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最愛の君との未来を夢見る
最愛の君との未来を夢見る②
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廊下を走ってはいけないと知りつつも、早歩きというよりは走っているに近い足取りで廊下を進み、研究棟からはかなり離れた先にある人事課を奏が目指す。人事課所属の母ならばきっと陽の事情を知っているに違いない。そう思うと、どうしても居ても立っても居られない。このまま何もわからぬまま陽と自然消滅になったらこの先一生消化不良になって心に残り続けそうなので、それだけはどうしても避けたかった。
(何故急に退職を?何か私がしましたか?それともやっぱり、そもそも体だけが目当てで、あの時は何となく空気を読んでテキトーに『好きだ』なんて言っただけだったんでしょうか…… )
結局流されて、奏的には『しない』という約束を反故にもされた流れが告白しあった日にはあった為、どうしたってそういった方向へ思考が進んでいく。勝手に色々と悪い方へ物事を思い込み、滅多に怒らないくらい沸点の高い奏だが、あの日のやり取りを思い出して珍しくイラッとまでしてきた。
(無理に合わせてくれなくて良かったのに。でも、体だけが目的だったのなら、自分の事は対象にして欲しくなったんですけど…… 。こんな初体験なら、むしろ一生知らない方が…… )
——と、奏が思いながら廊下を曲がった時、曲がり角の向こう側から歩いて来ていた人にドンッと真正面からぶつかってしまった。
「わっ!」
「おっと。これは失礼しました。そちらは大丈夫かな?」
ぶつかった後、即座に誰かの腕の中に包まれてしまい、奏は慌てて「すみません!急いでいたもので」と言いながら腕を突っ張って、男から離れた。
「奏さん⁉︎何してるの!」
奏がぶつかってしまった男の背後から、聞き慣れた声が突然響いた。
「こっちに来て!」と奏の腕を無理矢理引っ張り、声の主が彼女を自らの腕に抱く。「事故とはいえ、他の男に触ったらダメだよ!」と怒られたことに驚きながら顔を見上げると、声の主は奏の思った通り、長い事音信不通で姿も見せていなかった陽だった。
『陽さんだ!』と少し安堵しつつ、『でも…… 今更何なんですか?その反応は』と思うと、奏は誰の目からでもわかる程のしかめっ面を陽へ向けただけで、一言も喋る気配が無い。彼女の機嫌が相当悪い事は火を見るよりも明らかだ。
「あぁ、この子が青鬼君の言っていた奥さんか。これは失礼したね、怪我は無かったかな?」
不意の事故とはいえ、ぶつかってしまった事を男が詫びる。
黒髪を後ろにまとめ、眼鏡をかけた五十代後半くらいの容姿をした男が柔らかな笑顔を二人に向ける。たが奏は失礼だとは知りつつも、不機嫌な表情を変える事が出来なかった。
「いえ、こちらこそすみませんでした」
そう答えながら奏は再び腕を突っ張って、今度は陽からも離れようとする。『何で?何でなの、奏さん⁉︎』と彼女の態度を不思議に思いつつも、それでも奏を胸に抱こうと陽は腕を伸ばした。
「はっはっは。出会って早々、早速痴話喧嘩かなー?これは私まで巻き込まれるパターンだろうから、悪いけどさっさと退散させてもらう事にするよ。明日からまた忙しくなるからね、じゃ!」
片手を軽く上げて、男が逃げる様に退散していく。
「了解しました。お疲れ様です」
男に顔を向ける事なく、陽がテキトウな挨拶をする。
『…… おいおい、君って子は。私相手にソレでいいのかい?』と呆れつつも、きっとこのトラブルの原因は絶対に自分だなと自覚があった為、彼が拗ねたり怒ったりする事は無かった。
「会いたかったよ、奏さん。まずは早く抱き締めさせて欲しいんだけど…… 何でさっきからそうやって抵抗するの?もう二人きりなんだし、照れる必要すら無いんだけど」
「照れてなんかいません!でも、自分と別れたいのなら別れるで、さっさと言って下さい!」
「待って、別れる?誰と誰が?」
「自分と、陽さんです!」
呼称まで元に戻り、陽から必死に距離を取る。だがしかし、奏の細腕はプルプルと震えていて限界が近い様に見える。小柄な奏と長身の陽では、彼の腕の中に抱きとめられるのは時間の問題だ。
「…… 私と、別れる?へー…… 」
陽の顔色に影が差し、互いの離れていた距離を一気に縮め、奏を腕の中に強く抱く。今までは遊び半分にふざけていて、腕に力を入れていなかっただけだった様だ。
「別れたいのは、陽さんの方じゃないですか。なので、こうやって、気を持たせる様な真似はしないで下さいぃぃっ」と声をあげ、逃げようと奏が必死に身を捩る。
「…… 何で?私が別れたくなるとか、あるはずがないよね?」
「何でって、だって全然連絡もないし、メッセージを送っても既読にもならないですし。そのうえ全く姿も見せないとなればもう、自然消滅を狙ってるんじゃと思ったんですが…… 違うんですか?」
「いや、だからそんな事はあり得ないよ!私から離れるなんて、絶対に無い!墓場どころか、来世でだって離れる気はないんだから!」と陽が断言し、奏の体をしっかりと抱き締める。ここは会社の廊下なのだと、二人はすっかり忘れているみたいだ。
「——あ、そっか…… まぁ連絡出来なかったもんな。きちんと理由を話すから、こっち行こう」
そう言って、陽が奏の体をひょいっと横向きにして抱え上げる。お姫様抱っこをされた事で、奏の顔が真っ赤に染まった。
「あ、あの…… おろして——」と言いかけた言葉を、「絶対にイヤだ。誤解があるままおろしたら、全力で逃げようとするかもしれないし」と拒否されてしまった。
「誤解だったのなら逃げませんよ?ちゃんと、理由を聞きたいですし」
そっと陽の胸元をそっと掴み、上目遣いをする。その表情で胸の奥がキュッと締め付けられはしたが、それでも彼は奏の要求を聞こうとはしなかった。
(何故急に退職を?何か私がしましたか?それともやっぱり、そもそも体だけが目当てで、あの時は何となく空気を読んでテキトーに『好きだ』なんて言っただけだったんでしょうか…… )
結局流されて、奏的には『しない』という約束を反故にもされた流れが告白しあった日にはあった為、どうしたってそういった方向へ思考が進んでいく。勝手に色々と悪い方へ物事を思い込み、滅多に怒らないくらい沸点の高い奏だが、あの日のやり取りを思い出して珍しくイラッとまでしてきた。
(無理に合わせてくれなくて良かったのに。でも、体だけが目的だったのなら、自分の事は対象にして欲しくなったんですけど…… 。こんな初体験なら、むしろ一生知らない方が…… )
——と、奏が思いながら廊下を曲がった時、曲がり角の向こう側から歩いて来ていた人にドンッと真正面からぶつかってしまった。
「わっ!」
「おっと。これは失礼しました。そちらは大丈夫かな?」
ぶつかった後、即座に誰かの腕の中に包まれてしまい、奏は慌てて「すみません!急いでいたもので」と言いながら腕を突っ張って、男から離れた。
「奏さん⁉︎何してるの!」
奏がぶつかってしまった男の背後から、聞き慣れた声が突然響いた。
「こっちに来て!」と奏の腕を無理矢理引っ張り、声の主が彼女を自らの腕に抱く。「事故とはいえ、他の男に触ったらダメだよ!」と怒られたことに驚きながら顔を見上げると、声の主は奏の思った通り、長い事音信不通で姿も見せていなかった陽だった。
『陽さんだ!』と少し安堵しつつ、『でも…… 今更何なんですか?その反応は』と思うと、奏は誰の目からでもわかる程のしかめっ面を陽へ向けただけで、一言も喋る気配が無い。彼女の機嫌が相当悪い事は火を見るよりも明らかだ。
「あぁ、この子が青鬼君の言っていた奥さんか。これは失礼したね、怪我は無かったかな?」
不意の事故とはいえ、ぶつかってしまった事を男が詫びる。
黒髪を後ろにまとめ、眼鏡をかけた五十代後半くらいの容姿をした男が柔らかな笑顔を二人に向ける。たが奏は失礼だとは知りつつも、不機嫌な表情を変える事が出来なかった。
「いえ、こちらこそすみませんでした」
そう答えながら奏は再び腕を突っ張って、今度は陽からも離れようとする。『何で?何でなの、奏さん⁉︎』と彼女の態度を不思議に思いつつも、それでも奏を胸に抱こうと陽は腕を伸ばした。
「はっはっは。出会って早々、早速痴話喧嘩かなー?これは私まで巻き込まれるパターンだろうから、悪いけどさっさと退散させてもらう事にするよ。明日からまた忙しくなるからね、じゃ!」
片手を軽く上げて、男が逃げる様に退散していく。
「了解しました。お疲れ様です」
男に顔を向ける事なく、陽がテキトウな挨拶をする。
『…… おいおい、君って子は。私相手にソレでいいのかい?』と呆れつつも、きっとこのトラブルの原因は絶対に自分だなと自覚があった為、彼が拗ねたり怒ったりする事は無かった。
「会いたかったよ、奏さん。まずは早く抱き締めさせて欲しいんだけど…… 何でさっきからそうやって抵抗するの?もう二人きりなんだし、照れる必要すら無いんだけど」
「照れてなんかいません!でも、自分と別れたいのなら別れるで、さっさと言って下さい!」
「待って、別れる?誰と誰が?」
「自分と、陽さんです!」
呼称まで元に戻り、陽から必死に距離を取る。だがしかし、奏の細腕はプルプルと震えていて限界が近い様に見える。小柄な奏と長身の陽では、彼の腕の中に抱きとめられるのは時間の問題だ。
「…… 私と、別れる?へー…… 」
陽の顔色に影が差し、互いの離れていた距離を一気に縮め、奏を腕の中に強く抱く。今までは遊び半分にふざけていて、腕に力を入れていなかっただけだった様だ。
「別れたいのは、陽さんの方じゃないですか。なので、こうやって、気を持たせる様な真似はしないで下さいぃぃっ」と声をあげ、逃げようと奏が必死に身を捩る。
「…… 何で?私が別れたくなるとか、あるはずがないよね?」
「何でって、だって全然連絡もないし、メッセージを送っても既読にもならないですし。そのうえ全く姿も見せないとなればもう、自然消滅を狙ってるんじゃと思ったんですが…… 違うんですか?」
「いや、だからそんな事はあり得ないよ!私から離れるなんて、絶対に無い!墓場どころか、来世でだって離れる気はないんだから!」と陽が断言し、奏の体をしっかりと抱き締める。ここは会社の廊下なのだと、二人はすっかり忘れているみたいだ。
「——あ、そっか…… まぁ連絡出来なかったもんな。きちんと理由を話すから、こっち行こう」
そう言って、陽が奏の体をひょいっと横向きにして抱え上げる。お姫様抱っこをされた事で、奏の顔が真っ赤に染まった。
「あ、あの…… おろして——」と言いかけた言葉を、「絶対にイヤだ。誤解があるままおろしたら、全力で逃げようとするかもしれないし」と拒否されてしまった。
「誤解だったのなら逃げませんよ?ちゃんと、理由を聞きたいですし」
そっと陽の胸元をそっと掴み、上目遣いをする。その表情で胸の奥がキュッと締め付けられはしたが、それでも彼は奏の要求を聞こうとはしなかった。
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