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番外編
最愛の君との未来を夢見る〜こぼれ話〜
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現状の把握や将来についての話合いも一段落し、陽が用意してくれたハーブティーを二人で頂く。
陽としては流れ的にこのまま側にあるベッドに彼女を引き込み、実は手枷にだって仕様変更可能なブレスレットにチェーンを着けて拘束し、愛し合ってしまいたい気分なのだが、必死に『今は昼間、今はまだ昼間!』と、何度も同じ言葉を胸の中で己に言い聞かせている。欲望を表に出すまいと堪え過ぎ、カップを持つ手がちょっと震えていた。
「床にお茶が溢れますよ?」
「え?あ、ごめん…… あはは」
奏の方を見ても乾いた笑いしか出てこない。レインボームーンストーンがキラリと輝く、細めだとはいえ、ほぼ首輪に近い印象のあるチョーカーが目に入り、ゴクッと唾を飲み込んでしまう。完全に、大好物の餌を前にしている飢えた獣状態だ。
(落ち着け!私は約束を守れると証明しないと、奏さんにも『約束を守れ』って言えなくなる!絶対に、その小さな手を離さない為にも今はとにかく耐えろ、就業時間さえ終わってしまえば、実質夜!そこまで耐えれば、そこにあるベッドに引き込んで、『此処には私以外誰も入って来ないよ』と説明すれば、憧れの『職場でのセックス』だってさせてもらえるはずだっ)
カップをテーブルに一旦置き、ぐっと拳を握る。欲望がダダ漏れだったのか、奏が少しだけお尻を浮かせて陽から離れた。
「そう言えば、湯川家の方とはいえ、よくアマゾン川周辺までお迎えに行こうと思いましたね。じぶ…… わ、私じゃ、空港までは行けても、飛行機に乗って海外まで迎えに行こうとか、絶対に出来そうにありませんもん」
呼称を間違えそうになった瞬間、『あ、コレはお仕置きが必要だね』と微笑みながら側にあるベッドに自分を引き込もうとする陽の姿が一瞬脳裏に浮かび、奏が慌てて“私”と言い直す。奏への欲望で頭の中が煮詰まり過ぎ、『お⁉︎間違える?』と期待していた陽は、心の中で舌打ちをした。
「あぁ、パスポートは常に持ち歩いているし、海外に行くのにこれといって抵抗は無いからね。バスとか電車に乗って、隣の県まで行くのと似た様な感覚かな。学生の頃なんて、友人の一人にぶっ飛んだ発想をする奴が一人居たから、急に『今から無人島でサバゲーでもしようか』とか『あ、そうだ。京都行こう』みたいなノリで『ピラミッドでも観に行こう』とか言い出してプライベートジェットに連行されたりとかが普通だったからね」
「…… 私とは、住む世界が違いますね」
「いやいやいや!そんな事はないよ、私はそこまで突飛な事はしないから、大丈夫!」
経験の差のせいで、奏が更に座る位置をズラして距離を取ろうとする。陽はその行為に心の距離まで離れた気がして、慌てて彼女の両腕を掴んだ。
「ちゃんと奏さんのペースで、奏さんがしたいデートをしよう!えっと、そうだな、世界遺産とか見に行くとかどうだろう?マチュピチュとかグランドキャニオンとかもいいね」
慌てているせいか、ちょっと思考が学生時代に戻ったままだ。
「海外は何かよくわからなくて怖いし、修学旅行くらいでしか国内も観て回れていないので、国内がいいです。というか、私的には近所の商店街を観て回るくらいでも全然構わないですよ」
「海外は嫌、了解。急には連れていかない様にちゃんと覚えておくね。あ、でも流石に近所の商店街でデートはちょっと…… 。普段の買い物を一緒にっていうなら夫婦生活みたいで楽しいけど、これからは完全に奏さんのお休みに合わせて私も休めるんだし、せめて温泉旅行とか、夜の水族館や動物園とか、夜景を観に行くとかの方が」
(何故、お泊まりか夜のデート限定なんでしょう?)
不穏な空気を察知して、奏が身構える。
「えっと…… ランチデートとか、ピクニックとかがしたいです。お弁当持って、小高い丘で景色でも観ながらとか、素敵じゃないですか?」
「星空とか、月を見ながらもいいと思うな!」
(それだと真っ暗で、お弁当が食べにくいのでは…… )
早く夜になってしまえ!そうしたら奏さんを抱けるのに!——で頭の中がいっぱいな為、陽の発言がおかしなままだ。
「…… お茶を、まずは飲みましょうか。気持ちが落ち着きますよ」
「そ、そうだね。そうするよ」
激しく同意し、ハーブティーを胃袋に流し込む。もうすっかり冷めていたが、それでもちゃんと美味しかったし、少しだけはヤル気持ちが落ち着いた気がした。
「えっと、ごめんね?奏さんと、ちゃんと正式に同意の上で婚約をしたんだと思うと、色々焦っちゃって」
「こ、婚約…… 」
改めて言葉にすると、緊張してしまって心音が早くなる。視界に入った両手首のブレスレットが、奏の鼓動をより加速させた。
「——あっ!」
突然陽が大きな声を上げ、「すっごく大事な事忘れてた!」と叫んだ。そして、すぐさま「うわぁ…… 忘れてたとか、言っちゃダメじゃん」と小声でこぼす。
「どうしました?急ぎのお仕事ですか?引継ぎの件とか?」
「あ、いや…… それは大丈夫。今日はもう何もしなくて大丈夫なくらい、会社に戻って来る道中の車内でも、みっちりやらされたから」
大丈夫、と言う様に陽が軽く手を振り、その手で今度は額を押さえる。盛大なため息を吐くと、「…… ごめんなさい」と急に奏に謝った。
何の謝罪だろう?と奏が首を傾げると、放置したままになっていた小箱から指輪を取り出し、すまなそうな顔をしながら、陽が奏の左手を取った。
「チョーカーとブレスレットを贈った事でテンションが上がり過ぎて、一番大事な事を疎かにしてました。本当にごめんなさい」
そう言いながら、陽が奏の左手薬指に指輪を通す。ピッタリのサイズだったので、『何で私の指輪のサイズを知ってるのでしょうか』と不思議に思った。
「…… 怒ってる?」
「え?あ、いえ、全然。私もその…… チョーカーとかのインパクトが強くって、すっかり指輪をまだ指にはめていない事を失念していたので、陽さんと同罪ですから」
「奏さん…… 」
つい嬉しくなり、チュッと奏の頰にキスをしてしまう。「あ、ごめん!」と咄嗟に離れて謝ったが、奏は顔を真っ赤にして俯いただけで、『約束が違います』と非難する事はしなかった。
(もしかして、昼間でもキスはOKなのかな?)
こうなると、どこまでなら昼間でも許されるのか、色々と気になってくる。だけど照れ屋であろう奏ではど直球で訊いても、慌てるだけで教えてはくれないだろう。境界線をすぐにでも知りたいが焦りは禁物だ、と考え、陽は二、三度深呼吸を繰り返した。
「…… 改めて、これからもよろしくね、奏さん」
「は、はい!こちらこそ…… その、不束者ですが、よろしくお願いします」
陽に左手を掴まれたまま、奏が頭を深々と下げる。
「いえいえ、こちらこそ」と陽も軽く頭を下げた時、奏が陽の頬に、ちょっとぶつかり気味になりながら唇を押し当てた。
完全に不意打ちで、陽の体がピタリと固まる。だが、心の中はもう『か、奏さんからしてくれたぁぁぁぁぁぁっ!』と叫ぶくらいのお祭り騒ぎで、少し目眩までしてきた。
「…… お付き合いをしているんですし、私だって、このくらいは出来ないと、ですよね」
照れ臭そうに言われ、もう『このまま抱いていいんじゃね?もうコレお誘いだよね?』と、チビッとした悪魔が陽の耳元で囁く。
『いやいや!せっかく積極的になってくれたのに、これで襲ったらもう、二度と向こうからキスなんてしてくれなくなるぞ!』とミニマムな天使が必死に訴え、軍配は珍しく後者に上がった。
「嬉しいよ、奏さん」
とろんととけた眼差しで喜ばれ、奏は心の中で『勇気を出して、してみてよかったです』と安堵の息を吐く。
ちょっとづつだが、こうやって互いの付き合い方を模索していけたらいいなぁと奏は穏やかな気持ちで考えていたが、陽はただひたすらに時計の示す時間を気にし続けていたのだった。
【終わり】
陽としては流れ的にこのまま側にあるベッドに彼女を引き込み、実は手枷にだって仕様変更可能なブレスレットにチェーンを着けて拘束し、愛し合ってしまいたい気分なのだが、必死に『今は昼間、今はまだ昼間!』と、何度も同じ言葉を胸の中で己に言い聞かせている。欲望を表に出すまいと堪え過ぎ、カップを持つ手がちょっと震えていた。
「床にお茶が溢れますよ?」
「え?あ、ごめん…… あはは」
奏の方を見ても乾いた笑いしか出てこない。レインボームーンストーンがキラリと輝く、細めだとはいえ、ほぼ首輪に近い印象のあるチョーカーが目に入り、ゴクッと唾を飲み込んでしまう。完全に、大好物の餌を前にしている飢えた獣状態だ。
(落ち着け!私は約束を守れると証明しないと、奏さんにも『約束を守れ』って言えなくなる!絶対に、その小さな手を離さない為にも今はとにかく耐えろ、就業時間さえ終わってしまえば、実質夜!そこまで耐えれば、そこにあるベッドに引き込んで、『此処には私以外誰も入って来ないよ』と説明すれば、憧れの『職場でのセックス』だってさせてもらえるはずだっ)
カップをテーブルに一旦置き、ぐっと拳を握る。欲望がダダ漏れだったのか、奏が少しだけお尻を浮かせて陽から離れた。
「そう言えば、湯川家の方とはいえ、よくアマゾン川周辺までお迎えに行こうと思いましたね。じぶ…… わ、私じゃ、空港までは行けても、飛行機に乗って海外まで迎えに行こうとか、絶対に出来そうにありませんもん」
呼称を間違えそうになった瞬間、『あ、コレはお仕置きが必要だね』と微笑みながら側にあるベッドに自分を引き込もうとする陽の姿が一瞬脳裏に浮かび、奏が慌てて“私”と言い直す。奏への欲望で頭の中が煮詰まり過ぎ、『お⁉︎間違える?』と期待していた陽は、心の中で舌打ちをした。
「あぁ、パスポートは常に持ち歩いているし、海外に行くのにこれといって抵抗は無いからね。バスとか電車に乗って、隣の県まで行くのと似た様な感覚かな。学生の頃なんて、友人の一人にぶっ飛んだ発想をする奴が一人居たから、急に『今から無人島でサバゲーでもしようか』とか『あ、そうだ。京都行こう』みたいなノリで『ピラミッドでも観に行こう』とか言い出してプライベートジェットに連行されたりとかが普通だったからね」
「…… 私とは、住む世界が違いますね」
「いやいやいや!そんな事はないよ、私はそこまで突飛な事はしないから、大丈夫!」
経験の差のせいで、奏が更に座る位置をズラして距離を取ろうとする。陽はその行為に心の距離まで離れた気がして、慌てて彼女の両腕を掴んだ。
「ちゃんと奏さんのペースで、奏さんがしたいデートをしよう!えっと、そうだな、世界遺産とか見に行くとかどうだろう?マチュピチュとかグランドキャニオンとかもいいね」
慌てているせいか、ちょっと思考が学生時代に戻ったままだ。
「海外は何かよくわからなくて怖いし、修学旅行くらいでしか国内も観て回れていないので、国内がいいです。というか、私的には近所の商店街を観て回るくらいでも全然構わないですよ」
「海外は嫌、了解。急には連れていかない様にちゃんと覚えておくね。あ、でも流石に近所の商店街でデートはちょっと…… 。普段の買い物を一緒にっていうなら夫婦生活みたいで楽しいけど、これからは完全に奏さんのお休みに合わせて私も休めるんだし、せめて温泉旅行とか、夜の水族館や動物園とか、夜景を観に行くとかの方が」
(何故、お泊まりか夜のデート限定なんでしょう?)
不穏な空気を察知して、奏が身構える。
「えっと…… ランチデートとか、ピクニックとかがしたいです。お弁当持って、小高い丘で景色でも観ながらとか、素敵じゃないですか?」
「星空とか、月を見ながらもいいと思うな!」
(それだと真っ暗で、お弁当が食べにくいのでは…… )
早く夜になってしまえ!そうしたら奏さんを抱けるのに!——で頭の中がいっぱいな為、陽の発言がおかしなままだ。
「…… お茶を、まずは飲みましょうか。気持ちが落ち着きますよ」
「そ、そうだね。そうするよ」
激しく同意し、ハーブティーを胃袋に流し込む。もうすっかり冷めていたが、それでもちゃんと美味しかったし、少しだけはヤル気持ちが落ち着いた気がした。
「えっと、ごめんね?奏さんと、ちゃんと正式に同意の上で婚約をしたんだと思うと、色々焦っちゃって」
「こ、婚約…… 」
改めて言葉にすると、緊張してしまって心音が早くなる。視界に入った両手首のブレスレットが、奏の鼓動をより加速させた。
「——あっ!」
突然陽が大きな声を上げ、「すっごく大事な事忘れてた!」と叫んだ。そして、すぐさま「うわぁ…… 忘れてたとか、言っちゃダメじゃん」と小声でこぼす。
「どうしました?急ぎのお仕事ですか?引継ぎの件とか?」
「あ、いや…… それは大丈夫。今日はもう何もしなくて大丈夫なくらい、会社に戻って来る道中の車内でも、みっちりやらされたから」
大丈夫、と言う様に陽が軽く手を振り、その手で今度は額を押さえる。盛大なため息を吐くと、「…… ごめんなさい」と急に奏に謝った。
何の謝罪だろう?と奏が首を傾げると、放置したままになっていた小箱から指輪を取り出し、すまなそうな顔をしながら、陽が奏の左手を取った。
「チョーカーとブレスレットを贈った事でテンションが上がり過ぎて、一番大事な事を疎かにしてました。本当にごめんなさい」
そう言いながら、陽が奏の左手薬指に指輪を通す。ピッタリのサイズだったので、『何で私の指輪のサイズを知ってるのでしょうか』と不思議に思った。
「…… 怒ってる?」
「え?あ、いえ、全然。私もその…… チョーカーとかのインパクトが強くって、すっかり指輪をまだ指にはめていない事を失念していたので、陽さんと同罪ですから」
「奏さん…… 」
つい嬉しくなり、チュッと奏の頰にキスをしてしまう。「あ、ごめん!」と咄嗟に離れて謝ったが、奏は顔を真っ赤にして俯いただけで、『約束が違います』と非難する事はしなかった。
(もしかして、昼間でもキスはOKなのかな?)
こうなると、どこまでなら昼間でも許されるのか、色々と気になってくる。だけど照れ屋であろう奏ではど直球で訊いても、慌てるだけで教えてはくれないだろう。境界線をすぐにでも知りたいが焦りは禁物だ、と考え、陽は二、三度深呼吸を繰り返した。
「…… 改めて、これからもよろしくね、奏さん」
「は、はい!こちらこそ…… その、不束者ですが、よろしくお願いします」
陽に左手を掴まれたまま、奏が頭を深々と下げる。
「いえいえ、こちらこそ」と陽も軽く頭を下げた時、奏が陽の頬に、ちょっとぶつかり気味になりながら唇を押し当てた。
完全に不意打ちで、陽の体がピタリと固まる。だが、心の中はもう『か、奏さんからしてくれたぁぁぁぁぁぁっ!』と叫ぶくらいのお祭り騒ぎで、少し目眩までしてきた。
「…… お付き合いをしているんですし、私だって、このくらいは出来ないと、ですよね」
照れ臭そうに言われ、もう『このまま抱いていいんじゃね?もうコレお誘いだよね?』と、チビッとした悪魔が陽の耳元で囁く。
『いやいや!せっかく積極的になってくれたのに、これで襲ったらもう、二度と向こうからキスなんてしてくれなくなるぞ!』とミニマムな天使が必死に訴え、軍配は珍しく後者に上がった。
「嬉しいよ、奏さん」
とろんととけた眼差しで喜ばれ、奏は心の中で『勇気を出して、してみてよかったです』と安堵の息を吐く。
ちょっとづつだが、こうやって互いの付き合い方を模索していけたらいいなぁと奏は穏やかな気持ちで考えていたが、陽はただひたすらに時計の示す時間を気にし続けていたのだった。
【終わり】
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