眠り姫の憂鬱

月咲やまな

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本編

【第六話】犯されていく心と体③(アステリア談)

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 …… 柔らかく、生々しい感触を口内に感じる。そうかと思えば、唇に優しく何かが触れたり、耳を温かなものが撫でる様な感触も。
 くすぐったさに刺激され、百年間閉じられてきた重い瞼をゆっくり開けると、目の前には金色ともとれる色をした、ふさっとした毛に覆われている尖った耳があった。

「…… 耳?」

 久方ぶりに発する言葉としてはどうかと思ったが、言ってしまった言葉に訂正など出来るわけがなく、獣耳が生えた物体が、笑い声をあげながら私の体の上に覆いかぶさってきた。
「ええ、そうですよ。おはようございます、愛しいアステリア」
 尖った耳が頭に生えた青い髪の男が、私の頬をぷにぷにと突っつきながら嬉しそうに微笑み、声をかける。

「——ぶ、無礼者!」

 状況が把握出来ず、私は反射的にそう叫ぶと、体に覆いかぶさる男に手を振り上げた。が、すぐに両手首を掴まれてしまい、その手は彼には届かない。
「おっと。強気なのは構いませんが、あまり暴れると大きな胸があられもなく揺れる事をお忘れではないですか?」
 ニヤッと笑い、男——もとい、ヒョウガが私の胸元を見ながら言った。
「…… え?」
 枕に沈めていた頭を少し持ち上げ、言われるまま胸元を見ると、白くて大きな私の胸が白昼に曝されているのが目に入った。

「きゃああああああ!」

 甲高い悲鳴を上げ、慌てて胸を手で隠そうとしたが、目の前の獣は私の腕を離してくれず、隠せない。
「は、放しなさい!さっさと降りて頂戴!私から離れてぇ!」
「必死ですねぇ」
 だんだん思考回路が動き出し、精神体状態の時に受けた卑猥な行為が脳に伝わっていく。
 それと同時に、暴れるたびに揺れる胸の感覚や、内腿を滴り流れ落ちている蜜の感触が酷く生々しく感じてきた。
 精神体の時には感じていなかった感覚が、ゆっくりと心に浸透してくる。さっきまでは、ヒョウガが与えてくる感触しか感じていなかったのだと今更わかり、心の昂りまでもが再発してきた。
 無理に動かそうとしていた体から徐々に力が抜け落ち、息が荒くなる。
「いい目をしていますね。先程はあのような事を言いましたが、やはり貴女は、その体に居るのが一番いい」
「お黙りなさい!」
 キツイ口調で言い切り、ぷいっと視線を反らす。
 優しい心を魔法使いから贈ってもらっているはずなのに、もうそんな物はこの百年の間で消え去ってしまったみたいだ。
「アステリア姫を目覚めさせた者と貴女は婚姻をするのでしたよね?父王が、娘を眠りから救う者への褒美にそう約束していた事を、風の噂で聞きましたよ」

 父王はそんな宣言までしていたの?

 知らないことばかりで頭が追いつかない。
「ははっ…… その中に、獣であるお前が入るとでも思っていたの?ふざけないで欲しいわ!」
 キッと睨みつけ私がそう言うと、ヒョウガの表情が一気に冷たいものへと変わり、彼の尾がボワッと広がった。
「まぁ…… そう言うと思っていましたよ、アステリア」
 ニタッと嫌な笑みを浮かべ、吐き捨てるように呟くと、ヒョウガは右腕の袖に仕込んでいたナイフをサッと取り出し私に向かい振り上げてきた。
「え…… 嘘…… 」
 血の気が引き、「いやああああ!」と断末魔に近い悲鳴をあげる。長年使わないできた喉から出た声はまるでアマガエルみたいに酷かった。
「大丈夫、動かなければ怪我などしませんよ」とヒョウガが言い、かろうじて私の肌の上に残っていたドレスを彼がナイフでビリビリに切り裂いていく。
「——え?」
「まさか私に殺されるとでも思いましたか?婚姻の約束を破られたくらいで、アステリアを殺したりなどしませんよ、私は…… この瞬間の為だけに、百十八年も待ち続けていたのに」
 ナイフを私の頬に当て、顔を近づけ不敵に笑う。
「無理矢理にであろうが、傷物となった貴女は私を選ばざるおえない」
 頬に当たる冷たいナイフの感触のせいで、体が凍りついた様に動かない。声を発することも出来ず、ただただ全身が強張る。

「さぁ、私と誓いの口付けを——」

 抵抗の言葉も出せず、震えたまま目を見開いた状態でヒョウガの恐怖に支配されたままキスを受け入れると、突如私の身体を一気に何かが貫く様な痛みが走った。
 そのせいで、声にならぬ音を叫び、背を反らせてしまう。
「はは…… 案外容易く入るものなのですね」
 淫靡な糸を私達の間に残しながらヒョウガが私の口から唇を離すと、掠れる声でそう呟く。

 いったい、何がおきたの?

 震える上半身を無理やり起こし、両肘で身体を支えながら彼の方を見ると…… 私の体がヒョウガと一つになっているのが目に入った。

「——や、約束が違うわ!」

 絹を裂いた様な酷い声をあげてばかりで喉が痛い。
「先に破ったのは誰です?アステリア、他ならぬ貴女だ。それに私は、『抵抗しては?』とは何度も言いましたが、『抵抗したら止める』とは一度も言っていませんよ」
「…… ひ、酷いわ」
 心も体も傷つき、顔が悲痛で歪む。
「ほら、もっと見ますか?私達が繋がっている様は、まるで貴女の嫌う獣同士の交尾と、何ら変わりませんよ」
 そう言うヒョウガの背後で長くて大きな尻尾が揺れ、私の内腿に彼の脚が触れる熱さに対し、ビクッと肩が反応してしまう。膣の中はひどく熱く、焼いた鉄でも入れられているみたいだ。
 すごく痛くて、気持ちが悪い…… 。腹部が圧迫され、最奥にまで感じる違和感と、純潔を失った喪失感で死んでしまいそうだ。

「さぁ、もう絶対に離さない。コレでアステリアはもう、私の物だ」

 その言葉を合図とでもするように、ヒョウガは腰を動かし、熱く滾る怒張で私の体を揺さぶりだした。優しさの欠片も感じぬ動きに、体も心も悲鳴をあげ、精神が壊れてしまいそうな錯覚を感じる。卑猥な水音が部屋を満たし、その音が私の聴覚をも犯す。
 どんなに濡れていようが、気遣いの無い動きのせいで破瓜の痛みは消えず、まるで約束を破った事を咎めているみたいだ。

「ごめんなさい、ごめ…… んな…… さぃ…… 」

 揺れる身体に痛みを感じるたびに、そう呟く。
「詫びの言葉など何の意味もなさないでしょう?今はもう、純潔を失った喪失感に浸るよりも——」
 ヒョウガの言葉が途絶え、スッと軽く彼が右手を上げた。
「痛みの奥に潜む欲望と快楽に手を伸ばし、存分に溺れるといい」という言葉と共に、どこからともなく無数のツタが私に向かい伸びてくる。
「その魔法は——」
 城全体を覆い尽くしている茨の魔法に似ている。

 この魔法を使えるのはごく限られた、魔力の高い者だけだと昔聞いた事があるのに、何故この狐が?

 理解出来ず、私が驚きを隠せずにいると「一度見た魔法は、模写出来るのですよ。でなければ、我等が体力馬鹿ども揃いの狼達と対等でいられる訳がないでしょう?」と不敵に微笑んだ。
「そんな事よりも、今は自分の心配をなさるべきだ」
 四方から伸びるツタが、私の腕や足首に巻きつき、動けぬよう固定していく。
「嫌ぁっ!何を!?」
「茨では痛いでしょうからね。ツタにしてあげるなんて、私はとっても優しいでしょう?」
「本当に優しい者はこのような事もしないわ!」
「まだ強気でいられるとは、流石は姫様だ」と言うが同時に、私の中から自らの怒張を少し抜き、また押し込む。
「んあぁ!」
 別のツタが私の胸の方へと這い出したかと思うと、ツタの先端が私の胸の尖りをそっと撫でてきた。両胸の先を触れるか触れないかといった具合で撫でてくる動きに、淫猥な声が否応なしにこぼれる。
 快楽に手を伸ばしたつもりなど無いのに、徐々に痛みが薄れていき、享楽が向こうからやってきたようだった。
「気持ちいいでしょう?」
 そう訊かれる言葉に、心とは違い、体が喜びの声をあげてしまう事が耐えられない。
 必死に快楽から気持ちをそらし、首を強く横に振ると、また別のツタがどこからともなく伸びてきて、私の陰部に眠る赤い実の様な肉芽をもそっと撫で始めた。
「ああああ!」
 背を反らし悶えてしまう。
 そんな私をヒョウガが嬉しそうな顔で見詰めたかと思うと、彼は嬉しそうに尻尾を振りながら、私の唇に激しいキスをしてきた。
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