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【第3章】
【第8話】熱・前編(弓ノ持棗・談)
しおりを挟む人生とは、本当に何が起こるかわからないものだ。
幼少の頃のボクは祖父母の年齢的に『死』をありのままに受け止めていた。だけど実父が他界し、しばらくして母が再婚したのにその相手と共に事故で亡くなった時は流石にその不運を恨んだ。まだギリギリ未成年であったボクは義父の連れ子であった双子達と三人で暮らす事になり、数ヶ月後には義兄達の勝手な意向で高校を中退させられた。……そこまでならまだ理解は出来る。『そういう運命だったんだ、仕方がなかった』と、諦めながらもその事実を受け止められるかはどうかは、別として。
だけど、義兄達から逃げる様に家出をした事を転機とし、実体化した自称・堕天済みの守護天使に『お嫁さん』扱いされる事になる未来なんてちっとも予想なんか出来てやいなかった。そのうえ出逢い方が最悪だった彼に対して徐々に好意を抱く事になるだなんて想像するはずもなかった。
ましてやダンジョンの最下層にある廃墟に近い洋館に来てホッとする日が来るだなんて、尚更だ。
あのまま木陰でメランが欲望に流されたりせずに済んで本当に良かった。不要なシーンは後で編集作業をしてカット出来るとはいえ、その為に自分達の痴態を第三者視点で改めて見直すとかは絶対に避けておきたいからな。『コレは一体何てプレイだ?』って感じになるし。なので、不覚にも、此処に飛ばされた事を心底有難く思う。——でも、気になる点はちょっとあった。
「あ、あの、大丈夫なんですか?急にこっちに転移して」
「大丈夫だよー。ちゃんと転移石を握り潰すフリをしてから、こっちに来たからね。この後、もし編集し忘れたまま公開されても何も問題は無いよ」
命の危機を感じながら走り抜けた洋館の一室にあるベッドの上に押し倒された状態になりながら、まるでこの状況から気を逸らすみたいにした問い掛けだったのに、メランは笑顔でちゃんと答えてくれた。
「……でも、あの、だからって直接寝室にってのは、流石にどうなんでしょうね?」
躊躇いがちにボクがそう訊くと、きょとんとした顔をされてしまった。
「んー。もしかして、此処以外の場所が良かった?こういう初めてはやっぱり落ち着いた場所でゆっくりとと思ったんだけど、僕のお嫁さんは意外とマニアックだったんだね。ベッドでが嫌なら風呂場に移動する?廊下や食堂とかでもいいけど」
(んな訳あるか)
「マジでやめて下さい」
難易度の高い提案に対して呆れ顔になりそうな顔面に、努めて無表情を浮かべる。彼なりの冗談であると受け止めて『何それウケる』と笑って返すとかは自分の性格的に無理だったからだ。そんなボクとは違い、メランの方は今もまだ随分と興奮気味みたいだ。興奮度の差がえげつない。メランの瞳孔なんかガチでハートマークみたいになっている。今はまだ両腕で体を支えてボクを見下ろしてきている状態だが、もうこのまますぐにでも覆い被さってきそうな雰囲気だ。
「あ、あの、まさか……今から、スルんですか?」
「え?しないの?スルよね?だって、さっきの状態って、どう考えたってそういう雰囲気だったでしょう⁉︎」
息荒く訊かれても困る。メランの中の『そういう雰囲気』のハードルはどう考えたって低過ぎだ。こちとら今さっきやっと彼への好意を自覚し始めたばかりだというのに、デートもキスもなんもかんもすっ飛ばしていきなり深い行為に及ぶとか、恋愛初心者相手にコレはあまりに難易度が高過ぎやしないか?
(あ、いや、キスはもう出会い頭に近いタイミングでされているな。今までダンジョンで過ごした時間を『デートだった』と脳内で捏造すれば一応順序は踏んでいる事になる、のか?)
そんな弁護を自分に対して始めてしまうのはきっと、悲しいかな、性的な行為に対して少なからず興味津々な年頃なせいかもしれない。でもまぁ……両者が胸に秘めている愛情の重さは年季の差もあり全然違うだろうが、両想いである事だけは間違い無い。タチの悪い冗談や揶揄いなんかじゃないって、今なら確信出来る。だけどボクらはまだあやふやな関係だ。『それなのにスルのか?』と一瞬思ったが、最初からボクを“お嫁さん”と断言し続けている彼的にはもう、健全且つ一般的な順序を踏む必要性は無いと考えているのだろう。
(……まさか、ボクからの『好き』には興味が無いのか?)
——いや、違うな。メランがボクに向けているその表情的にもう、彼はボクが、己に対して恋愛的な好意を抱き始めている事に気が付いているんだ。だから敢えて言葉にせずとも良いとでも思っているのだろう。改めて感情を言葉にするのはかなり照れくさいのでありがたいが、このまま抱かれるのかと改めてちゃんと考えた途端、心臓が馬鹿みたいに鼓動を早めた。
(……だとしても、ちょっと待て。そもそもボクが受け手側になる一択なのか?……あ、いや、『じゃあ僕を抱けるの?』って、もしメランに訊かれでもしたら、それはそれでシミュレーション不足で無理な気がするっ)
色々考え過ぎて百面相状態になっているからか、メランがにまにまと顔を緩めている。そんなボクの頬を愛おしそうに撫でてくる手があまりに優しく、そして熱くって、悔しい事にこのまま流されてしまいたくなってきた。
(覚悟を、決めるしかなさそうだな)
「……あの、知ってるとは思うますけども、初めてなんで、その、お手柔らかにお願い、します」
「それって、誘ってる通り越して、煽ってるの?——あぁぁもう無理っ!初めてくらいは理性的にとか、絶対に出来ない!」
ボソボソとした声で告げたボクにメランが下半身を覆い被せてきた。そして既にずっと勃起状態にあったお互いの淫部を当て合い、器用に擦り上げてくる。悔しいかな、布越しだっていうのに気持ちが良い。
「あぁーもうっ、前戯とかたっぷりしないとなのに、早く棗のナカに挿れたくって堪らないよ……」
切実な思いに溢れた瞳でボクを見詰め、微かに掠れた声でメランが言う。
「い、いきなりソレは無理じゃないですか?ボクは女性じゃないし、後ろって確か……その、色々な処置や慣らしが必要、ですよね?」
興味があった訳じゃないから詳しくはないが、そのくらい想像はつく。本来は出す為の箇所であって挿入る為のアナじゃないんだから。
「そんな心配はいらないよ、大丈夫」と言いつつボクの脚に跨ったまま座り、上半身を起こすと、メランはボクの着ている服を順々に脱がし始めた。少し震える手でボタンを外し、ジャケットと中のシャツを脱がせてベルトに手をかけていく。一瞬で衣類を消す事だって出来るだろうに、まるでボクに『これからいやらしい事をするんだぞ』とわからせるみたいに。その間何度も何度も唾液を飲み込む音が微かに聞こえ、否応無しにメランの興奮度がこちらにも伝わってきた。
「此処は冒険者立ち入り禁止区域ではあれどもダンジョンだからね。潤沢に溢れかえっている魔素を利用すれば——」
履いていた古典的な軍服風のズボンも脱がされ、他にはもうボクサーパンツくらいしか残っていないという段階になった時、己の下腹部に違和感を覚えた。
「ほら……もう、すっごい濡れてる」
ボクサーパンツも脱がされた途端に尻臀にぬるりとした液体が伝った。ソコが勝手に濡れるはずがないからメランが何かしたのは確実だ。
「あぁぁっ、ごめんね?ちょっとだけのつもりだったんだけどなぁ。……加減をミスったせいでシーツにまで垂れ落ちて、お漏らしでもしたみたいになっちゃってるや」
そう言われてカッと顔が熱くなる。自分だけ一糸纏わぬ姿になっているってだけでも恥ずかしいのに、わざといじめるみたいな発言はやめてくれ。
「わぁ、棗のもすっごい勃ってる。君は男なのに、愛液をたっぷりナカから垂らしちゃって興奮しちゃった?もうコレさぁ、過去一の勃起具合なんじゃない?」と指摘しながら、メランがボクの陰部の鈴口を指先でつつっと撫でる。後ろの孔からだけじゃなく、ソコからも既に先走りの汁が垂れ落ちるくらいに溢れ始めていて、彼の指先の滑りを助けている。
メランの指がそっと動くだけで言葉にならない声をあげてしまい、腰が勝手に跳ねた。そんな箇所を他人に触られた事なんか一度も無いせいか、与えられる快楽を過剰に拾いあげてしまっている。
「あぁーもう、ホントかぁわぃー」
雑に吐息を吐き出しながらメランの顔が近づいてきて、しっとりと濡れた唇を重ねてきた。最初は啄むみたいに触れ合っているだけだったのに、すぐにその行為は激しさを増していき、今ではもう『待て』を知らない獣に噛み付かれているみたいだ。驚き、息苦しさも重なってうっすらと口を開けた途端に容赦なく口内に彼の熱い舌が侵入してくる。そしてその舌は好き勝手にボクの口内を蹂躙し、思考力を無理矢理溶かしていく。歯を舌先でなぞられ、舌が絡み合い、ねっとりとした口付けから解放された時にはもう、ボクの体はもっと強い刺激を欲し始めてしまっていた。
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