「僕が闇堕ちしたのは、君せいだよ」と言われても

月咲やまな

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【第1章】

【第6話】天災級のトラブル・後編(弓ノ持棗・談)

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「わぁ、そんな声も出るんだね」
 やたらと熱っぽい赤い瞳をスッと細めながら恍惚とした声で先程からの追尾者であると思われる男が呟く。嬉しそうにしながら更に何度も互いの陰部を擦り付けられたが、この状況が全然呑み込めない。

(ダンジョンでボスに強姦される可能性があるなんて、聞いた事もないぞ⁉︎)

 凌辱体験であるせいで被害者が一同黙秘してしまうパターンなのだろうか。それとも、記憶を操作されるとか?だとしたらかなり厄介だ。しかもこんな、こんなにも的確に何度も擦られては、今にも変な声が出てしまいそうになるじゃないか!
 非常識且つ意味不明な状況にあるっていうのに、何故か陰部は硬さを持ち始めてしまう。いくら綺麗な顔立ちだとはいえ相手は同性で、しかもこのダンジョンのボスだとしか思いえない存在だっていうのに、まるで体が誤作動でもしているみたいだ。
「ふぐっ…… んっ」
 必死に漏れ出そうになる声を堪えていると、荒い息遣いをしながら追尾者がボクの着ている服に手を掛け始めた。いとも簡単に肌を引き裂けそうな長い爪をした手で丁寧にボタンや留め具を外されていき、恐怖でゾワッと体が震える。
「大丈夫だよー。此処ならすぐに生き返るとはいえ、僕は、お嫁さんの肌を引き裂いたりはしないから安心してね」
 優しい声色で言われても信用なんか出来るはずがない。逃走中にずっと背後に感じていた殺気を今尚忘れられてはいないからだ。
「…… ボクを、こ、殺すつもりじゃ、ないんですか?」
 息を呑み、恐る恐る問い掛ける。すると追尾者は『はて?』とでも言いたそうに首を軽く傾げた。だがすぐに合点がいったのか、ぱぁっと嬉しそうに顔を綻ばせた。

「あぁ、コイツの話をしているのかな?」

 そう言ったと同時に背にあった翼の一部が消え、手首から下の無い手が巨大な塊を掴んだ状態でふわりと空中に現れた。大量の血をぼたぼたと滴らせているそれは、光を失って虚になった瞳が何処を見ているのかもわかぬモンスターの頭部だった。

(…… モンスターの、頭部?)

「うぐっ!」
 初めて見た異形の者の遺体のせいで一気に迫り上がってきた吐き気を堪え、即座に顔を背ける。真に、殺気を放っていた者の正体が判明したのは良い事だが、これ程の巨体を持つ敵をも殺せる存在に目を付けられたという事実が受け止めきれず、頭の中は混乱する一方だ。

「僕の花嫁さんと追いかけっこをしていいのは僕だけなのに、邪魔をしようとしたから始末しておいたよ。偉い?」

 視線だけをやると、状況にそぐわぬ笑顔を男は浮かべていた。この功績を是非とも褒めて欲しいと願う犬みたいな顔なのが余計にボクの恐怖心を煽っている。
「そうそう。この階層に居た邪魔者は事前に全て排除しておいたから安心していいよ。んでね、僕らの新居として悪くないなと思って此処に招待したんだけど、どうかなぁ?」
 そんな事を訊かれても返すべき答えが思い付かない。もし男の気に触る返答をしでもしたら、すぐにでもその鋭い爪で切り裂かれてしまいそうだ。

(う、嘘だろ?“下層転移”はコイツのせいだったのか。でもそれって、意図的に起こせる現象なのか?)

 案内所で渡された冊子を読んだだけの自分ではまだまだ知識不足なままだ。そのせいで否定も肯定も出来ない。
「…… 何も怖くないよ、大丈夫。僕がちゃんと守ってあげるからねー」
 優しげな声色でそう言うと、ガタガタと震え続けている僕の体を男がぎゅっとその腕に抱く。僕の体はスライムに拘束されているままだというのに、何故か彼には何の影響も無い様だ。

、僕がこの先もずっと、ずーっと一生、永劫の刻をも傍に居るから安心していいからねー」

 蒼白になっている僕の頬を両手で包み、やたらと高揚している顔をゆっくり近づけてくる。がっちりと固定されているせいで顔を背けられずにいると、そのまま男は、僕の唇に唇を重ね始めた。柔らかく、少ししっとりとしたその感触からすぐにでも逃げてしまいたいのに叶わない。初めてなのに!とか、同性に唇を奪われたというショックよりも、この状況を全く理解出来ていない事への不快感でいっぱいになった。
 必死に口を閉じて舌の侵入を防ごうと試みる。すると男は少し拗ねた声で、「んー。僕のお嫁さんは貞淑だなぁ」と言った。
「…… よ、嫁なんか、じゃ」
 つい否定的な言葉をこぼしてしまった瞬間、その隙を突いて口内に熱いモノがにゅるりと入り、内部を蚕食さんしょくされていく。乾いていた口内を舐め上げられ、歯の凹凸をも楽しむみたいに蹂躙されているのに、段々と変な気分になってきた。熱く、不思議と甘いと感じられる唾液で口内が徐々に満たされていく。体からは力が抜けていき、頭の中がぼぉとし始めて思考力どころか、恐怖心さえも薄れ始めてしまった。

(…… こ、コイツ、淫魔とかって、奴なの、か?)

 蠱惑的に細められたルビーみたいに赤い瞳と目が合う。蝋燭の炎だけで薄暗い室内なのに、その瞳はきらりと輝いているみたいだ。不覚にも綺麗だと感じて胸の奥がじわりと熱を持つ。そんなタイミングでまたごりっと硬いモノを隠部に押し付けられ、一瞬にして現実に引き戻された。
 肩だけを無理に動かし抵抗を試みるが無駄に終わった。何度も何度も押し付け、擦り上げられるせいで卑猥な快楽が身も心も支配し始める。
「いや、だ、あぁ…… っ」
「此処には僕らしか居ないから、何も気にしないで。いくらでも乱れていいんだよ」
 甘い声で囁かれ、耳奥を撫でるように音で攻められる。だからって安易に流れに身を任せる訳にもいかず、心は恐怖と快楽の狭間で揺れ動く一方だ。
「ほら、こう触れるのが好きだよね?」と言いながら下着を少し下げると、男は直にボクの陰部に触れ始めた。感触的に指先ではなく、指の背で優しく撫でている様に感じる。そのせいで汗がじわりと体から滲み出てきた。
「違っ、ホントやめ…… 」と声を震わせながら伝えても止めては貰えず、着実に追い詰められていく。なんか悔しいやら、恥ずかしいやらで瞳から涙がボロボロと溢れ出た。
「綺麗な涙だね。僕が泣かせているんだって思うと、嬉しくなってくるなぁ」
 口元に弧を描き、いい加減に我慢せず果ててしまえと言うみたいに男が攻め立てる。他者にされた経験なんか無いせいか、玄人裸足な手管のせいなのかのか、僕はとうとう同性の手の中で白濁としたモノを無惨にも吐き出してしまった。そのせいで涙が全然とまってはくれないし、「うぅ…… 」と情けない声が出てしまう。そんなボクを前にして、男は白濁液で汚れた自分の手を真っ赤な舌で丁寧に舐め始めた。んなもん舐めるとか汚いだろとか、もう勘弁してくれなどと思いながらボクは、十八年間の人生で初めて、衝撃的な経験のせいで意識が遠のいていくという経験をしたのだった。
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