69 / 79
最愛の君との未来を夢見る
その頃、研究室側では——
しおりを挟む
陽が秘書課の一室にて寺島から良識について諭されている同時刻。
奏の務める研究室では、顔色の悪い彼女がため息まじりに移動先から戻って来て、同僚の宮本と佐々木に対し「お疲れ様です」と声をかけていた。
「あぁ、お疲れさ——って、おい。本当にかなりのお疲れモードだけど、大丈夫か?今朝ものっけから眠そうにしていたけど、今はそれ以上だな。何つかー、ライフゼロのゲームキャラでも見ている様な気分になってくるレベルで酷い顔色だぞ?」
今日の分の仕事も終わり、早々に帰る用意をしていた宮本が奏の顔色の悪さに対し正直な感想をぶつける。
「あ、お構いなく。母と…… えっと、人事課でちょっと揉めてきただけなので、平気です」
ボソボソっと気力無く小声で返事をし、奏が研究室内の端に置かれた備品棚を開け、中をゴソゴソを漁る。目的の品を下の方で見付けるとそれを袋ごと引っ張り出し、ふぅと息を吐きながらギュッと大きな袋を抱き締めた。
「人事課って…… え、何どうしたの?」
「ちょっと、まぁ」と言葉を濁し、奏が椅子の類をきっちり片付け、胸に抱いていた袋から中身を出し始めた。
「えっと、おい、何してんの?んな事してないで、お前も家に帰ろうよ。今日はもう仕事終わっただろ?帰れる時に帰っておかないと、繁忙期に体力が続かないぞ?」
「…… 今日はもう、このまま此処で寝ていこうかと」
備品棚の隅っこに保管してあった寝袋を丁寧に床に広げ、奏がそれをポンポンと叩く。少し距離のある実家まで帰る気力はもう全く残っておらず、かといって社外に出ようとでもすれば陽と高確率で出くわす様な気がする事から、選んだ選択だった。
「いやいやいや!待て、女性がこんな場所で寝るな。せめていつも通り仮眠室を借りて、そこに泊まれって。今日なら研究組で忙しい部署はどこも無いはずだから今から申請出したって部屋は空いてるって、きっと」と言いながら、宮本が強制的に床に広げられた寝袋を片付け始める。
彼女らの様子を見守りつつ、帰りの用意をしていた佐々木が電話の受話器を手に取り、仮眠室の使用手続きを始めた。
「え、あ…… 何だか、何から何まですみません」
申し訳なさそうに項垂れる奏の様子を見て、宮本が気不味げに声を掛ける。
「な、なぁ…… もしかしてさ、休暇中に何かあったのか?」
木曜日の帰りまではとても機嫌が良かった奏の様子を考えると、落差の激しさから、どうしたって週末の間に何かあったのだろうなと察しがついてしまう。
(何か嫌な事でもあったのか?義弟になる奴と出掛けると話していた気がするんだが、トラブルでもあったんだろうか?)
と、宮本が自分から質問しておきながらオロオロとし始める。
何かこのままの勢いで相談されても、研究職一筋だった自分では経験値が低くて答えなど出せそうにないが、大丈夫だろうか?と心配になってきたのだが——青かった顔を今度は真っ赤に染め、口元を引き絞った奏の様子を見て、『あれ?思っていた反応と違うな…… 』と宮本は思った。
「な、な、何もな、な、無かったですよ?」
噛み噛みで言われて誰が信じられるか。明らかに照れ臭くなる様な出来事があった事が丸わかりの反応をされ、宮本と佐々木が視線を交わし、コクッと頷き合う。
(コレ多分、異性な俺達が聞いて良い話じゃ無いな。詳しく聞いて、セクハラ扱いされたらたまらんわ!)
「俺達、今日は帰るね!」
「ちゃんと、ここで寝ないで仮眠室に行けよ?一番端の部屋、取っておいたから!」
「あ、はい。えっと…… ありがとうございます」
礼を言い、奏が二人に軽く頭を下げる。家に帰らずとも睡眠を得られる算段がつき安堵しつつも、この先の事を考えると眠れる気がしないなぁと、奏は肩を落としていた。
奏の務める研究室では、顔色の悪い彼女がため息まじりに移動先から戻って来て、同僚の宮本と佐々木に対し「お疲れ様です」と声をかけていた。
「あぁ、お疲れさ——って、おい。本当にかなりのお疲れモードだけど、大丈夫か?今朝ものっけから眠そうにしていたけど、今はそれ以上だな。何つかー、ライフゼロのゲームキャラでも見ている様な気分になってくるレベルで酷い顔色だぞ?」
今日の分の仕事も終わり、早々に帰る用意をしていた宮本が奏の顔色の悪さに対し正直な感想をぶつける。
「あ、お構いなく。母と…… えっと、人事課でちょっと揉めてきただけなので、平気です」
ボソボソっと気力無く小声で返事をし、奏が研究室内の端に置かれた備品棚を開け、中をゴソゴソを漁る。目的の品を下の方で見付けるとそれを袋ごと引っ張り出し、ふぅと息を吐きながらギュッと大きな袋を抱き締めた。
「人事課って…… え、何どうしたの?」
「ちょっと、まぁ」と言葉を濁し、奏が椅子の類をきっちり片付け、胸に抱いていた袋から中身を出し始めた。
「えっと、おい、何してんの?んな事してないで、お前も家に帰ろうよ。今日はもう仕事終わっただろ?帰れる時に帰っておかないと、繁忙期に体力が続かないぞ?」
「…… 今日はもう、このまま此処で寝ていこうかと」
備品棚の隅っこに保管してあった寝袋を丁寧に床に広げ、奏がそれをポンポンと叩く。少し距離のある実家まで帰る気力はもう全く残っておらず、かといって社外に出ようとでもすれば陽と高確率で出くわす様な気がする事から、選んだ選択だった。
「いやいやいや!待て、女性がこんな場所で寝るな。せめていつも通り仮眠室を借りて、そこに泊まれって。今日なら研究組で忙しい部署はどこも無いはずだから今から申請出したって部屋は空いてるって、きっと」と言いながら、宮本が強制的に床に広げられた寝袋を片付け始める。
彼女らの様子を見守りつつ、帰りの用意をしていた佐々木が電話の受話器を手に取り、仮眠室の使用手続きを始めた。
「え、あ…… 何だか、何から何まですみません」
申し訳なさそうに項垂れる奏の様子を見て、宮本が気不味げに声を掛ける。
「な、なぁ…… もしかしてさ、休暇中に何かあったのか?」
木曜日の帰りまではとても機嫌が良かった奏の様子を考えると、落差の激しさから、どうしたって週末の間に何かあったのだろうなと察しがついてしまう。
(何か嫌な事でもあったのか?義弟になる奴と出掛けると話していた気がするんだが、トラブルでもあったんだろうか?)
と、宮本が自分から質問しておきながらオロオロとし始める。
何かこのままの勢いで相談されても、研究職一筋だった自分では経験値が低くて答えなど出せそうにないが、大丈夫だろうか?と心配になってきたのだが——青かった顔を今度は真っ赤に染め、口元を引き絞った奏の様子を見て、『あれ?思っていた反応と違うな…… 』と宮本は思った。
「な、な、何もな、な、無かったですよ?」
噛み噛みで言われて誰が信じられるか。明らかに照れ臭くなる様な出来事があった事が丸わかりの反応をされ、宮本と佐々木が視線を交わし、コクッと頷き合う。
(コレ多分、異性な俺達が聞いて良い話じゃ無いな。詳しく聞いて、セクハラ扱いされたらたまらんわ!)
「俺達、今日は帰るね!」
「ちゃんと、ここで寝ないで仮眠室に行けよ?一番端の部屋、取っておいたから!」
「あ、はい。えっと…… ありがとうございます」
礼を言い、奏が二人に軽く頭を下げる。家に帰らずとも睡眠を得られる算段がつき安堵しつつも、この先の事を考えると眠れる気がしないなぁと、奏は肩を落としていた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

俺のねーちゃんは人見知りがはげしい
ねがえり太郎
恋愛
晶は高校3年生。小柄で見た目が地味な晶の義理の弟は、長身で西洋風の顔立ちのイケメンだった。身内の欲目か弟は晶に近づく男に厳しい。過保護で小言の多い弟を『シスコン』だと呆れながらも、すっかり大人のように成長してしまった弟の、子供っぽい執着に『ブラコン』の晶はホッとするのだった―――
※2016.6.29本編完結済。後日談も掲載しております。
※2017.6.10おまけ追加に伴いR15指定とします。なお★指定回はなろう版と一部内容が異なります。
※2018.4.26前日譚姉視点『おとうとが私にかまい過ぎる』及び番外編『お兄ちゃんは過保護』をこちらに纏めました。
※2018.5.6非掲載としていた番外編『仮初めの恋人』をこちらに追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる