29 / 61
【幕間の物語・②】
一緒に入浴
しおりを挟む
とある日の夜。食事を終え、お次は順番に入浴しようと準備をしていた時の事だ。
「今日は一緒に入浴せぬか?」
バスタオルを腕に抱えているカムイが着替えの用意をしている最中だった巴を見上げながらそう言った。
「…… 一緒に?」
同居する事になって数日。毎日入浴は別々だったから彼はまだ小さいが一人で体を洗えるはずだ。なのにどうしてそんな要求をして来るのだろう?と巴は不思議に思う。
(大丈夫そうだったけど、実は不安だったのかなぁ)
そういえば弟妹達が同じくらいのサイズだった時はまだまだ一緒にお風呂に入ってあげていたなと昔を思い出し、懐かしさも相まって巴はカムイに「うん、いいよ」と返してしまった。思い出に浸ってしまっているからか、彼はちゃんと中身と外見が一致しているのだろうか?などといった疑問はすっかりすっ飛んでしまっているみたいである。
自分でお願いしておきながら、どうせ断られるだろうと考えていたのだろう。カムイは目を見開き、しばらく黙る。「——いいのか?」と少し大きめの声で返したのは不自然に数秒の間が開いた後だった。
「狭いけど、平気?」
矮小だと文句を言いたくなる程ではないが、所詮は単身者向け物件のお風呂だ。女性である巴ですら脚を伸ばして入る事が叶わないサイズなので二人で入るとなると流石に狭い事が気に掛かる。
「平気じゃ」
明らかにソワソワとした様子でカムイがそう返す。そして巴の服を掴み、風呂場に彼女を引っ張って行った。
◇
簡単に汗だけをお湯で流し、カムイが先に湯船に浸かる。交代で体を洗おうと決め、まず最初は巴が体を洗う事になったのだが、先程から視線が気になってしょうがなかった。
「…… どうしたの?何か気になる事でもあった?」
(あ…… やっぱり、この黒いのが気になるのかな)
きっと体中にある呪いらしき黒い痕跡が気になっているに違いないと巴は考えた。初めて見せた時には『見事だ』『綺麗だ』と言ってはくれたが、所詮は社交辞令だったのかもしれないとも。
「相変わらず、綺麗だなと思ってな」
予想外の返答だったせいで巴は一瞬返事に困ってしまった。呪いかもしれないっていうのに、怖いとも思わないなんてさすがは“神様”だ。
「…… ぅ。あ、ありがとう」
弟妹達と入る感覚でつい、タオルも巻かずに全裸のまま風呂場に入ってしまった事を彼女は後悔した。彼の体は五歳程度のサイズではあるが中身が何歳なのかは巴には不明なままだ。訊いてよいものなのかもわからず今まで流してきたが、駄目元ででも訊いておくべきだったかもしれない。
髪を洗い、体をボディタオルで撫であげている時も彼はじっと見てくる。そのせいで巴は妙な気分になってきた。視姦されているとまではいかないが、視線が肌を撫で滑っていく様な錯覚が彼女を襲う。
(——っ!もう今日はテキトウに洗って、パッと交代しよう!)
洗顔もそこそこに、「交代しようか!」と巴が言う。そして顔をカムイの方へ向けた瞬間、無自覚にゴクリと大量の唾を飲み込んでしまった。湯船にしっかりと浸かり、長い白髪を適当に後ろで結い上げている彼の姿を見たからだ。水が滴り、お湯で血行の良くなった肌と濡れる唇が何故か不思議と色っぽい。湯船に寄り掛かる仕草やその表情は完全に大人のそれだ。
「もういいのか?」
邪魔な髪をかきあげながらそう訊く仕草にすらも妙な艶がある。『もう二度とカムイ君とはお風呂に一緒には入らないぞ!』と巴が瞬時に誓った程、全てが全て五歳程度の小さな子が持つべき風貌からはかけ離れていた。
「うん」
片腕で大きめな胸を出来るだけ覆い、脚で秘部を必死に隠しながら湯船に浸かる。その間の一挙手一投足を全て見られている様な気がして、巴はまだお湯に浸かってもいないのにもうのぼせて倒れてしまいそうだ。
場所を交代し、今度はカムイが体を洗い始めた。巴から見れば多少の雑さはあるものの、髪も体もしっかりと洗っていく。入る直前までは『背中でも流してあげるか』と彼女は思っていたのだが、今はその言葉を言う気にはなれない。ただ身長が低いというだけで、不思議と大人の男性っぽい雰囲気があり続けているせいだ。
シャワーで泡を流し終え、長い髪を再び結い上げてカムイが湯船に再度入ろうをした。何となく『先にあがる』とも言えず、そっとスペースを開けようとしたその時、不覚にも彼の下半身に目がいってしまった。好奇心などといった気持ちから見ようとして見たというわけでは無かったからか、驚きと気まずさと背徳感とか入り混じった感情が巴を襲い、体がぴたりと固まってしまった。
(——弟達のと、なんか違う!)
じっと見られ、「…… 何か、気になるのか?」とカムイが首を傾げる。
「いいえ!何でもございません!」
咄嗟に出た言葉が可笑しなものだったせいか、カムイが笑い、「そうか」と言いながら湯船に浸かった。大人の女性と子供サイズの男性。それでもやはり二人で入るには狭く、どうしたって肌が密着してしまう。
「私は先に出ようかな」
「ならばワシもあがろう」
「え、でもまだ温まってないでしょ」
「じゃが、巴と一緒がいい」
少し拗ねた顔をしながらそう言われては断れない。結局カムイの体がしっかりと温まるまで、二人は密着しながら湯船に浸かった。巴はその間ずっと恥ずかしさでいっぱいだったが、必死にその思いは表情には出さない様にしていた。
◇
風呂から二人が上がり、カムイが大きめのタオルで髪を拭く。
「また一緒に入ろうな」
血色の良い顔に笑顔を浮かべながら言われた巴は、つい「…… はい」と返してしまった。そのうえ夜には、やたらと既視感のある巨体で白髪の男性と激しい“営み”を繰り広げる夢を見てしまったのだが、巴は『そんな夢は見ていないっ!』と記憶に分厚い蓋をしたのだった。
「今日は一緒に入浴せぬか?」
バスタオルを腕に抱えているカムイが着替えの用意をしている最中だった巴を見上げながらそう言った。
「…… 一緒に?」
同居する事になって数日。毎日入浴は別々だったから彼はまだ小さいが一人で体を洗えるはずだ。なのにどうしてそんな要求をして来るのだろう?と巴は不思議に思う。
(大丈夫そうだったけど、実は不安だったのかなぁ)
そういえば弟妹達が同じくらいのサイズだった時はまだまだ一緒にお風呂に入ってあげていたなと昔を思い出し、懐かしさも相まって巴はカムイに「うん、いいよ」と返してしまった。思い出に浸ってしまっているからか、彼はちゃんと中身と外見が一致しているのだろうか?などといった疑問はすっかりすっ飛んでしまっているみたいである。
自分でお願いしておきながら、どうせ断られるだろうと考えていたのだろう。カムイは目を見開き、しばらく黙る。「——いいのか?」と少し大きめの声で返したのは不自然に数秒の間が開いた後だった。
「狭いけど、平気?」
矮小だと文句を言いたくなる程ではないが、所詮は単身者向け物件のお風呂だ。女性である巴ですら脚を伸ばして入る事が叶わないサイズなので二人で入るとなると流石に狭い事が気に掛かる。
「平気じゃ」
明らかにソワソワとした様子でカムイがそう返す。そして巴の服を掴み、風呂場に彼女を引っ張って行った。
◇
簡単に汗だけをお湯で流し、カムイが先に湯船に浸かる。交代で体を洗おうと決め、まず最初は巴が体を洗う事になったのだが、先程から視線が気になってしょうがなかった。
「…… どうしたの?何か気になる事でもあった?」
(あ…… やっぱり、この黒いのが気になるのかな)
きっと体中にある呪いらしき黒い痕跡が気になっているに違いないと巴は考えた。初めて見せた時には『見事だ』『綺麗だ』と言ってはくれたが、所詮は社交辞令だったのかもしれないとも。
「相変わらず、綺麗だなと思ってな」
予想外の返答だったせいで巴は一瞬返事に困ってしまった。呪いかもしれないっていうのに、怖いとも思わないなんてさすがは“神様”だ。
「…… ぅ。あ、ありがとう」
弟妹達と入る感覚でつい、タオルも巻かずに全裸のまま風呂場に入ってしまった事を彼女は後悔した。彼の体は五歳程度のサイズではあるが中身が何歳なのかは巴には不明なままだ。訊いてよいものなのかもわからず今まで流してきたが、駄目元ででも訊いておくべきだったかもしれない。
髪を洗い、体をボディタオルで撫であげている時も彼はじっと見てくる。そのせいで巴は妙な気分になってきた。視姦されているとまではいかないが、視線が肌を撫で滑っていく様な錯覚が彼女を襲う。
(——っ!もう今日はテキトウに洗って、パッと交代しよう!)
洗顔もそこそこに、「交代しようか!」と巴が言う。そして顔をカムイの方へ向けた瞬間、無自覚にゴクリと大量の唾を飲み込んでしまった。湯船にしっかりと浸かり、長い白髪を適当に後ろで結い上げている彼の姿を見たからだ。水が滴り、お湯で血行の良くなった肌と濡れる唇が何故か不思議と色っぽい。湯船に寄り掛かる仕草やその表情は完全に大人のそれだ。
「もういいのか?」
邪魔な髪をかきあげながらそう訊く仕草にすらも妙な艶がある。『もう二度とカムイ君とはお風呂に一緒には入らないぞ!』と巴が瞬時に誓った程、全てが全て五歳程度の小さな子が持つべき風貌からはかけ離れていた。
「うん」
片腕で大きめな胸を出来るだけ覆い、脚で秘部を必死に隠しながら湯船に浸かる。その間の一挙手一投足を全て見られている様な気がして、巴はまだお湯に浸かってもいないのにもうのぼせて倒れてしまいそうだ。
場所を交代し、今度はカムイが体を洗い始めた。巴から見れば多少の雑さはあるものの、髪も体もしっかりと洗っていく。入る直前までは『背中でも流してあげるか』と彼女は思っていたのだが、今はその言葉を言う気にはなれない。ただ身長が低いというだけで、不思議と大人の男性っぽい雰囲気があり続けているせいだ。
シャワーで泡を流し終え、長い髪を再び結い上げてカムイが湯船に再度入ろうをした。何となく『先にあがる』とも言えず、そっとスペースを開けようとしたその時、不覚にも彼の下半身に目がいってしまった。好奇心などといった気持ちから見ようとして見たというわけでは無かったからか、驚きと気まずさと背徳感とか入り混じった感情が巴を襲い、体がぴたりと固まってしまった。
(——弟達のと、なんか違う!)
じっと見られ、「…… 何か、気になるのか?」とカムイが首を傾げる。
「いいえ!何でもございません!」
咄嗟に出た言葉が可笑しなものだったせいか、カムイが笑い、「そうか」と言いながら湯船に浸かった。大人の女性と子供サイズの男性。それでもやはり二人で入るには狭く、どうしたって肌が密着してしまう。
「私は先に出ようかな」
「ならばワシもあがろう」
「え、でもまだ温まってないでしょ」
「じゃが、巴と一緒がいい」
少し拗ねた顔をしながらそう言われては断れない。結局カムイの体がしっかりと温まるまで、二人は密着しながら湯船に浸かった。巴はその間ずっと恥ずかしさでいっぱいだったが、必死にその思いは表情には出さない様にしていた。
◇
風呂から二人が上がり、カムイが大きめのタオルで髪を拭く。
「また一緒に入ろうな」
血色の良い顔に笑顔を浮かべながら言われた巴は、つい「…… はい」と返してしまった。そのうえ夜には、やたらと既視感のある巨体で白髪の男性と激しい“営み”を繰り広げる夢を見てしまったのだが、巴は『そんな夢は見ていないっ!』と記憶に分厚い蓋をしたのだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

催眠術にかかったフリをしたら、私に無関心だった夫から「俺を愛していると言ってくれ」と命令されました
めぐめぐ
恋愛
子爵令嬢ソフィアは、とある出来事と謎すぎる言い伝えによって、アレクトラ侯爵家の若き当主であるオーバルと結婚することになった。
だがオーバルはソフィアに侯爵夫人以上の役目を求めてない様子。ソフィアも、本来であれば自分よりももっと素晴らしい女性と結婚するはずだったオーバルの人生やアレクトラ家の利益を損ねてしまったと罪悪感を抱き、彼を愛する気持ちを隠しながら、侯爵夫人の役割を果たすために奮闘していた。
そんなある日、義妹で友人のメーナに、催眠術の実験台になって欲しいと頼まれたソフィアは了承する。
催眠術は明らかに失敗だった。しかし失敗を伝え、メーナが落ち込む姿をみたくなかったソフィアは催眠術にかかったフリをする。
このまま催眠術が解ける時間までやり過ごそうとしたのだが、オーバルが突然帰ってきたことで、事態は一変する――
※1話を分割(2000字ぐらい)して公開しています。
※頭からっぽで

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる