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【第三章】
【第6話】見覚えのある羽根(賀村巴・談)
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私の中で、『今のカムイ君』と『いつものカムイ君』が全っ然、一致しない!
そのせいで、何故か語尾にハートでも付いていそうなくらいに甘ったるい声で、さっきから何度も「巴」と私の名前を呼びながら背後から抱き着いてきている彼をどう扱っていいのかさっぱりわからない。
白い長髪や黒い瞳は共通しているけれど、今のカムイ君はどう見ても十代後半くらいの容姿である。座っていても百八十センチはあってもおかしくないくらいの体格であり、服越しであろうが伝わってくる筋肉質な体からは何かは知らんがやたらと良い匂いがする。銀糸みたいな長髪は末端にいく程に何故か鳥の羽根っぽい。神職に従事している者みたいな格好はとても似合っているし、低めの声なんかめちゃくちゃ素敵なのだが、『——や、ホント、君は誰⁉︎』としか思えないのだ。
「…… あ、あの」
「ん?」
私の肩に頭を置き、胸の下に回された腕が少し動くだけで胸が持ち上がった状態になってしまう。直接触れられた訳でもないのに、少し動くだけで無遠慮に揺れるせいで私の口元が段々とへの字口になっていく。顔も何だか熱い気がするし、ふわりと肌をくすぐる髪はまるで羽根ペンでそっと撫でるみたいでゾクッと体が震えてしまった。
(この状況は、一体⁉︎)
どう見ても完全に別人なカムイ君が、普段の距離感で接してくるもんだから脳味噌が煮詰まっていく感じがする。だけどもう雀達は同室にはおらず、助けを求める相手も居ない。
「もしかして、カムイ君って…… その姿が、本来の姿なの?」
毎晩一緒に寝て、最近では毎度共にお風呂にも入り、同じ部屋で暮らす彼の中身が“大人”なのだとしたらと考えるだけで、恥ずかし過ぎてこのまま死んでしまいそうだ。
(もしそうならば今後の接し方を全て変えていかねば!)
「いいや、違う」と言って、肩に頭を置いたままカムイ君が首を振る。その仕草が甘えているみたいで、心の中をギュッと掴まれた。だが同時にほっと胸を撫で下ろしもした。
(よ、よ、良かったぁぁぁぁぁぁ!)
心の中だけで、私は大絶叫をあげた。
そっか、普段の幼い容姿の方が、カムイ君の本来の姿なのか。さっき雀の左近さんと右近さんが此処は『神域』だと言っていたから、きっとその影響で大人みたいな姿になっているだけなのだろう。そう、私が一人納得していると、カムイ君が口元を綻ばせた。
「今日からは、ずっと一緒じゃな」
(恋人に向けるみたいな目で見るなぁぁぁ)
そんな気持ちはぐっと堪え、すんっとした顔をする。姉か叔母みたいな私にまでこんな視線を向けるとか、『本当に好きな相手にはどんだけ甘い行動をとるんだろうか?』と、ちょっと気になった。
「そ、そうだね。…… そう言えば、カムイ君は宵闇市の土地神様だったんだね。知らなかったから、驚いたよ」
「訊かれなかったからな」
「…… あっ…… そ、そっかぁ」
そういえばカムイ君はそういう子だったな。最初よりも随分と緩和はされたが、基本的には自分から何かをする事をしない子であった事を思い出し、ちょっと寂しい気持ちになった。
背後から抱きつかれたまましばらく会話もなく過ごしていると、「…… なぁ、巴」と少し眠そうな声で、カムイ君が私の名を呼んだ。
「なぁに?」
こっちまで少し眠そうな声が出てしまった。最初に感じた刺さる様な空気感はもう何処にも無く、柑橘系のお香の匂いがする温かな部屋の中でのんびり二人で過ごすうち、いつの間にか眠気が襲ってきてしまっていたみたいだ。『今の私は仕事中っ!』と頭の中で自分の頬を叩いてみたが、ガッチリとした体躯に身を委ねたままなせいか、しっかり目覚めるのはちょっと難しそうだ。いつの間にか随分と御高そうなビーズクッションにカムイ君は寄り掛かっているし、もう彼の方は寝る気満々って感じまでする。
「…… コレを受け取ってはもらえまいか?」
そう言ってカムイ君が一枚の大きな羽根を差し出してきた。羽根を持つ手はとても美しく、でもちゃんと男らしくもあって、いとも簡単に心を鷲掴みされた。
(私は手フェチじゃないのに!)
オジサマが笑みを浮かべた時に出来る目尻のシワや、歳を重ねた働き者のごつい手こそが至宝!だったはずの自分の心臓が馬鹿みたいに煩い。小さなカムイ君の姿を必死に思い浮かべようとするが、目の前の羽根をじっとみているうち、不可思議な情景が頭をよぎった——
大木と一体化している大きな岩、その前にある古い祠。そしてそこに置かれた一枚の鳥の羽根。その羽根は真っ白だが少しだけ黒い斑模様があって、目の前にある羽根と驚く程にそっくりだ。
『絶対に、梟の羽根は受け取っては駄目よ』
祖母が、優しい声色ながらも、念を押すような声で私にそう言った声が不意に蘇る。
(…… あの羽根と、おな、じ?)
そう感じた瞬間、バツンッと耳の奥で大きな音が響いた気がした。それと同時に先程までの情景が脳内から消えていく。思い出せなくなっていき、その代わりに別の過去の記憶が頭の中で急速に蘇ってきた。幼少期の、まだ私が人の『純真な悪意』というものを全く知らなかった時の思い出だ。
そのせいで、何故か語尾にハートでも付いていそうなくらいに甘ったるい声で、さっきから何度も「巴」と私の名前を呼びながら背後から抱き着いてきている彼をどう扱っていいのかさっぱりわからない。
白い長髪や黒い瞳は共通しているけれど、今のカムイ君はどう見ても十代後半くらいの容姿である。座っていても百八十センチはあってもおかしくないくらいの体格であり、服越しであろうが伝わってくる筋肉質な体からは何かは知らんがやたらと良い匂いがする。銀糸みたいな長髪は末端にいく程に何故か鳥の羽根っぽい。神職に従事している者みたいな格好はとても似合っているし、低めの声なんかめちゃくちゃ素敵なのだが、『——や、ホント、君は誰⁉︎』としか思えないのだ。
「…… あ、あの」
「ん?」
私の肩に頭を置き、胸の下に回された腕が少し動くだけで胸が持ち上がった状態になってしまう。直接触れられた訳でもないのに、少し動くだけで無遠慮に揺れるせいで私の口元が段々とへの字口になっていく。顔も何だか熱い気がするし、ふわりと肌をくすぐる髪はまるで羽根ペンでそっと撫でるみたいでゾクッと体が震えてしまった。
(この状況は、一体⁉︎)
どう見ても完全に別人なカムイ君が、普段の距離感で接してくるもんだから脳味噌が煮詰まっていく感じがする。だけどもう雀達は同室にはおらず、助けを求める相手も居ない。
「もしかして、カムイ君って…… その姿が、本来の姿なの?」
毎晩一緒に寝て、最近では毎度共にお風呂にも入り、同じ部屋で暮らす彼の中身が“大人”なのだとしたらと考えるだけで、恥ずかし過ぎてこのまま死んでしまいそうだ。
(もしそうならば今後の接し方を全て変えていかねば!)
「いいや、違う」と言って、肩に頭を置いたままカムイ君が首を振る。その仕草が甘えているみたいで、心の中をギュッと掴まれた。だが同時にほっと胸を撫で下ろしもした。
(よ、よ、良かったぁぁぁぁぁぁ!)
心の中だけで、私は大絶叫をあげた。
そっか、普段の幼い容姿の方が、カムイ君の本来の姿なのか。さっき雀の左近さんと右近さんが此処は『神域』だと言っていたから、きっとその影響で大人みたいな姿になっているだけなのだろう。そう、私が一人納得していると、カムイ君が口元を綻ばせた。
「今日からは、ずっと一緒じゃな」
(恋人に向けるみたいな目で見るなぁぁぁ)
そんな気持ちはぐっと堪え、すんっとした顔をする。姉か叔母みたいな私にまでこんな視線を向けるとか、『本当に好きな相手にはどんだけ甘い行動をとるんだろうか?』と、ちょっと気になった。
「そ、そうだね。…… そう言えば、カムイ君は宵闇市の土地神様だったんだね。知らなかったから、驚いたよ」
「訊かれなかったからな」
「…… あっ…… そ、そっかぁ」
そういえばカムイ君はそういう子だったな。最初よりも随分と緩和はされたが、基本的には自分から何かをする事をしない子であった事を思い出し、ちょっと寂しい気持ちになった。
背後から抱きつかれたまましばらく会話もなく過ごしていると、「…… なぁ、巴」と少し眠そうな声で、カムイ君が私の名を呼んだ。
「なぁに?」
こっちまで少し眠そうな声が出てしまった。最初に感じた刺さる様な空気感はもう何処にも無く、柑橘系のお香の匂いがする温かな部屋の中でのんびり二人で過ごすうち、いつの間にか眠気が襲ってきてしまっていたみたいだ。『今の私は仕事中っ!』と頭の中で自分の頬を叩いてみたが、ガッチリとした体躯に身を委ねたままなせいか、しっかり目覚めるのはちょっと難しそうだ。いつの間にか随分と御高そうなビーズクッションにカムイ君は寄り掛かっているし、もう彼の方は寝る気満々って感じまでする。
「…… コレを受け取ってはもらえまいか?」
そう言ってカムイ君が一枚の大きな羽根を差し出してきた。羽根を持つ手はとても美しく、でもちゃんと男らしくもあって、いとも簡単に心を鷲掴みされた。
(私は手フェチじゃないのに!)
オジサマが笑みを浮かべた時に出来る目尻のシワや、歳を重ねた働き者のごつい手こそが至宝!だったはずの自分の心臓が馬鹿みたいに煩い。小さなカムイ君の姿を必死に思い浮かべようとするが、目の前の羽根をじっとみているうち、不可思議な情景が頭をよぎった——
大木と一体化している大きな岩、その前にある古い祠。そしてそこに置かれた一枚の鳥の羽根。その羽根は真っ白だが少しだけ黒い斑模様があって、目の前にある羽根と驚く程にそっくりだ。
『絶対に、梟の羽根は受け取っては駄目よ』
祖母が、優しい声色ながらも、念を押すような声で私にそう言った声が不意に蘇る。
(…… あの羽根と、おな、じ?)
そう感じた瞬間、バツンッと耳の奥で大きな音が響いた気がした。それと同時に先程までの情景が脳内から消えていく。思い出せなくなっていき、その代わりに別の過去の記憶が頭の中で急速に蘇ってきた。幼少期の、まだ私が人の『純真な悪意』というものを全く知らなかった時の思い出だ。
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