26 / 86
【第三章】
【第二話】心苦しき時間②(雨宮七音・談)
しおりを挟む
クルスへの認識を改ねばと思った事もあってか、流石にこのまま手を繋いでいてはいけないような気がしてきた。どうにかしてこの手を離さなくては。だけど、出来るだけ不快感を与えず、尚且つ不自然では無い様に振る舞いつつが鉄則だ。
彼は私の雇い主であるエルナトの家族であるという事を念頭に置き、「…… はは、クルスさんでも冗談を言うことがあるんですね」と言いながら、ゆっくり手を引こうとした。だが、困った事にビクともしない。こちらの心境を察して力を緩める、なんて事をする気がクルスには全く無いみたいだ。
「誰が“ヨミガエリ”なのかもわからない間は、狸と狐の化かし合いみたいな時期が続くからな、精神的にも疲れる事になるぞ?軽い気持ちで取り合いが出来る相手じゃない。あぁ…… でも、心身共に疲れ果てた君を俺が癒してやれば、強い繋がりが持てそうだな」
クルスはそう言いつつ、手を繋いだままになっている私の腕を軽く持ち上げた。途端、手首に二本の小さくて硬いものが軽く当たる感触と同時に、熱い吐息とぬるっとした柔らかいモノが肌の上を優しく撫で始める。だが、目元を温める為に置かれたままになっているタオルのせいで状況がきちんと把握出来ない。でもきっとコレは、間違い無くクルスが私の手首を甘噛みしているのだと思う。
「んくっ」
どうにか堪えはしたが、彼の舌先が肌の上を少し滑るだけで変な声が口から出てしまいそうだ。『止めて』と、今すぐにでも言ってバッと無理矢理腕を引こうがきっと私を責める者なんて誰一人としていないだろう。だが困った事にその一言が口から出てこない。それどころか、手を離そうとすら出来ない始末だ。体中から力が抜け落ち、甘い蜜の入る坩堝の中へ緩やかに落ちていく様な、変な感覚が私を包む。目元は温かなタオルで覆われたままだし、これではまるで目隠しプレイでもしてしまっているみたいだ。
「発情期もきていない様なねんねのお子様にはまだ手出しすまいと思っていたのに、随分と可愛い反応をしてくれるんだな」
クスッと笑うクルスの声が聞こえる。やっぱり彼も信用しちゃいけないヒトだ。
そう思うのに、さっきよりもほんの少し強く手首を噛まれただけで、警戒心ごと容易く摘み取られてしまった。
それにしても、発情期って?
あぁ、そう言えば、クルスは昨夜もそんな話をしていた気がする。まさか獣人型にはそんな恐ろしい期間が存在しているんだろうか?私は魔力が無いはずの獣人型でありながら魔法を使える様に、発情期は無いなんて例外もあればいいのに。
「もういっその事、このまま俺と番ってしまわないか?“ヨミガエリ”なんか手に入れられなくても、俺達がついていれば叶わない願いなんてほとんど無いから別にいいじゃないか」
私の指の付け根を指先で優しく撫でながら、甘く囁く。肌を甘噛みされているせいか全身が過敏になっていて、そんな箇所をちょっと撫でられただけなのに体が軽く跳ねた。
いいのか悪いのか、車酔いの様な具合の悪さまでが魔法みたいに溶けていく。体の不調が消えるのは嬉しいけど、こんな消え方は健全じゃない。
「——エルナトさんに!」
声を振り絞り、助けを求めるみたいな勢いでエルナトの名を口にする。この場に来て欲しとか、そういう訳では無い。ただ、この状況を改善する為にも、事実をクルスに伝えねばとその一心で。
「ん?エルナトが、どうかしたのか?」
きょとんとした声でクルスが私の肌を甘噛みするのを止めた。だが、やっぱり繋いだままの手は離してくれないみたいだ。
「エルナトさんに交際を申し込まれていて、なのでこれ以上は…… その…… 」
「ははっ!エルナトが、君に交際を?んなまどろっこしい真似をアイツがする訳が無いだろ。俺みたいに色々すっ飛ばして、『いきなり結婚を申し込まれた』の間違いだろ」
流石二人は兄弟っぽいだけある。完璧にエルナトの行動を見抜いているじゃないか。
そして困った事に、エルナトの言っていた話は勘違いではなかった様だ。わかりにくかっただけで、クルスの『じゃあ、諦めたら俺に声を掛けてくれ。俺の方は、いつでも大歓迎だから』という発言も、彼的には告白や求婚のつもりで間違いなさそうだ。
「…… ここに居なくても、ちゃんと気遣ってくれるんだな。益々君にハマりそうだ」
私の発言を、クルスはまるで自分に対しての気遣いだったかの様に喜ぶと、熱の籠った声でそう呟きながら、私の手の甲にちゅっと口付けをしてくる。そのせいで私は、『ぎゃー!』と黄色とも何とも言えない不可思議な感情を含む悲鳴を心の中だけであげた。
それにしても、エルナトへの気遣いをどうしてクルスが喜んだんだろうか?
ふと不思議に思ったが、不意に聞こえた「二人して、僕の噂話ですか?悪趣味ですねぇ」と言うエルナト本人の声で打ち消されてしまった。
彼は私の雇い主であるエルナトの家族であるという事を念頭に置き、「…… はは、クルスさんでも冗談を言うことがあるんですね」と言いながら、ゆっくり手を引こうとした。だが、困った事にビクともしない。こちらの心境を察して力を緩める、なんて事をする気がクルスには全く無いみたいだ。
「誰が“ヨミガエリ”なのかもわからない間は、狸と狐の化かし合いみたいな時期が続くからな、精神的にも疲れる事になるぞ?軽い気持ちで取り合いが出来る相手じゃない。あぁ…… でも、心身共に疲れ果てた君を俺が癒してやれば、強い繋がりが持てそうだな」
クルスはそう言いつつ、手を繋いだままになっている私の腕を軽く持ち上げた。途端、手首に二本の小さくて硬いものが軽く当たる感触と同時に、熱い吐息とぬるっとした柔らかいモノが肌の上を優しく撫で始める。だが、目元を温める為に置かれたままになっているタオルのせいで状況がきちんと把握出来ない。でもきっとコレは、間違い無くクルスが私の手首を甘噛みしているのだと思う。
「んくっ」
どうにか堪えはしたが、彼の舌先が肌の上を少し滑るだけで変な声が口から出てしまいそうだ。『止めて』と、今すぐにでも言ってバッと無理矢理腕を引こうがきっと私を責める者なんて誰一人としていないだろう。だが困った事にその一言が口から出てこない。それどころか、手を離そうとすら出来ない始末だ。体中から力が抜け落ち、甘い蜜の入る坩堝の中へ緩やかに落ちていく様な、変な感覚が私を包む。目元は温かなタオルで覆われたままだし、これではまるで目隠しプレイでもしてしまっているみたいだ。
「発情期もきていない様なねんねのお子様にはまだ手出しすまいと思っていたのに、随分と可愛い反応をしてくれるんだな」
クスッと笑うクルスの声が聞こえる。やっぱり彼も信用しちゃいけないヒトだ。
そう思うのに、さっきよりもほんの少し強く手首を噛まれただけで、警戒心ごと容易く摘み取られてしまった。
それにしても、発情期って?
あぁ、そう言えば、クルスは昨夜もそんな話をしていた気がする。まさか獣人型にはそんな恐ろしい期間が存在しているんだろうか?私は魔力が無いはずの獣人型でありながら魔法を使える様に、発情期は無いなんて例外もあればいいのに。
「もういっその事、このまま俺と番ってしまわないか?“ヨミガエリ”なんか手に入れられなくても、俺達がついていれば叶わない願いなんてほとんど無いから別にいいじゃないか」
私の指の付け根を指先で優しく撫でながら、甘く囁く。肌を甘噛みされているせいか全身が過敏になっていて、そんな箇所をちょっと撫でられただけなのに体が軽く跳ねた。
いいのか悪いのか、車酔いの様な具合の悪さまでが魔法みたいに溶けていく。体の不調が消えるのは嬉しいけど、こんな消え方は健全じゃない。
「——エルナトさんに!」
声を振り絞り、助けを求めるみたいな勢いでエルナトの名を口にする。この場に来て欲しとか、そういう訳では無い。ただ、この状況を改善する為にも、事実をクルスに伝えねばとその一心で。
「ん?エルナトが、どうかしたのか?」
きょとんとした声でクルスが私の肌を甘噛みするのを止めた。だが、やっぱり繋いだままの手は離してくれないみたいだ。
「エルナトさんに交際を申し込まれていて、なのでこれ以上は…… その…… 」
「ははっ!エルナトが、君に交際を?んなまどろっこしい真似をアイツがする訳が無いだろ。俺みたいに色々すっ飛ばして、『いきなり結婚を申し込まれた』の間違いだろ」
流石二人は兄弟っぽいだけある。完璧にエルナトの行動を見抜いているじゃないか。
そして困った事に、エルナトの言っていた話は勘違いではなかった様だ。わかりにくかっただけで、クルスの『じゃあ、諦めたら俺に声を掛けてくれ。俺の方は、いつでも大歓迎だから』という発言も、彼的には告白や求婚のつもりで間違いなさそうだ。
「…… ここに居なくても、ちゃんと気遣ってくれるんだな。益々君にハマりそうだ」
私の発言を、クルスはまるで自分に対しての気遣いだったかの様に喜ぶと、熱の籠った声でそう呟きながら、私の手の甲にちゅっと口付けをしてくる。そのせいで私は、『ぎゃー!』と黄色とも何とも言えない不可思議な感情を含む悲鳴を心の中だけであげた。
それにしても、エルナトへの気遣いをどうしてクルスが喜んだんだろうか?
ふと不思議に思ったが、不意に聞こえた「二人して、僕の噂話ですか?悪趣味ですねぇ」と言うエルナト本人の声で打ち消されてしまった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました
Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。
そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて――
イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる