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第一章
【第一話】「お名前は?」(カシュ・談)
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「…… で?貴方は何者かしら。ご両親はどこにいるの?家出ならすぐに警察に行きましょう。保護してくれる『神待ち』的なものを私に期待しているなら即そんな甘い考えは捨てることね。未成年者を泊める気など一ミリも無いわ」
椅子に脚を組んで座り、彼女は僕に向かい、すっごく見下した目を向けてくれながらそう言った。
ふわりと緩いウエーブのかかった腰までの黒髪。とても大きな黒曜石のように美しい瞳。夜着かと思われるショートパンツから見えるスラッとした長い脚は白くてとても綺麗で、踏まれたいくらいだ。
そんな彼女の前に今ボクは、正座をして座っている。
彼女の視線だけでもうイッてしまいそうなくらいゾクゾクした高揚感を下腹部に感じながら、僕は必至にこちらの事を説明し始めた。
「えっと、ボクはカシュって言います。生まれてこの方インキュバスをやっていまして、ちょっとお嫁さんを探しているんです。それで、帰宅時のお姉さんをまたまた見かけて、とっても綺麗で、強そうでめちゃくちゃ素敵だったんで『君に決めた!』って押し掛けちゃいました」
自慢の金色をした目を輝かせ、簡潔に説明した。
そう、ボクはインキュバスだ。
夢魔扱いされることもある、とっても淫猥な下級の悪魔として生まれ、かれこれ一五〇年目になる。もちろん冗談とか『そういう設定だって事にした子』とかでは無い。正真正銘の本物だ。だからこそ坂の上にあるマンションの七階のベランダからお邪魔したわけですし、宙にも浮いていられたんですからね。
だがしかし…… ボクの言葉は「は?何を言ってるの?」と、一蹴された。
刺々しい瞳と『は?』の言葉がご馳走として感じられる。
「えっと、さっき浮かんで見せましたよね?あれ、魔法ですよ?」
「違うわ、錯覚よ!」
断言する彼女の瞳が眩しい。
ホント、このお姉さん素敵過ぎます。あぁ、もうこれだけで頑張って此処まで押し掛けてよかったなって思える。生まれてからずっと感じている空腹感が、少しだけ満たされた気がした。
でも同時に困ってもしまう。『さて、この頑固なお姉さんをどう説得したものか』と。
「あ、あの、せめてそちらの名前も教えてもらえませんか?あ、別に名前を聞き出したらボクと契約成立とかそういうのは無いんでご安心を。ただ話し難いから知りたいっていうか、一目惚れした人の名前くらい欲しいていうか…… へへ」
正直に話してしまった。
妙に恥ずかしくって、両手で髪をクシャッといじる。照れ臭さが強くなり過ぎ、体が制御不能になったのか、ずっと隠していた黒い角がにょきりと頭から生えて、細長い黒い尻尾がズボンの中からしゅるりと飛び出してしまった。無理に七階まで飛んだせいで魔力不足になった事も重なり、もうこれらすらも隠せないみたいだ。
「………… 角ね」
「角ですよ」
ボソッとこぼした彼女の言葉に同意する。すると彼女は額にそっと手を当てて俯いてしまった。
あぁ、憂いを帯びた姿も美しい…… 。
感嘆の息をこぼし、うっとりとした顔をしていると、ちょっと口の端から涎が垂れてくる。ホント美味しそうなお姉さんだなぁ。豪華な主食を前にしたまま、お預けをくらったような気持ちになってきた。
「——華よ」
「え?」
「私の名前。——華よ」
二度聞いても、苗字の部分が聞き取れない。そこだけ激しいノイズがかかったみたいに聞こえ、しかも記憶に残らない。もう一度名前をちゃんと訊こうとしたのだが「華さん、と呼びなさい」と念押しされ、ボクは無言で頷いたのだった。
椅子に脚を組んで座り、彼女は僕に向かい、すっごく見下した目を向けてくれながらそう言った。
ふわりと緩いウエーブのかかった腰までの黒髪。とても大きな黒曜石のように美しい瞳。夜着かと思われるショートパンツから見えるスラッとした長い脚は白くてとても綺麗で、踏まれたいくらいだ。
そんな彼女の前に今ボクは、正座をして座っている。
彼女の視線だけでもうイッてしまいそうなくらいゾクゾクした高揚感を下腹部に感じながら、僕は必至にこちらの事を説明し始めた。
「えっと、ボクはカシュって言います。生まれてこの方インキュバスをやっていまして、ちょっとお嫁さんを探しているんです。それで、帰宅時のお姉さんをまたまた見かけて、とっても綺麗で、強そうでめちゃくちゃ素敵だったんで『君に決めた!』って押し掛けちゃいました」
自慢の金色をした目を輝かせ、簡潔に説明した。
そう、ボクはインキュバスだ。
夢魔扱いされることもある、とっても淫猥な下級の悪魔として生まれ、かれこれ一五〇年目になる。もちろん冗談とか『そういう設定だって事にした子』とかでは無い。正真正銘の本物だ。だからこそ坂の上にあるマンションの七階のベランダからお邪魔したわけですし、宙にも浮いていられたんですからね。
だがしかし…… ボクの言葉は「は?何を言ってるの?」と、一蹴された。
刺々しい瞳と『は?』の言葉がご馳走として感じられる。
「えっと、さっき浮かんで見せましたよね?あれ、魔法ですよ?」
「違うわ、錯覚よ!」
断言する彼女の瞳が眩しい。
ホント、このお姉さん素敵過ぎます。あぁ、もうこれだけで頑張って此処まで押し掛けてよかったなって思える。生まれてからずっと感じている空腹感が、少しだけ満たされた気がした。
でも同時に困ってもしまう。『さて、この頑固なお姉さんをどう説得したものか』と。
「あ、あの、せめてそちらの名前も教えてもらえませんか?あ、別に名前を聞き出したらボクと契約成立とかそういうのは無いんでご安心を。ただ話し難いから知りたいっていうか、一目惚れした人の名前くらい欲しいていうか…… へへ」
正直に話してしまった。
妙に恥ずかしくって、両手で髪をクシャッといじる。照れ臭さが強くなり過ぎ、体が制御不能になったのか、ずっと隠していた黒い角がにょきりと頭から生えて、細長い黒い尻尾がズボンの中からしゅるりと飛び出してしまった。無理に七階まで飛んだせいで魔力不足になった事も重なり、もうこれらすらも隠せないみたいだ。
「………… 角ね」
「角ですよ」
ボソッとこぼした彼女の言葉に同意する。すると彼女は額にそっと手を当てて俯いてしまった。
あぁ、憂いを帯びた姿も美しい…… 。
感嘆の息をこぼし、うっとりとした顔をしていると、ちょっと口の端から涎が垂れてくる。ホント美味しそうなお姉さんだなぁ。豪華な主食を前にしたまま、お預けをくらったような気持ちになってきた。
「——華よ」
「え?」
「私の名前。——華よ」
二度聞いても、苗字の部分が聞き取れない。そこだけ激しいノイズがかかったみたいに聞こえ、しかも記憶に残らない。もう一度名前をちゃんと訊こうとしたのだが「華さん、と呼びなさい」と念押しされ、ボクは無言で頷いたのだった。
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