義弟が私を“オトコの娘”だと言う

月咲やまな

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最愛の君との未来を夢見る

その頃、研究室側では——

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 陽が秘書課の一室にて寺島から良識について諭されている同時刻。
 奏の務める研究室では、顔色の悪い彼女がため息まじりに移動先から戻って来て、同僚の宮本と佐々木に対し「お疲れ様です」と声をかけていた。

「あぁ、お疲れさ——って、おい。本当にかなりのお疲れモードだけど、大丈夫か?今朝ものっけから眠そうにしていたけど、今はそれ以上だな。何つかー、ライフゼロのゲームキャラでも見ている様な気分になってくるレベルで酷い顔色だぞ?」

 今日の分の仕事も終わり、早々に帰る用意をしていた宮本が奏の顔色の悪さに対し正直な感想をぶつける。
「あ、お構いなく。母と…… えっと、人事課でちょっと揉めてきただけなので、平気です」
 ボソボソっと気力無く小声で返事をし、奏が研究室内の端に置かれた備品棚を開け、中をゴソゴソを漁る。目的の品を下の方で見付けるとそれを袋ごと引っ張り出し、ふぅと息を吐きながらギュッと大きな袋を抱き締めた。
「人事課って…… え、何どうしたの?」
「ちょっと、まぁ」と言葉を濁し、奏が椅子の類をきっちり片付け、胸に抱いていた袋から中身を出し始めた。
「えっと、おい、何してんの?んな事してないで、お前も家に帰ろうよ。今日はもう仕事終わっただろ?帰れる時に帰っておかないと、繁忙期に体力が続かないぞ?」

「…… 今日はもう、このまま此処で寝ていこうかと」

 備品棚の隅っこに保管してあった寝袋を丁寧に床に広げ、奏がそれをポンポンと叩く。少し距離のある実家まで帰る気力はもう全く残っておらず、かといって社外に出ようとでもすれば陽と高確率で出くわす様な気がする事から、選んだ選択だった。
「いやいやいや!待て、女性がこんな場所で寝るな。せめていつも通り仮眠室を借りて、そこに泊まれって。今日なら研究組で忙しい部署はどこも無いはずだから今から申請出したって部屋は空いてるって、きっと」と言いながら、宮本が強制的に床に広げられた寝袋を片付け始める。
 彼女らの様子を見守りつつ、帰りの用意をしていた佐々木が電話の受話器を手に取り、仮眠室の使用手続きを始めた。
「え、あ…… 何だか、何から何まですみません」
 申し訳なさそうに項垂れる奏の様子を見て、宮本が気不味げに声を掛ける。
「な、なぁ…… もしかしてさ、休暇中に何かあったのか?」
 木曜日の帰りまではとても機嫌が良かった奏の様子を考えると、落差の激しさから、どうしたって週末の間に何かあったのだろうなと察しがついてしまう。

(何か嫌な事でもあったのか?義弟になる奴と出掛けると話していた気がするんだが、トラブルでもあったんだろうか?)

 と、宮本が自分から質問しておきながらオロオロとし始める。
 何かこのままの勢いで相談されても、研究職一筋だった自分では経験値が低くて答えなど出せそうにないが、大丈夫だろうか?と心配になってきたのだが——青かった顔を今度は真っ赤に染め、口元を引き絞った奏の様子を見て、『あれ?思っていた反応と違うな…… 』と宮本は思った。

「な、な、何もな、な、無かったですよ?」

 噛み噛みで言われて誰が信じられるか。明らかに照れ臭くなる様な出来事があった事が丸わかりの反応をされ、宮本と佐々木が視線を交わし、コクッと頷き合う。

(コレ多分、異性な俺達が聞いて良い話じゃ無いな。詳しく聞いて、セクハラ扱いされたらたまらんわ!)

「俺達、今日は帰るね!」
「ちゃんと、ここで寝ないで仮眠室に行けよ?一番端の部屋、取っておいたから!」
「あ、はい。えっと…… ありがとうございます」
 礼を言い、奏が二人に軽く頭を下げる。家に帰らずとも睡眠を得られる算段がつき安堵しつつも、この先の事を考えると眠れる気がしないなぁと、奏は肩を落としていた。
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