「僕が闇堕ちしたのは、君せいだよ」と言われても

月咲やまな

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【第2章】

【第8話】二度目の攻略⑥(弓ノ持棗・談)

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 場所を変えたおかげか、次の一体を倒した途端にボクのレベルが上がった。10レベルに達したので此処からはとうとう冒険の様子が配信されてしまう。真っ当にコツコツレベル上げをしてきた人達とは比べ物にならないくらいに拙い動きしか出来ないから、どうせボクらの配信を観る人なんかごく少数だろう。だけど念の為にも個人の特定に繋がる発言はしない様に気を引き締めていかねば。

「次は向こうに行ってみようか」
 メランが指差した方角にはどうやらゴブリンが居るみたいだ。三匹程集まっている様子がサーチスキルのおかげで確認出来る。
「じゃあ、初手はさっきと同じく『クー』に頼むね」
 早速ちゃんと、『棗』とは口にしないメランの配慮がちょっと嬉しい。

 気を引き締め、「了解です」と返して早速銃を構えて即座に通常弾を発射する。手前側から順々に攻撃し、二匹はボクが倒せたが、対応し損ねた残りの一匹は即座にメランが始末してくれた。
 大技で大多数をまとめて倒した初戦とは違って、メランはもう魔法を使わないつもりでいるみたいだ。今は鞭を装備していて、パーティーメンバーの職業欄は“ローグ”になっている。無詠唱での魔法攻撃が可能だからこそ敢えて“魔導士”は避けたのだろう。今のレベルを意識して加減したり、それっぽくする為だけに一々魔法名を叫ぶのも面倒だろうから納得である。
 顔にはボクと同じく仮面を着けてはいるが目元だけを隠すタイプだ。多分ボクよりも露出度を上げて目立つ事で、一身に注意を引いてくれるつもりなのだろう。…… それにしても、ペストマスクや鴉にも似たデザインの仮面をしていようがその精悍さを隠し切る事が出来ていないなんて、とことん恐ろしいヒトである。


       ◇


 少し強めの敵を全て先手先手で倒していき、ゴブリンからワーウルフへ。そして小型のゴーレムなどへと討伐対象を少しづつ変えていきつつ、ボクらはレベルを順当に上げていった。今日だけで15レベル達成とか。冒険者配信を観てはいなかったボクではそれが早いのか普通なのかまではちょっとわからんけれども、なかなかの成果だとは思う。換金も可能なポイントも結構稼げたし、“小さな角”やレア度の低い装備品などといった店に買い取ってもらえる品物もそこそも入手出来たから、きっと初日としては充分な収入になっただろう。
 メランがローグになったおかげか、ラスボスの能力によるのかは判断不能だが、入手した宝箱からそれぞれの職業に適した装備品ばかりが手に入ったおかげで初期装備から職業別の専用装備に着替える事にも成功した。それにより“ガンナー”であるボクの衣装は下っ端の軍服風に。そしてローグであるメランは何故か怪盗風になっているんだが、何かズルくないか?

(仮面とも合ってるし、似合っているからいい、のか?)

 考えることを放棄しながら時計を見ると、いつの間にか夕方近くになっていた。まだ一階層目のままなのでダンジョンの仕掛けを解きながら進むとか、そういった時間の掛かる要素はなかったのに、もうこんな時間なのか。ずっと黄昏時の中に居たから時間感覚がめちゃくちゃだ。
 戦闘とアイテムの回収にずっと集中していたせいで昼ご飯を食べ損ねてしまった。その事に気が付いた途端、急速に空腹を自覚し、脚から少し力が抜ける。そのせいで目眩でも起きたみたいにふらっと体が倒れそうになった。それと同時に、メランに抱き止められ、周囲に花弁を撒き散らしながら『助けてくれてありがとう』『夫が嫁を助けるのは当然じゃないか』的なやり取りをする構図が脳裏に浮かぶ。恋愛漫画のど定番のシチュエーションだ。

(んな事、やってたまるか!)

 既にお姫様抱っこを経験済みである事実からは目を逸らし、彼の腕枕で朝まで一緒のベッドで眠ってしまった事にも蓋をして、どうにか踏ん張り、ボクは転倒を見事回避した。そしてちらりとメランの方へ視線をやる。すると案の定彼は、手を伸ばしてボクを受け止めようとしている寸前の状態にあった。
 微かにメランの方から「……チッ」と内心がダダ漏れな舌打ちが聞こえる。向こうも自然な接近チャンスだと内心浮かれていたのだろう。『回避出来て良かった!』と思ったのも束の間。
「あーあぁ。僕が抱き止めて、『大丈夫かい?ハニー♡』って助けてあげたかったのになぁ」と言いながら真正面から抱き締められ、ボクのささやかな抵抗は結局泡と消えたのだった。

「——さて、と。食事もなしに戦闘を続けてきたから、沢山汗もかいたし、お腹も減ったよね?」
 仕切り直すみたいに軽く手を叩き、メランが訊いてくる。
「確かに、食事はマジで急務ですね」
 アンパンを一口でもいいから摘んでしまいたいくらいには腹が減って力が出ない。昼ご飯になる様な携帯食を多少は持参してはいるが、もう晩御飯はどうするかと考え始めるような時間帯である。念の為と鞄に入っている軍隊向けにも似た携帯食ではハイカロリーなので口にしてしまうと晩御飯に支障が出そうだ。そう思うと食べるか否かで迷ってしまう。
 さて、どうしたものかと唸るボクの耳元に近づき、メランが「…… コレを砕けば、すぐにご飯が食べられるよ」と耳打ちしてきた。それと同時にそっとボクの手の上に“転送石”を渡してくる。真っ黒な転送石だ。それを隠すみたいにボクの指を畳み、メランがソレを軽く握らせる。
「ビーフシチュー、カリッと焼いたフランスパンに、豆腐ものったシーザーサラダ、ローストビーフとか食べたくない?」
 誘惑でもするみたいな声で、魅惑的なメニューをメランが並べ立てていく。

 んなの、食べたくない訳がない。

 血糖値不足で判断力が鈍り、空腹がより一層加速する。即座に両手を挙げて、『食べたいです!』と大声で叫びたいくらいの心境だ。そのせいかボクは渡された転移石をそのまま勢いよく握り、砕いてしまった。『——あっ』と思った次の瞬間、目の前の景色が全く別のものに変わっていく。何処か見覚えのある、中世のヨーロッパ貴族達が住んでいそうな豪奢で絢爛な洋館のダイニングルームかと思われる場所に。

(——や、やられたぁぁぁぁ!)

 コイツはちっとも諦めていなかったんだ!ボクを、『新居』とやらに呼び込む事を!キモイ部屋ばかりを用意しやがったダンジョンの最下層にある洋風の廃墟に誘い込む気満々だったくせに、それをしっかり隠し切って油断する瞬間を待っていたのか!
 その事に気が付いても時既に遅し。メランが事前に何かしたのか荷物管理の操作パネルすら呼び出しに応じてくれず、そのせいで通常版の“転送石”も使えないから一人勝手にダンジョンの外に逃げ出す事も出来やしない。結局ボクは、ダンジョンに潜った二日目にも、メランのせいで最下層に落とされて簡単には戻れなくなったのだった。
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