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【最終章】
【第2話・こぼれ話】治安(弓ノ持棗・談)
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店内の隅に移動し、“ナナクサ”さんと立ち話をしていた中での事。家具屋さんで会うとは思わなかったというお互いの話から始まり、彼が『妖怪ばかりが暮らすシェハウスに住んでいる』という話を聞き、その流れでボクは“ナナクサ”さんに『自分も、近日中には宵闇市の市内に部屋を借りられそうだ』という話をした。神憑物件と隣接しているおかげもあって他よりも飛び抜けて治安が良いという点を喜んでいると、“ナナクサ”さんは不思議そうに首を傾げた。
「んー。でも別に神憑物件近傍に拘らなくても、治安なんて、今のご時世、何処もそれ程悪くはないですよねぇ?」
よくよく考えずとも確かにそうだ。テレビやネットなどでニュースを見ていたって、やれ『カモの親子が線路を渡りそうで危なかった』だの、明日の龍神様のお散歩ルート案内とか、悪いニュースなんて野菜の価格が上がったとか乾燥が原因のボヤ騒ぎがあったとか。あとは怪異被害の報告がちょっと続くくらいで、歴史の勉強の時に習った様な強盗だ殺人だという報道なんか殆ど無い。もしあっても年に数件くらいなもんだ。国同士の揉め事ですら最終兵器とも言える能力を持った“平和の象徴・白鳩”が出向いて行って強制的平和状態にするからここ百年以上一度も勃発していない。
(なのに何でボクはやたらと治安を気にしてるんだ?確かに今でもストーカーとかのトラブルくらいならあるけど、義兄達じゃあるまいし、ボクには無関係な話だろ)
「……そう、ですよね。でもなんかめっちゃ治安には拘りたくって」
「もしかして何か原因でもあるんですか?あ、言いたくないから、今の問いはスルーして下さいね!」
マジでめっちゃ良い人だ。となるとやっぱちゃんと考えてからこっちも返事したくなる。
「んー……。ウチの両親が、酔っ払いの運転していた車に突っ込まれて亡くなってるって件が多少影響はしているかもですけど、それ以外には特には思い付かないですね。なのに居住地域の治安に関してはもう、『虫の知らせ』レベルですけど、ちょっと考えるだけで何かと不安で……」とまで言ったところで、ハッと背後に居るひっつき虫の存在を思い出した。
(もしかして、メランが何かしてるのか?)
そう言えば『虫の知らせがどうこう』って話を前にしていた。普通なら実体のない彼らは直接守護対象を守る事は出来ず、“守護天使”に出来るのはせいぜいそのくらいの警告だとか何とか。ならば今でもきっと可能だろう。
(……そんな事を、今だにまだじわりとやってる理由まではわからんけど)
そんな事を考えながらちらりと後ろを見る。するとメランが『お嫁さんの考えくらいお見通しだよ』とでも言わんばかりの顔でふっと笑い、コツンと頭をくっつけてきた。
「自分の伴侶を守りたい気持ちが、ちょっと暴走しちゃっただけだよー」
思えば、最初に『何処かに部屋を借りたい』と考えていたのはまだ実体を持ったメランとは出逢う前だった。あの時も影ながらもボクを守ろうと必死だったのかと思うと胸の奥がじわりと温かくなってくる。今も表立って口出しなどはせず、『虫の知らせ』程度に抑えているのは、ちゃんと選択肢も与える為なのだろう。
ボクは本当に心からメランに愛されている。
またそう実感し、気恥ずかしくなりもしたが、嬉しさの方がずっと大きかった。
「んー。でも別に神憑物件近傍に拘らなくても、治安なんて、今のご時世、何処もそれ程悪くはないですよねぇ?」
よくよく考えずとも確かにそうだ。テレビやネットなどでニュースを見ていたって、やれ『カモの親子が線路を渡りそうで危なかった』だの、明日の龍神様のお散歩ルート案内とか、悪いニュースなんて野菜の価格が上がったとか乾燥が原因のボヤ騒ぎがあったとか。あとは怪異被害の報告がちょっと続くくらいで、歴史の勉強の時に習った様な強盗だ殺人だという報道なんか殆ど無い。もしあっても年に数件くらいなもんだ。国同士の揉め事ですら最終兵器とも言える能力を持った“平和の象徴・白鳩”が出向いて行って強制的平和状態にするからここ百年以上一度も勃発していない。
(なのに何でボクはやたらと治安を気にしてるんだ?確かに今でもストーカーとかのトラブルくらいならあるけど、義兄達じゃあるまいし、ボクには無関係な話だろ)
「……そう、ですよね。でもなんかめっちゃ治安には拘りたくって」
「もしかして何か原因でもあるんですか?あ、言いたくないから、今の問いはスルーして下さいね!」
マジでめっちゃ良い人だ。となるとやっぱちゃんと考えてからこっちも返事したくなる。
「んー……。ウチの両親が、酔っ払いの運転していた車に突っ込まれて亡くなってるって件が多少影響はしているかもですけど、それ以外には特には思い付かないですね。なのに居住地域の治安に関してはもう、『虫の知らせ』レベルですけど、ちょっと考えるだけで何かと不安で……」とまで言ったところで、ハッと背後に居るひっつき虫の存在を思い出した。
(もしかして、メランが何かしてるのか?)
そう言えば『虫の知らせがどうこう』って話を前にしていた。普通なら実体のない彼らは直接守護対象を守る事は出来ず、“守護天使”に出来るのはせいぜいそのくらいの警告だとか何とか。ならば今でもきっと可能だろう。
(……そんな事を、今だにまだじわりとやってる理由まではわからんけど)
そんな事を考えながらちらりと後ろを見る。するとメランが『お嫁さんの考えくらいお見通しだよ』とでも言わんばかりの顔でふっと笑い、コツンと頭をくっつけてきた。
「自分の伴侶を守りたい気持ちが、ちょっと暴走しちゃっただけだよー」
思えば、最初に『何処かに部屋を借りたい』と考えていたのはまだ実体を持ったメランとは出逢う前だった。あの時も影ながらもボクを守ろうと必死だったのかと思うと胸の奥がじわりと温かくなってくる。今も表立って口出しなどはせず、『虫の知らせ』程度に抑えているのは、ちゃんと選択肢も与える為なのだろう。
ボクは本当に心からメランに愛されている。
またそう実感し、気恥ずかしくなりもしたが、嬉しさの方がずっと大きかった。
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