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【第1章】
【第4話】いざ、ダンジョンへ!(弓ノ持棗)
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総合案内所みたいなログハウスを出て、ボクは改めて周囲を見渡した。後方のログハウス以外にも、この周辺には数多くの平屋建てがお祭りの出店みたいなノリでズラリと並ぶ。ダンジョン内で装備出来る武器や防具の店や買取専門の店、回復薬などといった薬品関係を販売する店もある。ダンジョンで手に入れた装備品の方は外に持ち出せないので現物は並んではおらず、画面表示や着用イメージのフォログラムなどを参考にする感じみたいだ。そして店内に置かれたディスプレイに個々のステータス画面を表示させて売買する。どうやら回復アイテムなどといった薬の類や採掘出来る鉱石や伐採可能な特殊木材みたいな品は現物での取引も可能っぽい。
冒険者の胃袋を刺激する匂いを撒き散らす屋台なんかも結構あって、ダンジョンの周辺にはちょっとした集落が出来上がっている。他のダンジョンも概ねこんな感じで、過疎化していた町村の活性化に繋がっている面もあるのだと何処かで観た特集番組で説明していた。
もう今日は夕方が近いからかダンジョンから出て来る人の方が多い。低レベル者向けの無料簡易宿泊所や温泉などを完備した有料の宿屋なんかもあるらしいから、そこに流れて行く人達も結構いそうだ。
(ボクも中の雰囲気を掴んだらそこそこの所で切り上げて…… 節約の為にも簡易宿泊所の方に向かおう)
ダンジョン入り口に向かっていると、沢山の冒険者達とすれ違う。冒険者っぽい雰囲気なのは皆が皆“人間”のみで、逆に店員達は妖怪や獣人などといった“人外”さんばかりである。
何故かは知らないけども、中退前に、高校のクラスメイトの誰かが口にしていた『冒険者には人間しかなれない』って話はどうやら本当みたいだな。
◇
「此処が、ダンジョンへの入り口か…… 」
小さな声で呟き、大きな入り口を見上げた。“ダンジョン”は様々な風貌の“地下遺跡”の総称みたいなものだと聞いていたが、此処は地下に続く石造の階段がある『洞窟』といった感じだった。『遺跡』感のある物は特に無い。
「あ、そうだ。まずは冊子を読まんと」
出て来る人達の邪魔にならない様、隅の方に一旦移動する。立ったままざっくりと目を通したが、ひとまず注意すべき点は、やはり『死亡時のペナルティ』みたいだ。
事前に聞き齧っていた通り、“冒険者”達が“ダンジョン”を攻略する様子を配信する“冒険者配信”には匿名でも参加出来る。身バレ防止に仮面などで顔を隠していても良く、十八歳以上の人間であれば誰であろうが登録が可能で、動画再生数があまり伸びなくても内部で手に入る装備品や鉱石などを売ったり、敵を倒すともらえるポイントを貯めればそれなりの収入を得られるが、当然そんな利点ばかりの場所ではない。
残念ながら『配信はしません!』は選択出来ず、リアルタイムか、遅くとも攻略日から十日後には攻略の様子が勝手にネット公開の対象となる。だけどステータス等の確認パネルで事前に操作しておけば、自動公開前に自分達で攻略の様子を編集しておく事は可能だそうだ。だからか、演出の巧みさなどで売っているパーティーは台本を書き、撮影部隊まで引き連れて攻略していく場合もあるのだとか。お金は掛かるけど、その為にダンジョンを一日貸し切る事も可能だ。でもまぁ流石にそこまでするのは映画やドラマの撮影の為といった場合だろうな。
そして一番の懸念点である『死亡時のペナルティ』は、一度の死亡で『一時間分の寿命を失う』とあった。
追記として、『残りの寿命が完全に尽きてしまった場合は二度と復活は出来ません』とも書かれている。これは、ダンジョン内から追い出されて二度と入れないとかではなく、『本当に死亡する』という意味だ。魔法職による『復活の呪文』的な救済方法は無く、冒険者の証となる装身具だけがその場に残り、死体は一定時間が経過するとダンジョンに吸収でもされるみたいに消えてしまうらしい。職員による身元の確認は残った装身具でおこなう。まるで戦場に向かう兵士達が身に付ける認識票みたいだなと、自分のアンクレットを見てちょっと思った。
随分と非科学的な話だが、タチの悪い冗談や嘘、デマでも無い。
実際に相当数の冒険者達がダンジョンの中で消えている。上位ランクの冒険者やパーティーが壊滅なんかするとニュースで取り上げられたりまでしているし、怪異現象なんかももう日常茶飯事だし、妖や妖精達と共存しているこの世界で今更そんな否定の仕方をする者もいないだろうけども。
二つ目の懸念点は『攻撃を喰らった時の痛み』である。ダンジョン内で手に入る武器や装備品のスキル次第では、巧みな剣技や格闘術、魔法といったものを扱える様になるのだが、当然敵側もそういったモノを扱える。なので火属性の魔法攻撃を喰らえば大火傷をするし、剣で斬られれば当然ケガをする。即死級の攻撃をされればそのまま死亡するし、手足を切断されてしまう可能性だってあるのだが、それらの痛みは全てリアルそのものなのだとか。運良く即死を免れても、あまりの激痛からショック死する事だってある。激痛や敵対時の恐怖体験が原因で心を病み、始めたはいいがすぐに引退していく冒険者も一定数いるのだとか。なので新規の冒険者達は皆、まずは痛みを無効化出来るスキルが付与された装備品の入手を目標とするそうだ。
(自分の目標も、当面はそれかな)
全ての痛みがリアルだと聞かされては、まだダンジョンに入ってもいないのに怖くなる。だけどダンジョンに潜るからには死は避けては通れない。本気で殺しに掛かってくる者達が相手なんだから当然だ。でもまぁ幸いにして冒険者側には過去の経験をまとめた攻略方法が確立されていて、ある程度の階層までなら通じるそうだ。けど、ここでもう一つ懸念点を挙げるとするなら、この『黄昏』は他よりもかなり新しいダンジョンなので攻略方法がまだ浅い階層部分しか解明されていないって所か。
(怖い。怖いけど…… ボクは此処で踏ん張るしかないんだ)
読んでいた冊子を着ているジャケットのポケットの中に戻して顔を上げる。『では、いざ出陣だ!』と自分で自分を奮い立たせ、ボクはダンジョン『黄昏』の中に踏み込んで行った。
冒険者の胃袋を刺激する匂いを撒き散らす屋台なんかも結構あって、ダンジョンの周辺にはちょっとした集落が出来上がっている。他のダンジョンも概ねこんな感じで、過疎化していた町村の活性化に繋がっている面もあるのだと何処かで観た特集番組で説明していた。
もう今日は夕方が近いからかダンジョンから出て来る人の方が多い。低レベル者向けの無料簡易宿泊所や温泉などを完備した有料の宿屋なんかもあるらしいから、そこに流れて行く人達も結構いそうだ。
(ボクも中の雰囲気を掴んだらそこそこの所で切り上げて…… 節約の為にも簡易宿泊所の方に向かおう)
ダンジョン入り口に向かっていると、沢山の冒険者達とすれ違う。冒険者っぽい雰囲気なのは皆が皆“人間”のみで、逆に店員達は妖怪や獣人などといった“人外”さんばかりである。
何故かは知らないけども、中退前に、高校のクラスメイトの誰かが口にしていた『冒険者には人間しかなれない』って話はどうやら本当みたいだな。
◇
「此処が、ダンジョンへの入り口か…… 」
小さな声で呟き、大きな入り口を見上げた。“ダンジョン”は様々な風貌の“地下遺跡”の総称みたいなものだと聞いていたが、此処は地下に続く石造の階段がある『洞窟』といった感じだった。『遺跡』感のある物は特に無い。
「あ、そうだ。まずは冊子を読まんと」
出て来る人達の邪魔にならない様、隅の方に一旦移動する。立ったままざっくりと目を通したが、ひとまず注意すべき点は、やはり『死亡時のペナルティ』みたいだ。
事前に聞き齧っていた通り、“冒険者”達が“ダンジョン”を攻略する様子を配信する“冒険者配信”には匿名でも参加出来る。身バレ防止に仮面などで顔を隠していても良く、十八歳以上の人間であれば誰であろうが登録が可能で、動画再生数があまり伸びなくても内部で手に入る装備品や鉱石などを売ったり、敵を倒すともらえるポイントを貯めればそれなりの収入を得られるが、当然そんな利点ばかりの場所ではない。
残念ながら『配信はしません!』は選択出来ず、リアルタイムか、遅くとも攻略日から十日後には攻略の様子が勝手にネット公開の対象となる。だけどステータス等の確認パネルで事前に操作しておけば、自動公開前に自分達で攻略の様子を編集しておく事は可能だそうだ。だからか、演出の巧みさなどで売っているパーティーは台本を書き、撮影部隊まで引き連れて攻略していく場合もあるのだとか。お金は掛かるけど、その為にダンジョンを一日貸し切る事も可能だ。でもまぁ流石にそこまでするのは映画やドラマの撮影の為といった場合だろうな。
そして一番の懸念点である『死亡時のペナルティ』は、一度の死亡で『一時間分の寿命を失う』とあった。
追記として、『残りの寿命が完全に尽きてしまった場合は二度と復活は出来ません』とも書かれている。これは、ダンジョン内から追い出されて二度と入れないとかではなく、『本当に死亡する』という意味だ。魔法職による『復活の呪文』的な救済方法は無く、冒険者の証となる装身具だけがその場に残り、死体は一定時間が経過するとダンジョンに吸収でもされるみたいに消えてしまうらしい。職員による身元の確認は残った装身具でおこなう。まるで戦場に向かう兵士達が身に付ける認識票みたいだなと、自分のアンクレットを見てちょっと思った。
随分と非科学的な話だが、タチの悪い冗談や嘘、デマでも無い。
実際に相当数の冒険者達がダンジョンの中で消えている。上位ランクの冒険者やパーティーが壊滅なんかするとニュースで取り上げられたりまでしているし、怪異現象なんかももう日常茶飯事だし、妖や妖精達と共存しているこの世界で今更そんな否定の仕方をする者もいないだろうけども。
二つ目の懸念点は『攻撃を喰らった時の痛み』である。ダンジョン内で手に入る武器や装備品のスキル次第では、巧みな剣技や格闘術、魔法といったものを扱える様になるのだが、当然敵側もそういったモノを扱える。なので火属性の魔法攻撃を喰らえば大火傷をするし、剣で斬られれば当然ケガをする。即死級の攻撃をされればそのまま死亡するし、手足を切断されてしまう可能性だってあるのだが、それらの痛みは全てリアルそのものなのだとか。運良く即死を免れても、あまりの激痛からショック死する事だってある。激痛や敵対時の恐怖体験が原因で心を病み、始めたはいいがすぐに引退していく冒険者も一定数いるのだとか。なので新規の冒険者達は皆、まずは痛みを無効化出来るスキルが付与された装備品の入手を目標とするそうだ。
(自分の目標も、当面はそれかな)
全ての痛みがリアルだと聞かされては、まだダンジョンに入ってもいないのに怖くなる。だけどダンジョンに潜るからには死は避けては通れない。本気で殺しに掛かってくる者達が相手なんだから当然だ。でもまぁ幸いにして冒険者側には過去の経験をまとめた攻略方法が確立されていて、ある程度の階層までなら通じるそうだ。けど、ここでもう一つ懸念点を挙げるとするなら、この『黄昏』は他よりもかなり新しいダンジョンなので攻略方法がまだ浅い階層部分しか解明されていないって所か。
(怖い。怖いけど…… ボクは此処で踏ん張るしかないんだ)
読んでいた冊子を着ているジャケットのポケットの中に戻して顔を上げる。『では、いざ出陣だ!』と自分で自分を奮い立たせ、ボクはダンジョン『黄昏』の中に踏み込んで行った。
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