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第五章
【第三話】理事長室への呼び出し②
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「さて、話を最後までは聞いてくれなかったから、コレはもう、カフェまでちゃんとお迎えに行かないといけないねぇ」
ニヤニヤと楽しそうに笑うカミーリャに対し、ため息のみで華が答える。失礼な態度と知りながらも、コメントをする気力はもう無かった。
「まぁ冗談はさておきだ」と言い、カミーリャが机に頬杖をついて、華へ真顔を向けた。それにより、華が身を引き締めて背を正し、ここからは仕事の話なのだなと、気持ちを切り替える。
「華先生は確か、今は文芸部と漫画研究会の部活顧問を担当しているんだったよね?」
そう訊きながらカミーリャは手元にある部活関連の資料をぱらっとめくった。
「はい。他にもアニメ同好会とイラスト研究会も受け持っています。もっとも…… 文芸部以外は名前を貸して、鍵の管理をしているだけですけども」
(それにしても、何故に漫画とイラストで別々に活動するのかしら?一緒に活動してくれると、仲間も多くなって楽しいだろうに)
心の中で、華がそっとぼやく。
それにしたってどうして私のところにはこうもオタク文化系のお願いが多いのかと軽く首を傾げる。恋愛小説や漫画が愛読書である事は、秘密にしているつもりなので不思議でならない。
「…… 多いね。まぁ生徒が好きに活動していて、華先生に負担が無いのならいいんだろうけど」
「そうですね。ですが、好きな活動をして学校生活を楽しみたい子供達の笑顔は見ていて楽しいので問題ありません」
「そっか、うんうん」
模範解答をする華に対し、眩しいモノでも見る様な目をカミーリャが向ける。本心からそう思っているのだろうなぁと思うと、理事長としては嬉しくもあった。
「そんな華先生に追加で頼みたい部活があるんだけど…… 出来るだろうか?」
「ものにもよりますが…… 。指導が必要なものですと、専門知識の問題がありますので」
「まぁそうだよね。だから、僕的にはもう華先生にしか頼めないなと思って呼んだんだ。元々は別の先生が引き受けてくれていたんだけどね、生徒と一緒に真面目に部活動に励んでいるうちに、『奥深い世界に興味が湧いたので、ちょっと留学してプロの資格を取ってきます』ってイギリスに行っちゃってさ、今は不在になっちゃったんだよ」
「…… 本格志向な方ですね」
誰だろうか?と一瞬考えたが、最近休職中になった音楽担当の佐藤先生の存在を思い出し、華が納得する。彼女は凝り性な人だった記憶しかなく、収集癖もある方だったので、のめり込んだら一直線な人なのだろう。
「ところで、どの部活なのでしょうか?音楽関係でしたら私は一切アドバイス出来ませんが」
「あぁ、その点は大丈夫。“黒魔術研究会”だから音楽は無関係だよ」
部活名を聞き、華がポカンとした顔をする。前に瀬田達と話題にした事のある部活の顧問をまさか自分が任されると思っていなかったのもあるが、『何故自分を指名してきたのか』が彼女には全くわからなかった。
「…… 黒魔術研究会、ですか」
「うん、そうだよ。何か問題でもあったかい?」
「あ、いえ。特には」
「そうか、ならよかった。今は別の者に部室の鍵の管理を任せているからね、部員への挨拶とかは後日色々と別の仕事が落ち着いてからでいいよ。あ、でも今後の活動の役に立ちそうな物が図書館に管理してあるから、それの引き継ぎだけは今日中に頼めるかな?館長には僕から連絡しておくから、カフェに黒鳥君を迎えに行く前にでも寄って行くといいよ」
「時間指定はせずとも大丈夫ですか?」
「平気さ、図書館の館長ならこちらに最大限合わせてくれるからね。まぁ…… 彼のお母さんが側に居ない時限定だけども」
“図書館の館長さんのお母さん”と聞き、館長の姿を華が思い出そうとする。ロマンスグレーの素敵なおじい様である館長が母思いの人なのだと知り、ちょっとほっこりとした気持ちになった。
(きっとご高齢のお母様が心配なのでしょうね、見た目通りのお優しい方だわ)
勝手にそう想像し、うんうんと頷く華に向かい、カミーリャがクスッと笑う。
図書館館長の本多雪丞が人外と人間とのハーフであり、もう何百歳にもなっている。そんな彼が『母さん』と慕う女性は輪廻転生を繰り返した結果、今世ではまだ未成年である事を彼女に教えるべきか否かちょっと迷ったが、コレは黙っていた方が面白いと考え、カミーリャは結局口にはしなかった。
「わかりました。ではお母様との大事なお時間を邪魔しない様、注意してお会いしてきますね」
「あ、でも今日はきっと大丈夫だとは思うよ。最近あまり会えていないみたいだしね、お父さんに邪魔されて」
(え?子供に会うのを夫が邪魔するって…… 本多館長のお宅は、一体どんな家族関係なのかしら)
かなり気にはなったが、とてもじゃないが他人の家庭事情など無遠慮に訊く事など彼女には出来なかった。
ニヤニヤと楽しそうに笑うカミーリャに対し、ため息のみで華が答える。失礼な態度と知りながらも、コメントをする気力はもう無かった。
「まぁ冗談はさておきだ」と言い、カミーリャが机に頬杖をついて、華へ真顔を向けた。それにより、華が身を引き締めて背を正し、ここからは仕事の話なのだなと、気持ちを切り替える。
「華先生は確か、今は文芸部と漫画研究会の部活顧問を担当しているんだったよね?」
そう訊きながらカミーリャは手元にある部活関連の資料をぱらっとめくった。
「はい。他にもアニメ同好会とイラスト研究会も受け持っています。もっとも…… 文芸部以外は名前を貸して、鍵の管理をしているだけですけども」
(それにしても、何故に漫画とイラストで別々に活動するのかしら?一緒に活動してくれると、仲間も多くなって楽しいだろうに)
心の中で、華がそっとぼやく。
それにしたってどうして私のところにはこうもオタク文化系のお願いが多いのかと軽く首を傾げる。恋愛小説や漫画が愛読書である事は、秘密にしているつもりなので不思議でならない。
「…… 多いね。まぁ生徒が好きに活動していて、華先生に負担が無いのならいいんだろうけど」
「そうですね。ですが、好きな活動をして学校生活を楽しみたい子供達の笑顔は見ていて楽しいので問題ありません」
「そっか、うんうん」
模範解答をする華に対し、眩しいモノでも見る様な目をカミーリャが向ける。本心からそう思っているのだろうなぁと思うと、理事長としては嬉しくもあった。
「そんな華先生に追加で頼みたい部活があるんだけど…… 出来るだろうか?」
「ものにもよりますが…… 。指導が必要なものですと、専門知識の問題がありますので」
「まぁそうだよね。だから、僕的にはもう華先生にしか頼めないなと思って呼んだんだ。元々は別の先生が引き受けてくれていたんだけどね、生徒と一緒に真面目に部活動に励んでいるうちに、『奥深い世界に興味が湧いたので、ちょっと留学してプロの資格を取ってきます』ってイギリスに行っちゃってさ、今は不在になっちゃったんだよ」
「…… 本格志向な方ですね」
誰だろうか?と一瞬考えたが、最近休職中になった音楽担当の佐藤先生の存在を思い出し、華が納得する。彼女は凝り性な人だった記憶しかなく、収集癖もある方だったので、のめり込んだら一直線な人なのだろう。
「ところで、どの部活なのでしょうか?音楽関係でしたら私は一切アドバイス出来ませんが」
「あぁ、その点は大丈夫。“黒魔術研究会”だから音楽は無関係だよ」
部活名を聞き、華がポカンとした顔をする。前に瀬田達と話題にした事のある部活の顧問をまさか自分が任されると思っていなかったのもあるが、『何故自分を指名してきたのか』が彼女には全くわからなかった。
「…… 黒魔術研究会、ですか」
「うん、そうだよ。何か問題でもあったかい?」
「あ、いえ。特には」
「そうか、ならよかった。今は別の者に部室の鍵の管理を任せているからね、部員への挨拶とかは後日色々と別の仕事が落ち着いてからでいいよ。あ、でも今後の活動の役に立ちそうな物が図書館に管理してあるから、それの引き継ぎだけは今日中に頼めるかな?館長には僕から連絡しておくから、カフェに黒鳥君を迎えに行く前にでも寄って行くといいよ」
「時間指定はせずとも大丈夫ですか?」
「平気さ、図書館の館長ならこちらに最大限合わせてくれるからね。まぁ…… 彼のお母さんが側に居ない時限定だけども」
“図書館の館長さんのお母さん”と聞き、館長の姿を華が思い出そうとする。ロマンスグレーの素敵なおじい様である館長が母思いの人なのだと知り、ちょっとほっこりとした気持ちになった。
(きっとご高齢のお母様が心配なのでしょうね、見た目通りのお優しい方だわ)
勝手にそう想像し、うんうんと頷く華に向かい、カミーリャがクスッと笑う。
図書館館長の本多雪丞が人外と人間とのハーフであり、もう何百歳にもなっている。そんな彼が『母さん』と慕う女性は輪廻転生を繰り返した結果、今世ではまだ未成年である事を彼女に教えるべきか否かちょっと迷ったが、コレは黙っていた方が面白いと考え、カミーリャは結局口にはしなかった。
「わかりました。ではお母様との大事なお時間を邪魔しない様、注意してお会いしてきますね」
「あ、でも今日はきっと大丈夫だとは思うよ。最近あまり会えていないみたいだしね、お父さんに邪魔されて」
(え?子供に会うのを夫が邪魔するって…… 本多館長のお宅は、一体どんな家族関係なのかしら)
かなり気にはなったが、とてもじゃないが他人の家庭事情など無遠慮に訊く事など彼女には出来なかった。
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