伝えぬ想い

月咲やまな

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 太陽が部屋の中を照らす。それを合図に那緒はゆっくりと目が覚めた。
 気だるい体を布団から無理に起し、学校へ行かねばと考えながら頭を軽く振る。だが思うように体が動かず、心なしか少し寒い気がする。
 それでも那緒は、布団から出てハンガーにかけている制服に手を伸ばし着替えようとパジャマを脱ぐという一連の流れをしなければと考えた。
 だがいつもの場所に視線をやっても、制服もなければ、よくよく下を見ると何も着ていない。
 その事に今更気が付き、慌てて布団で前を隠し周囲を見る。

「…… 私の、部屋じゃない」

 畳にひかれた布団。低めの机に置かれたパソコンに、座布団。本棚には少しの本しか入っておらず、物があまりない生活感の少ない部屋で彼女は寝ていたみたいだ。

「ここ…… 大和兄さんの部屋?何で?」

 状況が掴めず、重い頭で記憶を遡る。
「…… 確か、雨に濡れて…… 寝ちゃった後夜中に目が覚めて…… それで、お風呂へ…… 」
 その辺りから思い出すだけで顔が赤くなり、那緒は思考が停止してしまった。

「——え…… あ…… 嘘。夢、だよね?流石に」

 頬を両手で包み顔を冷やそうとするが、どちらも熱く、自分の体温が平熱よりも高い状態になっている事に気が付いた。

 襖が開き、手に水の入った桶とタオルを持った大和が入って来る。
 上半身を起こし座る那緒が目に入り、桶を慌ててその場に置き彼女へに駆け寄った。
「体が冷えますよ!横にならないとっ」
 叫ぶように言われ、那緒の体がビクッとした。
 普段聞かぬ大きな声に驚いていると、何も身に付けていない背中を隠すように、着物姿の大和が那緒に抱きついてきた。その事に体が硬直し、那緒の体温が更に上昇する。
「…… こんなに熱い…… 待って、着替えを持ってきますから、きちんと横になって下さい」
 那緒の熱い体を支えながら横に寝かせ、大和は足早に那緒の部屋へと向かった。

(…… 今、大和兄さん…… 私に抱きついた⁈)
 ボーっとする頭で、那緒が少しパニックになっている。
 お風呂での記憶って、夢とかじゃなかったりするんだろうか?
 だとしたら…… 私達って…… 。
「お待たせしました、起きられますか?」
 那緒のパジャマや下着を手に持った大和が、彼女に近づき布団の側に座る。大和の腕の中にある下着に目が止まり、那緒が恥ずかしそうに布団の中で見を縮めた。大和に下着用意させるなど、子供頃以来だったからだ。
「どうしました?」
「…… いえ」
「手伝いますから、ちょっと上半身起こして下さいね。学校にはもう電話してありますから、心配はいりませんよ」
「じ、自分で着替え、出来ますよ。大和兄さんは…… 部屋を出ていてもらえませんか?」
その言葉に、大和の顔が険しいものになった。

「…… 今…… なんと?」

 声にも少し怒りに近い色が見える。
 熱のせいでなのか……那緒の聞き間違いか。
「部屋から——」と、もう一度同じ言葉を言おうとする那緒に対し、大和は首を横に振って言葉を切る。

「それじゃありません。今、と言いませんでしたか?」

「あ…… えぇ」
 険しい顔をされる意味が分からず、那緒は困惑した。
「もうその呼び方はしないと、約束したはずです」
「す、すみません」
 そんな約束をした事を思い出せなかったが、那緒は反射的に謝ってしまった。
 それでも、大和気持ちは少し落ち着いたのか、手に持つ着替えを那緒の側に置くと、部屋から出る為に立ち上がった。
 襖に手をかけて、それを開ける。廊下へと一歩で出た所で、大和は足を止めて軽く振り返った。

「那緒、十六歳の誕生日おめでとうございます。届出は今朝一番で出しておきましたので、安心して着替えを済ませて下さいね」

 ニコッと微笑むと、大和は襖を閉めて自室から退室した。
 そんな彼の言葉を聞いても、那緒には大和の言葉の意味が理解できなかった。
「…… そっか、今日か。誕生日なの忘れてた」と、気の抜けた声でボソッと呟く。
 熱があって怠い体を無理に動かし、何とか着替えて横になる。ゴロンッと布団の中で寝返り、うつ伏せになって枕に顔を埋めた。

「…… 大和兄さんの匂いだ…… 」

 匂いを嗅ぐだけで、自然とうっとりとした顔になる。
 朦朧とする頭でさっき聞いた大和の言葉を思い出すが、やはり意味が理解出来ず、眉をよせた。

「あれ?誕生日って届け出いるっけ?」

 そう言いながら右を向いていた顔を左側にまわした時、自分の指に何かがある事に気がついた。両手で勢いよく上半身を起こし、那緒が改めて自分の手を見る。

「…… ?何、これ」

 その声を、襖の向こうで側の壁に寄りかかる大和が聞き、ため息をもらす。
(今更気が付いたんですか…… )
 額に手をあて、大和は落胆の色が隠せない。もしかして、昨日の事は全て忘れているのでは?と不安にすらなってきた。

 キョロキョロと意味もなく那緒は周囲を見渡した。頬が熱とは無関係に熱くなる気がし、手が震える。布団の上に正座し、背中に布団をかけながらじっと自分の左薬指にはまる綺麗なプラチナの指輪を見続けた。

 十六歳という年齢と左薬指の指輪。
 さっき届出がどうこうと言っていた、大和の言葉。
 うっすらとではあるが、思い出せる昨日の出来事…… 。

「確認しなちゃ…… 」
 そう思った那緒はフラフラとする体で立ち上がり、酔っ払いのような千鳥足で歩き、廊下へ出ようと襖に手をかけようとした。それと同時に、ガラッと襖が開き、目の前に立つ大和と目が合う。
「駄目ですよ、寝ていないと」
 那緒の体を抱えるように持ち上げ、大和が布団の方へ戻そうとする。
 無表情な彼の様子に少し怖くなり、那緒はギュッと彼の着物を掴んだ。それに気が付いた大和が優しく微笑み、那緒の体をギュッと抱き締める。

「僕が怖いですか?」

「…… 状況が掴めないのが、ちょっと」
「説明しないといけないくらい、覚えていないですか?」
 頷く那緒に向かい、大和が悲しそうな顔をした。
 布団へと座り、自分の膝の上に那緒を座らせ、布団で体を包む。彼女の頭を右手で自分の方へと近づけさせ、愛おしむように頬をよせた。
「…… 全く、覚えていませんか?」
「…… 夢かな?程度になら少し」
「では、それらは全て夢ではないと認識して下さい」
 那緒が俯き、体が硬直する。
「昨日の夜中、僕達は深く抱き合ったんですよ…… 恋人同士の様にね」
 大和が、那緒の耳元で囁く。
「もう僕は…… 那緒の兄のような存在ではないんですよ」
 頭に触れる大和の手に力が入る。
「彼氏でも…… ないですけどね」
 ニッと微笑むような表情をしているが、大和の目はひどく冷たい色を帯びている。心を病んだ人間の瞳だ。
「…… じゃあ、私達の関係って?」
「妻とその夫です」
 じらす事無く、大和はあっさりと答た。
「え⁈いきなり?」
 大和の胸に寄せていた体を離し、彼の方を見た。
 無表情で見返され、その表情にビクッとする。まるで蜘蛛に捕まる蝶の様に硬直し、動けず、言葉もでない。
 ずっと好きだった相手なのだ、嬉しさで満ちておかしくないのに…… 行動の早さに躊躇してしまう。無理だ、隠さねばと思っていた気持ちが、行き場を無くす。
「…… でも…… あの…… 」
「何も問題はないでしょう?互いに愛し合っているのは昨夜の件でわかったのですから。年齢の障害も、運良く今日なくなりましたしね」
(…… 運良く?嘘…… 全部わかっていて行動しているんじゃ…… )
「もう、逃げれませんね。那緒にはここ以外に行く場所はないですし、もう籍も入ってますから」
「…… え?両親の承諾は?確か未成年は…… 」
「そんなものは、どうにでもなりますよ。証人は僕の友人に頼めば済むわけですし」
「で…… でも…… え…… あ…… 」
 まともに話せないでいる那緒の体を、再び大和は自身の胸へと抱き寄せた。優しく、ゆっくりと那緒の頭を撫でる手は、まるで子供を寝かしつけようとしている親のようだ。
 何も言わずに、ただ抱き締め頭を撫でる。
「…… はや…… 過ぎませんか?」
 那緒が言うも、返事がない。
 部屋には静寂が広がり、那緒の心臓の音がどんどん早くなる。
「大和…… にぃ…… さん?」

「ちがうっ!」

 大和がすかさず大声で否定する。
「ご、ごめんなさいっ」
 那緒の瞳が涙目になり、反射的に謝る。滴り落ちる涙を、大和がペロッと舐めあげてきた。
「…… すみません、大きな声をだしてしまって」
 そう言う彼の声は、とても小さい。
「いえ…… ごめんなさい」
「…… 嫌でしたか?僕の行動は」
 ブンブンと勢いよく頭を振ったせいで、頭のクラッとした那緒が後ろに倒れそうになり、大和がそれを支えた。
「じゃあ、何をそんなに困っているんです?」
 大和の瞳を見詰め、熱っぽい頭で必死に考え、那緒はゆっくりとした口調で話し始めた。

「早過ぎるかなって事と…… そうですね…… 一言、相談して欲しかったかも」

「じゃあ、勝手に入籍してきましたが、異論はありますか?何か意見があるなら言って下さい」
 いつもの優しい笑顔で、大和が言う。ちょっと冗談っぽい雰囲気で言われ、気持ちが不思議と和んだ。
「今相談されても遅いですって」
 那緒がクスッと笑う。
 二人の間の雰囲気が穏やかなものになり、大和がゆっくりと那緒を布団へと寝かせた。桶と共に持ってきたタオルを中に入る水で濡らし、絞ったものを彼女の額へとのせる。
「まずは、ゆっくり休んで下さい」
 穏やかな声で、那緒の髪を撫でながら大和は言った。その優しさに包まれるような感覚にホッとしながら、ゆっくり瞼を閉じる。
「…… 夜までには、下がるといいですね」
 そう言いながら大和は机の方へと歩き、引出しの中から白い紙袋を取り出す。机の上に置きっぱなしになっていたミネラルウォーターの入ったペットボトルを手に取ると、那緒の横へと戻って来た。
 枕元に座り、白い紙袋の中から錠剤を1つ取りし、那緒の口元へ近づける。
「那緒、熱冷ましです。飲めますか?」
 言葉に促され、那緒がゆっくりと口を開ける。口に薬が入ったのを確認して、大和が手に持つペットボトルの水を自分の口内に含み、口移しで水を飲ませた。
 コクコク……と、那緒が水を飲み込む。飲みきったのを確認して、大和は口を離した。
 粗い呼吸で恍惚とした表情を浮かべる那緒に、少しドキッとするも、大和は胸を抑え感情を堪えた。
「眠くなる成分が多いですが、よく効きますから。ゆっくりおやすみ…… 」
 那緒が安心して眠れるよう、隣に寄り添い、頭を撫で続ける。

「…… 僕の世界にはね、那緒しかいないんですよ」

 目を閉じる那緒に、小さく…… 優しい声で大和が語りかける。
「那緒に拒否されれば…… 生きていけません」
「拒否なんてしませんよ」
 那緒が目を開け、大和に答える。
「ただ…… 少し驚いたんです。人生を決める大事な事だし、きちんとプロポーズもされてみたかったかなって」
 その言葉に大和は、なるほどと言いたげに頷いた。布団の中へ手を入れ、那緒の左手を取り、大和は彼女の薬指にはまる指輪に口付けをした。

「好きですよ、戸籍上では既に結婚しましたが…… この先もずっと、僕と一緒にいてもらえませんか?」

 切なそうな表情を浮かべ、那緒へと語りかける。
 頬を染め、那緒がゆっくりと頷く。

「私も…… ずっと、ずっと好きでしたよ」

 熱でだるく、力の入らない腕を無理やり布団から出し、大和の方へと広げてみせる。
「大和にぃ…… 大和さんを、ずっとどこかへ閉じ込めて、自分だけのものにできたらいいのにって、ずっと思っていたんです」
 大和の手を取り、那緒が自分の頬を触らせる。
「僕はいつだって、今だってそう思ってますよ。大事だから、そんな事は本当にはしませんが…… 」
「常に周囲に対し嫉妬でいっぱいで、醜い気持ちをいつも抱えてました。妹みたいな私にそんな感情持たれたくもないだろうにと思うと…… よく泣きそうになっていましたし」
「僕達はもっと、互いに早く本心を伝え合うべきでしたね」
 その言葉を聞き、ツッーと那緒の目から涙が落ちる。
「…… 一生秘密にって。…… 伝えないまま終わるんだって思っていました」
「僕もですよ。でもね、もしそうしていたとしても、那緒が誰かと付き合うのだけは一生認めなかったと思います。邪魔ばかりしたでしょうね、きっと」
 那緒の眦から零れ落ちる涙を指で大和が拭う。
「そのまま、二人で年老いていくよりも、この関係になった事は嬉しいと思えませんか?」

「…… そう…… です…… ね。そう…… かも」

 薬が効き始めたのか、那緒の言葉が遅くなり、瞼を開けているのが辛そうだ。大和の手に重なる手は完全に力が入っておらず、ズルッと落ちていく。
「すき…… ですよ…… ずっと…… ずっとまぇ…… か…… 」
 意識がなくなる寸前まで、那緒は必死に話そうとしていたが、言葉は途中で途切れてしまった。
「…… 那緒」
 完全に寝入った那緒の腕を、大和が代わりに布団の中へとしまう。肩が出ないよう布団を整え、眠る姿に安堵した。

「貴女の…… 全てを、僕は手に入れるんだ」

「一生…… 那緒は僕のもの…… 」

「誰にも触れさせない、誰の事も好きにはさせない」

「那緒以外を妻になど考えられなかったんです、勝手を許して…… 」

 眠る那緒の熱で熱い頰を撫で、大和が言い聞かせるように語り掛ける。
「もう我慢なんかしない。全部伝えるから…… 僕の気持ちを全て受け止めて下さいね」
 頬にそっと口付けをし、那緒の眠る布団へと潜り込み、彼女の熱い体をきつく抱き締める。
「早くよくなって下さいね。僕がどれだけ那緒を愛しているのか、体にも教えてあげますから」
 そっと耳元に囁き、目を閉じて那緒の体温と感触を楽しむ。

「愛してる…… 愛してる——」

 何度も、何度も呟く声が部屋を満たす。
 那緒の穏やかな呼吸音を子守唄に、大和もゆっくりと意識から手を離し、安堵に包まれ夢の中へと落ちていった。

        ◇

 深夜、目の覚めた那緒が眠っていた布団から上半身を起こした。
 すでに乾いてしまっているタオルが布団へ落ちる。体はとても軽く、薬のおかげか熱は下がったみたいだ。
 お腹に重みを感じ横を見ると、大和が穏やかな表情で那緒の横に寝ていた。

「…… か、かわいい」

 頬を緩め、那緒がぼそっと呟く。
 大和が隣で眼鏡をかけたまま寝ており、少しフレームが歪んでしまっている。そんな眼鏡をそっとはずそう思い手を伸ばすと、大和がゆっくりと目を開けた。
「那緒…… もう大丈夫なんですか?」
 体感的にもう平気ではあったが、念の為自らの額に手を当て体温をみるが熱い感じがしないので那緒は「大丈夫ですよ」と返事をした。
 大和が顔を上げ、机の上にあるデジタル時計に目をやると、十一時三十分と時間が表示されている。
 ガバッと起き上がり、大和は那緒の肩を掴むと、その細い体を布団へと押し付けた。
「きゃああっ」
 突然の事に那緒が驚き、声をあげた。

「よかった、まだ今日が終わってしまうまで三十分ありますよ。でも、少し急がないといけませんね」

 ニコニコと笑顔のを見せる大和。
「え?」
「今日は那緒の誕生日で、結婚初夜です。ということは、する事は一つしかありませんよね?」
 そう言いなり、那緒の唇へ大和が激しいキスをしてきた。大和の言葉を理解する間もなく、彼の絡ませてくる舌のせいで思考が止まる。呼吸も出来ないくらいの激しいキスに頭がクラクラしてきた。
 ゆっくり離す互いの唇には糸が引き、粗い呼吸が部屋に響く。
「あの、待って…… 」
「何故?誕生日に欲しい物は、別にありましたか?」

「…… つまり、大和にぃ…… えっと、大和さん自身が…… プレゼントって事ですか?」

「いりませんか?もっとも、拒否権はありませんが」
「い、いらないなんて…… 言える訳がないじゃないですか」
 頰を赤らめて言った那緒の言葉は彼の望む言い回しでは無かったのか、大和は少し不満そうだ。
「違いますよ、言うわけがないって言わないと」
 那緒の唇に指をあて、大和が言う。
 その手を彼女のパジャマへとうつすと、今度は当然のようにボタンを外し始めた。徐々に露わになる胸に唇をよせ、口付けをしながら、どんどん下へとおりていく。
「んっ」
「…… まだ、少しだけ熱いですね。だるかったら言って下さい。乱暴にはしませんから」
(やめるからとはならないのね)
 そう思うも那緒にはそれを口に出す余裕は無く、大和の手がブラを引っ張り下へずらす動きをただ見ていた。
 膨らみをペロッと舐め彼がきつく吸う。それと同時にズボンと下着へと手をかけ、一緒に脱がせていく。薄暗い部屋の中、あれよという間に上のパジャマを腕に通し、那緒の胸が見えている状態になった。恥ずかしさに那緒は抵抗しようと思うも、その余裕すら与えずに脚を開かせ、恥部へと大和が触れてきた。
「ごめんなさい、時間があればもっとゆっくり…… いたぶるような愛撫をしてあげられるのに」
 真面目な顔で物騒な物言いをし、前後へ指を動かし始めた。耳をも舐め、中へと舌を入れてくる。クチャクチャという音が耳の奥まで聞こえ、脳を直接愛撫されているような錯覚に体がゾクゾクしてきた。
 恥部の方からも、少しづつ聞こえる水音が大きくなる。
「…… 濡れてきましたね」
 そう囁く声がとても淫靡で、那緒の神経を刺激する。
「僕の指は気持ちいいですか?…… どんどん溢れてきて、那緒の太股まで滴り落ちてますよ?」
 囁くのを止めず、今の状況を大和が克明に伝える。
「…… い、意地悪しないで…… 」
 頰が赤くなり、享楽的な顔を両手で隠し、那緒が懇願する。
「意地悪なんかしませんよ、愛しているんですから」
 手の甲で那緒の果実のように赤く熟れてきた肉芽を擦り、恥部から溢れ出す蜜を指に絡め、陰裂の中へと沈めていく。
「ああああっ!」
 いやらしく音をたてながら、ゆっくりと入る大和の筋張った指の感触に那緒が喘ぐ。自らの手を噛み、必死に声を堪えた。
「我慢しないで、誰も聞いていない」
「大和さ…… んに…… きか…… れ…… んああっ」
「えぇ、そうですね。僕以外に聞かせる相手などいないんですから、好きなだけ声を出していいんですよ」
 指の動きを早め、奥へ奥へと深く挿入していく。声を我慢出来ず、叫ぶような喘ぎ声を出す那緒の姿に、大和が満足そうな笑みを浮かべた。
 胸の尖りを口に含み、丹念に舌の上で転がし軽く噛むと、那緒の声が一層激しくなる。
「噛まれるの、好きなんですね」
 クチュクチュと音をたてながら尖りを吸い、膣壁を指で丹念に撫でまわす。布団まで濡れるくらいに流れ出る蜜が、敷布に淫猥なシミを作っていく。
「那緒は濡れやすいんですね、素敵です」
 大和が自らの滾る怒張を那緒の脚へと擦りつけてきた。その感触に那緒の膣がギュッと閉まり、ヒクヒクと何かを求めるように動き出す。
「はは…… 那緒のここ、欲しいって言ってるみたいに動いてますよ?」
「いわないでぇ…… 」
 涙目で訴えるも、気持ちよさを求め、自然と腰が動く。
「恥ずかしがらないで?僕は嬉しいんですから」
 着ていた着物の帯をほどき、大和が布団の外へ投げるようにほおる。彼の露わになる引き締まった上半身に目を奪われ、那緒は視線がそらせなくなった。
「…… 僕の裸は、お好きですか?」
 首を傾げ問われる。
「え……?あ…… 」
 簡単に気が付かれてしまうくらい見ていた事が恥ずかしく、言葉に詰まった。
「いくらでも触っていいんですよ?」
 那緒の手首を掴み、自らの胸板に触れさせる。大和の体を優しく撫でると、彼がピクッと反応し頬が赤く染まった。
「大和さんも、き…… 気持ちいいんですか?」
 自分の行いに大和がこうも反応してくれた事に、少し那緒が驚いた。
「那緒に触れられていれば…… ね」
 余裕なく微笑む顔が愛おしく感じる。
 それと同時に、胸の奥をギュッと握られたような感じがし、とても嬉しいと思った。愛撫する喜びに目覚めてしまいそうだ。

 大和の下着に手をかけ、那緒が下へとずらす。脈打ち天を仰ぐようにそそり立つ彼の怒張が目の前に晒され、那緒の心臓が早さを増した。
 粗い互いの息がより激しくなり、那緒が口を開けながら上半身を起こす。それに答えるように大和が彼女の体から離れ、寄り添いながら膝をついて座った。
「はぁはぁ…… 」
 呼吸も整える余裕のない那緒がゆっくりと大和の怒張へと顔を近づけていく。那緒の後頭部を触り、大和は誘導するように優しく自分の方へと引き寄せる。
 怒張の先端からはぬめりをもった汁が滲み出し、那緒の嗅覚を刺激した。
 那緒の口から零れた涎が大和の怒張に滴り落ち、彼が背中をビクッとそらせる。ゆっくりとした動きで、緊張に震えながら、那緒は拙いながらも自身の口の中へと熱く滾るモノを入れていく。少し感じる苦さに眉をしかめるも、初めて感じる口への刺激が不思議と心地いい。
 ジュボジュボと音をたて、那緒が頭を動かし、大和に大きな快楽を与える。
「んあ…… ん…… くっ」
 愛しい人の口淫により大和は嬌声をあげた。
 那緒の髪を掴む手に、力が入る。初めて感じる那緒の口の感触が気持ちよ過ぎて、余裕のない顔しか出来ない。普段の穏やかな顔が快楽に歪むのを上目使いで見上げる那緒の瞳に、大和は背中に電気が走るような刺激を感じた。
 慣れない手つきで、大和の白い太股を擦り、怒張の根元を指で撫でる。その度に大和からは甘い声がもれ、那緒の恥部は更に潤いを増した。
「ごめんなさい…… もう…… 那緒に入れたい」
 那緒の肩を力強く掴み、大和が追い詰められた者のような声で懇願した。
 ジュルッ…… と音をたてながら、大和は那緒の口からの自身の怒張を抜き取る。即座に彼女を押し倒し、脚の間に入ると恥部に顔を沈めた。焦るような動きで蜜でグショグショに濡れそぼる膣の中へ舌を入れ、舐め上げる。
「んあああっ…… そんなっ…… ンンッ」
「お返しですよ」
 そう言ってはみたが、一体になりたい気持ちが隠しきれず動きが少し雑だった。それでもなんとか丹念に舐めながら、ほぐす様に再び指で膣内をかき回す。でも、最奥まで指は入るのに、一番気持ちが良い箇所には触れてくれない動きに那緒がやきもきしてきた。
 もっと中をちゃんと満たして欲しい…… その思いに心も体も支配され、那緒の中から理性というものが消えた。
「もう、い…… いれ…… て、んっ、ぁ」
 大和の腕を掴み、自分からすがるようにねだる。
「…… あぁ、そうでしたね。最初に入れたいと言ったのは僕なのに」
 那緒の淫猥な声に、大和が満足気に微笑む。
 勢いよく指を抜き取り、指に絡みついた蜜を那緒に見せつけるように舌を見せながら舐めあげた。そんな行動にすら快楽を感じ、那緒の体はもう限界に近かった。

「愛しい人に欲しがってもらえるなんて…… 僕は幸せ者です」

 那緒の脚を思いっきり開かせ、大和が間に入る。熱く滾り、彼女の口淫による刺激のせいで限界に近い怒張を恥部へとあてがった。
「愛していますよ、僕の可愛い花嫁様」
 重なる様に体を近づけ、耳の側で囁きながら一気に最奥を突き上げた。
「んあああっ!」
 背をそらし、はしたなく全開した那緒の口から涎が滴り落ちる。
「那緒…… 那緒っ……… 」
 何度も何度も愛しき者の名を呼びながら、膣壁を怒張で刺激する。互いの蜜で動きやすい膣の中はひどく熱く、膣壁はきつく彼を締め付けた。
 響く水音と互いの荒れる呼吸音が和室内を満たす。喘ぐ声は部屋中に広がり、静寂などという言葉とは無縁の世界が二人の間に広がった。
「んん…… ああっ…… きもちぃ…… ああああんっ」

「僕もですよ、那緒…… ずっと…… ずっと愛して、あげますからね」

 那緒の喜ぶ声に、大和の怒張が更に質量を増し、より大きな喜びを彼女に与える。
「大和っ…… 大和さぁ…… んああっ」
 彼の背へ手をまわし、那緒が必死にしがみ付く。
 それがとても嬉しくて、大和は恥部の中を怒張で激しくかき混ぜながら、彼女の頬に優しく口付けと落とした。
 全身が快楽に支配され、潤む目からは喜びの涙が落ちる那緒の姿に、これ以上はないと思えるくらいに満たされる大和の心。
「あああっだめぇぇぇっいやぁぁっよす…… ふぁぁぁ、っん」
 きつく大和に抱きつき、那緒が叫ぶ。
「いいんですよ…… イっても。もっともっと気持ちよくなって」
 手を下へと移動させ、那緒の完全に熟した肉芽をククッと指で撫でる。
「やぁぁっそこは…… ん…… あぁぁぁっ」
「気持ちいい、ですか?」
 大和が嬉しそうな顔で訊くも、那緒には答える余裕は無い。何度も何度も頷いた後、叫びに近い声をあげ、大和に力強く捕まりながら那緒が痙攣しだした。
 膣の中へと入る彼の怒張をきつく締め上げ、ビクビクッと全身を振るわせる。足の爪先にギュッと力が入ったが、ゆるりと力が抜けていった。
「——んっ!」
 那緒がくれる刺激の強さに、大和は強く目を瞑って果ててしまうのを堪える。
 肩で息をしながら那緒の全身からは完全に力が抜け、大和に抱きついていた腕が布団の上へと勢いよく落ちた。
 焦点の合わぬ虚ろな目で天井を見上げる那緒。
「…… よかった、気持ちよくなってもらえて嬉しいですよ」
 優しく微笑みながら、大和が那緒の視界へと入る。
 力なく微笑んで返す那緒の腰を掴み、大和は宣告せずに激しく動き出した。果てた体には強すぎる突然の刺激に、再び那緒の体は急激に熱を帯び始め、口からは喘ぎ声がもれる。
「…… 那緒の中…… とても気持ちいいですよ」
 か細い声で囁き、最奥を激しく打ち付ける大和の動きに那緒の頭は真っ白になるような感覚に捕われた。

「愛してますよ、心も体も…… 永遠に、那緒は僕ものだ」

 その言葉を最後に那緒の意識は完全に飛び、しばらく記憶のない状態になってしまった——

       ◇

 再び意識を取り戻した時、まだ膣の中に大和の存在を感じ、那緒の体がビクッとした。
「…… お目覚めのようですね、お姫様」
 汗の滴る顔を軽く傾け、大和が那緒に微笑みかける。
「え…… あ、私…… んあっ」
「ごめんなさい、何度もやめようとは思っているんですが…… 気持ちがおさまらなくて…… 」
 そう言う大和は、動くのを止めない。
「おかしいですよね、何度も那緒の中で果ててるというのに」
 大和が妖艶な笑みを浮かべ、那緒を見詰める。
「…… なんど…… もって——」
 声が掠れ、上手く言葉にならない。
「気を失っていてもね、那緒の体がちゃんと僕に応えてくれるんですよ」
 恥部の方から水音をたてながら、大和が那緒の胸の尖りを指ではじく。
「どこを触っても可愛く反応してくれるもんなだから、あれからもずっと抱き続けていたんです。もう四時になってしまったんですけどね」
 ニコッと場違いな笑みを浮かべ、大和がその尖りへと口を近づけ吸い上げた。刺激の強さにビクッと那緒の体が震える。
「ほら…… 嬉しそうに」
 頬をペロッと舐め上げ、大和がまた激しく腰を動かした。
「——あっ、あっ、あああっ」
 再び涙が零れ落ち、落下するような速さで那緒の体が快楽の渦に沈み込む。
「もっと…… ずっと愛し合いましょう?」


 とどまる事を知らぬ大和の愛情と性欲に支配されながら、永遠かと錯覚してしまうような夜を那緒は経験した。だが、大和への愛情が薄れる事などはなく、彼の深過ぎるともとれる愛に包まれながら、これからの毎日を過ごしていくだろう。

「愛していますよ、那緒」
「私も…… 」
 互いに交わす口付けは、永遠の愛の誓い。


【終わり】
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