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最終章
【第五話】“魔女の呪い”②(華・談)
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「…… えっと、食事の後にする?」
「いいえ。ボクが焦ってでも食べたいと思うのはあくまでも華さんの料理であって、自分が作った物は…… まぁ、貴女の胃袋を満たせたら嬉しいな程度の物なので。あ、でも華さんはすぐに食べなくても平気ですか?時間も時間ですし、お腹が空いているのでは?」
「話した後でも問題ないくらいの腹具合だから、大丈夫よ」
“魔女の部屋”に籠る時は時間が長くなる為、少しだけパンやおにぎりを摘むおかげで空腹だと嘆く程ではない。だけどカシュは本当に大丈夫なのかしら?
「でももし、カシュのお腹が減っているんだったら何か私も作りましょうか?」
「大丈夫ですよ、魔力は充分ありますから」と、微笑む笑顔に無理がある。頑張って、悪い考えに呑まれてしまわない様にと必死な事が見て取れた。
うん、やっぱり早く教えてあげた方が、お互いの為ね。
「…… あのね、カシュ」
「はい」
背をスッと正して、座っているクッションの上に正座をしている。正座なんてやり慣れていないだろうに、脚は痛くないのかしら?と、今は気にすべき事ではない事が気になった。
「“魔女の呪い”を解く方法を私が見付けたかもしれないと話したら、貴方はどうしたい?」
「………… えっと」
カシュの凛々しい瞳が軽く見開かれ、口元がくっと引き絞られる。私の言葉を頭で処理しきれないといった感じだ。
「解ける、ものなんですか?コレって」
恐る恐るといった声で、カシュに訊かれた。
彼が生まれる前にはもう淫魔達は呪われていた事を考えると、解呪など有り得ない事だと思い込んでいても仕方がないだろう。呪いをかけた張本人である、ハンナ・アダムスが既に死去した後では尚更だ。私だって、解呪に繋がるかもしれない文章を見付ける事が出来る直前までは、多分無理だろうなと思っていたくらいなのだから。
「解けは、するみたいなの。だけど…… 」
「あぁ、その様子だと無理難題をこなせといった感じ、なんですか?ははは…… やっぱり、魔女はどこまでもボクらには手厳しいみたいですね」
額を押さえ、はぁ…… と長い息を吐く。どこにもぶつけられない感情が胸の中に渦巻き、魔女っぽい者である私相手ではそれを吐露する事も出来ず、カシュは胸元を掻き毟った。
「で?その方法は?」
カシュが視線だけを私へと向けて問いかける。少し睨むように受け取れる瞳と目が合い、私は初めて彼に対し恐れを感じた。“私”への苛立ちでは無い事は読み取れるけど、それでも…… やっぱり悪魔に睨まれるという状況は背中に寒気が走ってしまう。
「“純潔のまま想いを突き通せ。伴侶となった魔女の遺体にその血を捧げよ”…… と、メモ書きにはあったわ」
「…… 純潔の、まま?」
意味がよくわからない、とカシュの顔に書いてある。メモそのものを見せた方が良かっただろうか?とも思ったが、あんなミミズが這ったみたいな文字では、見せた所でもっとこんがらがる気しかしない。
「私が彼女の文面を読み解いた限りだと、要はその…… 『淫魔と魔女が一度も肉体関係を持たないまま、生涯を添い遂げろ』って意味だと思うわ」
「え?そんなの…… 無理ですよ。ボクを何だと思っているんですか?魔女って生き物は」
「私が決めた解呪方法では無いから、文句を言われても困るわ」
言葉遣いは酷くは無いが、非難する声色をぶつけられてはたじろいでしまう。
「それに、それにですよ、ボクの知る魔女は華さんだけです。ボクがもしどうしてもこの呪いを解くんだと選んだ場合、華さんも一生処女のまま死ぬ事になるんですよ?貴女だけが他の男に抱かれるとか確実に許せないし、絶対に相手を殺す確信が有ります。それでもいいんですか?華さんは」
「ダメよそれは。まぁ…… そんな事はしないから安心して」
「…… いいんですか?それでも」
「いいのかと言われても、『別に』としか言えないわね。一度も経験のない事を知らずに終わる事に対して、抵抗は無いもの」
「好きな人に快楽を教えずに死なせるとか…… 淫魔としては失格ですね」
「だけど、私が結婚をしたい理由は『苗字を変えたい』だけだから、子供を望めない事を受け入れる事は容易いわよ?」
「でも…… 前提からして、この解呪方法には無理がありますよ。だって…… 華さんはボクを愛してはくれないでしょう?ならもう、一生童貞のままでいようが、華さんの遺体に血を捧げようが、解呪は出来ませんよね。ならもう、解呪は諦めて、ボクは無理矢理にでも貴女を貪りたい…… 」
「あー…… そ、それね…… えっと、その…… 案外、そうでも、無いわよ?」
視線をそっと逸らし、ぽつりと呟く。
否応無しに頬が熱を持ち、手の平に汗が滲む。その手を膝の上でどう扱って良いのか困っていると、カシュが猫のように四つん這いになりながら距離を詰めてこちらに近づいて来た。
「それって…… もしかして、期待していいって事なんですか?」
「そ、そ、それはそれでだめよ?ハンナさんの語る“純潔”がどこまでの範囲を求めたモノなのか、今はまだ全く見当が付かないのだから」
じわじわとカシュが近づき、私は逃げるみたいに座ったまま背後にさがっていく。狭い室内ではすぐに逃げ場を失って、背中がすぐに本棚にぶつかってしまった。
「挿れるなきゃ良いと、ボク的には思うんですけど」
「い、挿れって…… 。ダメ!寸前までとか、無理に決まっているわ!」
「ちょ、ちょっとだけですから!ね⁉︎華さんもボクを好きでいてくれているのかもとか、そう思うだけでもう、ガッチガチになるくらいに昂って、興奮してホントヤバイくらいなんです!」
青年の姿をしたカシュの耳の上から立派な角が生え、細長い尻尾がにょきりと姿を露わにする。体の制御も出来ないくらいに興奮している事がハッキリとわかった。
「そんな状態になるまで理性を失いかけているくせに、そんな奴の『ちょっとだけ』なんか信じられるわけがないでしょうが!」
そう叫び、私は容赦無くカシュの顔面を、鉄拳制裁を入れてやるくらいの気持ちを込めて蹴りを与えた。そのせいでカシュの体ががくりと崩れ、床にどさりと倒れ込む。
「…… カシュ?えっと、大丈夫?」
返答がない。どうやら彼は気絶したみたいだ。
「いいえ。ボクが焦ってでも食べたいと思うのはあくまでも華さんの料理であって、自分が作った物は…… まぁ、貴女の胃袋を満たせたら嬉しいな程度の物なので。あ、でも華さんはすぐに食べなくても平気ですか?時間も時間ですし、お腹が空いているのでは?」
「話した後でも問題ないくらいの腹具合だから、大丈夫よ」
“魔女の部屋”に籠る時は時間が長くなる為、少しだけパンやおにぎりを摘むおかげで空腹だと嘆く程ではない。だけどカシュは本当に大丈夫なのかしら?
「でももし、カシュのお腹が減っているんだったら何か私も作りましょうか?」
「大丈夫ですよ、魔力は充分ありますから」と、微笑む笑顔に無理がある。頑張って、悪い考えに呑まれてしまわない様にと必死な事が見て取れた。
うん、やっぱり早く教えてあげた方が、お互いの為ね。
「…… あのね、カシュ」
「はい」
背をスッと正して、座っているクッションの上に正座をしている。正座なんてやり慣れていないだろうに、脚は痛くないのかしら?と、今は気にすべき事ではない事が気になった。
「“魔女の呪い”を解く方法を私が見付けたかもしれないと話したら、貴方はどうしたい?」
「………… えっと」
カシュの凛々しい瞳が軽く見開かれ、口元がくっと引き絞られる。私の言葉を頭で処理しきれないといった感じだ。
「解ける、ものなんですか?コレって」
恐る恐るといった声で、カシュに訊かれた。
彼が生まれる前にはもう淫魔達は呪われていた事を考えると、解呪など有り得ない事だと思い込んでいても仕方がないだろう。呪いをかけた張本人である、ハンナ・アダムスが既に死去した後では尚更だ。私だって、解呪に繋がるかもしれない文章を見付ける事が出来る直前までは、多分無理だろうなと思っていたくらいなのだから。
「解けは、するみたいなの。だけど…… 」
「あぁ、その様子だと無理難題をこなせといった感じ、なんですか?ははは…… やっぱり、魔女はどこまでもボクらには手厳しいみたいですね」
額を押さえ、はぁ…… と長い息を吐く。どこにもぶつけられない感情が胸の中に渦巻き、魔女っぽい者である私相手ではそれを吐露する事も出来ず、カシュは胸元を掻き毟った。
「で?その方法は?」
カシュが視線だけを私へと向けて問いかける。少し睨むように受け取れる瞳と目が合い、私は初めて彼に対し恐れを感じた。“私”への苛立ちでは無い事は読み取れるけど、それでも…… やっぱり悪魔に睨まれるという状況は背中に寒気が走ってしまう。
「“純潔のまま想いを突き通せ。伴侶となった魔女の遺体にその血を捧げよ”…… と、メモ書きにはあったわ」
「…… 純潔の、まま?」
意味がよくわからない、とカシュの顔に書いてある。メモそのものを見せた方が良かっただろうか?とも思ったが、あんなミミズが這ったみたいな文字では、見せた所でもっとこんがらがる気しかしない。
「私が彼女の文面を読み解いた限りだと、要はその…… 『淫魔と魔女が一度も肉体関係を持たないまま、生涯を添い遂げろ』って意味だと思うわ」
「え?そんなの…… 無理ですよ。ボクを何だと思っているんですか?魔女って生き物は」
「私が決めた解呪方法では無いから、文句を言われても困るわ」
言葉遣いは酷くは無いが、非難する声色をぶつけられてはたじろいでしまう。
「それに、それにですよ、ボクの知る魔女は華さんだけです。ボクがもしどうしてもこの呪いを解くんだと選んだ場合、華さんも一生処女のまま死ぬ事になるんですよ?貴女だけが他の男に抱かれるとか確実に許せないし、絶対に相手を殺す確信が有ります。それでもいいんですか?華さんは」
「ダメよそれは。まぁ…… そんな事はしないから安心して」
「…… いいんですか?それでも」
「いいのかと言われても、『別に』としか言えないわね。一度も経験のない事を知らずに終わる事に対して、抵抗は無いもの」
「好きな人に快楽を教えずに死なせるとか…… 淫魔としては失格ですね」
「だけど、私が結婚をしたい理由は『苗字を変えたい』だけだから、子供を望めない事を受け入れる事は容易いわよ?」
「でも…… 前提からして、この解呪方法には無理がありますよ。だって…… 華さんはボクを愛してはくれないでしょう?ならもう、一生童貞のままでいようが、華さんの遺体に血を捧げようが、解呪は出来ませんよね。ならもう、解呪は諦めて、ボクは無理矢理にでも貴女を貪りたい…… 」
「あー…… そ、それね…… えっと、その…… 案外、そうでも、無いわよ?」
視線をそっと逸らし、ぽつりと呟く。
否応無しに頬が熱を持ち、手の平に汗が滲む。その手を膝の上でどう扱って良いのか困っていると、カシュが猫のように四つん這いになりながら距離を詰めてこちらに近づいて来た。
「それって…… もしかして、期待していいって事なんですか?」
「そ、そ、それはそれでだめよ?ハンナさんの語る“純潔”がどこまでの範囲を求めたモノなのか、今はまだ全く見当が付かないのだから」
じわじわとカシュが近づき、私は逃げるみたいに座ったまま背後にさがっていく。狭い室内ではすぐに逃げ場を失って、背中がすぐに本棚にぶつかってしまった。
「挿れるなきゃ良いと、ボク的には思うんですけど」
「い、挿れって…… 。ダメ!寸前までとか、無理に決まっているわ!」
「ちょ、ちょっとだけですから!ね⁉︎華さんもボクを好きでいてくれているのかもとか、そう思うだけでもう、ガッチガチになるくらいに昂って、興奮してホントヤバイくらいなんです!」
青年の姿をしたカシュの耳の上から立派な角が生え、細長い尻尾がにょきりと姿を露わにする。体の制御も出来ないくらいに興奮している事がハッキリとわかった。
「そんな状態になるまで理性を失いかけているくせに、そんな奴の『ちょっとだけ』なんか信じられるわけがないでしょうが!」
そう叫び、私は容赦無くカシュの顔面を、鉄拳制裁を入れてやるくらいの気持ちを込めて蹴りを与えた。そのせいでカシュの体ががくりと崩れ、床にどさりと倒れ込む。
「…… カシュ?えっと、大丈夫?」
返答がない。どうやら彼は気絶したみたいだ。
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