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【第二章】
【第6話】悩ましいお着替えタイム(賀村巴・談)
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カムイ君に渡された服に早速着替えようとしたのだが、すぐに問題が発生した。カムイ君からの妙に熱い視線が気になるのだ。いつもは彼がまだダラダラとお布団の中で惰眠を貪っている隙に着替えたり、お風呂のついでにといった感じで済ませているから問題は無かったのだが、目の前でこうもじっと見られながら着替えるとなると流石に恥ずかしい。いくら小さな子供の姿であってもカムイ君は“男神”な訳で。彼の中身が見た目と一緒である保証も無いとなると、このまま此処で着替えても良いものなのか。
それ以外にも気掛かりがある。
私の身体中に残る、巨大な手で掴まれたみたいな黒い模様だ。
どうやらコレは呪いらしいし、そんなものを“神様”の前で晒すのはどうしたって抵抗がある。普段は長袖を着て隠せているからいいけれど、着替えとなると隠し通すのは難しい。となると、やっぱり別の場所で着替えるべきだろうか。でもそうすると、私達は親子程にも見た目が離れているのに、自意識過剰っぽくってちょっとなぁ…… 。
「着替えないのか?もしかして、それが気に入らなかったんじゃろうか…… 」
服を受け取った状態のまま着替えもせずにぐだぐだと色々考えていたせいか、不覚にもカムイ君を落ち込ませてしまった。しゅんと項垂れた姿が小動物が凹んでいる姿を連想してしまい、心が痛む。
「違うよ、まだ全貌は見ていないけど、可愛い服だと思うし!」
この先もこの狭い部屋で同居するのだ、此処で着替える云々は抜きにして、ちゃんと彼には打ち明けておいた方が良い気がしてきた。
「ただ、その…… 私の腕とかを見ても、驚かないでね?」
「あぁ」と言い、カムイ君が頷く。だがいきなり全てを晒すよりかは一応反応を確認しようと、私は左腕の袖を捲り上げて、掴み跡とも取れる黒い模様を彼に少しだけ見せてみた。
「…… その、コレ、気持ち悪く、ない?大丈夫…… かな」
病気じゃないんだ、感染はしないだろうが念の為呪いかもしれないことは伏せ、不安に思いながらもちらりと彼の様子を伺う。すると彼は私の予想とは真逆で、何故か高揚した気持ちを無理に抑え込んでいるとしか思えぬ表情を顔に浮かべながら、そっと私の腕に触れてきた。
「これは見事だ。綺麗、じゃなぁ」
小さな指先でちょっと触れられただけなのに、じわりと肌が熱くなる。その指がそっと表面を滑っただけで体の奥に変な熱が宿りそうな気配を感じてしまい、私は慌ててカムイ君から少しだけ身を引いた。
(ちょ!——い、いやいやいや、こんな小さな子を相手に、待て待て待て!こんなん、ド変態じゃん、私!)
「えっと、じゃあ、ちょっと洗面所で着替えて来るね!」
変な気分になりそうになったのを咄嗟に誤魔化そうとしたせいか、不自然な程早口になった挙句、少し声が裏返った。
事前に用意してくれていた服をギュッと胸に抱き、その場で立ち上がって洗面所の方へ足を向ける。するとカムイ君に「別に、此処で着替えても良いのでは?」と不思議がっている様な声で言われた。
「女性の着替えは、そうはいかないものなのよ⁉︎」
真っ赤な顔をしながら伝えると、何でか少し残念そうな顔をしながらではあったものの、「成る程。そういうものなのか」と一応は納得した様に頷き返してくれた。
無事に着替えを済ませて部屋に戻る。彼から受け取った服は、膝下までのスカートと白いブラウスとハイソックスの三点セットだった。それらは一見シンプルな印象だったのだが、いざきちんと着てみると、『貴族に仕える教育者風だな』と思った。『公爵令息』としか思えぬ格好のカムイ君の後方を歩くには相応しいのかも知れないが、バリバリの一般市民である自分にこの服装がちゃんと似合っているのかが疑問でならない。でもまぁ長袖だった事や、白いのに布が高品質なおかげで肌の黒い模様は透けていない点は有り難かった。
「似合っておるぞ」
こちらの姿を見るなり、そう言いながら私の体にカムイ君がぎゅっと抱きついてきた。そんな彼に対して「ありがとう」と素直に礼を伝えて頭を撫でる。どうやらこの格好を気に入ってくれているみたいだし、『衣装を貸してくれたカムイ君が喜んでくれているのならもういいか』と割り切る事に決めた。
「お主の髪は、ワシが整えても?」
「出来るの?」
「あぁ、毛繕いの延長みたいなものじゃしな」
内心では『毛繕いとは違うと思うぞ』と思ってはいても、自信満々な様子では流石に言えず。
「じゃあ、お願いしようかな」と返してソファーに座る。カムイ君は私の背後に立って、瞬く間にミディアムボブの髪をヘアバンド風に編み上げてくれ、仕上げに小さな和風のつまみ飾りを何個も添えてくれた。
「どうじゃ?」
そう訊かれ、少し大きめな手鏡で髪型を確認してみる。インナーカラーっぽい真っ白な髪もきちんと活かしてくれている事にも驚きを隠せない。ここまで上手だと『毛繕い』という表現の範囲をゆうに超えていた。
「あ、ありがとう」
(私より上手いとか、何で?)
いつ身に付けた技能なんだ。神様だと長生きだから、とか?…… もしかすると、女神様相手に結ってあげる機会が多かったのかも。そう思うと、不覚にもまた、チリッと胸の奥が痛んだ気がした。
「どういたしまして。じゃあ、そろそろ行こうかのう」
革製の小さな鞄に荷物を少し詰め、カムイ君がこちらに手を差し出してくる。まだルートの確認やら時間表を見たりなどを一切していないのだが、それを言って水を指してしまうよりも、今はこの、温かくて小さな手を取らずにはいられなかった。
それ以外にも気掛かりがある。
私の身体中に残る、巨大な手で掴まれたみたいな黒い模様だ。
どうやらコレは呪いらしいし、そんなものを“神様”の前で晒すのはどうしたって抵抗がある。普段は長袖を着て隠せているからいいけれど、着替えとなると隠し通すのは難しい。となると、やっぱり別の場所で着替えるべきだろうか。でもそうすると、私達は親子程にも見た目が離れているのに、自意識過剰っぽくってちょっとなぁ…… 。
「着替えないのか?もしかして、それが気に入らなかったんじゃろうか…… 」
服を受け取った状態のまま着替えもせずにぐだぐだと色々考えていたせいか、不覚にもカムイ君を落ち込ませてしまった。しゅんと項垂れた姿が小動物が凹んでいる姿を連想してしまい、心が痛む。
「違うよ、まだ全貌は見ていないけど、可愛い服だと思うし!」
この先もこの狭い部屋で同居するのだ、此処で着替える云々は抜きにして、ちゃんと彼には打ち明けておいた方が良い気がしてきた。
「ただ、その…… 私の腕とかを見ても、驚かないでね?」
「あぁ」と言い、カムイ君が頷く。だがいきなり全てを晒すよりかは一応反応を確認しようと、私は左腕の袖を捲り上げて、掴み跡とも取れる黒い模様を彼に少しだけ見せてみた。
「…… その、コレ、気持ち悪く、ない?大丈夫…… かな」
病気じゃないんだ、感染はしないだろうが念の為呪いかもしれないことは伏せ、不安に思いながらもちらりと彼の様子を伺う。すると彼は私の予想とは真逆で、何故か高揚した気持ちを無理に抑え込んでいるとしか思えぬ表情を顔に浮かべながら、そっと私の腕に触れてきた。
「これは見事だ。綺麗、じゃなぁ」
小さな指先でちょっと触れられただけなのに、じわりと肌が熱くなる。その指がそっと表面を滑っただけで体の奥に変な熱が宿りそうな気配を感じてしまい、私は慌ててカムイ君から少しだけ身を引いた。
(ちょ!——い、いやいやいや、こんな小さな子を相手に、待て待て待て!こんなん、ド変態じゃん、私!)
「えっと、じゃあ、ちょっと洗面所で着替えて来るね!」
変な気分になりそうになったのを咄嗟に誤魔化そうとしたせいか、不自然な程早口になった挙句、少し声が裏返った。
事前に用意してくれていた服をギュッと胸に抱き、その場で立ち上がって洗面所の方へ足を向ける。するとカムイ君に「別に、此処で着替えても良いのでは?」と不思議がっている様な声で言われた。
「女性の着替えは、そうはいかないものなのよ⁉︎」
真っ赤な顔をしながら伝えると、何でか少し残念そうな顔をしながらではあったものの、「成る程。そういうものなのか」と一応は納得した様に頷き返してくれた。
無事に着替えを済ませて部屋に戻る。彼から受け取った服は、膝下までのスカートと白いブラウスとハイソックスの三点セットだった。それらは一見シンプルな印象だったのだが、いざきちんと着てみると、『貴族に仕える教育者風だな』と思った。『公爵令息』としか思えぬ格好のカムイ君の後方を歩くには相応しいのかも知れないが、バリバリの一般市民である自分にこの服装がちゃんと似合っているのかが疑問でならない。でもまぁ長袖だった事や、白いのに布が高品質なおかげで肌の黒い模様は透けていない点は有り難かった。
「似合っておるぞ」
こちらの姿を見るなり、そう言いながら私の体にカムイ君がぎゅっと抱きついてきた。そんな彼に対して「ありがとう」と素直に礼を伝えて頭を撫でる。どうやらこの格好を気に入ってくれているみたいだし、『衣装を貸してくれたカムイ君が喜んでくれているのならもういいか』と割り切る事に決めた。
「お主の髪は、ワシが整えても?」
「出来るの?」
「あぁ、毛繕いの延長みたいなものじゃしな」
内心では『毛繕いとは違うと思うぞ』と思ってはいても、自信満々な様子では流石に言えず。
「じゃあ、お願いしようかな」と返してソファーに座る。カムイ君は私の背後に立って、瞬く間にミディアムボブの髪をヘアバンド風に編み上げてくれ、仕上げに小さな和風のつまみ飾りを何個も添えてくれた。
「どうじゃ?」
そう訊かれ、少し大きめな手鏡で髪型を確認してみる。インナーカラーっぽい真っ白な髪もきちんと活かしてくれている事にも驚きを隠せない。ここまで上手だと『毛繕い』という表現の範囲をゆうに超えていた。
「あ、ありがとう」
(私より上手いとか、何で?)
いつ身に付けた技能なんだ。神様だと長生きだから、とか?…… もしかすると、女神様相手に結ってあげる機会が多かったのかも。そう思うと、不覚にもまた、チリッと胸の奥が痛んだ気がした。
「どういたしまして。じゃあ、そろそろ行こうかのう」
革製の小さな鞄に荷物を少し詰め、カムイ君がこちらに手を差し出してくる。まだルートの確認やら時間表を見たりなどを一切していないのだが、それを言って水を指してしまうよりも、今はこの、温かくて小さな手を取らずにはいられなかった。
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