやり、エルナトの白い手で頬の涙を拭ってやる。

 だが——
 結局最後まで、七音の口から『両親は?』とは訊かれなかった。

 彼女の心の奥底の何処かで、自分の死の起因が何なのかわかっているのだろう。優しかろうが、愛情があろうが、アレらが毒親には変わりないと理解しているんだ。

「出来るだけ早く動きますから、もうちょっとだけ辛抱していて下さいね」
「はい。…… 本当にありがとうございます」

 そう言って、僕を見上げる七音の瞳は今までとは違った色を帯びていた。信頼や愛情、感謝といったところか。嬉さに溢れた瞳を彼女に返したが、心の奥ではニヤッと微笑む自分が居る。

 こうしてやれば、たとえ実態は張りぼてだろうが、今の段階では“ハッピーエンド”と言っても過言ではないだろう、と。

 いずれ時が来て、一人、また一人と家族を失いっていけば、僕に対する愛情の濃度も濃くなっていくに違いない。

 ——そして最後に七音が寄るべとするのは、“僕”一人になるんだ。


【エピローグ②・完】
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