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【第2章】
【第5話】二度目の攻略③(弓ノ持棗・談)
しおりを挟む(まさか細かな思考までもを彼に読まれているのだろうか?)
…… いや、ダンジョンでは悠長にそんな事を気にしている暇は無い。ボクは軽く頬を叩いて気持ちを切り替え、まずはメランの倒した敵からのドロップアイテムを回収しておこうと考え、早速一番手近な所から手を付けようとした。だがメランがテーブルクロスを片手で引き抜く様な動作をした途端、一斉に敵の遺体がギュンッと勢いよく集まり、ボクらの目の前に山の様に兎の遺体が堆く積まさった。よく見るとゴブリンっぽい腕や脚なんかもちらほら混じっている。もしかすると角のある兎よりも貴重なアイテムなんかが取れたりするかもしれない。
「もう少しレベルが上がると倒した敵から自動的にアイテムが回収出来るスキル付きの装備なんかも手に入るんだけど、まだ今は、一体ずつ対応しないとだからちょっと面倒だね」
数が多いからメランがそう思うのも納得である。だがそうは言っても、現実みたいに刃物で体を切り裂いて、骨だ臓器だを処理しないといけない訳じゃないからボク的には楽なもんだ。
順々に倒した敵に手をかざすだけで『小さな角』や『獣の爪』などといった素材が所持品の欄に情報として回収されていく。回収後、ある程度時間が経過すると敵の遺体は跡形も無く消え去った。敵を構築していた“魔素”が崩れ去っていったのだろう。
敵を倒した事でステータス欄にある『ポイント』も少し増えている。これを使って消耗品などと交換したり、現金に変えたりも出来るらしいから、今後一番重要な点はこのポイントの残高となるだろう。でも次のレベルから自動的に配信されてしまう動画の再生数の方での稼ぎは一切期待していない。構成を考えて編集作業をしっかりやっている人達や、台本を書いてまで演出にこだわる冒険者達にそもそも敵うはずがないし、兄達の事を考えるとあまり目立つのもよくないから。
装備品や武器などといったアイテムが運良く手に入った場合は相応のサイズの箱が出現し、それを開けて手に入れるといった感じみたいだ。箱のデザインや色、材質等でレア度が事前にちょっとだけわかる仕組みになっているのだろう。今回はシンプルなデザインだし木製なので、開けずともわかるくらいたいした物は入っていない気がする。だけど初めて手に入れた宝箱だ。そのせいか、なんだかちょっとドキドキしてきた。
「ねぇねぇ。ところで棗は、結局どんな路線でいくか決まった?」
突然顔を覗き込まれてビクッと肩が跳ねた。目の前の宝箱にばかり気を取られていたので、急に視界に端正な顔が割り込んできた事に驚きが隠せない。
「そう、ですねぇ…… 」
視線だけを逸らしてちょっと真剣に考えてみる。今さっき見たメランの攻撃速度やその方法を鑑みるに、前衛職になったとしても役に立つ事はなさそうだ。あれではボクが敵に接近する前に戦闘が終わってしまうだろう。先手必勝って感じだから盾ジョブになって敵を引き付ける必要性も感じられなかったし、もっと高レベルになってからでないと“ヒーラー”といった回復系の存在意義もなさそうだった。
(となると、よし——)
「攻撃系の後衛とかを目指そうかなと」
「妥当な選択だね。なら、一番人気の“魔導士”とかかな?」
「いやぁ…… 魔法の名前を叫んだりとかが恥ずかしいんで、それはちょっと」
ダンジョンでの戦闘は仮想世界でのゲームではないからコントローラー等で選択肢を選んで魔法を使うわけじゃない。発動させたい魔法を声で指定する必要がある。装備品や有用なスキルが手に入れば多少の簡略化は出来るみたいだが、どうせ乱戦ばかりになる頃向けできっと随分先の話だ。刺さる人には刺さる仕様だけど、厨二病全開って感じで、何をやってもその世界観に根っからは入り込めないボクには向いていない気がする。此処での戦闘はガチでの命の取り合いなのだから、どうせすぐにそんな事を気にする余裕は無くなっていくんだろうけども。
「まぁ、魔導士の攻撃って火力は高いけど、発動まで少し時間もかかるから僕と一緒に戦うには相性が悪いか」
「やっぱそうですよねぇ」
杖を構えて大声で『ファイヤー!』とかって叫んでも既にメランが倒していて、結局焼くのは敵の遺体だけとか。んなのはMPも勿体ないし虚しいだけだから想像しただけでも悲しくなってくる。
(そもそも無詠唱で攻撃出来る奴に、ダンジョン限定のエセ魔導士が並び立てるはずがないしな)
「じゃあ、“ガンナー”とかはどうだい?色々な属性弾とかが撃てるし、装填したい弾の選択は腰に着けるガンナー専用装備を軽く叩くだけでも可能だし。火力は魔導士には劣るけど、開始時の攻撃速度は“アーチャー”と並んでトップクラスだよ。どちらも“斥候”も兼ねていてサーチスキルも手に入るから僕の戦闘速度にもいずれは追いつけると思うし」
「…… めちゃくちゃ詳しいですね」
「そりゃ、お嫁さんを助けるのは夫の役目だからね。棗が冒険者になるって決めた時点で、すぐにありとあらゆる情報を網羅したに決まっているじゃないか」
「まさか、今までにも似たような事を?」
「うん!だから僕は掃除洗濯、世界各国の料理の調理法だって知識だけなら完璧に記憶しているよ!今まではそれを実行したり伝えたりする手段が無かったから自己満足でしかなかったけれど、ダンジョンに潜るとなればこうなる事は予測出来ていたから、いつも以上に気合を入れて調べたんだぁ」
花の様な笑顔で言われてもドン引きしか出来ない。“守護天使”って存在は見えないに越した事はないなと、改めて思った。
「ま、まぁ…… 確かに悪くはないですね。でも結局は、希望する職種の武器や装備が手に入ればって感じに帰着しちゃいますけど」
「その辺は心配しないでー」と言いながら、ボクがさっきまで開けようとしてた宝箱にメランが手をかざすと、一瞬パチッと鈍い音が箱から鳴った。何かしたんだろうか?と不思議に思いながら軽く首を傾げる。するとメランは、「もう開けていいよー」とこちらに笑顔を向けてきた。
言われるがまま宝箱を開ける。すると中には一丁の銃が収まっていた。見た目はショットガンや教科書で見た様な火縄銃みたいに銃身の長いタイプだ。
「本来はランダムで何が入っているか開けた瞬間に決まるんだけどね、ちょっとその数字をいじってみたんだ。レア度の低い箱だからこの銃は二パーセントくらいの確率でしかこれは出ない予定だったんだけど、百にしておいたよ」
偉いよね、褒めて!と言いたそうな顔をメランがしている。だが、『これってズルじゃね?』と思ったからか、褒め言葉が出てこなかっただけじゃなく、顰めっ面になってしまった。
「その箱からは絶対に出ない物って訳じゃないから使っていても誰も変には思わないよ?あくまでもこのレベル帯のガンナー向けの武器の中では最高峰だってだけだし、通常弾しか打てないし…… 」と、メランがすぐにボクの心境を察したのか、早口になりながら必死に言い訳を並べる。
(ボクの為を思っての行動なんだから、否定的に捉えるのも失礼か)
すぐにでも一緒に戦える様にとの考慮だろうしな。——そう考え、「んじゃ、ありがたく使わせて頂きます」と礼を伝えつつ、宝箱の中から銃を取り出した。
「うん!この調子でどんどん装備を揃えていこうね!」
「…… 次のレベルからはその様子まで配信されちゃうから、マジでやめて下さいね」
「うぐっ…… はぁーい」
不満そうだが、納得してもらえて良かった。
ステータスを表示させ、入手アイテムの性能画面で射程距離などを確認する。比較対象となる武器が初期装備の剣しかないけど、当然これよりも格段に攻撃力が高い。通常弾しか撃てないけど、相性属性を気にしないと倒せない敵なんかは低レベルのうちには出てこないだろうから問題はないだろう。武器なのにサーチスキルも付いていて敵の位置を自動的に目視出来る様にもなるみたいだ。流石はこのレベル帯での最高峰武器である。
早速、帯刀していた剣から銃に装備を変更してみる。すると小さな弾丸ホルダー付きのベルトが自動的に腰に巻かさり、『ガンマン』といった様相にちょっとだけ近づいた。
「その銃は通常弾しか打てないから腰装備に付属されている弾丸ホルダーは一つだけだけど、属性弾なんかも撃てる物を装備するとそのホルダーが増えていくんだ。弾の種類を変えたい時はそれを軽く叩くと自動的に希望の弾種に変更出来るから、弾種変更によるタイムロスはほとんど無いよ」
「弾切れの心配は?」
「その銃は連続で十二発までは撃てるタイプで、軽く銃を横に振ると荷物の中から勝手に弾が装填されるから、在庫数分までなら割とスムーズに戦闘が可能だよ」
「一々リロードしなくていいんですね」
「そんな隙があるのは低レベルのうちだけだからねぇ。二十レベル以降ともなると、リロードのロスタイムの間にすぐ殺されちゃうから」
「…… そんなん、いくらなんでも殺意が高過ぎやしませんか?」
「そうは言ってもなぁ、『ダンジョン』はその為に創られた場所だからねぇ」
光のない瞳をし、随分と冷めた表情で言われてゾッと背中に悪寒が走った。彼はまずは違いなく“天使”だったはずなのに、“人間の死”に対して全く何の感情も抱いてはいない者の様な顔をしている。『…… でもコレって、きっとボクのせいでこうなったんだよな』と思うと申し訳ない気持ちで一杯になった。
「此処は別に、新たなコンテンツを与えて人間達を楽しませる為の場所じゃないって事さ」
どうにもならない罪悪感を誤魔化すみたいに自分の胸辺りの服をぎゅっと掴み、「じゃ、じゃあ…… 何だって、こんな危険な場所があるんですか?」と訊く。だけど——
「棗には関係の無い話だよ」と笑顔で回答を拒絶された。
そんな事を言われても、んな話をされたらどうしたってその成り立ちが気になるじゃないか。何とかして聞き出せないかと思っていると、メランがボクの頬を両手で包み、俯く顔をくっと強引に持ち上げた。
「僕が絶対に棗を死なせないんだから、一生無関係な事柄を知る必要は無いんだよ。いいね?」
黄昏時を背にしたメランの赤い瞳がきらりと光る。有無を言わせぬその表情を前にして、ボクは「ひゃ、ひゃい…… 」と間抜けな声しか返せない。
「棗のモノは、何であろうが一片たりとも他には譲らないから心配しないで」と言い、ボクの額にメランの熱い唇が優しく触れる。その直後、心臓がバクッバクッと激しく鼓動し始めた。だけどそんな心臓の誤作動が許せず、ボクは、『嫁扱いしているみたいな行為に不覚にもときめいてしまったんじゃない。絶対に、さっき向けられた表情のせいでびっくりしただけに決まってる!』と、何度も自分に言い聞かせた。
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