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【第2章】
【第6話】二度目の攻略④(弓ノ持棗・談)
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ダンジョンに入ったからには敵との戦闘は避けられない。周囲の敵をメランが一掃してから少し経過したからか、もう敵がリポップし始めたみたいだ。
「どうやら雑談タイムはここまでだね」
「そう、みたいですね」と、先に現状を理解していたメランに返して銃を持つ手に軽く力を入れる。
メランのおかげで良質な武器を入手し、扱う武器種が確定した事でボクの職業が“ガンナー”となった。それにより得られた“斥候”のスキルでオートサーチが発動し、近くに敵が出現したと同時に『新たな敵が出現しました』と告げる小さな通知画面と共に『ジジッ』という微妙に不快な音が知らせてくれる。ステータス等の確認画面を別途開かずとも、自分の視界に敵の位置が半透明の状態で表示されている。木々の奥に潜んでいようが、草むらの中で身を隠していようが、スキルレベルが低くてもそれなりの範囲までは敵の位置を知らせてもらえているから、これなら不慣れなボクでも先手から対応出来そうだ。
「初手では手を出さないでおくから、まずは自分の力だけで倒してみるといいよ。もし弾を外しても僕が代わりに仕留めるから、気負い過ぎずにやってみて」
彼から、『全て僕が倒すから、君は何もしなくていいよ』と言われなかった事が何だか嬉しい。希望を聞きつつ武器も用意してくれたし、ソロでの経験を積む機会も与えてくれるなんて、ちゃんとボクの事を想ってくれているからなのかな。守るだけじゃない彼の一面が不覚にも胸に刺さる。
「この辺の敵はもう棗が手こずる様なレベルじゃないから、焦りさえしなければ大丈夫だよ」
ボクの真後ろに立ち、メランがそっと肩に手を置く。その大きな手から伝わる体温が不思議と心地良い。妙な馴染み深ささえ感じてしまう。まるで今までもずっとそうしてくれていたみたいに。
しっかりと顔を上げ、早速銃を構える。するとスコープ代わりなのか何なのか、右目の付近に半透明の丸い表示がシュッと現れた。その事に驚き、うっかり「うお!」と小さくこぼして後ろに軽く下がってしまった。
「大丈夫。モノクルみたいな物だと思えばいいよ。銃を構えるのをやめると勝手に消えるから」
ボクの体を胸に受け止め、メランがそう教えてくれた。
「あ、はい」と返し、緊張しながらも、気を取り直して銃を構え直す。
ボクが初めて使うこの銃は『白い咆哮』という名を冠している。長い銃身の大半が白く、両サイドには獅子が吠えている様な絵が彫られている事から付けられた名前だろう。装備品のランクは一から始まりMaxは現在五である。これはランク三なだけあってか初期装備であった剣よりもずっと洒落ている。
モノクルの様な丸い表示の隅に簡単な情報が表示されている。それによると通常弾の所持数は全部で五十。敵までの距離は約五メートル程だ。ひとまずは“ツノウサギ”一匹だけで、草のおかげでまだこちらには気が付いていない。相手のレベルは1なのに対して今のボクのレベルは9なので倒してもちょっとしか経験値は入らないだろうが、ほぼ初めての戦闘なので丁度いい相手だろう。
二、三度深呼吸をし、敵に照準を合わせようとするとモノクルの様な半透明の丸いエフェクトの色が変化し、『ピピッ』という機械音が耳元で聞こえた。多分これは敵に照準が合ったという通知音だと思う。どうやら風速を考慮したり照門と照星をしっかりと合わせてから撃つという基本を守らなくとも攻撃が可能みたいだ。いずれは乱戦になる事もあるであろう事を考えると、ど素人ばかりの冒険者では、相当緩くないと誰も戦えないからこういう仕様になっているのかもしれない。
一人納得して容赦無くトリガーに力を入れる。すると少しの反動と共に一発の銃弾が発射され、見事敵に命中した。
「お、やったね!」
「……そう、みたいですね」
銃を撃ったのだ。もっと大きな反動がある事を想定していただけに、ちょっと拍子抜けしてしまった。この程度の反動で済むならボクでも連射出来そうだ。
「流石にもう、兎一匹じゃ経験値が少な過ぎたかぁ」
レベルアップの通知が来なかったからかメランが残念がっている。でもボク的には、自分だけでも敵を倒せたという達成感が心地いい。
二人で倒した敵の側まで行く。手をかざしてアイテムを回収すると、また『小さな角』が一つ手に入った。自分だけで倒した敵から得た初めてのアイテムだからか、ただ入手通知画面を見ているだけでも、ちょっとだけ感慨深い気持ちになった。
「この調子でどんどん稼いでいこうね」と言い、メランがボクの頭を撫でてくる。
「いやぁ、容赦無く撃てていたからびっくりしたよ。もう少し躊躇するかなと思っていたからね」
「メランさんが事前に、ダンジョンの全てが“魔素”ってやつで作られた擬似的なモノだって教えてくれていたおかげです。生き物を殺すんじゃない、データの集積体を壊すだけなんだって思えば、気持ち的にはゲーム感覚にかなり近い感じでやれますね。でもやっぱ、コントローラを使って画面上の敵を倒すのと、実際に武器を構えて自分自身が敵を仕留めるのとでは、今後も埋められそうにない差がありましたけど」
自分の手をじっと見つめ、きゅっと握る。本物の『命』を奪ったわけじゃないって頭ではちゃんとわかってはいても、その手は少し震えていた。自覚していた以上に緊張していたのかもしれない。
「そっかぁ。良かった、役に立てて嬉しいよ!」
むぎゅっと抱きしめられ、 メランが背中を撫でてくる。たったそれだけの事で緊張が緩み、そっと彼に体を預けてしまう。
(ボクをちゃんと見守ってくれている。メランさんは、優しいヒトだ…… )
油断し、そんな事をちょっと感じてしまっていたのに、「…… やばっ。かなり勃ってきちゃった」と言われたせいでボクの心は一気に防衛体制に入った。『堕天しているコイツは、根っからの変態だと忘れちゃダメだ!』と改めて頭の中に叩き込む。そして、ボクの希望する様な『真っ当で優しい守護天使』に一日でも早く戻って貰わねば!と心に誓った。
「どうやら雑談タイムはここまでだね」
「そう、みたいですね」と、先に現状を理解していたメランに返して銃を持つ手に軽く力を入れる。
メランのおかげで良質な武器を入手し、扱う武器種が確定した事でボクの職業が“ガンナー”となった。それにより得られた“斥候”のスキルでオートサーチが発動し、近くに敵が出現したと同時に『新たな敵が出現しました』と告げる小さな通知画面と共に『ジジッ』という微妙に不快な音が知らせてくれる。ステータス等の確認画面を別途開かずとも、自分の視界に敵の位置が半透明の状態で表示されている。木々の奥に潜んでいようが、草むらの中で身を隠していようが、スキルレベルが低くてもそれなりの範囲までは敵の位置を知らせてもらえているから、これなら不慣れなボクでも先手から対応出来そうだ。
「初手では手を出さないでおくから、まずは自分の力だけで倒してみるといいよ。もし弾を外しても僕が代わりに仕留めるから、気負い過ぎずにやってみて」
彼から、『全て僕が倒すから、君は何もしなくていいよ』と言われなかった事が何だか嬉しい。希望を聞きつつ武器も用意してくれたし、ソロでの経験を積む機会も与えてくれるなんて、ちゃんとボクの事を想ってくれているからなのかな。守るだけじゃない彼の一面が不覚にも胸に刺さる。
「この辺の敵はもう棗が手こずる様なレベルじゃないから、焦りさえしなければ大丈夫だよ」
ボクの真後ろに立ち、メランがそっと肩に手を置く。その大きな手から伝わる体温が不思議と心地良い。妙な馴染み深ささえ感じてしまう。まるで今までもずっとそうしてくれていたみたいに。
しっかりと顔を上げ、早速銃を構える。するとスコープ代わりなのか何なのか、右目の付近に半透明の丸い表示がシュッと現れた。その事に驚き、うっかり「うお!」と小さくこぼして後ろに軽く下がってしまった。
「大丈夫。モノクルみたいな物だと思えばいいよ。銃を構えるのをやめると勝手に消えるから」
ボクの体を胸に受け止め、メランがそう教えてくれた。
「あ、はい」と返し、緊張しながらも、気を取り直して銃を構え直す。
ボクが初めて使うこの銃は『白い咆哮』という名を冠している。長い銃身の大半が白く、両サイドには獅子が吠えている様な絵が彫られている事から付けられた名前だろう。装備品のランクは一から始まりMaxは現在五である。これはランク三なだけあってか初期装備であった剣よりもずっと洒落ている。
モノクルの様な丸い表示の隅に簡単な情報が表示されている。それによると通常弾の所持数は全部で五十。敵までの距離は約五メートル程だ。ひとまずは“ツノウサギ”一匹だけで、草のおかげでまだこちらには気が付いていない。相手のレベルは1なのに対して今のボクのレベルは9なので倒してもちょっとしか経験値は入らないだろうが、ほぼ初めての戦闘なので丁度いい相手だろう。
二、三度深呼吸をし、敵に照準を合わせようとするとモノクルの様な半透明の丸いエフェクトの色が変化し、『ピピッ』という機械音が耳元で聞こえた。多分これは敵に照準が合ったという通知音だと思う。どうやら風速を考慮したり照門と照星をしっかりと合わせてから撃つという基本を守らなくとも攻撃が可能みたいだ。いずれは乱戦になる事もあるであろう事を考えると、ど素人ばかりの冒険者では、相当緩くないと誰も戦えないからこういう仕様になっているのかもしれない。
一人納得して容赦無くトリガーに力を入れる。すると少しの反動と共に一発の銃弾が発射され、見事敵に命中した。
「お、やったね!」
「……そう、みたいですね」
銃を撃ったのだ。もっと大きな反動がある事を想定していただけに、ちょっと拍子抜けしてしまった。この程度の反動で済むならボクでも連射出来そうだ。
「流石にもう、兎一匹じゃ経験値が少な過ぎたかぁ」
レベルアップの通知が来なかったからかメランが残念がっている。でもボク的には、自分だけでも敵を倒せたという達成感が心地いい。
二人で倒した敵の側まで行く。手をかざしてアイテムを回収すると、また『小さな角』が一つ手に入った。自分だけで倒した敵から得た初めてのアイテムだからか、ただ入手通知画面を見ているだけでも、ちょっとだけ感慨深い気持ちになった。
「この調子でどんどん稼いでいこうね」と言い、メランがボクの頭を撫でてくる。
「いやぁ、容赦無く撃てていたからびっくりしたよ。もう少し躊躇するかなと思っていたからね」
「メランさんが事前に、ダンジョンの全てが“魔素”ってやつで作られた擬似的なモノだって教えてくれていたおかげです。生き物を殺すんじゃない、データの集積体を壊すだけなんだって思えば、気持ち的にはゲーム感覚にかなり近い感じでやれますね。でもやっぱ、コントローラを使って画面上の敵を倒すのと、実際に武器を構えて自分自身が敵を仕留めるのとでは、今後も埋められそうにない差がありましたけど」
自分の手をじっと見つめ、きゅっと握る。本物の『命』を奪ったわけじゃないって頭ではちゃんとわかってはいても、その手は少し震えていた。自覚していた以上に緊張していたのかもしれない。
「そっかぁ。良かった、役に立てて嬉しいよ!」
むぎゅっと抱きしめられ、 メランが背中を撫でてくる。たったそれだけの事で緊張が緩み、そっと彼に体を預けてしまう。
(ボクをちゃんと見守ってくれている。メランさんは、優しいヒトだ…… )
油断し、そんな事をちょっと感じてしまっていたのに、「…… やばっ。かなり勃ってきちゃった」と言われたせいでボクの心は一気に防衛体制に入った。『堕天しているコイツは、根っからの変態だと忘れちゃダメだ!』と改めて頭の中に叩き込む。そして、ボクの希望する様な『真っ当で優しい守護天使』に一日でも早く戻って貰わねば!と心に誓った。
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