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本編
愛玩少女〜第5話〜
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桜子が恋心を自覚した日から、また幾日かが過ぎた。
その間、前以上にハクが一緒に居てくれる事が多くなり、彼女の心臓は高鳴りっぱなしだった。食事を与えてもらい、着る物を用意され、本を読んでもらい、子守唄を聴きながら一日を終える。今までと何ら変わりないはずなのに、全てが急に特別な事に思えてくるのだから、恋心とは恐ろしいモノだ。
だが、どうしたって欲求は持ってしまう。
幸せだが何かが物足りない。
そうだ…… 外が見たい。
ふとそう思った途端、桜子はこの部屋に窓が無い事に違和感を抱いた。まるでここは閉鎖病棟みたいだ。清潔で色々な物は揃っているが、部屋から出る事も出来ず、外も見えない。外出してみたいとはハクを色々と心配させそうでちょっと言い辛いが、せめて部屋を出て外を見る事くらいは出来ないだろうか?そう思った桜子は、ベッド側にある椅子に座って読書をしていたハクに声をかける事にした。
「ハクさん、ハクさん」
「んー?どうしたの、何か欲しい?あ、お腹が空いたとか?」
「いえ、そこまで食いしん坊じゃ無いですよ」
「そう?じゃあ何だろう。何かあった?」
「あ、あの…… 私、外が、見たいです」
「…… 外?」と言って、ハクの顔色が険しくなった。
(まさかココから出たいのか?…… いや、見たいとしか言っていないし、考え過ぎか)
口元に手を当て、一瞬ハクは思案したが、すぐに「いいよ、見せてあげる」と笑顔に戻った。
「本当ですか?やった!」
考えている事はやはり言ってみるものだ、と桜子が喜ぶ。
部屋を出る為にとベッドの上を這い、そこから降りようとしたのだが、「そこで横になって」と止められてしまった。
(…… な、何でだろう?まさか!お、お、お姫様抱っこをして運んでくれるんでしょうかっ!はわぁぁぁ)
想像し、桜子が勝手にボンッと顔を真っ赤にする。
どどど、どうしよう。重く無いかな、変な匂いとか汗っぽかったらどうしよう?と焦り、そわそわとしてしまう。だけど気持ちは正直だ。言われるままベッドに横になり、さあこい!と照れくさい気持ちのまま彼女はギュッと瞼を閉じた。
「よく出来たね。さ、いいよ…… 目を開けてごらん?」
目を開けろと耳元で言われ、ひゃんっと桜子が体を震わせた。だが、抱っこによる浮遊感どころか、触れられた感覚も無いのに、何故目を開けろと言うのだろうか?抱き上げる瞬間をしっかり見ておけと、そういう意味?と不思議に思いながら、ゆっくり瞼を開けた桜子だったのだが、次の瞬間には言葉を失い、目を見開いていた。
「…… 」
「どう?ちょっとすごいだろう?」
誇らし気な声が桜子の耳元で響く。
「綺麗な青空だろう?夕方には夕日が、夜中には星空だって見せてあげられるよ」
そう言って、ハクも桜子が釘付けになっている天井を見上げた。
今まではほぼ真っ白だったはずの天井が、全て真っ青な空に支配されている。青空の映像を映しているなどではなく、それはとても大きな天窓だった。
「すごい…… 。綺麗ですね、とても。そっか…… 今日は、晴れていたんだ」
視界いっぱいに広がる青空のおかげで、草原に寝転がっているみたいな気持ちになる。白いだけの部屋に慣れてきていたので、青い色が強烈に彼女の心を刺激し、少し目元が潤んだ。
「魔法みたいです。さっきまで、ただの真っ白な天井だったのに」
「魔法だからね、ふふふ」
「え!」と声をあげ、桜子が体を起こす。
「あれ、信じちゃった?やだな、流石にそんな訳無いだろう?」
「…… 今のって、冗談、だったんですか?」
ちょっと拗ねた声で桜子が訊く。
「うん」と答えるハクはちょっと悪戯っ子みたいな顔だ。
「一瞬でも信じるとは思わなかったなぁ、あははは」
「だ、だ、だって!急に天井が青空になったら、もしかしって思っても仕方ないじゃないですか。何も無かったのに…… あれ?もしかしてコレって、本物の空じゃないとか?」
「いいや、本物の空だよ。天井部分は一面が天窓になっているんだ。普段は眩しいから遮光状態にしてあるけどね。君が暇で暇で、退屈してきた時にでも教えてあげようと思って、今まで秘密にしていたんだよ」
「本物の…… 空」
ボソッと呟き、改めて天井を見上げる。真四角に切り取ったみたいな空がとても眩しくって、桜子はスッと瞼を細めた。
「気に入ってもらえた?あぁそうだ、紫外線はカットされているから、君の白いお肌にも優しいよ」
「ふふ、お気遣いありがとうございます」
「どういたしまして。でも今の技術力ってすごいよね、こんなのあったらいいなぁと思って探したら、本当にあるんだから」
「科学って、まるで魔法ですね。私何もわからないから、どっちも大差無いかも」
「あはは、わかるよ。僕だって…… 知らない事だらけだからね」
楽しそうに笑っていたのに、次の瞬間、ゆっくりと空を見上げたハクの瞳はちょっと寂しそうだった。
「…… 僕も、何も知らない。わからない…… 今の君と何ら変わらないんだ」
「…… 」
何と返していいか思い付かず、桜子がそっと彼に寄り添って、ハクの手を握った。
「気遣ってくれているのかい?優しいね、桜子は。でも大丈夫だよ——」
(この世の中がクソだって事だけは、ちゃーんと知っているから、ね)
だから僕が桜子を守らないと。
ゴミだらけな世界なんか、彼女は一生知らなくていいんだ。
全部全部、全て消し去ってあげるね…… 。
「…… 大丈夫、ですか?」
桜子が小声でハクに問いかける。彼の表情が異様に険しく、顔色も悪くなっていたからだ。
「…… あぁ、うん。平気だよ、ありがとう」
視線を空から桜子に戻し、穏やかにハクが微笑む。心配そうに自分を見詰める彼女の瞳に、自分しか写っていない事に安堵しながら、彼は『この少女の事は僕が守るんだ』と改めて決意したのだった。
その間、前以上にハクが一緒に居てくれる事が多くなり、彼女の心臓は高鳴りっぱなしだった。食事を与えてもらい、着る物を用意され、本を読んでもらい、子守唄を聴きながら一日を終える。今までと何ら変わりないはずなのに、全てが急に特別な事に思えてくるのだから、恋心とは恐ろしいモノだ。
だが、どうしたって欲求は持ってしまう。
幸せだが何かが物足りない。
そうだ…… 外が見たい。
ふとそう思った途端、桜子はこの部屋に窓が無い事に違和感を抱いた。まるでここは閉鎖病棟みたいだ。清潔で色々な物は揃っているが、部屋から出る事も出来ず、外も見えない。外出してみたいとはハクを色々と心配させそうでちょっと言い辛いが、せめて部屋を出て外を見る事くらいは出来ないだろうか?そう思った桜子は、ベッド側にある椅子に座って読書をしていたハクに声をかける事にした。
「ハクさん、ハクさん」
「んー?どうしたの、何か欲しい?あ、お腹が空いたとか?」
「いえ、そこまで食いしん坊じゃ無いですよ」
「そう?じゃあ何だろう。何かあった?」
「あ、あの…… 私、外が、見たいです」
「…… 外?」と言って、ハクの顔色が険しくなった。
(まさかココから出たいのか?…… いや、見たいとしか言っていないし、考え過ぎか)
口元に手を当て、一瞬ハクは思案したが、すぐに「いいよ、見せてあげる」と笑顔に戻った。
「本当ですか?やった!」
考えている事はやはり言ってみるものだ、と桜子が喜ぶ。
部屋を出る為にとベッドの上を這い、そこから降りようとしたのだが、「そこで横になって」と止められてしまった。
(…… な、何でだろう?まさか!お、お、お姫様抱っこをして運んでくれるんでしょうかっ!はわぁぁぁ)
想像し、桜子が勝手にボンッと顔を真っ赤にする。
どどど、どうしよう。重く無いかな、変な匂いとか汗っぽかったらどうしよう?と焦り、そわそわとしてしまう。だけど気持ちは正直だ。言われるままベッドに横になり、さあこい!と照れくさい気持ちのまま彼女はギュッと瞼を閉じた。
「よく出来たね。さ、いいよ…… 目を開けてごらん?」
目を開けろと耳元で言われ、ひゃんっと桜子が体を震わせた。だが、抱っこによる浮遊感どころか、触れられた感覚も無いのに、何故目を開けろと言うのだろうか?抱き上げる瞬間をしっかり見ておけと、そういう意味?と不思議に思いながら、ゆっくり瞼を開けた桜子だったのだが、次の瞬間には言葉を失い、目を見開いていた。
「…… 」
「どう?ちょっとすごいだろう?」
誇らし気な声が桜子の耳元で響く。
「綺麗な青空だろう?夕方には夕日が、夜中には星空だって見せてあげられるよ」
そう言って、ハクも桜子が釘付けになっている天井を見上げた。
今まではほぼ真っ白だったはずの天井が、全て真っ青な空に支配されている。青空の映像を映しているなどではなく、それはとても大きな天窓だった。
「すごい…… 。綺麗ですね、とても。そっか…… 今日は、晴れていたんだ」
視界いっぱいに広がる青空のおかげで、草原に寝転がっているみたいな気持ちになる。白いだけの部屋に慣れてきていたので、青い色が強烈に彼女の心を刺激し、少し目元が潤んだ。
「魔法みたいです。さっきまで、ただの真っ白な天井だったのに」
「魔法だからね、ふふふ」
「え!」と声をあげ、桜子が体を起こす。
「あれ、信じちゃった?やだな、流石にそんな訳無いだろう?」
「…… 今のって、冗談、だったんですか?」
ちょっと拗ねた声で桜子が訊く。
「うん」と答えるハクはちょっと悪戯っ子みたいな顔だ。
「一瞬でも信じるとは思わなかったなぁ、あははは」
「だ、だ、だって!急に天井が青空になったら、もしかしって思っても仕方ないじゃないですか。何も無かったのに…… あれ?もしかしてコレって、本物の空じゃないとか?」
「いいや、本物の空だよ。天井部分は一面が天窓になっているんだ。普段は眩しいから遮光状態にしてあるけどね。君が暇で暇で、退屈してきた時にでも教えてあげようと思って、今まで秘密にしていたんだよ」
「本物の…… 空」
ボソッと呟き、改めて天井を見上げる。真四角に切り取ったみたいな空がとても眩しくって、桜子はスッと瞼を細めた。
「気に入ってもらえた?あぁそうだ、紫外線はカットされているから、君の白いお肌にも優しいよ」
「ふふ、お気遣いありがとうございます」
「どういたしまして。でも今の技術力ってすごいよね、こんなのあったらいいなぁと思って探したら、本当にあるんだから」
「科学って、まるで魔法ですね。私何もわからないから、どっちも大差無いかも」
「あはは、わかるよ。僕だって…… 知らない事だらけだからね」
楽しそうに笑っていたのに、次の瞬間、ゆっくりと空を見上げたハクの瞳はちょっと寂しそうだった。
「…… 僕も、何も知らない。わからない…… 今の君と何ら変わらないんだ」
「…… 」
何と返していいか思い付かず、桜子がそっと彼に寄り添って、ハクの手を握った。
「気遣ってくれているのかい?優しいね、桜子は。でも大丈夫だよ——」
(この世の中がクソだって事だけは、ちゃーんと知っているから、ね)
だから僕が桜子を守らないと。
ゴミだらけな世界なんか、彼女は一生知らなくていいんだ。
全部全部、全て消し去ってあげるね…… 。
「…… 大丈夫、ですか?」
桜子が小声でハクに問いかける。彼の表情が異様に険しく、顔色も悪くなっていたからだ。
「…… あぁ、うん。平気だよ、ありがとう」
視線を空から桜子に戻し、穏やかにハクが微笑む。心配そうに自分を見詰める彼女の瞳に、自分しか写っていない事に安堵しながら、彼は『この少女の事は僕が守るんだ』と改めて決意したのだった。
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