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【第四章】
【第四話】魔装具店のお客さん②
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店を開けてから一時間が経ち、二時間、三時間と何事も無く経過していく。長く続く作業のせいで疲れ、かなり眠そうな瞼を擦りながら休憩に入ったエルナトも交えて三人で昼御飯を食べ終えた後も、店内には閑古鳥が激しく鳴いたままだった。商店街に面した窓ガラスの奥に見える光景は活気に溢れており、通りを行き交う人達でどこも賑わっているというのに、まるでこの店だけ他の空間に属しているみたいに静まりかえっている。魔装具作成の仕事を再開した加工音が、バックヤードの一角にある作業部屋から店内にまで聞こえてくるくらいに。
ギフトっぽい荷物を抱えた女性の集団が何度も店の前で立ち止まったりはしていたが、皆んなが皆んな、今朝かけた看板を読んでは残念そうに立ち去って行く。魔装具への魔力補充が出来ないからというよりは、明らかに『エルナトに会えないのなら意味が無いわ』という雰囲気だった。
「な?俺の言った通りだったろ?」
時計が十五時を知らせたのを合図に七音がお茶とお菓子を乗せたお盆を店の方へ持って行くと、楽しそうな声ででクルスが言った。
「…… 正直ここまで露骨だと、どん引きしちゃいますね」
「そうだな」と同意しつつクルスが穏やかに笑う。客がいない分それだけ長く七音と話す機会が増えるからか、予想通りの静かな店内に対して、彼には不満も不安もない様だ。
「人間だって所詮は獣だしな。金があって見た目も良い独身男性となれば狩り対象になるんだろ」
「狩り…… ですか。何だか怖い響きですね」
この世界には肉食系女子が多いのかな?と思いながら、七音が引き攣った笑いを浮かべる。元の世界でも大勢いたにはいたが、何度も死ぬ目に見舞われた“ナナリー”とは違い、幸いにして七音はここまで露骨な者達と関わり合いになった経験が無いので、彼女達の気持ちを理解する事は無理そうだ。
「ん?エルナトさんの見た目が良いって思うって事は、クルスさんは、ご自分もイケメンだって自覚有りって事ですよね」
彼らは双子かと見紛う程にそっくりな容姿をしている。肌と髪色が違うおかげでどちらかわからず名前を呼び間違える心配は一切無いが、エルナトを褒めるとセットでクルスを持ち上げる事に繋がるので、『ナルシスト発言ですよ、それ』と七音はつい指摘してしまった。
「当然だろ。ん?何だ、もしかして謙遜でもして欲しかったのか?」
椅子に座るクルスが自信満々な顔をして膝に頬杖をつく。そんな姿を前にして七音は、素直に『イケメンは、仮面をしていても絵になるなぁ…… 』と感心した。
彼らの外見で謙遜したって嫌味にしか感じられなかっただろうが、『自分達は見目麗しいと自覚があるのに、私なんかと手を繋ぎたがったり、添い寝を強要したりするとは…… もしかして新手のイジメなのだろうか?』と何故か七音は斜め上の考えに至った。今日は忙しいからなのか言葉でのアプローチも少なく、長年恋愛感情を向けられた経験が無いせいか、二人共からプロポーズをされている事実が彼女の中からもうすっかり抜け落ちてしまっているみたいだ。もしかすると七音のこういう部分が、いくら努力してもなかなか望む結果が得られない悲しさに繋がっているのかもしれない。
「あ、そういえば昨日の分…… まだ処分してなかったな」
クルスがふと用事を思い出し、ボソッと呟いた。彼の座る位置から一番近い会計用のレジ横にプチ休憩用の茶菓子を置き、「処分、ですか?」と言って七音が首を傾げる。
「あぁ。客も来ないし、今のうちにやっておくか」
重い腰を上げ、クルスが頭を無造作にかきながら立ち上がる。気の進まない作業をするつもりなのか、面倒くさそうな顔をしている事が仮面越しでも見て取れた。
「何だったら、私がやりましょうか?」
「いや、平気だ。でもそうだな…… 一緒に来るか?どうせすぐに終わる作業だし」
今回一度で作業工程を覚えたら、お仕事の一環として、次回は彼の代理を担えるかも?と考え、七音が和やかに笑いながら「はい」と答える。
「こっちだ」
そう言ってバックヤードに足を向けたクルスの後に七音が続く。昨日今日と、常に歩幅を合わせてくれるクルスの無意識の気遣いに、七音は胸の奥に温かなものを感じた。
ギフトっぽい荷物を抱えた女性の集団が何度も店の前で立ち止まったりはしていたが、皆んなが皆んな、今朝かけた看板を読んでは残念そうに立ち去って行く。魔装具への魔力補充が出来ないからというよりは、明らかに『エルナトに会えないのなら意味が無いわ』という雰囲気だった。
「な?俺の言った通りだったろ?」
時計が十五時を知らせたのを合図に七音がお茶とお菓子を乗せたお盆を店の方へ持って行くと、楽しそうな声ででクルスが言った。
「…… 正直ここまで露骨だと、どん引きしちゃいますね」
「そうだな」と同意しつつクルスが穏やかに笑う。客がいない分それだけ長く七音と話す機会が増えるからか、予想通りの静かな店内に対して、彼には不満も不安もない様だ。
「人間だって所詮は獣だしな。金があって見た目も良い独身男性となれば狩り対象になるんだろ」
「狩り…… ですか。何だか怖い響きですね」
この世界には肉食系女子が多いのかな?と思いながら、七音が引き攣った笑いを浮かべる。元の世界でも大勢いたにはいたが、何度も死ぬ目に見舞われた“ナナリー”とは違い、幸いにして七音はここまで露骨な者達と関わり合いになった経験が無いので、彼女達の気持ちを理解する事は無理そうだ。
「ん?エルナトさんの見た目が良いって思うって事は、クルスさんは、ご自分もイケメンだって自覚有りって事ですよね」
彼らは双子かと見紛う程にそっくりな容姿をしている。肌と髪色が違うおかげでどちらかわからず名前を呼び間違える心配は一切無いが、エルナトを褒めるとセットでクルスを持ち上げる事に繋がるので、『ナルシスト発言ですよ、それ』と七音はつい指摘してしまった。
「当然だろ。ん?何だ、もしかして謙遜でもして欲しかったのか?」
椅子に座るクルスが自信満々な顔をして膝に頬杖をつく。そんな姿を前にして七音は、素直に『イケメンは、仮面をしていても絵になるなぁ…… 』と感心した。
彼らの外見で謙遜したって嫌味にしか感じられなかっただろうが、『自分達は見目麗しいと自覚があるのに、私なんかと手を繋ぎたがったり、添い寝を強要したりするとは…… もしかして新手のイジメなのだろうか?』と何故か七音は斜め上の考えに至った。今日は忙しいからなのか言葉でのアプローチも少なく、長年恋愛感情を向けられた経験が無いせいか、二人共からプロポーズをされている事実が彼女の中からもうすっかり抜け落ちてしまっているみたいだ。もしかすると七音のこういう部分が、いくら努力してもなかなか望む結果が得られない悲しさに繋がっているのかもしれない。
「あ、そういえば昨日の分…… まだ処分してなかったな」
クルスがふと用事を思い出し、ボソッと呟いた。彼の座る位置から一番近い会計用のレジ横にプチ休憩用の茶菓子を置き、「処分、ですか?」と言って七音が首を傾げる。
「あぁ。客も来ないし、今のうちにやっておくか」
重い腰を上げ、クルスが頭を無造作にかきながら立ち上がる。気の進まない作業をするつもりなのか、面倒くさそうな顔をしている事が仮面越しでも見て取れた。
「何だったら、私がやりましょうか?」
「いや、平気だ。でもそうだな…… 一緒に来るか?どうせすぐに終わる作業だし」
今回一度で作業工程を覚えたら、お仕事の一環として、次回は彼の代理を担えるかも?と考え、七音が和やかに笑いながら「はい」と答える。
「こっちだ」
そう言ってバックヤードに足を向けたクルスの後に七音が続く。昨日今日と、常に歩幅を合わせてくれるクルスの無意識の気遣いに、七音は胸の奥に温かなものを感じた。
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