伝えぬ想い

月咲やまな

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サイドストーリー

薬局とごっご遊び

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「山本さーん、山本トメさーん」
 総合病院の薬局スペース。薬受け渡し場所で、大和が患者の名前を呼ぶ。本職とは別に、友人が経営する病院で彼はパートタイムで勤務してる。今日はその勤務の日だった。
「今日はどうされました?」
「腰痛がひどくてねぇ……」
「なるほど、いつからです?」
 患者の容態を聞き、大和がメモを取る。親身になって話を聞き、どんな話も嫌な顔一つせず話を聞く為『薬局の天使』とまで言われるらしい。那緒以外に彼は一切無いのだが、接し方や表情から周囲の人は大和を“いい人”だと認識してしまう。人誑しの典型的タイプだ。
「——……で、本当にうちの孫と結婚する気はないかい?お前さんなら孫も大喜びなんだけどねぇ」
 頰を押さえ首を軽く傾げながら残念がる。
「僕はもう既婚者ですよ」
「残念だわぁ」


「おい」
「なんですか?一哉」
 次の薬の調合を始める大和に、同じくこの薬局で勤務している薬剤師・佐倉一哉が不機嫌を隠さぬまま声をかけた。
「何度も言うけどさぁ、1人に何十分も時間かけるなって!おかげでこっちに負担くるんだから」
「そう言われても、皆さんお話を切るタイミングがないんですよねぇ」
 年配の方特有のものだ、仕方がない。
「薬の説明してお終いでいいじゃないか」
「一人暮らしだとわかってる方に、それは酷でしょう?」
「……まぁ、それはわかるが……せめて混んでない時にしてくれよ。何度も何度も同じような内容の話ばっかじゃねぇか」
「いいんですよ。欲しいのは薬じゃない、心の交流だったりする患者さんも多いんですから」
 ニコニコと笑う大和に、一哉がため息をつく。
「若い患者には冷たいくせになぁ……」
「下心のある異性は論外ですからね。僕は妻しか愛せないし」
「ったく……」と言いながら頭をかく一哉。
「そんな話してる暇があったら次の用意した方がいいですよ?中尾さんの目がすごい事になってますから」
 視線だけで上司の方を見ると、腕を組んで大和達を見ている姿が目に入り、一哉にそれを教えた。「やべっ」と慌て、彼はそそくさと奥へ消えて行った。


 終業時間になり、帰る用意をする2人。着替えも済ませて鞄を片手に廊下を歩く。
「お前等」
 上司である中尾に二人は呼び止められ「はい?」と同時に返事をする。
「仲がいいのは結構なんだがさぁ……」
 揃いっぷりに飽きれたような顔をする中尾。
「大和は患者に丁寧過ぎ、一哉は大和に無駄話し過ぎ。流石にもうそろそろ気をつけろ」
「でも、最終的にはきっちり仕事はこなしてますよ?」
 大和に反論され、中尾が渋い顔をした。
「うぐっ……まぁそうなんだが……それでもなぁ」
「大和の分は俺が補うし、話してる内容は俺達には無駄じゃないんで」
 一哉が中尾とは視線を合わせず、不機嫌そうな声で言う
「……お前等は結局毎回それだなぁ」
「わかってるなら注意しなきゃいいのに」
 ボソッと一哉が言う。
「思っていても口に出してはいけませんよ?」
 大和が口元に手をやり、静かにっと指を立てる。
「お前等はもう……」
 毎度のやり取りに、飽きれながら中尾が諦めて去って行った。

「あの人もよくまぁ飽きずに同じ内容の注意してくるよなぁ」
 首の後ろを触りながら一哉がぼやく。
 二人は出口へと向かい、再び廊下を歩き出した。
「仕方ないですよ、仕事なんですから。でも僕もちょっと気をつけますかね」
「出来るのか?」
「僕は調合しますから、一哉が受け渡し全てやって下さい」
「はぁ⁈俺が受け渡し嫌いなの知ってるだろう?」
 異性愛者のクセに彼女以外の女性が全て嫌いな彼は、薬の受け渡しが苦手でしょうがない。不機嫌丸出しでの業務は、受け取る側も不快でしょうがないだろう。
「でも効率はグッと上がりますよ。調合は僕の方が早い、受け渡しは一哉の方があっさりしてる」
 ものは言い様だなと一哉は思った。
「……ストレスで倒れちまうよ」
「そこは彼女に癒してもらうんです。良かったですね毎日甘える材料ができますよ」
「よかったって……お前なぁ」
「僕も疲れないで済むんで、妻ともっと仲良くできる。最高じゃないですか。もう明日からはそれでいきましょう」
 ポンっと手を打ち、大和が勝手に決めた。
「待て!決めるな‼︎」
 こうなってしまった大和を止める事が出来ない事を長い付き合いで知っている分、一哉は困り果てながら声をあげたが、結局次の日から彼の言った通りになってしまったのだった。

       ◇

「おかえりなさい、大和さん」
「ただいま」
 屋敷の玄関まで迎えに来た那緒が、ニコニコ顔で手を差し出し彼から鞄を受け取った。
「今日もいいことあったって顔してますね」
「おや、わかりますか?」
「ええ、大和さんの事ですもん」
 那緒がそう言い、ニコッと微笑む。愛しい妻の可愛らしい顔に、大和は満足げに笑みを返した。
「じゃあ、これから僕が何をしたいかもわかりますよね?」
「……え?あ、いや全く。……きゃああああ」
 那緒の腕をガシッと掴み、大和が自分の方へと引き寄せる。
「待って!ここ玄関だし……」
「関係ないでしょう?そんな事は」
 那緒の服の下から大和が手を入れる。背中のホックを難なく外すと、直に胸を触り始めた。
「ダメですって、そんな……あぁぁぁっ」
「駄目?もうこんなになってるのに……」
 キュキュッと那緒の胸の尖りを大和が擦り上げる。快楽で彼女の体が震え、ピクッと跳ねた。
「ほら、こっちだってそうでしょう?」
 スカートを捲り、ショーツを横によけ陰部を弄る。少しの愛撫だけで湿り出す陰裂は、既に蜜を垂らし始めていた。
「ふああぁっ!」
「いつでも準備万端で嬉しいですよ、那緒」
「ちがっ……んっぁぁっ」


「はぁはぁはぁ……」
 大和の腕に抱きかかえられ、虚ろな眼差しのまま居間へと那緒が運ばれる。
「何で……そんなに毎日元気なんですか」
「こんなものでは終わりませんよ?でも、まずはご飯にしましょうか」
「……一哉さんから聞きましたよ?患者さんにすごく優しいって」
 突然出た友人の名に、大和は軽く首を傾げた。
「僕が一番優しく接してるのは那緒ですけどねぇ」
「こういうのじゃないく……たまには……その、私も患者さんみたいに優しくしたり、お話聞いて欲しいなぁなんて……」
 モジモジとし、那緒がチラッと大和を見上げた。
「……わかりました」
 そう言いながら居間を通り過ぎ、大和は自分の部屋へと向う。
「え?居間通り過ぎ……そっちちがっ!」
「『患者の様に』優しくされたいんでしょう?」
 ニコッと大和が微笑む。絶対に、何かを企んでいる笑いだった。
「な、なんか微妙に違う気がっ」
「大丈夫、予備の白衣はきちんと家にありますから」
「やっぱり!違うっ違うの!そうじゃないのっ」
「でも僕は医者じゃないんで……やっぱり薬を使った何かがいいですよね」
「ごめんなさいっ今のままで十分ですから!下ろしてぇぇ!」
 脚をバタつかせ、那緒が大和の腕から逃げようとする。
「大丈夫ですよ、媚薬を使うくらいですから」
 優しーく微笑む顔が、余計に怖い。
「調剤薬局と関係ないでしょうその薬は!」

 結局、この日は晩御飯を食べ損ねた那緒と大和でした。


【終わり】
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