22 / 61
二人での旅行
約束②(烏丸・談)
しおりを挟む
「綾瀬⁉︎ちょ、お前何やってんだ!」
旅行券をテーブルの上に投げるみたいにして置くと、烏丸が慌てて駆け出す。そして彼はキッチンまで来ると私の手からヤカンを奪い取って作業スペースの上にドンッと置き、手首を掴んで水道水を全開にさせた。
「早く冷やせ!跡が残ったらどうするんだ!——ってか、お前!服にまでお湯かかってるじゃねぇか。風呂場行くぞ!」
私の体を抱えるみたいにして引っ張り、風呂場に移動して行く。あれよあれよと言う間に、文句の一つも口に出来ないまま、ハッと我に返った時には二人揃って風呂場で冷たいシャワーを浴びていた。
はぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎
「ちょ、や、まっ!」
連絡も無しに烏丸が来たせいで今日はオシャレ着なんかじゃない。着ていた服がTシャツだったせいで水に濡れると簡単に下着が透けて見えてしまうし、下に穿いていたジーンズは当然べったりと肌にくっつき気持ちが悪い。確かデニムって濡れるとものすごく脱ぎにくいらしいが大丈夫なんだろうか。というか、水が冷たい!
「もう平気だから、自分でやるから、もう出てって!」
彼の胸をぐっと強く押して、烏丸から距離と取る。だがそうすると透ける下着が丸見えになるとすぐに気が付き、私はパニックになって、胸元を両腕で隠しながらその場にしゃがんだ。
「ぎゃあああ!冷たいぃぃぃ!」
頭から水のシャワーを浴びてしまい、あまりの冷たさに悲鳴をあげた。部分的でもめちゃくちゃ冷えるのに、全身だなんて耐えられない。一刻も早く冷水から逃げようと思った私は四つん這いになって床を這うみたいに移動した。だけど広い訳じゃない風呂場では逃げ場なんかあるはずがなく、ただ一層全身がびしょ濡れになっただけだった。長い髪が肌に張り付き、さっきよりももっと悲惨な状態に。今の自分なら古いホラー映画の主人公になれるレベルで醜いに有様に違いない。
だが烏丸は、「何やってんだ、馬鹿だなぁ」と笑いながら水を止めてくれた。そしてフックにシャワーヘッドをかけると、彼はその場にしゃがみ、私の前髪をかきあげてきた。
「二人ともすっかり濡れ鼠だな」
ははは!と笑う烏丸も確かに全身びしょ濡れで、着ているシャツが透けてボディーラインが丸見えだ。
笑ってる場合じゃないよお兄さん!
あまりにも目の毒過ぎて、前を向けない。
胸筋がぁ!二の腕がぁぁ!乳首だって何となく見え——
ってぇぇ、や、待ってホント無理です!
「流石に邪魔だな」とか言って、自分の髪までかき上げやがる。そのせいで見えた素顔があまりに眩し過ぎ、返って私はすんっと冷静になってきた。
推しって、何でこんなに尊いのかしら。
なんかもうここまでくるとダビデ像とかアテネの彫刻とかでも見ている様な気分になってくる。
今の心境だったら私は無敵よ、何にだって対応出来るわ。
そっと頷き、濡れる胸元を片腕で隠しながらその場で立ち上がる。そして烏丸の方へ右手を差し出して、「立てる?足元が滑るから気を付けてね」と声を掛けた。
「…… あ、あぁ。ありがとう」
一瞬黙った烏丸が、私の手を取って立ち上がった。
ドラマのワンシーンとかだったらこの弾みでどちらかが足を滑らせて胸の中に飛び込むところなのだが、絶対に転んでなるものか!と決意しながら背を向け、私は脱衣場に続く扉を押し開いた。
バスマットも敷かずに入ったので、このままでは足元が濡れてしまう。最悪滑って転ぶ事だってあり得るので困っていたら、「出ないのか?」と聞きながら、烏丸が背後から私の肩に手を置き、頭の近くに顔を寄せてきた。手と肩以外には直接触れてはいなくても、水で冷えた体では彼から立ち登る体温を否応なしに感じ取ってしまう。
「このままじゃ滑りそうだな。手を貸そうか?」
喋ると彼の吐息が耳にかかり、反射的に肩が跳ねてしまった。
「…… 待ってろ、今タオル取ってやるから」
勝手知ったる何とやらなのか、洗面台の横にある備え付けの棚まで手を伸ばし、彼がバスタオルを取ってくれる。そしてそれを広げると、烏丸は私の体を隠すように包んでくれた。
「どこか痛くはないか?」
「平気だよ」
普通の態度で訊かれたので、私もいつも通りの調子で返した。
女性の体に興味の欠片も無い相手だ、緊張するだけ意味ないか。そう思いながらタオルを引っ張り、頭に被って髪を拭く。濡れるTシャツやジーンズが丸見えだけど、もう別にいいっか。
何て事を思っていると、急に私の着ている服の裾をベロンッと烏丸が捲ってきた。そのせいで、おへそ付近が全て丸見えに。
「赤くはなっていないな、良かった」
そっと触れ、指先で撫でられたせいで当然驚き、真っ青な顔をし、音にならぬ叫びをあげながらその場にしゃがみこんだ。
「うわっ!」
そのせいで彼の手が私の腹と胸に挟まり、烏丸が前のめりになってこちらに倒れてくる。
「危ないって!お前ホント馬鹿かっ!」
口悪く声をあげ、床に手をついて必死に体を支えようとしてくれた。だが濡れ鼠が二匹も居る脱衣場なんて当然水浸しになっており、案の定手は滑って、しゃがむ私の体に烏丸が覆い被さってきた。
「…… 」
「…… 」
視界が烏丸の下半身でいっぱいになっている。男性的で筋肉質であろうと推察出来る太腿のラインに加え、彼の手が私の体に挟まっていて、コレ…… 下腹部を弄られているみたいな状況に見えるのは私だけでしょうか。
頭や肩に感じる彼の体温はどんどん上昇しているような気がするし、聞こえてくる心臓の音もかなり早く、呼吸だって相当雑だ。
こんな状況、私の処理範囲を大幅にオーバーしていて、もう何が何やらわからなくなってくる。
「なぁ、旅行…… 二人で行かないか?」
駄目だよそれは。
そう言わないといけないのに、「——うん」と答えてしまった私は、どうしょうもない程の馬鹿女だと思う。
旅行券をテーブルの上に投げるみたいにして置くと、烏丸が慌てて駆け出す。そして彼はキッチンまで来ると私の手からヤカンを奪い取って作業スペースの上にドンッと置き、手首を掴んで水道水を全開にさせた。
「早く冷やせ!跡が残ったらどうするんだ!——ってか、お前!服にまでお湯かかってるじゃねぇか。風呂場行くぞ!」
私の体を抱えるみたいにして引っ張り、風呂場に移動して行く。あれよあれよと言う間に、文句の一つも口に出来ないまま、ハッと我に返った時には二人揃って風呂場で冷たいシャワーを浴びていた。
はぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎
「ちょ、や、まっ!」
連絡も無しに烏丸が来たせいで今日はオシャレ着なんかじゃない。着ていた服がTシャツだったせいで水に濡れると簡単に下着が透けて見えてしまうし、下に穿いていたジーンズは当然べったりと肌にくっつき気持ちが悪い。確かデニムって濡れるとものすごく脱ぎにくいらしいが大丈夫なんだろうか。というか、水が冷たい!
「もう平気だから、自分でやるから、もう出てって!」
彼の胸をぐっと強く押して、烏丸から距離と取る。だがそうすると透ける下着が丸見えになるとすぐに気が付き、私はパニックになって、胸元を両腕で隠しながらその場にしゃがんだ。
「ぎゃあああ!冷たいぃぃぃ!」
頭から水のシャワーを浴びてしまい、あまりの冷たさに悲鳴をあげた。部分的でもめちゃくちゃ冷えるのに、全身だなんて耐えられない。一刻も早く冷水から逃げようと思った私は四つん這いになって床を這うみたいに移動した。だけど広い訳じゃない風呂場では逃げ場なんかあるはずがなく、ただ一層全身がびしょ濡れになっただけだった。長い髪が肌に張り付き、さっきよりももっと悲惨な状態に。今の自分なら古いホラー映画の主人公になれるレベルで醜いに有様に違いない。
だが烏丸は、「何やってんだ、馬鹿だなぁ」と笑いながら水を止めてくれた。そしてフックにシャワーヘッドをかけると、彼はその場にしゃがみ、私の前髪をかきあげてきた。
「二人ともすっかり濡れ鼠だな」
ははは!と笑う烏丸も確かに全身びしょ濡れで、着ているシャツが透けてボディーラインが丸見えだ。
笑ってる場合じゃないよお兄さん!
あまりにも目の毒過ぎて、前を向けない。
胸筋がぁ!二の腕がぁぁ!乳首だって何となく見え——
ってぇぇ、や、待ってホント無理です!
「流石に邪魔だな」とか言って、自分の髪までかき上げやがる。そのせいで見えた素顔があまりに眩し過ぎ、返って私はすんっと冷静になってきた。
推しって、何でこんなに尊いのかしら。
なんかもうここまでくるとダビデ像とかアテネの彫刻とかでも見ている様な気分になってくる。
今の心境だったら私は無敵よ、何にだって対応出来るわ。
そっと頷き、濡れる胸元を片腕で隠しながらその場で立ち上がる。そして烏丸の方へ右手を差し出して、「立てる?足元が滑るから気を付けてね」と声を掛けた。
「…… あ、あぁ。ありがとう」
一瞬黙った烏丸が、私の手を取って立ち上がった。
ドラマのワンシーンとかだったらこの弾みでどちらかが足を滑らせて胸の中に飛び込むところなのだが、絶対に転んでなるものか!と決意しながら背を向け、私は脱衣場に続く扉を押し開いた。
バスマットも敷かずに入ったので、このままでは足元が濡れてしまう。最悪滑って転ぶ事だってあり得るので困っていたら、「出ないのか?」と聞きながら、烏丸が背後から私の肩に手を置き、頭の近くに顔を寄せてきた。手と肩以外には直接触れてはいなくても、水で冷えた体では彼から立ち登る体温を否応なしに感じ取ってしまう。
「このままじゃ滑りそうだな。手を貸そうか?」
喋ると彼の吐息が耳にかかり、反射的に肩が跳ねてしまった。
「…… 待ってろ、今タオル取ってやるから」
勝手知ったる何とやらなのか、洗面台の横にある備え付けの棚まで手を伸ばし、彼がバスタオルを取ってくれる。そしてそれを広げると、烏丸は私の体を隠すように包んでくれた。
「どこか痛くはないか?」
「平気だよ」
普通の態度で訊かれたので、私もいつも通りの調子で返した。
女性の体に興味の欠片も無い相手だ、緊張するだけ意味ないか。そう思いながらタオルを引っ張り、頭に被って髪を拭く。濡れるTシャツやジーンズが丸見えだけど、もう別にいいっか。
何て事を思っていると、急に私の着ている服の裾をベロンッと烏丸が捲ってきた。そのせいで、おへそ付近が全て丸見えに。
「赤くはなっていないな、良かった」
そっと触れ、指先で撫でられたせいで当然驚き、真っ青な顔をし、音にならぬ叫びをあげながらその場にしゃがみこんだ。
「うわっ!」
そのせいで彼の手が私の腹と胸に挟まり、烏丸が前のめりになってこちらに倒れてくる。
「危ないって!お前ホント馬鹿かっ!」
口悪く声をあげ、床に手をついて必死に体を支えようとしてくれた。だが濡れ鼠が二匹も居る脱衣場なんて当然水浸しになっており、案の定手は滑って、しゃがむ私の体に烏丸が覆い被さってきた。
「…… 」
「…… 」
視界が烏丸の下半身でいっぱいになっている。男性的で筋肉質であろうと推察出来る太腿のラインに加え、彼の手が私の体に挟まっていて、コレ…… 下腹部を弄られているみたいな状況に見えるのは私だけでしょうか。
頭や肩に感じる彼の体温はどんどん上昇しているような気がするし、聞こえてくる心臓の音もかなり早く、呼吸だって相当雑だ。
こんな状況、私の処理範囲を大幅にオーバーしていて、もう何が何やらわからなくなってくる。
「なぁ、旅行…… 二人で行かないか?」
駄目だよそれは。
そう言わないといけないのに、「——うん」と答えてしまった私は、どうしょうもない程の馬鹿女だと思う。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる