ショタ神様はあくまで『推し』です!

月咲やまな

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【第二章】

【第1話】担当者さんと(賀村巴・談)

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『何言ってるんですか?賀村さんだって、神様じゃないですか』
『あぁ、そうじゃな。今のままでは半分だけだが』

 寝耳に水の、思いもよらない話をアパートの大家である服部さんと一〇一号室のカムイく…… 様から聞いた後、私はあまりの驚きで放心状態となり、約束のお昼ご飯も食べぬまま帰路についたみたいだ。だがどうやって帰ったのかは覚えていない。服部さんはまだ仕事があると言っていた記憶がうっすらとあるから、多分カムイ様が此処まで連れ帰ってくれたのだろう。夕方に服部さんが踏み台を持って来てくれた時も、きちんと対応出来ていたのかもあやふやな始末だ。

「…… 半神半人?…… 私が?」
 翌日。朝だからと起きたはいいが食欲が無く、仕方なしにインスタントのオニオンスープを作って、テレビの映像を無駄に垂れ流しながらそれを飲む。今では風神様と雷神様が所属して下さっている気象庁が発表している天気予報を横目に、さっきから考えるのは昨日の事ばかりだ。

「んな話、担当者さんからは聞いてないぞぉー!」

 スープカップを両手で持ち、ソファーにドンッと寄り掛かりながら天井を見上げた。既にもう“防音の効果”がある御札とやらが目立たない箇所に貼ってあるから、もう大声でだって叫び放題だ。玉串料を納めたら何処の神社ででも授かる事の出来る御札一枚程度で、古いアパートの壊滅的な薄壁に防音の効果を持たせる事が出来るだなんて、ぶっちゃけその辺は科学力では越えられぬ隔たりを感じる。そんな事が出来るのはきっと、この時代には“神様”って存在が実在しているおかげだろう。そんな、人間では絶対に到達出来ない様な超越者達側に自分も片足を突っ込んでいるだなんて到底信じられない。自分の中に何らかの力がある感じは微塵もしないし、ウルクの王様だったギルガメッシュ王や、ギリシャ神話のヘラクレス、ケルト神話のクー・フーリンなどといった錚々たるメンバーと同類であるだなんて受け止められる訳がないだろ。所詮は『大雑把にジャンル分けするなら、辛うじて一緒かなぁ』程度の近さであったとしても、やっぱり全然納得なんか出来ないままだ。

(——勘違い、では?や、だって、何でも知っていそうな担当者さんからは何も言われてないし)

 テーブルにカップを置き、近くにあったスマートフォンを手に取る。自分が知っている物よりもかなり軽量化されているくらいで、今も尚“スマホ”が現役の機器であるとか、使い慣れている物だし、何より便利なので本当にありがたい。

 担当者さんに『質問があるので連絡が欲しい』とメッセージを送る。八時くらいのタイミングでこちらは送信したのだが、『それでしたら、今から通話しましょうか?』と返信が着たのは九時を少し過ぎてからだった。きっと九時からが彼の勤務開始なのだろう。私の担当者さんは公私混同しないタイプみたいだ。素晴らしい。

『——何かありましたか?』
「はい。あの、どうしても、今すぐに確認したい件がありまして」
 通話をスピーカー状態にし、スマホはローテーブルに置いてソファーに座る。
『…… それは、一体?』と、訝しげな声で訊かれた。だがここで引いては真実がわからない。違うなら違うで一向に構わないので、早く正しい答えが欲しかった。
「アパートの大家である服部さん達から聞いたんです。私が…… “半神半人”だって」
『あぁ、その件ですか。まぁ確かにそうですが、ご本人に言う程のものでもないのでお伝えしていませんでしたけど』

「——え?いやいやいや!かなり重要な話では?」

 驚き、声が少し裏返った。だが担当者さんは淡々と理由を話し始める。
『そうでしょうか。賀村さんが“半神半人”だといっても、せいぜい不老不死にというくらいです。神通力が有る訳ではないからほぼ人間と大差無いのに、そんな話をされても、それはそれで困るでしょう?三百年後の世界で目覚め、いきなり「“半神半人”である」という話を聞いて、「自分の右手には封印されし邪竜が宿っていていずれ目覚めるのかもしれない」だとか、「額に眠し邪眼が開眼して超人的な頭脳を手に入れてしまうかもしれない」だの、「神隠しハズレを引いたけど三百年後の世界で、実は私が最強でした?」とか、「強大な神通力に目覚めた私が三百年後の世界で無双してしまう件」だなんて夢を見られても、こちらとしては迷惑なので』
「私でもわかりやすい例をありがとうございます。…… ただ、その、そうなるかもと思われていたのはかなり心外ですけども」
『賀村さんが生まれた時代のコンテンツは今でも人気がありますからね、私もその辺は少し齧っているので』
「な、成る程」

(うーん。感覚的には、私が歌舞伎や落語を楽しむ様なもの、なんだろうか?)

「じゃ、じゃあ、カムイ様が“神様”だって、教えてくれていなかったのは何故ですか?私、前に一度あのお方の件で相談しましたよね?」
『“神族”であるか否かは、個人情報ですから。職業的に私の方からはお教え出来ません』
 そうキッパリ言われてしまった。だが納得出来たし、ちゃんと徹底していて素晴らしいとも思う。

『…… ところで、以前は、彼の事を“カムイ君”と呼んでいませんでしたか?』
「あ、はい。体格的に、ずっと少年だと思っていたので」
『何故突然おやめに?』
「や、だって、“神様”だったんですよ?無理ですよ、この先はちゃんと接していかないと失礼にあたりますし」
『あー…… それで。ですが、そういった行動はもうやめて下さい。“神族”の者に過度なストレスを与えると、天候に影響が出るんですよ。だけど、成る程、そのせいだったんですね。…… 昨夜は大荒れの天気になり、このままでは桜の開花にまで影響が出ると“桜の精”から役所の方に苦情がきました。気象庁からもお叱りを受けるのでホント勘弁して下さい』
 それで朝起きたら地面が濡れていて、水溜りも沢山あったのか。

(え、でもそれって、ホントに私せいなの?)

「そ、そうなんですか?…… えっと、すみません」
 天候不良に関しては自分が原因であるとは思えないが、それでも一応謝っておく。だけど、そんな失礼な事をしたかな。お昼ご飯をご馳走するという約束を守れなかったから空腹で怒ったとか?それとも、此処まで送迎させてしまったっぽいから、そのせいでご立腹なのでは。

『次からはまた“君”呼びでお願いします。あと、今後も今までみたいに気軽に接してあげて下さい。じゃないと——』
「…… と?」
『拗ねます。“神族”がそうなると厄介なんで、最後まできちんと面倒をみて下さい』

(——え。それ絶対に可愛いやつ)

 『厄介なんで』の部分がすっぽり抜け落ち、ただただその姿を想像して、不覚にもちょっと胸の奥をギュッと掴まれた気がした。色々なカムイさ…… 君が見られるのかもと思うだけでこうなるとか。私の脳味噌は随分と彼に侵食されているっぽいぞ。
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