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○番外編・2○ 先生のお気に入り【八島莉緒エピソード】

家庭科教師がお気に入り①(八島莉央・談)

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莉央りおさん、莉央さん。コレ見て下さい」
 本校舎の二階にある職員室を目指し歩いていると、背後から、クリアファイルを嬉しそうに顔の側に掲げている狸小路さんに声をかけられた。
 交際前はよっぽどじゃ無いと話しかけてこない方だったのに、最近じゃあ『姿を見かけたから』とか『逢いたかった』なんて理由でも話しかけてくれるようになったのがとても嬉しい。
「んー?どれどれ?」
 ファイルを受け取り、中を見る。
 それらはほとんどが空っぽの部屋の写真で、間取り図や設備の説明が書かれた物もあった。窓から見える景色の写真や壁紙のサンプルを貼ったものなども複数枚挟まっている。

 もしかして、狸小路さんは引越しでもするのだろうか?

「綺麗なところだねぇ、引っ越しかい?…… でも広過ぎない?マンションなのに、これなんか五部屋もあるよ?」
 全ての間取りが広くって、まるで平屋建ての一軒家みたいだ。トイレも二箇所あり、主寝室にはシャワールームと大きめのクローゼット。屋根裏的スペースは倉庫みたいに使え、二台分の駐車場、ベランダから出られる庭まであるとか——とんだ高級仕様じゃないですか。
「巣は大きい方が後々家族が増えた時に困らないと思って。どうです?気に入りそうですか?」
 学校仕様の巨体を軽く揺らし、照れ臭そうに狸小路さんが頬をかいている。
 移動教室へ向かう生徒達が側を沢山通り過ぎて行くというのに、彼はお構いなしといった様子で言葉を続けた。
「防音もバッチリだし、一階なのでこの先子ども達が部屋の中で走っても平気ですよ。隣のマンションには理事長の妹さんご夫婦で暮らしていますから、色々と助けてくれるそうです」
「…… それ、今言うこと?…… さっきから、生徒達がコッチ見てきてるんだけど」
 ただでさえ巨漢なせいで目立つのに、チビな私と、廊下で想像を掻き立てる話題をしだしたものだから、さっきから、生徒達から向けられる好奇に満ちた視線が刺さって痛い。
「嫌でしたか?」
「…… 嫌じゃ無いよ。無いけど、ねぇ…… 」
 言葉を濁し、視線を逸らす。
 こんな人と付き合っていると思われたくないとか、そういった感情はもちろん無い。ただ、私達が交際していると知った生徒達から、この先からかわれるのだろうなぁという心配や、純粋な照れ臭さはある。
「じゃあ、それ渡しておきますから後で見ておいて下さい。あ、家賃はいらないそうですよ、理事長管理の物件だそうですから」
「…… 待って、ここってもしかして…… 」
「僕らの新居ですよ。番なんですから当然ですよね」
 ニコニコと穏やかな笑みでハッキリ言われ、私を含め、生徒達の動きが止まった。

『コイツら付き合っての確定だ!』

 ——と、顔にかいてある生徒が多数居る。
 事務員の君は生徒と接点が少ないからいいだろうけどね?私は色々根掘り葉掘り訊かれるってわかってる?わかってないよね、うん。…… 知ってた。そういうの、君ってばすごく疎そうだもんなぁ。

 はぁ…… とため息を吐きつつも、ファイルを受け取る。
「わかった、後でちゃんと見ておくね。でも、家賃は払わないとまずくない?」
 ちらりと住所を確認したが、商店街からも近く、この学校までも徒歩圏だ。こうも立地がいいとなると、お家賃はきっとすごい額だろう。毎月おいくらなのか訊くのも怖い。私達と理事長の間柄とはいえ、タダというのもマズイと思う。だが、割引願いくらいはしたいのが正直な所だ。
「給与みたいなものなんで平気です。現金をもらっても、何にどう使っていいかわからんだろうからって理由で、現品支給なんですよ、僕」
「…… え?」
「衣食住全て、理事長が用意してくれている物をそのまま使っています」

 まるでペットだな!正体が狸だからか?それって。

「まぁ流石にこの先群れを養っていく事を考えると、御給金も現金に変えてくれるそうなので、安心してください」
「理事長にもう話したの⁈」
「そりゃあ…… まぁ。何かあったら言ってねと指示されているので」

 どこまで話したんだ、コイツ!
 あぁぁぁ、訊かれるまま、それこそ全て言ってそうだ。

 恥ずかし過ぎて目眩がする。足元がふらつき、少し倒れそうになった体を狸小路さんが咄嗟に受け止めてくれた。
「大丈夫ですか?莉央さん」

 あれ?気のせいだろうか…… 前とちょっと感触が違う気がする。

「ねぇ、君…… 少し痩せた?」
 体勢を立て直し、顔を見上げる。今更だが、前よりちょっとだけ顔が小さくなっている事に気が付いた。
「あ、はい。莉央さんの番らしくしようと思いまして。半年後くらいには、本来のスタイルにする予定です」
「…… そのままでも、良いんだよ?」
「心遣いは嬉しいですが、駄目です。このままだと『コイツになら勝てる』と莉央さんを持っていかれるかもしれませんからね。貴女は僕の番なんですから、渡しませんよ、誰にも」
 存在しもしない相手のマウントを取る気満々で、ちょっと可愛い。

 でも“本来のスタイル”ってのは、当然あのイケメン仕様の事ですよね?
 …… まいったな。半年後には、私の気苦労が増えそうだ。
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