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第三章
【第一話】先生達の井戸端会議①
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バタバタと平日が流れ去り、金曜日の放課後となった家庭科の準備室に今、三人の教師が集まっている。国語を教える華先生、理科教師の瀬田先生、そしてもう一人はこの準備室の主人である、八島莉央だ。
「はいはーい!本日もみんな集まれたね。今日はチーズケーキを焼いておいたよ。どうだい?嬉しいだろう?」
長い黒髪のポニーテールを揺らし、低身長なのに胸が大きく、敢えて着ているおしゃれ系割烹着姿でも少し目立つ。彼女は少し幼い顔立ちをしているがこの面子の中では最年長で、今年で三十二歳になるというが、そうは見えなかった。
「ありがとう莉央先生。とてもいい匂いね、美味しそうだわ」
空いている椅子に座り、そう言って褒めたのは華先生だ。
「でしょう?でしょーう?焼き立てをさっき事務局もに差し入れして来たんだけどね、そっちでもすごく喜んでくれたよー」
「よかったわね、きっと好感度もアップしたと思うわ」
「…… 相変わらず、お前は暇そうだな」
瀬田の余計な言葉に対し、八島が「あ⁈」とガンを飛ばした。ふわふわとした可愛らしい顔立ちが一気に崩れて、目付きがまるで昭和のヤンキーだ。
「すまん、言い過ぎた」
「わかればよろしい、わかれば」
うんうんと満足気に頷き、八島はケーキを切り始めた。一緒に出そうと用意していたお茶はもう準備済みで、各人の前に並べられている。香り的にコレはプーアール茶だろう。太らないようにとのような配慮、かもしれない。
「さてと、二人とも婚活の調子はどうだい?ちょっとは前進したりとかしたかな?」
目の前に出されたケーキを見ながら、華と瀬田の両名が軽く肩を震わせた。
「その感じだと全く、全然…… っぽいね」
「ははは」と八島に空笑いされ、華が渋い顔をした。
前進しているとは言い難いが、前と状況は変わっている。少なくとも一人からプロポーズはされた…… 相手は人外だけど。だが、それ故に人には話せない。カシュの見た目が少年にしか見えないせいで、余計にだ。
「しっかし不思議だなぁ。学校一の美貌を誇る君達が二人揃って真剣に婚活してるってのに、年単位で全然成果無しとかさ。君達に恋人がいたのって、いつ以来なんだい?」
「そんなもの、いたことなんか無いぞ?いればとっくに結婚済みだ」
「私も恋人がいたことは無いわね」
「…… はい?」
八島は絶句し、ケーキを食べようとしていた手が止まった。
自分ですら何人か彼氏がいたというのに、彼女らにいなかった理由が思い付かない。少なくとも華の方は性格もよく、物腰も丁寧だ。瀬田の方は…… 見た目だけなタイプなので、付き合うにまでは至らなかったのだろう、きっと。
「え、待って待って。もしかしてさ、二人とも相手に求めるレベルとか高過ぎるんじゃないのかい?それで、交際までいかないとかじゃないの?」
「高くは無いと思うわ。相手は無収入でも私は構わないし、容姿だって拘っていないもの。ただ、絶対に浮気しないタイプであれば、それで」
「ホントにか。ソレで見つからないとか…… え、むしろ何で?」
納得出来ず、八島が頭を抱えた。
「俺も別に高望はしていないぞ。浮気しないなら、ソファーで寝ながら煎餅を食ってるだけの女でも、別に構わん」
「マジかよ!そっちもかよ!——むしろ、二人共逆に要求が低過ぎな気が…… 。それでもとか、世の中不思議だねぇ」
素が出てしまい、八島が咳払いをしながら気を取り直す。
てっきり二人揃って『結婚するなら年収一千万円以上のイケメンのみ』や『モデル並みの美人で家事が完璧な兼業主婦』とか言い出すのかと思っていた為、八島は驚きを隠せなかった。
「歳だって、下は十六から上は七十だろうが許容範囲だ」
「広過ぎだろぉぉぉ!逆にキモイわ!」
「…… 八島先生、また素が出てますよ」と、華がそっと指摘する。
「あ、ごめんねー。気を付けるよーあはは」
「ただし、容姿が好みなら、だがな」
瀬田が付け足した言葉を聞き、二人が頷いた。
「まぁそうだよね。そこが無いと、ホントただの節操無いだけの奴になっちゃうもんね」
「そうね、変態疑惑が、真実になる所だったわ」
お茶を一口飲み、華がホッと息をついた。
「えー何それ、瀬田先生にはそんな噂があるのかい?」
「あら、知らなかった?言葉の端々にそう感じられる事があると噂されているのよ。主に『ロリコンなんじゃ』という方向で疑惑があがっているわね、瀬田先生は」
「失礼だな、俺の好みは至って合法だ。ウチの学生に手出しする気も、微塵もないしな」
「じゃあ、ロリコンでは無いわけだね?」
「あぁ違うな、じゃ無ければ、毎週末に婚活パーティーや合コンに参加なんぞしないだろ」
「まぁ、言われてみれば確かにそうだねー。これは失礼した」
頭を深々と下げて、八島が謝罪する。
だが、華の方はちょっと微妙な顔をしている。『断言していいのかしら、ソレ』という気持ちで頭がいっぱいだった。
「はいはーい!本日もみんな集まれたね。今日はチーズケーキを焼いておいたよ。どうだい?嬉しいだろう?」
長い黒髪のポニーテールを揺らし、低身長なのに胸が大きく、敢えて着ているおしゃれ系割烹着姿でも少し目立つ。彼女は少し幼い顔立ちをしているがこの面子の中では最年長で、今年で三十二歳になるというが、そうは見えなかった。
「ありがとう莉央先生。とてもいい匂いね、美味しそうだわ」
空いている椅子に座り、そう言って褒めたのは華先生だ。
「でしょう?でしょーう?焼き立てをさっき事務局もに差し入れして来たんだけどね、そっちでもすごく喜んでくれたよー」
「よかったわね、きっと好感度もアップしたと思うわ」
「…… 相変わらず、お前は暇そうだな」
瀬田の余計な言葉に対し、八島が「あ⁈」とガンを飛ばした。ふわふわとした可愛らしい顔立ちが一気に崩れて、目付きがまるで昭和のヤンキーだ。
「すまん、言い過ぎた」
「わかればよろしい、わかれば」
うんうんと満足気に頷き、八島はケーキを切り始めた。一緒に出そうと用意していたお茶はもう準備済みで、各人の前に並べられている。香り的にコレはプーアール茶だろう。太らないようにとのような配慮、かもしれない。
「さてと、二人とも婚活の調子はどうだい?ちょっとは前進したりとかしたかな?」
目の前に出されたケーキを見ながら、華と瀬田の両名が軽く肩を震わせた。
「その感じだと全く、全然…… っぽいね」
「ははは」と八島に空笑いされ、華が渋い顔をした。
前進しているとは言い難いが、前と状況は変わっている。少なくとも一人からプロポーズはされた…… 相手は人外だけど。だが、それ故に人には話せない。カシュの見た目が少年にしか見えないせいで、余計にだ。
「しっかし不思議だなぁ。学校一の美貌を誇る君達が二人揃って真剣に婚活してるってのに、年単位で全然成果無しとかさ。君達に恋人がいたのって、いつ以来なんだい?」
「そんなもの、いたことなんか無いぞ?いればとっくに結婚済みだ」
「私も恋人がいたことは無いわね」
「…… はい?」
八島は絶句し、ケーキを食べようとしていた手が止まった。
自分ですら何人か彼氏がいたというのに、彼女らにいなかった理由が思い付かない。少なくとも華の方は性格もよく、物腰も丁寧だ。瀬田の方は…… 見た目だけなタイプなので、付き合うにまでは至らなかったのだろう、きっと。
「え、待って待って。もしかしてさ、二人とも相手に求めるレベルとか高過ぎるんじゃないのかい?それで、交際までいかないとかじゃないの?」
「高くは無いと思うわ。相手は無収入でも私は構わないし、容姿だって拘っていないもの。ただ、絶対に浮気しないタイプであれば、それで」
「ホントにか。ソレで見つからないとか…… え、むしろ何で?」
納得出来ず、八島が頭を抱えた。
「俺も別に高望はしていないぞ。浮気しないなら、ソファーで寝ながら煎餅を食ってるだけの女でも、別に構わん」
「マジかよ!そっちもかよ!——むしろ、二人共逆に要求が低過ぎな気が…… 。それでもとか、世の中不思議だねぇ」
素が出てしまい、八島が咳払いをしながら気を取り直す。
てっきり二人揃って『結婚するなら年収一千万円以上のイケメンのみ』や『モデル並みの美人で家事が完璧な兼業主婦』とか言い出すのかと思っていた為、八島は驚きを隠せなかった。
「歳だって、下は十六から上は七十だろうが許容範囲だ」
「広過ぎだろぉぉぉ!逆にキモイわ!」
「…… 八島先生、また素が出てますよ」と、華がそっと指摘する。
「あ、ごめんねー。気を付けるよーあはは」
「ただし、容姿が好みなら、だがな」
瀬田が付け足した言葉を聞き、二人が頷いた。
「まぁそうだよね。そこが無いと、ホントただの節操無いだけの奴になっちゃうもんね」
「そうね、変態疑惑が、真実になる所だったわ」
お茶を一口飲み、華がホッと息をついた。
「えー何それ、瀬田先生にはそんな噂があるのかい?」
「あら、知らなかった?言葉の端々にそう感じられる事があると噂されているのよ。主に『ロリコンなんじゃ』という方向で疑惑があがっているわね、瀬田先生は」
「失礼だな、俺の好みは至って合法だ。ウチの学生に手出しする気も、微塵もないしな」
「じゃあ、ロリコンでは無いわけだね?」
「あぁ違うな、じゃ無ければ、毎週末に婚活パーティーや合コンに参加なんぞしないだろ」
「まぁ、言われてみれば確かにそうだねー。これは失礼した」
頭を深々と下げて、八島が謝罪する。
だが、華の方はちょっと微妙な顔をしている。『断言していいのかしら、ソレ』という気持ちで頭がいっぱいだった。
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