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第三章

【第十二話】華への不安⑤(カシュ・談)

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 魔女裁判が横行していた時代。裁判をおこなっていた者達は様々な方法で魔女を見分けていた。
 魔女は泣かず、泣く時があったとしても右目からのみで、男根に似てるなんて理由で親指を好んでしゃぶる。空を飛べ、水に浮く。拷問を受けた後は主の祈りを正しく唱える事が出来ないからお前は魔女だ——なんてものもあったが、『誰だってそうだろ、死よりも辛い思いをしているのだから』と常々思っていた。
 使い魔に血を飲ませる為に三つ目の乳首があり、性行為をする際は正常位以外を好む者なんていう、馬鹿馬鹿しい判断材料まで存在していたのだから笑える。
 大きな帽子をかぶり、黒猫と住んでいて、大きなイボや顎が尖っているなんてものもあったが、実際に裁判で有罪にされた者達は皆、普通の女性達ばかりだった。
 魔女達の目の中には毒があって、相手を見ただけで殺せるなんて設定もあったが、ソレが本当ならば裁判官は全て死んだだろとツッコミたい。神聖な力で彼らは守られているからだなんだと言い訳をするのだろうが…… 実にくだらないと今でも思う。
 実際にはどれもこれもデラタメで、伝統的な知恵を多く継承していた異端者を体よく排除する為の裁判だったし、美しさにより周囲から嫉妬された者や、財産を持つ者からその資産を奪う為に魔女として殺された者も混じっていたのだから、人の欲とはなんと罪深いのだろうか。

 悲惨な裁判が横行していた中。本物の魔女達は上手いこと隠れながら逃れ、不遜な裁判で殺された者などほとんどいない。ボク達インキュバスやサキュバスに呪いをかけた魔女も、難なく生き残ったと聞き知っている。

 ボクらに呪いをかけた魅惑の魔女の名前は、“ハンナ・アダムス”。

 隣の部屋で穏やかに眠る華さんは——彼女の…… 末裔だ。
 名前が似ているからとか、その程度の理由でそう思った訳じゃ無い。コレはちゃんと根拠のある確信だ。

 魔女達には血筋によってそれぞれ生まれながらに印がある。ソレは胸や陰部の近くなどの目立たない箇所にあり、パッと見は大きめのホクロか痣くらいにしかしか見えないので、刺青やタトゥーに厳しいこの国でも生活には支障が無い程度のものだ。なので、『自分は魔女の血統だ』と自覚していない者ならば、きっとソレが魔女の印であるという事も知らずに生活しているだろう。

 華さんに一目惚れをした偶然の出逢いから丁度今日で一週間が経つ。
 その間ずっと彼女を見ていた限り、華さんは無自覚なタイプだとボクは思う。一度も魔法を使うような気配は無かったし、それっぽい行為も皆無だったからだ。
 だが…… 彼女の言葉には不思議なものがあった。断言するような口調で言われた時は妙な強制力があり、従わずにはいられない。多分、無意識に魔力を込めた言霊的なものだろう。

 ボクの好みのど真ん中に刺さる、あの美し過ぎる容姿も、本物の魔女にはよくある特徴だ。
 近くに寄った時に感じる肌に軽く刺さるような痺れも、彼女の血筋と僕らとの、相性の悪さからくるものではないだろうか。

 彼女の作ったご飯がとても美味しい事も証拠の一つだと今なら断言出来る。薬の調合でもするかのように、調理する過程で知らず知らずに魔力を込めているからだろう。
 正直コレはありがたい。
 ボクは今、不正入手した戸籍的には十五歳の少年という設定だ。
 その為、華さんにどんなにアプローチをして、いずれはちゃんと彼女の心を射止められたとしても、真面目な彼女が体をも捧げてくれるようになるのはきっと三年後の話となるだろう。それまでの間、華さんの作るご飯のおかげで飢えを回避出来るのだと思うと、本当に助かる。
 夜な夜な華さんの睡眠中にでも、どこかで淫夢を摘み食いし続ければ死にはしないが…… 彼女を好きになってしまった今、ボクが他人のそんなもので満足出来るとは到底思え無いからだ。
 華さんの淫夢を食べる事が出来れば一番話が早いのだが、きっと彼女はそんなモノを見ないだろうし、それ以前にまず、夢に入る事すら出来ない時点でその案は捨て去らねばならないのが残念だ。

「…… 華さんが、魔女かぁ…… 」

 呟いた一言が心に重くのしかかる。
 卒業アルバムを棚に片付けながらボクは、『このまま彼女を好きであり続けていいものなのだろうか?』と考えてしまった。
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