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番外編(むしろここからが本編じゃ?って内容となっています_(:3 」∠)_)
月夜の晩に(アステリア談)
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「いい加減にして下さい!」
私室にあるソファーで当然のように横になるヒョウガに向かい、腰に手を当てて大声で叫ぶ。一国の王妃にあるまじき行為だが、こんな奴相手に気を遣う気になど微塵もおきない。
…… というか私、眠りから寝覚めて以来何かしらの理由で毎日叫んでいる気がするわ、この狐のせいで。
「夫が部屋来るだけで叫ぶ事もないでしょう?それも毎日毎日。よく飽きませんね、同じセリフを何度も」
「そっくりそのまま貴方にその言葉をお返しします。いいですか?もういい加減、王室の一員になった事を自覚して下さいっ」
王室の一員に、しかも王の座に就任したというのにこの狐は、こうも毎日毎日私の部屋に来るだなんて、ヒョウガはいったい何を考えているのか理解出来ない。
前王——私の父は、ここまでしょっちゅう母の所へは行ってはいなかったような記憶がある。側室も当たり前の様に数人いたし、許可がなければ彼女らの私室には、王といえども勝手には入れないという暗黙の了解があった。なのに何故ヒョウガはこうも、毎日昼も夜も、一人の側室を持つ事無く私の所へ通うのか…… まったくもって理解不能だ。
「…… 断っても勝手に入って来るし」
深い溜息とともにボソッと呟く。
「妻の許可が無ければ、妻に会ってはいけないと言う慣習がまず私には受け入れられません。愛する妻に逢うのに、何故許可を求める必要が?」
あ、愛するとか、よくまぁさらりと言うものだ。
恥ずかしくは無いのかしら。
「…… 狐になど、一生理解出来ないでしょうね」
妻に会う為に許可を求める理由など正直私にもわからず、ヒョウガを納得させる事の出来る言葉も浮かばぬ私は、誤魔化す様にぷいっと顔を逸らした。
「そうですね、一生理解出来ないと思います。だって、私にそうする気がないですしね」と、笑顔で言うヒョウガが視界の隅に見える。彼の背後で揺れるふさふさの尻尾が無ければ、この時点で引っ叩いているところだ。
「さ、膝に座って」
ヒョウガが寝ていた体を起こし、ソファーにきちんと座ると、私の方へ手を広げた。
「公務に戻られては?忙しいでしょうし」
しかめっ面で言ったが、ヒョウガは広げた手を戻す事無く、ニコニコ笑っている。
「きっちり仕事を終えてから来ている事くらい分かっているくせに。アステリアは心配性ですね。さ、いらっしゃい」
「っ…… 」
…… 求められ、嬉しくない者などいない。
それがたとえ、『奴等は人間よりも下等な生き物なのだ』と教師から何度も聞かされてきた“獣人族”であっても、美しい容姿と大きくて柔らかな尻尾、私への揺ぎ無い愛情を持っているっぽい態度を何度もとられていては尚更に。
眉間にシワを寄せ、口をへの字に曲げ、硬い表情が崩せないままヒョウガの差し出す手を取る。そんな私の手を優しく引き、ヒョウガが私を向かい合う状態で膝の上へと座らせる。膨らみの大きいスカートを穿いているせいで座り難いが、そんな事彼はお構いなしの様だ。
「今日も可愛いですね、アステリア」
うっとりとした声で囁き、私の顎をヒョウガの手が優しく包む。
「さぁ、もっと脚を開いて?それじゃ上手く触ってあげられませんよ?」
「ふざけないで下さい。こんな、毎日何度も…… 」
百年の間ですっかり、贈り物だった“優しい心”など消え去ってしまった私は、素直になれないせいで憎まれ口を叩いてしまう。そのくせ行動だけはつい素直になってしまい、ヒョウガの首に腕を回してぎゅっと自分から抱きついていた。
そうすることで、嬉しそうに揺れる彼の尻尾が目に入り、胸の奥がムズムズとする。
「仕方ないでしょう?アステリアが可愛いのがいけないんですよ?」
背中を撫でてくれ、吐息混じりに囁く彼の声が耳奥に響いて心地いい。
ヒョウガの距離感があまりに近いせいか、最近じゃこんな関係も悪く無いかもとか思い始めてしまっている自分の心が疎ましい。
「素直じゃない口も、その容姿も、心も…… 全てが私を引き寄せて放さない」
「…… 放さないのは貴方で、私ではないわ」
よくまぁ飽きぬものだ。
ヴァルキリアも『夫が毎晩すごい』と目の下にクマを作りながら苦笑いしていたし、獣人というのはそういう者、なのだろうか。
「えぇそうですね、確かに」
穏やかに笑い、ヒョウガが私を強く抱き締めてくる。
人よりも少し高い体温が全身を包み、長い指先が私の体のラインをドレスの上から丁寧になぞる。
「…… んっ」
抑える事の出来ぬ甘い吐息が零れ、ヒョウガが嬉しそうに微笑んでいる事が顔を見ずともわかった。
「さ、また長い夜を共に過ごしましょうか。アステリア——」
甘い吐息の絡み合に、窓の外から月光が今夜も私の上に降り注ぐ。
ホント勘弁して欲しいと心底思うが…… 心地よくも感じてしまうので、今夜も夫の愛から逃げる事は無理そうだ。
【終わり】
私室にあるソファーで当然のように横になるヒョウガに向かい、腰に手を当てて大声で叫ぶ。一国の王妃にあるまじき行為だが、こんな奴相手に気を遣う気になど微塵もおきない。
…… というか私、眠りから寝覚めて以来何かしらの理由で毎日叫んでいる気がするわ、この狐のせいで。
「夫が部屋来るだけで叫ぶ事もないでしょう?それも毎日毎日。よく飽きませんね、同じセリフを何度も」
「そっくりそのまま貴方にその言葉をお返しします。いいですか?もういい加減、王室の一員になった事を自覚して下さいっ」
王室の一員に、しかも王の座に就任したというのにこの狐は、こうも毎日毎日私の部屋に来るだなんて、ヒョウガはいったい何を考えているのか理解出来ない。
前王——私の父は、ここまでしょっちゅう母の所へは行ってはいなかったような記憶がある。側室も当たり前の様に数人いたし、許可がなければ彼女らの私室には、王といえども勝手には入れないという暗黙の了解があった。なのに何故ヒョウガはこうも、毎日昼も夜も、一人の側室を持つ事無く私の所へ通うのか…… まったくもって理解不能だ。
「…… 断っても勝手に入って来るし」
深い溜息とともにボソッと呟く。
「妻の許可が無ければ、妻に会ってはいけないと言う慣習がまず私には受け入れられません。愛する妻に逢うのに、何故許可を求める必要が?」
あ、愛するとか、よくまぁさらりと言うものだ。
恥ずかしくは無いのかしら。
「…… 狐になど、一生理解出来ないでしょうね」
妻に会う為に許可を求める理由など正直私にもわからず、ヒョウガを納得させる事の出来る言葉も浮かばぬ私は、誤魔化す様にぷいっと顔を逸らした。
「そうですね、一生理解出来ないと思います。だって、私にそうする気がないですしね」と、笑顔で言うヒョウガが視界の隅に見える。彼の背後で揺れるふさふさの尻尾が無ければ、この時点で引っ叩いているところだ。
「さ、膝に座って」
ヒョウガが寝ていた体を起こし、ソファーにきちんと座ると、私の方へ手を広げた。
「公務に戻られては?忙しいでしょうし」
しかめっ面で言ったが、ヒョウガは広げた手を戻す事無く、ニコニコ笑っている。
「きっちり仕事を終えてから来ている事くらい分かっているくせに。アステリアは心配性ですね。さ、いらっしゃい」
「っ…… 」
…… 求められ、嬉しくない者などいない。
それがたとえ、『奴等は人間よりも下等な生き物なのだ』と教師から何度も聞かされてきた“獣人族”であっても、美しい容姿と大きくて柔らかな尻尾、私への揺ぎ無い愛情を持っているっぽい態度を何度もとられていては尚更に。
眉間にシワを寄せ、口をへの字に曲げ、硬い表情が崩せないままヒョウガの差し出す手を取る。そんな私の手を優しく引き、ヒョウガが私を向かい合う状態で膝の上へと座らせる。膨らみの大きいスカートを穿いているせいで座り難いが、そんな事彼はお構いなしの様だ。
「今日も可愛いですね、アステリア」
うっとりとした声で囁き、私の顎をヒョウガの手が優しく包む。
「さぁ、もっと脚を開いて?それじゃ上手く触ってあげられませんよ?」
「ふざけないで下さい。こんな、毎日何度も…… 」
百年の間ですっかり、贈り物だった“優しい心”など消え去ってしまった私は、素直になれないせいで憎まれ口を叩いてしまう。そのくせ行動だけはつい素直になってしまい、ヒョウガの首に腕を回してぎゅっと自分から抱きついていた。
そうすることで、嬉しそうに揺れる彼の尻尾が目に入り、胸の奥がムズムズとする。
「仕方ないでしょう?アステリアが可愛いのがいけないんですよ?」
背中を撫でてくれ、吐息混じりに囁く彼の声が耳奥に響いて心地いい。
ヒョウガの距離感があまりに近いせいか、最近じゃこんな関係も悪く無いかもとか思い始めてしまっている自分の心が疎ましい。
「素直じゃない口も、その容姿も、心も…… 全てが私を引き寄せて放さない」
「…… 放さないのは貴方で、私ではないわ」
よくまぁ飽きぬものだ。
ヴァルキリアも『夫が毎晩すごい』と目の下にクマを作りながら苦笑いしていたし、獣人というのはそういう者、なのだろうか。
「えぇそうですね、確かに」
穏やかに笑い、ヒョウガが私を強く抱き締めてくる。
人よりも少し高い体温が全身を包み、長い指先が私の体のラインをドレスの上から丁寧になぞる。
「…… んっ」
抑える事の出来ぬ甘い吐息が零れ、ヒョウガが嬉しそうに微笑んでいる事が顔を見ずともわかった。
「さ、また長い夜を共に過ごしましょうか。アステリア——」
甘い吐息の絡み合に、窓の外から月光が今夜も私の上に降り注ぐ。
ホント勘弁して欲しいと心底思うが…… 心地よくも感じてしまうので、今夜も夫の愛から逃げる事は無理そうだ。
【終わり】
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