上 下
23 / 61
【第二章】

【第7話】空の移動(賀村巴・談)

しおりを挟む
 早速行こうと二人で部屋を出る。カムイ君は事前に私が使う靴や鞄まで用意してくれていて、私達の格好はもうすっかり『貴族とその従者(もしくは教師)』となった。内心どうかとは思いつつも、カムイ君の『公爵令息』っぷりを見るとどうでも良くなってきてしまうのが恐ろしい。推しの魅力には抗えるわけがないとつくづく実感する。

「さてと、まずは駅に向かおうか」と声を掛けたのだが、「いや、その必要はないぞ」とカムイ君が首を振った。何故に?と思いながら軽く頭を傾げると、「彼奴が近傍まで運んでくれるからの」と敷地の外に続く方を指差す。彼の言う『彼奴』が誰なのか気になり、指差す方向に顔を向ける。するとそこには街路樹程にも大きな鳥が一羽、堂々たる姿で羽を休めていた。
「…… え」
 あまりの大きさに声を失う。こんなサイズの鳥は創作物でしか見た事が無いからだ。
「ワシの眷属で、名を“カスス”と言う。元々はアメリカ大陸で生まれたそうなんじゃが、好き勝手に大空を飛び回っているうちに常識以上に長生きし、妖みたいなモノに変化したみたいでのう。そのせいか図体までデカくなりおって、あまりの大きさにこれ以上は人間達の目からは隠れ切れないと判断して、長年の友でもあったワシに泣きついてきた所を眷属に迎えてやったんじゃ」
 こちらから訊かずとも簡単な馴れ初めを教えてくれた。出会ったばかりの頃では絶対に期待出来なかったその行動がちょっと嬉しい。
「…… 確かに、このサイズだと、目立つ所の話じゃないもんね」
 二人くらいは余裕で乗ってしまえそうな程に大きいこの鳥は多分、アメリカの国鳥でもあるハクトウワシだと思う。あまりにも大き過ぎて別物にしか見えないけども。
「流石に、ここまでの体長になったのはワシの眷属になった後じゃぞ。好き勝手に食わせていたら、更に限界を超えたみたいでの」
「…… そ、そっかぁ」

(何を、どんだけ食べさせたらこうなるの⁉︎)

 気にはなったが、聞いたからって素直に納得出来るとも思えず、その疑問はそっと胸の内にしまい込んだ。
「此奴に乗っていけば、水族館までもすぐじゃろう?」
「まぁ、間違いなく、そうだね」と頷く。直線距離での移動だし、かなり早く到着出来る事は間違いない。此処までの巨体だと、着地ポイントがあるのかが心配だけども。

(こんなに大きな鳥が街中を飛んでいたら皆驚くだろうなぁ。…… いや、今の時代だと普通だったりするのかも?)

 うん、きっとそうだ。妖怪・朧車がタクシー代わりに空を飛んでいたりもするし、私の反応の方が今だとズレているのかもしれないもんな。

 カムイ君の助力を得ながらカスス君の背中に乗る。ふわっふわの羽毛が心地良い。だけど、これって何処に掴まればいいのだろうか。
「準備は良いか?」
 私の前にちょこんと座っているカムイ君の後方で、「うん」と頷く。鳥に乗っての移動なんて生まれて初めての事だ。なので内心不安しかない状況なのだが、そんな事正直には言えない。

 翼を広げ、バサッとカスス君が力強く羽ばたいて上空を目指す。“眷属”だというだけあってカムイ君としっかり意思疎通が出来ているみたいで、迷わず都心部に向かい始めた。

 上へ上へと行くにつれて段々寒くなっていく。カスス君に触れている部分はかなーり温かいのだが、上半身は風をもろにくらっているせいか体が震え始めた。

(うぅっ!し、寒い!しばれる

 それに気が付いたカムイ君がこちらに少し振り返り、「もっと傍に」と言って私の腕をぐっと引く。そのせいで後方から彼をぎゅっと抱き締めている様な体勢になってしまった。
「少しは温かいか?」
「うん…… 」
 何かしらの術でも使ってくれたのか、触れ合っている前側だけじゃなく、背中の方もじわりと温かくなってきた。
 それにしても、『此処がほぼ誰にも見られる心配の無い上空で良かったな』と心底思う。今の私のこの状況って絶対、『初心な美少年を誘惑しようとしているクズ教師』でしかないだろうから。


       ◇


 宵闇市から離れ、都心部に近づいて来た。前方に東京タワーやらスカイツリーなどが何となく見え始め、『あ、“東京”に来たんだな』とやっと実感が湧いてくる。だが、昔テレビで観た光景とはちょっと違う。映像で観ていた景色は大小様々なビル群が何処までも広がっている印象だったのだが、今は随分と木々が多い。見た感じ『地球温暖化防止の為に緑化運動に力を入れました!』という規模ではない。自然に街が侵食されている感じがする。よくよくく見ると東京タワーや一部の高層ビルには廃墟感が漂っており、三百年という時の流れを垣間見た気がした。

「もうすぐじゃな」
「このまま、近くまで行く感じ?」
「あぁ、そのつもりじゃ」
「…… 大丈夫なの?その、カスス君結構大きいけど」
「問題はないじゃろ、今のご時世なら」
「そっかそっか」
 カムイ君がそう言うのなら問題ないのだろう。三百年前の感覚しかない私よりも、きっと色々と詳しいはずだ。

 ——そう思っていたのに、どうだ。
 いざ水族館の真ん前に降り立ってみると、開館時間前から並んでいた人々全員がこっちを見ている。ざわざわとしているし、カメラやスマホで撮影しまくっているしで、どう考えたって『珍しいもん見た!』って感じの反応だ。い、居た堪れない。カムイ君は“神様”だから慣れっこかもしれないが、庶民な私は注目され慣れてなどいないのだからホント勘弁して欲しい。

 カムイ君が先にカスス君から飛び降り、当たり前の様な流れでこちらに方へ手を伸ばしてくれた。が、彼の身長では完全に無意味な行為で、その手を取ろうとしたら絶対に私は顔面から地面に落下していく様な配置である。だがそんな気遣いと紳士的な行動には胸がキュンッと締め付けられるものがたっぷりあり、『見て見て!私の推しが優しいの!紳士的なの!』と大声で叫びたい気分にはなった。
「あぁ、これでは届かんな」
 直様気が付き、カムイ君がカスス君に何やら告げている。すると巨鳥であったカスス君の体がするすると小型化していき、その変化に驚いて動揺ばかりしてしまっていた私の手をカムイ君が優しく引いてくれた。
「大丈夫か?」
 地面に無事足が着き、「ありがとう」と礼を言う。最終的にはセキセイインコサイズにまで小さくなったカスス君がカムイ君の肩にちょこんと乗ると、周囲から多数の歓喜の声があがった。多分鳥好きの人達だと思う。ハクトウワシの小型版だなんて、ぬいぐるみ並みに可愛いから騒ぎたくもなるってもんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...