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【第3章】
【第3話】優越感(弓ノ持棗・談)
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所謂『不良』と大人達に呼ばれる人や普段の素行が悪い者が御老人を助けていたり、捨て猫を拾って帰ったり。そんな『意外な一面』を見た時に、普段との落差が胸に刺さって心を奪われたり、好感度がギュンッと上がったりする事があるという。じゃあ、そんな話を思い出している今のボクの状況がそれに近いのかい?と、もし誰かに訊かれたとすると、『そうだ』とも言い難い。だけど当たらずとも遠からずといった所ではある気がする。でも、変態であるはずのメランが、今はただ常識的な範囲での行動と発言をしているというだけなので、ギャップにやられる様なパターンに当てはまるのかは疑問だなぁ。——などと考えながら、二階層目に向かう階段を黙々と降りて行く。
(……いやいや。そもそもボクは、以前との落差に驚いているだけだし)
不意に、ちらりとまともな一面を垣間見た時には罪悪感ばかりが募ったのに、今みたいに常時そういった状態でいてくれていると、不覚にもメランへの好感度が徐々に上がっている気はする。あくまでもヒトとしての好感度であって、恋愛的なものではないけれども。
「ちょっと湿度が上がってきているから足元に気を付けてね。滑るかもしれないから」
「了解です。気を付けます」
「もし不安だったら、手を握ろうか?」
「だ、大丈夫です!」と慌てて返すと、「そっかぁ、わかった」とメランはあっさり引き下がった。
「……んー。後で、この階段のシーンは編集でカットした方が良さそうだね。長いし、薄暗いし、何もないし」
「んですね。BLカプのはずなのに友人パーティーと大差なかった二人が、暗がりでは仲良く手を繋いでいたとかしてたんなら、見所っぽく出来るんでしょうけど」
直様失言であった事に気が付き表情が固まる。この返しでは、反射的に断ったくせして、より親密さをアピールするシーンを作る為に逆提案した様なもんじゃないか。
(まさか、ツンデレって事になるのか!?コレは)
そもそも『ツンデレ』の定義が、『アンタの為なんかじゃないんだからね!』の様な古典的テンプレ以外となるとさっぱりわからない。そのせいか答えが得られず数多の疑問符が頭の中に浮かぶ。
「そっかぁ、そういった手法もあるんだねぇ」と言い、階段途中で立ち止まって、メランが「んじゃ、やっぱり繋いでおく?」と手を差し出してくる。まるでダンスにでも誘ってくるかの様な華麗さだ。怪盗っぽいローグの衣装と洒落た仮面のせいか余計にそう見えてしまう。
「……え、遠慮しておきます。無駄に長いし、“バト”の提案通り全部カットしちゃいましょう!」
「わかった。そうしようか」
「……あ、でも」
「でも?」
「か、肩だけ貸して貰えます?……やっぱちょっと階段滑るんで」
「もちろんだよ」と言ってメランが前を向く。ボクが彼の肩に手を置くと、彼はゆっくり階段を降り始めた。やはり、徹底してただの補助だ。ありがたい対応なのに何でかちょっとモヤッとする。
メランがボクを『お嫁さん』だなんだと言っていたのは、『もしかすると“人間”を揶揄っているだけなのかなぁ』と思ったからかもしれない。それか、ボクとの関係への正しい表現が思い付かなくって、テキトウにそう口にしてしまっただけか。こちとら他人から好意をぶつけられた経験なんか一度も無いんだから、何処までが本気で、何処からが冗談なのかなんてわからないのに。
(……まず前提として、堕天したくらいで、“天使様”だったヒトが“人間”なんかに本気で惚れるはずが無いよなぁ)
殆ど会話もなく、狭いうえに薄暗いからか、階段を降りる間中ネガティブな事ばかり考えてしまう。そもそもメランは、要約すれば『君に惚れ込んだせいで堕天した』的な事をちゃんと話していたのに、まともにその言葉を受け止めていなかったせいですっかりその話が記憶から抜け落ちつつあるボクは、根本を見誤ったまま、この妙にヤキモキした感情を少しの間だけ抱える事となった。
◇
長い長い階段をやっと降りきった。これでやっと二階層目に到着だ。体感的には東京タワー分くらいは降りて来た気がする。そのせいかひどく疲れた。これが登りではなかった事を感謝しておこう。登りだったなら今頃此処で死んでいたと思う。
綺麗な黄昏時だった一階層目とは違い、二階層目はうっすらと星らしきものが上空にあり、上の階層よりも若干夜に近づいた感じがする。真夜中って程ではないが黄昏時よりもちょっと薄暗く、そのせいでこの周辺がまだ草原地帯であるにも関わらず見晴らしはあまり良くない。外界とは違って“空”に該当する箇所に月が無いから余計にそう感じる。草原のそこかしこに小さな池が点在しているから湿度の高さはそれのせいか。ぬかるみとまではいかないが若干地面が柔らかい感じもするから接近戦が主体のパーティーだと少し苦戦しそうだ。
(遠距離戦闘を主体にしておいて良かったな。こんなん、転びでもしたらすぐに汚れだらけになりそうだや)
現在の時刻を確認すると、そろそろお昼時が近かった。どうりでお腹が減ってきているわけだ。……正直、ちょっとお手洗いに行きたかったりもしている。生理現象の宣言を他者にするのはちょっと恥ずかしいが、そろそろ荷物整理もしておきたいし、一度地上に戻る事を提案してみるか。
「“バト”、ちょっといいですか?」
「ん?」
軽く手を挙げ、「一度地上に戻りませんか?腹も減ったし、荷物の整理とかもしておきたいんで」と伝えた。
「あぁ、そうだね。そうしようか。丁度二階層目に到達出来た所だから、タイミング的にも悪くないね」
「この階層の地図を事前に手に入れた状態で回れば、もっと効率よく攻略出来ますしね」
「一階層目では、『攻略している』というよりかは、敵から敵に移動していっただけって感じだったからなぁ。まぁ最初の階層なんて戦闘や“ダンジョン”ってものに慣れるためのステージって感じだから、それでいいと思うけど」
「ですね。それに、何かをしないと先には進めないって仕掛けも無かったし、それ以外にやりようがないって感じでもあったし」
「んだね。じゃあ早速戻ろうか」と言い、メランが何処からともなく“転移石”を用意してボクの手にぽんっと渡してきた。前回とは違い、色はちょっと白っぽい。他の色も沢山混じっていて若干安っぽい感じはするものの、宝石のオパールみたいな見た目だ。
(これは“黒”くないし、大丈夫……だよ、な?)
前回渡された転移石は黒かった。しかも砕いた瞬間に移動した先は最下層だったから、『本当にこれを砕いても大丈夫なんだろうか?』と不安がよぎる。
「心配せずとも、これはちゃんと外に戻る転移石だよ」
ボクの不安を察したのか、メランが耳の近くでそっと囁く。また耳たぶに彼の唇が擦り、驚いたせいで体に変な力が入って『バキッ!』と見事な音を立てて手の中の石を砕いてしまった。『またやっちまった!』と思ったのも束の間、今回はちゃんとダンジョンの入り口付近にぱっと移動出来た。それなりのサイズの石が周囲にずらっと並び、ストーンサークルみたいになっている。ダンジョンへの入り口からだと、意識しないと気が付かないような場所に転移石用の出口があったのか。
「ね?大丈夫だったでしょう?」
顔を覗き込まれ、腰を折ったままメランがニッと笑う。…… 何でか彼はダンジョン内で着ていた服のままだ。慌てて自分の服装を確認すると、ボクの方はちゃんと普段着に戻っていた。
(メランがその服装のままは目立つぞ。それに、視覚的にもヤバイ!)
そう思ったけどもう時既に遅く、服装を指摘しようと口を開いたと同時に、「——あのぉ」と女性の声がすぐ近くから聞こえてきた。
「そのコスプレって、“マジックシリーズ”のローグ専用装備のものですよね?」
瞳を輝かせた女性が二人、メランに声を掛けてきた。するとメランは「うん、そうだよ」と返し、女性達とボクとの間にすっと立ち位置をずらした。まるで自分の背後にボクを隠すかのような行動だ。
(『コスプレ』?——あ、そっか)
ダンジョン内部では魔素で作られた装備を着ている状態であるボクらは外に出たら元の服装に戻るけど、メランはそもそも“魔素”の集合体が外でも活動している感じだから服装に変化がなかったみたいだ。
「もしかして自作ですか?すっごい完成度ですね!」
(『完成度』も何も、まんまその装備ですよ)
「とても似合っていますね!——あ、あの、此処に居るって事は貴方達も冒険者の方ですよね?配信ネームを訊いてもいいですか?そうだ!良かったら午後からでも一緒にパーティー組みません?あと、是非とも相互フォローもお願いします!」
要求過多のままぐっと距離を詰め、女性達が積極的にメランを質問攻めにしている。仮面で目元が隠れたままであろうとも、ボクの思った通り彼の美貌は全然隠し切れていない。せめてダンジョンに潜る前に着ていた格好のままだったならフードで顔をもう少しは多めに隠せていたのに。
「ごめんねぇ。僕らはまだ配信開始前の駆け出しの冒険者だから、まだ名前は伏せていたいんだ。あと、カップル配信をしていく感じだから他とはパーティーを組む気は無いし、僕は嫉妬深いから相互フォローとかも無理かなぁ」
メランがそう言うと女性達の視線が背後に隠れているボクの方に集まった。そして、お互いにちらりとしか見えていないはずなんだが、『あぁ、お察し』みたいな顔をされた。
(え、ちょっと待て。これって嫉妬深いのはボクの方だと思われてないか?)
心外なので誤解を解きたいがパーティーコンセプト的にそれは出来ない。メランが格好よくってモテるのは勝手だが、頼むからボクを巻き込まないでくれ。
一緒に写真を撮りたいだ、個別のフレンド登録の申請だけじゃなく、宿泊先を教えて欲しい!部屋に遊びに行きたいだ何だと、『絶対にこの機会を次に繋げてみせる!』という肉食系の熱意しかないお願いなんかもされ続けていたが、触れられそうになった手もそっと躱し、メランは笑顔のまま全てを断った。
——結局、「応援しますね!配信開始を楽しみにしています!」的な言葉を二、三交わし、女性達が涙ながらに立ち去って行った。その様子を見送りながらメランが軽く手を振っている。ボク以外にも彼が見えている事は初日で既に理解してはいたが、親切にちゃんと対応している姿を前にすると、ちょっとだけモヤッとした気持ちになった。
「……モテますね」
「今の僕じゃ、棗以外の有象無象に好かれても、何の喜びも感じないけどね」
「いやいや、言い方」と呆れながら返す。
「これは堕天者の特権だよ。万物を愛さなくてもいいってだけでも、そうなって良かったなって心底思うよ」
「ははは……」
乾いた笑いを返しはしたが、メランの言葉で何故かちょっとだけ気持ちが晴れた気がする。きっと、自分が誰かの特別である事からくる優越感なんだろうけど、でも、なんかちょっと違う気もした。
(……いやいや。そもそもボクは、以前との落差に驚いているだけだし)
不意に、ちらりとまともな一面を垣間見た時には罪悪感ばかりが募ったのに、今みたいに常時そういった状態でいてくれていると、不覚にもメランへの好感度が徐々に上がっている気はする。あくまでもヒトとしての好感度であって、恋愛的なものではないけれども。
「ちょっと湿度が上がってきているから足元に気を付けてね。滑るかもしれないから」
「了解です。気を付けます」
「もし不安だったら、手を握ろうか?」
「だ、大丈夫です!」と慌てて返すと、「そっかぁ、わかった」とメランはあっさり引き下がった。
「……んー。後で、この階段のシーンは編集でカットした方が良さそうだね。長いし、薄暗いし、何もないし」
「んですね。BLカプのはずなのに友人パーティーと大差なかった二人が、暗がりでは仲良く手を繋いでいたとかしてたんなら、見所っぽく出来るんでしょうけど」
直様失言であった事に気が付き表情が固まる。この返しでは、反射的に断ったくせして、より親密さをアピールするシーンを作る為に逆提案した様なもんじゃないか。
(まさか、ツンデレって事になるのか!?コレは)
そもそも『ツンデレ』の定義が、『アンタの為なんかじゃないんだからね!』の様な古典的テンプレ以外となるとさっぱりわからない。そのせいか答えが得られず数多の疑問符が頭の中に浮かぶ。
「そっかぁ、そういった手法もあるんだねぇ」と言い、階段途中で立ち止まって、メランが「んじゃ、やっぱり繋いでおく?」と手を差し出してくる。まるでダンスにでも誘ってくるかの様な華麗さだ。怪盗っぽいローグの衣装と洒落た仮面のせいか余計にそう見えてしまう。
「……え、遠慮しておきます。無駄に長いし、“バト”の提案通り全部カットしちゃいましょう!」
「わかった。そうしようか」
「……あ、でも」
「でも?」
「か、肩だけ貸して貰えます?……やっぱちょっと階段滑るんで」
「もちろんだよ」と言ってメランが前を向く。ボクが彼の肩に手を置くと、彼はゆっくり階段を降り始めた。やはり、徹底してただの補助だ。ありがたい対応なのに何でかちょっとモヤッとする。
メランがボクを『お嫁さん』だなんだと言っていたのは、『もしかすると“人間”を揶揄っているだけなのかなぁ』と思ったからかもしれない。それか、ボクとの関係への正しい表現が思い付かなくって、テキトウにそう口にしてしまっただけか。こちとら他人から好意をぶつけられた経験なんか一度も無いんだから、何処までが本気で、何処からが冗談なのかなんてわからないのに。
(……まず前提として、堕天したくらいで、“天使様”だったヒトが“人間”なんかに本気で惚れるはずが無いよなぁ)
殆ど会話もなく、狭いうえに薄暗いからか、階段を降りる間中ネガティブな事ばかり考えてしまう。そもそもメランは、要約すれば『君に惚れ込んだせいで堕天した』的な事をちゃんと話していたのに、まともにその言葉を受け止めていなかったせいですっかりその話が記憶から抜け落ちつつあるボクは、根本を見誤ったまま、この妙にヤキモキした感情を少しの間だけ抱える事となった。
◇
長い長い階段をやっと降りきった。これでやっと二階層目に到着だ。体感的には東京タワー分くらいは降りて来た気がする。そのせいかひどく疲れた。これが登りではなかった事を感謝しておこう。登りだったなら今頃此処で死んでいたと思う。
綺麗な黄昏時だった一階層目とは違い、二階層目はうっすらと星らしきものが上空にあり、上の階層よりも若干夜に近づいた感じがする。真夜中って程ではないが黄昏時よりもちょっと薄暗く、そのせいでこの周辺がまだ草原地帯であるにも関わらず見晴らしはあまり良くない。外界とは違って“空”に該当する箇所に月が無いから余計にそう感じる。草原のそこかしこに小さな池が点在しているから湿度の高さはそれのせいか。ぬかるみとまではいかないが若干地面が柔らかい感じもするから接近戦が主体のパーティーだと少し苦戦しそうだ。
(遠距離戦闘を主体にしておいて良かったな。こんなん、転びでもしたらすぐに汚れだらけになりそうだや)
現在の時刻を確認すると、そろそろお昼時が近かった。どうりでお腹が減ってきているわけだ。……正直、ちょっとお手洗いに行きたかったりもしている。生理現象の宣言を他者にするのはちょっと恥ずかしいが、そろそろ荷物整理もしておきたいし、一度地上に戻る事を提案してみるか。
「“バト”、ちょっといいですか?」
「ん?」
軽く手を挙げ、「一度地上に戻りませんか?腹も減ったし、荷物の整理とかもしておきたいんで」と伝えた。
「あぁ、そうだね。そうしようか。丁度二階層目に到達出来た所だから、タイミング的にも悪くないね」
「この階層の地図を事前に手に入れた状態で回れば、もっと効率よく攻略出来ますしね」
「一階層目では、『攻略している』というよりかは、敵から敵に移動していっただけって感じだったからなぁ。まぁ最初の階層なんて戦闘や“ダンジョン”ってものに慣れるためのステージって感じだから、それでいいと思うけど」
「ですね。それに、何かをしないと先には進めないって仕掛けも無かったし、それ以外にやりようがないって感じでもあったし」
「んだね。じゃあ早速戻ろうか」と言い、メランが何処からともなく“転移石”を用意してボクの手にぽんっと渡してきた。前回とは違い、色はちょっと白っぽい。他の色も沢山混じっていて若干安っぽい感じはするものの、宝石のオパールみたいな見た目だ。
(これは“黒”くないし、大丈夫……だよ、な?)
前回渡された転移石は黒かった。しかも砕いた瞬間に移動した先は最下層だったから、『本当にこれを砕いても大丈夫なんだろうか?』と不安がよぎる。
「心配せずとも、これはちゃんと外に戻る転移石だよ」
ボクの不安を察したのか、メランが耳の近くでそっと囁く。また耳たぶに彼の唇が擦り、驚いたせいで体に変な力が入って『バキッ!』と見事な音を立てて手の中の石を砕いてしまった。『またやっちまった!』と思ったのも束の間、今回はちゃんとダンジョンの入り口付近にぱっと移動出来た。それなりのサイズの石が周囲にずらっと並び、ストーンサークルみたいになっている。ダンジョンへの入り口からだと、意識しないと気が付かないような場所に転移石用の出口があったのか。
「ね?大丈夫だったでしょう?」
顔を覗き込まれ、腰を折ったままメランがニッと笑う。…… 何でか彼はダンジョン内で着ていた服のままだ。慌てて自分の服装を確認すると、ボクの方はちゃんと普段着に戻っていた。
(メランがその服装のままは目立つぞ。それに、視覚的にもヤバイ!)
そう思ったけどもう時既に遅く、服装を指摘しようと口を開いたと同時に、「——あのぉ」と女性の声がすぐ近くから聞こえてきた。
「そのコスプレって、“マジックシリーズ”のローグ専用装備のものですよね?」
瞳を輝かせた女性が二人、メランに声を掛けてきた。するとメランは「うん、そうだよ」と返し、女性達とボクとの間にすっと立ち位置をずらした。まるで自分の背後にボクを隠すかのような行動だ。
(『コスプレ』?——あ、そっか)
ダンジョン内部では魔素で作られた装備を着ている状態であるボクらは外に出たら元の服装に戻るけど、メランはそもそも“魔素”の集合体が外でも活動している感じだから服装に変化がなかったみたいだ。
「もしかして自作ですか?すっごい完成度ですね!」
(『完成度』も何も、まんまその装備ですよ)
「とても似合っていますね!——あ、あの、此処に居るって事は貴方達も冒険者の方ですよね?配信ネームを訊いてもいいですか?そうだ!良かったら午後からでも一緒にパーティー組みません?あと、是非とも相互フォローもお願いします!」
要求過多のままぐっと距離を詰め、女性達が積極的にメランを質問攻めにしている。仮面で目元が隠れたままであろうとも、ボクの思った通り彼の美貌は全然隠し切れていない。せめてダンジョンに潜る前に着ていた格好のままだったならフードで顔をもう少しは多めに隠せていたのに。
「ごめんねぇ。僕らはまだ配信開始前の駆け出しの冒険者だから、まだ名前は伏せていたいんだ。あと、カップル配信をしていく感じだから他とはパーティーを組む気は無いし、僕は嫉妬深いから相互フォローとかも無理かなぁ」
メランがそう言うと女性達の視線が背後に隠れているボクの方に集まった。そして、お互いにちらりとしか見えていないはずなんだが、『あぁ、お察し』みたいな顔をされた。
(え、ちょっと待て。これって嫉妬深いのはボクの方だと思われてないか?)
心外なので誤解を解きたいがパーティーコンセプト的にそれは出来ない。メランが格好よくってモテるのは勝手だが、頼むからボクを巻き込まないでくれ。
一緒に写真を撮りたいだ、個別のフレンド登録の申請だけじゃなく、宿泊先を教えて欲しい!部屋に遊びに行きたいだ何だと、『絶対にこの機会を次に繋げてみせる!』という肉食系の熱意しかないお願いなんかもされ続けていたが、触れられそうになった手もそっと躱し、メランは笑顔のまま全てを断った。
——結局、「応援しますね!配信開始を楽しみにしています!」的な言葉を二、三交わし、女性達が涙ながらに立ち去って行った。その様子を見送りながらメランが軽く手を振っている。ボク以外にも彼が見えている事は初日で既に理解してはいたが、親切にちゃんと対応している姿を前にすると、ちょっとだけモヤッとした気持ちになった。
「……モテますね」
「今の僕じゃ、棗以外の有象無象に好かれても、何の喜びも感じないけどね」
「いやいや、言い方」と呆れながら返す。
「これは堕天者の特権だよ。万物を愛さなくてもいいってだけでも、そうなって良かったなって心底思うよ」
「ははは……」
乾いた笑いを返しはしたが、メランの言葉で何故かちょっとだけ気持ちが晴れた気がする。きっと、自分が誰かの特別である事からくる優越感なんだろうけど、でも、なんかちょっと違う気もした。
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