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【幕間の物語・③】
右近と左近②
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「「巴巫女神様!」」
二羽が急に振り返り、声を綺麗に揃え、左近と右近が巴の名を呼ぶ。これからカムイの待つ部屋まで行こうと共に歩いている最中だったのだが、今日はいつもとは違って、何やら巴に相談がありそうな様子だ。
「何でしょう?」
歩みを止め、小首を傾げながら巴が訊くと、左近が「……御主神様のお世話のコツを私共にお教え頂けませんか?」と真剣な眼差しを彼女に向けた。
「……コツ、ですか」
(えっと、そんなものは無いなぁ……)
そのせいで巴が返答に困っていると、右近が眼下に広がる広大な森を翼で指し示した。
「巴巫女神様が奉仕をなさる様になって以来、驚く程早い速度で“神域”の塗り替え作業が進んでおります。いらっしゃる前と後では、下の様子が雲泥の差なのです。これにはやはり何か大きな理由があるとしか……」
左近の言葉に右近も頷く。どうやら二羽共同じ事を考えているみたいだ。
巴よりも一週間程早くカムイは宵闇市の“土地神”として就任し、同時期に彼の眷属となった左近と右近は神経も気力も神通力をも削られていく塗り替え作業の助けになればと、必死に世話係の仕事を勤めた。だが、前任神・稲雀大神の元に仕えていた時の様に舞を披露してみたり、俳句を披露したり、茶を立てたりしてみても良い反応は得られなかった。親が子供を見守る様な、機嫌次第では興味の欠片も無さそうな……。そんな態度や無関心さを目の当たりのすると、何をするべきで何を行えばカムイの励みや助けになるのか皆目見当も付かずに困り果てていたのだ。
(これならば、当たり散らされた方がまだマシだ)
そう思う瞬間も多々あった。
舞などの技能は『いずれは此奴らも“人の世”に戻るだろうから、芸の一つも身に付けておいた方が良いじゃろう』という稲雀大神の配慮から学ぶ事になったのだが、そういった意図も知らず、長年に渡り女神に披露してきたものだった為、『これこそが世話係の勤め』だと思っていた。なのにそれを喜んではもらえないとあってはどうしたらいいのかと悩みに悩んでの質問であった。
それらの奉納を楽しんで頂けている気がしない。彼等はそう素直に巴に話した所、彼女は成る程と一度深く頷き、「それならば、何もしないでお茶だけお出しして、あとはもう放置しておいてはどうでしょう?」と告げた。
何もしないを、行う。
意味がわからず二羽は困惑したが、週末にそれを実行してみた所、自分達が必死に行動していた時よりも塗り変わっていく範囲が広かった。巴が来ている平日とは比べ物にならぬものではあるものの、あれこれと悪戦苦闘していた時よりも確実に広がっていたのだ。
——これにより二羽の巴に対する信頼度がぐんと上がった。その『おかげ』か、はたまた『せい』と言うべきか。カムイの新たな“神域”の秘匿性が一層高くなり、カムイの暴走行為が外界に知られる心配は皆無となったのであった。
二羽が急に振り返り、声を綺麗に揃え、左近と右近が巴の名を呼ぶ。これからカムイの待つ部屋まで行こうと共に歩いている最中だったのだが、今日はいつもとは違って、何やら巴に相談がありそうな様子だ。
「何でしょう?」
歩みを止め、小首を傾げながら巴が訊くと、左近が「……御主神様のお世話のコツを私共にお教え頂けませんか?」と真剣な眼差しを彼女に向けた。
「……コツ、ですか」
(えっと、そんなものは無いなぁ……)
そのせいで巴が返答に困っていると、右近が眼下に広がる広大な森を翼で指し示した。
「巴巫女神様が奉仕をなさる様になって以来、驚く程早い速度で“神域”の塗り替え作業が進んでおります。いらっしゃる前と後では、下の様子が雲泥の差なのです。これにはやはり何か大きな理由があるとしか……」
左近の言葉に右近も頷く。どうやら二羽共同じ事を考えているみたいだ。
巴よりも一週間程早くカムイは宵闇市の“土地神”として就任し、同時期に彼の眷属となった左近と右近は神経も気力も神通力をも削られていく塗り替え作業の助けになればと、必死に世話係の仕事を勤めた。だが、前任神・稲雀大神の元に仕えていた時の様に舞を披露してみたり、俳句を披露したり、茶を立てたりしてみても良い反応は得られなかった。親が子供を見守る様な、機嫌次第では興味の欠片も無さそうな……。そんな態度や無関心さを目の当たりのすると、何をするべきで何を行えばカムイの励みや助けになるのか皆目見当も付かずに困り果てていたのだ。
(これならば、当たり散らされた方がまだマシだ)
そう思う瞬間も多々あった。
舞などの技能は『いずれは此奴らも“人の世”に戻るだろうから、芸の一つも身に付けておいた方が良いじゃろう』という稲雀大神の配慮から学ぶ事になったのだが、そういった意図も知らず、長年に渡り女神に披露してきたものだった為、『これこそが世話係の勤め』だと思っていた。なのにそれを喜んではもらえないとあってはどうしたらいいのかと悩みに悩んでの質問であった。
それらの奉納を楽しんで頂けている気がしない。彼等はそう素直に巴に話した所、彼女は成る程と一度深く頷き、「それならば、何もしないでお茶だけお出しして、あとはもう放置しておいてはどうでしょう?」と告げた。
何もしないを、行う。
意味がわからず二羽は困惑したが、週末にそれを実行してみた所、自分達が必死に行動していた時よりも塗り変わっていく範囲が広かった。巴が来ている平日とは比べ物にならぬものではあるものの、あれこれと悪戦苦闘していた時よりも確実に広がっていたのだ。
——これにより二羽の巴に対する信頼度がぐんと上がった。その『おかげ』か、はたまた『せい』と言うべきか。カムイの新たな“神域”の秘匿性が一層高くなり、カムイの暴走行為が外界に知られる心配は皆無となったのであった。
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