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【初デートは蜜の味(の予定である)】
当日〜上映後〜(青鬼陽・談)
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「綺麗な音楽だね、好きだなこういう曲調。ねぇ、兄さんは、好き?」
真っ暗になった映画館の中で、顔を寄せて兄さんに話し掛ける。だけど返事は無く、『もしかしてあまり話しかけて欲しくないタイプだったかな?』と思いながら彼の顔を覗き込もうとしたのだが、コツンッと私の腕に兄さんの頭が倒れてきた方が先だった。
「…… マジか」
ね、ね、寝てる!可愛いであろう寝顔がすぐ傍とか、え?ここは天国かな。
映画館だと思ってたけど、映画なんかもうどうでもいいや!
私のすぐ横で好きな人が寝てくれているという事実が嬉しくって堪らず、体中が歓喜に打ち震えてしまう。にやける口元を手で隠し、兄さんを起こしてしまわない様ゆっくりと、より一層体を近づけてみる。温かくって、髪がふんわりとしていて、ラズベリーベースの甘い香りまでして…… もうこの為だけに今日は此処へ来たのだなと思える程に心地いい。
暗くなった途端に寝ちゃうだなんて、やっぱりかなりの寝不足だったんだ。遠足前の子供みたいに楽しみで眠れなかったとかだったら、ちょっと嬉しいかも。
でも…… さっきの兄さん何だか様子がおかしかったけど、まさか私が同性愛者って聞いて引いた?だけどなぁ、今日はいつも以上に、目が合うたびに兄さんの視線が熱っぽい感じがしたから『言うなら今かな』と思ったんだけど、失敗だったかな。
色々考えながら、兄さんの手を握る手に力を込める。打ち明けた事が失敗だったとしても過去は変えられない。後はもうサラッと流して無かった事にするくらいだが、させてくれるだろうか?蒸し返して『キモイ』とか言われたら、さてどうやって懐柔しようかなっと。
◇
——はっ!
上映が終わって周囲が明るくなり、自分も寝落ちしていた事にやっと気が付いた。ヒロインが野獣の城に行く辺りまでは覚えているのだが、そのあとの事はサッパリだ。せっかく誘ってもらった作品で寝るとか…… 兄さんは可愛いから許せるけど、私はダメだろ。決して話が面白くなっかった訳じゃ無く、兄さんの体温とか匂いとか色々な兄さん的要素に眠気を誘われてしまったとはいえ、バカだなぁ。
一人ででももう一度来る余裕も無いだろうし、DVDが出たら同じものを買って観るか。
「にぃさん、起きてる?」
可愛らしい寝顔を明かりの下で見られる喜びで胸を震わせながら話し掛けたが、返事は無い。ぐっすり眠ったままで、体からは完全に力が抜けている。
「…… 何をしても、起きないタイプなのかな」
そう思っただけで興奮してしまい、ごくっと唾を呑み込む。ここが映画館じゃなかったら睡眠姦に手出ししていたなと確信出来るくらい、つついたり揺すったりしても起きてくれない。
仕方ない、抱っこして家に戻るか。
膝掛けを除け、お互いの荷物を持って兄さんの体を横抱きにして持ち上げる。兄さんだって小さかろうが立派な大人なので軽くは無いが、この程度なら余裕で連れ帰れそうだ。
「お客様、大丈夫ですか?具合でも?」
スタッフの人に話しかけられたが、「いえ、大丈夫です。疲れて寝ているだけなので」と説明する。
「えっとこのまま帰りたいので、タクシー乗り場の場所だけ教えてもらえますか?」
「あ、はい。こちらになります」
話しかけてくれたスタッフさんが親切な人だったおかげで、私は迷う事なくタクシーに乗ることが出来た。
◇
「お連れさん、大丈夫ですか?」
タクシーに乗り込むなり、不審そうな顔をしながら訊かれてしまった。
「寝ているだけですよ。映画館で何度も起こしたけど、起きなくって」
あぁと短く答える運転手に行き先を言い、車を出してもらう。ここからなら車で二十分くらいだろうか。寝てしまった事を兄さんはものすごく気にしそうなので、その間に起きてくれたらいいけど。
兄さんの寝顔をじっと見ていると、不意にスマートフォンの着信音が鳴り、鞄からそれを取り出す。
「電話、出てもいいですか?」
「どうぞどうぞ」と許可をもらってから電話に出ると、相手は妹の明ちゃんだった。
「もしもし」
『兄さん、今大丈夫か?』
「うん平気。でもタクシーに乗っているところだから、長くは話せないかな」
『あぁ、問題無い。雑談をしたくてかけた訳じゃないんだ』
「そっか、で?何かあったのかな」
『実は、今さっき圭と婚姻届を出して来たんだ。なんでも今日は、圭にとって特別な日らしく、「結婚式をこの日に挙げるのは忙しくって無理だったけど、せめて入籍だけは今日じゃ無いと嫌だ」と言われてな』
「そっか、先に出したんだ。じゃあもう今日から一緒に住むのかな?」
『あ、いや。その辺は式の後に。今日という日付が欲しかっただけみたいなんだ』
「へぇ、何の日だったんだろうね?」
『「高校時代、嬉しい言葉をもらった日」とかなんとか…… 。正直なんの事かさっぱりなんだが、断る理由も無いしな』
「へぇ、いいね。明ちゃんにはさっぱりわからなくっても、きっとすごく特別な日だったんだろうし。それを大事にしてくれているなんて、いい子だね」
『…… まぁ、そうだな。あ、もう圭が拗ね始めたから切るぞ、じゃあ』
「うん、またね」と答えて、通話を切る。
「ふーん…… 」
そっか、明ちゃん達結婚したのか。式まではと思っていたけど、コレでもう…… 兄さんと私も、家族なのか。“兄弟(仮)”的な者では完全に無くなった訳だ。
「ふふっ」
歓喜が堪えきれず、笑いが溢れる。ちょっと暗い笑みを浮かべてしまっている気がするが、兄さんはまだ寝ているのだから取り繕う必要はないだろう。
家族なら、もう何をしたって逃げられないよねぇ。
楽し過ぎて、嬉し過ぎて、帰宅までの時間がとても長いものに感じられる。
「今日は帰れないから、そのつもりでね。…… にぃさん」
私に膝抱きにされたまま、相変わらず寝入ったままの兄さんの耳元でそっと囁いたが、それでも彼は起きなかった。
真っ暗になった映画館の中で、顔を寄せて兄さんに話し掛ける。だけど返事は無く、『もしかしてあまり話しかけて欲しくないタイプだったかな?』と思いながら彼の顔を覗き込もうとしたのだが、コツンッと私の腕に兄さんの頭が倒れてきた方が先だった。
「…… マジか」
ね、ね、寝てる!可愛いであろう寝顔がすぐ傍とか、え?ここは天国かな。
映画館だと思ってたけど、映画なんかもうどうでもいいや!
私のすぐ横で好きな人が寝てくれているという事実が嬉しくって堪らず、体中が歓喜に打ち震えてしまう。にやける口元を手で隠し、兄さんを起こしてしまわない様ゆっくりと、より一層体を近づけてみる。温かくって、髪がふんわりとしていて、ラズベリーベースの甘い香りまでして…… もうこの為だけに今日は此処へ来たのだなと思える程に心地いい。
暗くなった途端に寝ちゃうだなんて、やっぱりかなりの寝不足だったんだ。遠足前の子供みたいに楽しみで眠れなかったとかだったら、ちょっと嬉しいかも。
でも…… さっきの兄さん何だか様子がおかしかったけど、まさか私が同性愛者って聞いて引いた?だけどなぁ、今日はいつも以上に、目が合うたびに兄さんの視線が熱っぽい感じがしたから『言うなら今かな』と思ったんだけど、失敗だったかな。
色々考えながら、兄さんの手を握る手に力を込める。打ち明けた事が失敗だったとしても過去は変えられない。後はもうサラッと流して無かった事にするくらいだが、させてくれるだろうか?蒸し返して『キモイ』とか言われたら、さてどうやって懐柔しようかなっと。
◇
——はっ!
上映が終わって周囲が明るくなり、自分も寝落ちしていた事にやっと気が付いた。ヒロインが野獣の城に行く辺りまでは覚えているのだが、そのあとの事はサッパリだ。せっかく誘ってもらった作品で寝るとか…… 兄さんは可愛いから許せるけど、私はダメだろ。決して話が面白くなっかった訳じゃ無く、兄さんの体温とか匂いとか色々な兄さん的要素に眠気を誘われてしまったとはいえ、バカだなぁ。
一人ででももう一度来る余裕も無いだろうし、DVDが出たら同じものを買って観るか。
「にぃさん、起きてる?」
可愛らしい寝顔を明かりの下で見られる喜びで胸を震わせながら話し掛けたが、返事は無い。ぐっすり眠ったままで、体からは完全に力が抜けている。
「…… 何をしても、起きないタイプなのかな」
そう思っただけで興奮してしまい、ごくっと唾を呑み込む。ここが映画館じゃなかったら睡眠姦に手出ししていたなと確信出来るくらい、つついたり揺すったりしても起きてくれない。
仕方ない、抱っこして家に戻るか。
膝掛けを除け、お互いの荷物を持って兄さんの体を横抱きにして持ち上げる。兄さんだって小さかろうが立派な大人なので軽くは無いが、この程度なら余裕で連れ帰れそうだ。
「お客様、大丈夫ですか?具合でも?」
スタッフの人に話しかけられたが、「いえ、大丈夫です。疲れて寝ているだけなので」と説明する。
「えっとこのまま帰りたいので、タクシー乗り場の場所だけ教えてもらえますか?」
「あ、はい。こちらになります」
話しかけてくれたスタッフさんが親切な人だったおかげで、私は迷う事なくタクシーに乗ることが出来た。
◇
「お連れさん、大丈夫ですか?」
タクシーに乗り込むなり、不審そうな顔をしながら訊かれてしまった。
「寝ているだけですよ。映画館で何度も起こしたけど、起きなくって」
あぁと短く答える運転手に行き先を言い、車を出してもらう。ここからなら車で二十分くらいだろうか。寝てしまった事を兄さんはものすごく気にしそうなので、その間に起きてくれたらいいけど。
兄さんの寝顔をじっと見ていると、不意にスマートフォンの着信音が鳴り、鞄からそれを取り出す。
「電話、出てもいいですか?」
「どうぞどうぞ」と許可をもらってから電話に出ると、相手は妹の明ちゃんだった。
「もしもし」
『兄さん、今大丈夫か?』
「うん平気。でもタクシーに乗っているところだから、長くは話せないかな」
『あぁ、問題無い。雑談をしたくてかけた訳じゃないんだ』
「そっか、で?何かあったのかな」
『実は、今さっき圭と婚姻届を出して来たんだ。なんでも今日は、圭にとって特別な日らしく、「結婚式をこの日に挙げるのは忙しくって無理だったけど、せめて入籍だけは今日じゃ無いと嫌だ」と言われてな』
「そっか、先に出したんだ。じゃあもう今日から一緒に住むのかな?」
『あ、いや。その辺は式の後に。今日という日付が欲しかっただけみたいなんだ』
「へぇ、何の日だったんだろうね?」
『「高校時代、嬉しい言葉をもらった日」とかなんとか…… 。正直なんの事かさっぱりなんだが、断る理由も無いしな』
「へぇ、いいね。明ちゃんにはさっぱりわからなくっても、きっとすごく特別な日だったんだろうし。それを大事にしてくれているなんて、いい子だね」
『…… まぁ、そうだな。あ、もう圭が拗ね始めたから切るぞ、じゃあ』
「うん、またね」と答えて、通話を切る。
「ふーん…… 」
そっか、明ちゃん達結婚したのか。式まではと思っていたけど、コレでもう…… 兄さんと私も、家族なのか。“兄弟(仮)”的な者では完全に無くなった訳だ。
「ふふっ」
歓喜が堪えきれず、笑いが溢れる。ちょっと暗い笑みを浮かべてしまっている気がするが、兄さんはまだ寝ているのだから取り繕う必要はないだろう。
家族なら、もう何をしたって逃げられないよねぇ。
楽し過ぎて、嬉し過ぎて、帰宅までの時間がとても長いものに感じられる。
「今日は帰れないから、そのつもりでね。…… にぃさん」
私に膝抱きにされたまま、相変わらず寝入ったままの兄さんの耳元でそっと囁いたが、それでも彼は起きなかった。
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