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【第2章】

【第7話】二度目の攻略⑤(弓ノ持棗・談)

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 ソロで“ツノウサギ”を倒し終え、三戦目は少し場所を変える事にした。『あの場所でレベルの低い敵ばかりを倒すよりかは、せっかく二人でダンジョンに潜っているのだからもっと強い敵を倒そう!』とメランに言われたからだ。『勃ってきた』とぬかした直後の話だったので、また青姦がどうのと言いやしないかと内心ヒヤヒヤしていたのだが、普通に歩き始めたからアレは彼なりの冗談だったのだろう。

(…… 全然笑えないけど)

 でもまぁ場所の移動に関してなら反対する理由は無い。メランが大量の兎とかを倒してくれた時の報酬で無事“転移石”も入手済みなので奥に進んでも帰りの心配はしなくていい。なのですぐに同意し、入り口付近から、もっと奥の方にまで場所を変えた。

「この辺がいいかなぁ」
 先程の草原よりも周囲には木々の方が多い。でも森って程ではなく、起伏のほぼ無い平地ばかりなので見晴らしも悪くはないからサーチスキルを持っていなくても敵の発見に難儀する事はなさそうな雰囲気だ。適度にちょっとだけ難易度の上がった、まさに10レベル付近向けのレベルアップポイントといった感じである。
「さて、ここからはお互いに名前を呼ばないように気を付けないとね」

(あ、そうか。録画される時に会話の音声も拾っちゃうからか)

「了解です。えっと、“バトレル”さん…… でしたっけ」
「うん。でも面倒だったら“バト”でもいいよー。別にこだわりがあって名乗っているわけじゃないから」
 メランの選んだハンドルネームは、確かどこかの国では『執事』って意味だったはずだ。自分が、ボクの執事的な役割でもするつもりで選んだ名前なんだろうか。でもそれなら元は天使だったんだ、『エンゲル』とか『アンジュ』とか、それっぽい方が合っているんじゃないだろうか。

(あ、いや…… 今はもう“堕天使”なんだから、そういった名前を名乗るのは返って嫌か)

 堕天している事実を思い出す度に申し訳なさが押し寄せてくる。『意図したものじゃないんだ、ボクのせいじゃないぞ』とは正直思っていても、この瞳と加護がボクの特性である以上、結局はボクのせいなんだよなぁ、向こうからしてみれば。

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて『バト』さんって呼ばせてもらいますね」
「棗の“クラウン”もちょっと長いから、『クー』って呼ぶね!」

(めっちゃ短くしたな)

 でもまぁ『お嫁さんと呼ぶ』とか言われなかったから良しとするか。
「あとはそうだ、『夫夫ふうふ』として配信したらどうかなと思うんだ」
「…… は?」
 めっちゃ眉間に皺を入れながら一歩引く。アンタは何を言ってんだと口にしたいが、その前にメランが「待って!ちゃんと理由があるんだよ」と慌てて弁明を始めた。
「“BLカップル”って事にして、タグ付けして配信するとね、腐男子という層もいるにはいるけど、それでもやっぱり男性の視聴数が減る傾向があるんだ。棗は双子の義兄達から出来るだけ長い期間隠れ続けたい状態だろう?それこそ、今後の生活が安定するまでは確実に。ならまずは男性の目に留まる可能性を減らすべきだよね!それに僕が棗に抱きつこうが、嬉しさ余ってキスしちゃおうが、『お嫁さん』発言をしようが、僕らがカップルだってていならいくらでも誤魔化せるし、一石二鳥って感じじゃない?」

(そもそもやるな)

 途中までは納得出来ていたのに後半は欲望がダダ漏れだ。でも、事実とは相反するけど、男性の視聴者の割合を減らせるといった利点があるのはまぁ悪くはないかもしれない。
「だけど、そもそも兄さん達は冒険者配信なんか観ないんじゃないかなぁ…… 」
 ぽつりと独り言の様にこぼすと、「いやいやいや。検索エンジンのおすすめ欄とかでどうしたって回ってくる可能性は捨てきれないよ。弟の澪の方は芸能界に居るから冒険者達と関わる機会も多々あるしね。兄の潮に至ってはネット関係の分野は幅広くサーチしているから油断は大敵だよ」と熱弁された。流石は“守護天使”を語るだけある。ボクの義兄達の情報だってきちんと把握済みの様だ。

(まぁ、メランの言い分は納得出来るし一理あるな)

 今までの彼の行動を鑑みても、何かしらの変態行動は絶対にやらかすだろう。堕天しているせいでなのか、倫理観や常識といった一緒に行動するにあたって最低限持ち合わせて欲しい部分をすっかり無くしてしまっているみたいだし。

(となると、『カップルである』というていがあった方が確かにあしらい易い、のか、も?)

 ぐだぐだ考えていると段々メランの提案が最良案に思えてくる。どうせ不特定多数の人々に冒険中の様子を観られるんだ、事実とはかけ離れている方が“道化師クラウン”がボクであるかもとは想像しにくくなるし、匿名なうえに仮面もしているんだから、一層特定が無理難題となる情報が多い方が良いのか。
「…… わかりました。じゃあ、それでいきましょう」
「わーい!」と諸手を挙げてメランが喜ぶ。あれ?やっぱコレって判断を誤ったんだろうか?とちょっと思ったが、嬉しそうにボクへと抱きつき、こっちは顔面を全て覆うタイプの仮面をしてるっていうのに何度も頬擦りをされた事でその考えは確信に変わった。なのに、『やっぱやめましょう!』の一言が口から出てこない。堕天してるっていうのに、天使みたいな笑顔を浮かべて喜んでいるヒトの心に水を差す様な発言を出来る程ボクは、自分優先で自己中心的な人間にはなれないみたいだ。
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