義弟が私を“オトコの娘”だと言う

月咲やまな

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【初デートは蜜の味(の予定である)】

金曜日まで、あと二日。妄想だって捗るというものです(青鬼陽・談)

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 何とか今日も代行業に近い仕事を終え、家に帰って来た。
「ただいまー」
 一人暮らしで誰も居ない室内なのに、習慣なせいかつい挨拶をしてしまう。手には仕事用の鞄と一階にあるポストに入っていた大きめの封筒を持ち、靴を脱いで短い廊下を奥へ進んだ。
 居間の電気を点けて壁掛け時計を見上げると、もう二十三時を指している。日付が変わる前に帰れただけマシかと己に言い聞かせ、ソファーの近くにひとまずは荷物き置き、私はシャワーを浴びに浴室へ行った。


 濡れた髪をタオルで拭きながらソファーに座り、テーブルの上にポンッと置いてあった大きな封筒を手に取る。それを開けて中身を確認すると、昨日ネットで注文した本が一冊入っていた。
「ネットでも頼めるのって、ホント助かるな」
 裏表と見て本の状態の良し悪しを確認し、中身をぱらっと開いてみる。どうやら品質に問題は無さそうだ。
 電子書籍ではコレを読んでみたいなというのが無かったが紙の本の方では見付ける事が出来て良かった。随分古い作品の様だったが、好みっぽい内容の本が手に入ってちょっと嬉しい。
「ふふふーん。コレでまた、兄さんと話題を共有出来ちゃうぞ」
 両手で本を掴み、天井へ向かって高らかに持ち上げる。たったコレだけの事なのに楽しくなってくるとか、兄さんって人は存在してくれるだけで私の癒しになってくれるスゴイ人だ。

「では、早速読んでおきますか」
 誰に言うでもなくぼそっと呟き、表紙を開く。頼んだ本は大人向けに編集された童話を何話も詰め込んだ物だ。“大人向け”と掲げるだけあって、レビューを読んだ感じでは結構グロいらしい。そして、直接的なシーンは無くとも、童話なのにちょっとエロいのだとか。流石は大人向けだ、最高じゃないか。
 “赤ずきんちゃん”は個人的には是非とも肉体的に頂かれていて欲しいし、“白雪姫”は死姦趣味の王子様に嫁いでしまった話であったらと思うと面白そうだ。“ラプンツェル”は男を引き込んじゃう淫乱っ子だったかもと考えれば、童話だってワクワクした気持ちで読めてしまう。

「…… うん、欲求不満だな」

 そう自覚し、納得しながら一人で頷く。
 今すぐにでもスマホを手に取り、兄さんに電話をして呼び出したい気持ちになったが、そんな事をしたら絶対ベッドに引き込んでしまいそうなのでそれは止めた。そもそも来てもくれないだろうが、その点は考えただけでも寂しくなってくるので蓋をする。

 目次にサッと目を通し、どんな話があるのか見てみる。有名どころはだいたい入っているが、一話ずつは短そうだ。
「“マッチ売りの少女”か、懐かしいな」
 昔この話を読んだ時は、少女が死んで終わりのこの話は救いが無く、教訓もないバッドエンドのお話だと思っていた。だが、作者的には『少女は天国で大好きなお婆ちゃんに会うことが出来たのであれはハッピーエンドのお話である』と誰かから聞いた時には驚いたものだ。

 自分だったら、絶対にあんな話にはしないな。

 そう思った時にはもう小さくって愛らしい兄さんが、マッチ売りの少女っぽい服を着て寒そうに震えている姿が頭に浮かんでいた——


       ◇


『一人でこんな寒空の下、一体どうしたんだい?お家には帰らないの?もうこんなに周囲は暗いのに』
 外灯の側で必死に声をあげ、『マッチはいりませんか?』『マッチを、買ってはもらえませんか?』と、必死に売り込んでいた少女に私は声をかけた。
 黒い外套とシルクハットを着ている私の声に対し、少女は少し驚いた顔をした。どうやら、自分が声をかけられるとは思ってもいなかったみたいだ。それ程長い時間、この子は皆から無視をされ続けていたのだろうと察しがつく。無理もない、今時マッチを街角で買おうとする者は少なく、しかもこんなみすぼらしい格好をした子どもからとなると、尚更だろう。
『…… マッチを、買ってくれるんですか?』
『あぁいいよ。私がそれらを買い取ろう』
『ほ、本当に?いいの?』
 薄汚れた顔にパッと花が咲き、愛らしさが私の胸を擽る。
『嘘じゃないよ。じゃあ…… 行こうか』
 私が手を差し出すと、少女はキョトンとした顔でこちらを見上げてきた。
『籠ごと渡すわけにもいかないのだろう?また使うのだろうし。だから君がウチまで来て欲しいんだ。今ここで全てを渡されても受け取れない。私はこの通り、鞄を持っていないのでね』
 それっぽい口実を言って大袈裟に腕を広げてみせる。すると少女は納得したようで、『わかりました』と頷いてくれた。
『よし、では行こうか。大丈夫だよ、私の屋敷はここからそう遠くはない。ところで君の名前は?』
『カナデといいます。アナタは?』
『私かい?ヨウというんだ。よろしくね、カナデ』
『はい、よろしくです』
 小さいからか、言葉がぐちゃぐちゃだ。だが、そんなカナデが可愛く感じる。私は彼女の小さな手を取って一緒にゆっくりと歩き始めた。


『おかえりなさいませ、旦那様』
『あぁ、ただいま。急で悪いんだが来客だ。この子を綺麗にしてやってくれるかい?』
『かしこまりました。まぁまぁ、可愛らしい子ですこと。磨けばとっても美人さんになること間違いなしですわね』
『ははは、お前もそう思うか』
 和やかにメイドと話す私の横で、カナデは戸惑い気味に私達の顔を交互に見ている。
『あ、あの…… マッチは』
『後で受け取るよ。まずは体を綺麗にしないとね』
『でも、全部買ってくれるのに、そこまでしてもらうのは…… 』
『私が、そうしたいんだ。匂いにはちょっと煩くてね。申し訳ないけど、今の君は買い取りたくない』
 色々と正直に言ってしまった後でしまったと思ったが時既に遅し。カナデは少し傷ついた顔になり、悲しげに顔を伏せってしまった。
『さぁさぁ!旦那様の言葉をいちいち気にしてはいけませんよ。ちょっと意地が悪いだけですからね。とびっきり綺麗になって、びっくりさせてあげましょうか』と言って、メイドがカナデの背に手を添える。
『では、行きましょうね』
『は、はい…… 』
 まだ躊躇している感はあったが、カナデはメイドと共に浴室の方へ向かって行った。


『…… 男の子だったのか』
 風呂が済み、着替えの終わったカナデが私室に入って来た瞬間、私は驚きを隠せないままそう小さく呟いた。
『旦那様の子供の頃の服をまだ残しておいて正解でしたわ。ぴったりで安心しました』
 自慢気にメイドが頷く。ボサボサだった髪はきちんと整えられ、綺麗に切りそろえた様にも見える。肌も爪も細部まで磨かれていて、全てが宝玉のように美しい。細い体は不健康そうではあるものの、随分と立派な格好になった事が彼女——改め、彼も嬉しいのか、少し微笑んでいるみたいだ。
『では、私は下がらせて頂きます。お二人とも、おやすみなさいませ。良い夢を』
『あぁ、おやすみ』とメイドに返事をし、私はカナデの手を引いて、彼をソファーに座らせた。
『すまないね、てっきり女の子かと思っていたよ』
『…… ウチは、お金がないから。お下がりを着てて、今はもうあれしかなくって』
 答えてくれる声は小さく、日々の苦労が滲み出ている。腕や脚は骨張っているし、首をよく見ると何かで打たれたような跡がうっすらとあった。まともな家庭で育った子ではないのだと安易に察しがつく。
 まぁそうか、今日は祝いの日なのに、夜一人でこんな小さな子がマッチを売っている時点で何もかもがオカシイ。だが、もうそんな苦労はしなくていいのだと、早く安心させてあげなければ。
『あの、マッチを…… 。ワタシ、早く帰らないと』
 そわそわと、何度もカナデが外を見る。時間でも気にしているのだろうか。
『大丈夫だよ、私は君のを買い取ると言ったからね。でも、なぜそんなに焦っているのかは聞かせてくれるかい?』
『…… パパが病気で、マッチが売れたらお薬を買うの』
『病気なのか、それは大変だね』
『お酒屋さんで、「特別なお薬ください」って言ったら売ってくれるから、早く帰らないと』

 ん?酒屋で?

 …… あぁ、なるほど、カナデの親はアル中なのか。随分とふざけた大嘘だが、本当に彼はソレを信じているのか?疑ってすらもいないのだとしたら、なんといじらしい事か。
『ヨウ様のおかげで、もうマッチは売らなくって良くなるから、お薬沢山買えます。だから、パパの病気も治るかも』
『…… そうなのかい?』
『これが全部売れたら、今度は宿屋で働くんです。初めてだとお金を沢山もらえるとかで、パパも喜んでました』
『それはダメだね』
『…… 何で?』と、きょとん顔でカナデが首を傾げる。満足に教育を受けてもいないのか、自分の身に起こるかもしれない事がわかっていないみたいだ。
『君はもう私のモノだから、かな。でも大丈夫だよ、君のお父さんは私が責任を持って適切に処分きちんと対処しておくからね』
 そう言って、カナデの頭を優しく撫でる。すると彼はひどく驚き、一瞬体を強張らせたのだが、撫で続けているうちにうっとりとした顔をして瞼を閉じた。
『お父さんの事は心配しなくていいよ、大丈夫さ。私に…… 全てを任せてくれればいい』

 アル中ならば、カナデを寄越せと金を払って黙らせるより、大量に酒を振る舞って寒空に放置して仕舞えばいいか…… 。

『…… ありがとう。ヨウ様に任せれば、パパの病気は治るの?』
 馬鹿は死んでも治らないと言うが、彼の親はどうだろうな。
『それは断言できないけど、少なくとも…… カナデが苦労して働く心配はもう、しなくてもいいからね。今日はもう寝るといい、疲れただろう?』
『でも、お家に帰らないと…… 』と、不安そうな顔をまだするもんだから、私は『今日から、ここが君の家だよ』と言い、カナデを抱きしめる。しばらくそのままでいると、彼は蓄積された疲労が原因なのか、私の腕の中で眠ってしまった。


 ——あれから数週間が経ち、今でもカナデはウチに居る。
 君の父は病院に入っていて、でも重病だったから面会謝絶なのだ言った私の言葉を信じている。新聞の隅に掲載されていた酔っ払いの凍死遺体が路地裏で発見されたという記事は、文字が読めないせいでカナデは気が付いていない。いつまでその嘘で誤魔化せるかはわからないが…… まぁ、なんとかなるだろう。

『あ、あの…… ヨウ様』
 カナデに話しかけられ、『なんだい?カナデ』と笑顔で応える。すると彼は、ぎゅっと私の腰に抱きついてきて『や、やっとあの日の言葉の意味が、わかったんです』と突然言ってきた。
『えっと…… どれの事だい?』
 短い髪をくしゃりと撫で、問いかける。まさか父親の扱いについて察したのか?さて、早速どう誤魔化そうかと思っていたのだが、カナデから出た話は全く別のものだった。

『宿屋の、件です…… 。酷い目にあいそうだったのを、ヨウ様が助けてくれたのだなと今ならわかります。わ、私…… 知らない男の人に、体を売る仕事をさせられそうになっていたんですね?』

 生い立ちの割には呑み込みの早いカナデは、ここ最近で随分と知識を吸収していった。文字はまだまだだが、口頭で教えてやれば生きていくのに最低限必要な常識がわかる程度にはなった。きっとコレは、その流れで気が付いた事なのだろう。

『私、わ、私…… そう言う事は、その…… ヨウ様に、捧げたいです』

『——っ⁉︎』
 思いっ切り願望ダダ漏れな事を言わせてしまったが、まぁいい。所詮は妄想だ!
『でも、君は…… 。待ってくれ、何歳なんだ?』
『二十九ですが』
『大人なのか!』
 しかも私より年上じゃないか!見た目が子供だったので気が付かなかった。少女どころか、大人の男性とか、見た目詐欺もいいところだ。この容姿でなければとっくの昔に売春宿に売られていただろう事を考えると、彼が栄養不足であった事に感謝したくなる。あとは、子供の年齢も数えていない毒親であった事にすらも。

『す、好きなんです、ヨウ様…… 』

 嬉し過ぎて顔が真っ赤になる。そうなってくるともう、言葉通りに捧げてもらおうじゃないかという気分になってきた。
『言葉通りに、受け取ってもいいのかい?』
『はい、もちろんです』と、照れ臭そうにしながらもカナデが頷く。そんな彼の手を引き、私は自らの寝室まで連れて行った。


 ベッドに腰掛け目の前にカナデを立たせる。同性同士だという弊害を、彼は本当に理解しているのだろうかと少し不安に。
『あー…… 一応確認するけど、私が男である事は、理解しているかな?』
『もちろんですよ』
『そ、そうか。なら、まずは私の火を消してもらってもいいかな。このままでは、君に酷い事をしてしまいそうだからね』
 コレが無理ならば先に進む期待は持たない方がいいだろう。私は彼の決意を確認するべく視線を下に移す。房事についてなんか教えていないからか、それだけでは意味が通じなかったみたいだ。

『口でしてみて、と言ったら出来るかい?』
『…… 口で、する…… ?』

 当然理解出来ず、カナデはきょとん顔のままだ。コレで年上とか、誰が気付けるか馬鹿!可愛いにも程がある。“兄さん”って呼びながら、無理矢理にでもその小さな口に突っ込んでしまいそうだ。
 呼吸を整え、トラウザーズの前を自分で緩め、下着ごと少しさげる。すると当然怒張するモノが露わになるのだが、ソレを前にしてカナデは無言で硬直してしまった。
『舐められる?無理そうなら…… この先には進まない方がいいと思うな』
 だが、苦笑する私の前にカナデは座り、恐る恐るといった手付きで私のモノにそっと触れてきた。
『火は、消さないと…… 』
 明らかに声が震えていて、動揺しているのが見て取れる。でも後には引けず、意地を張っているみたいだ。
 どうでもいい相手ならば「もういい。止めよう」と言えるのだが、相手がカナデなのだと思うと、それだけの事でも興奮してしまう。小さな手で根元に触れ、濡れる赤い舌を出しながら、裏筋をちろりと舐められただけで背が反れて『うあっ』と声をあげてしまった。
『い、痛かったですか?』
 焦ってカナデが前のめりになり、視線だけを上にやる。柔らかなほっぺたが私の剛直の先にちょうど当たり、その感触だけでイクかと思った。上目遣いとか…… 計算じゃないからタチが悪い。
『あー…… いや、違うよ。えっと…… 続けられる?』
『は、はい!』
 とんでもない要求なのだが、素直に元気よく返事をされると申し訳ない気持ちに。
 なのにカナデは、恩返しでもしたいかの様に、舌先を使って私の剛直を必死に舐める。下から上へゆっくりと舌があがり、かりくびに軽くキスをするとか、男がソレを喜ぶ事を知らずにやっているのかもと思うと、この先が楽しみになってくる。
『いいね、気持ちいいよ』
 頭を優しく撫でてやると、カナデはちょっと嬉しそうに微笑み、今度は剛直に頬擦りをしてきた。
『そ、ソレは…… ヤバイ。あっ…… いぃ』
 やめて欲しいけど、もっとして欲しい。相反する気持ちで頭の中はぐちゃぐちゃだ。
 腰が勝手に動き、カナデの後頭部に手を回して、より強く頰に押し付ける。でも本心としてはその口に全てを押し込み、激しく出し入れしてしまいたい気持ちでいっぱいだ。
『んっ』と少し辛そうなカナデの声で我に返り、少し腰を引く。すると、彼の顔は先ばしりで汚れ、顔面に射精されたに近い表情になっていた。
『ご、ごめん…… 気持ちよくて、つい』
『気持ち、いい?』
 小首を傾げられ、当然です!と叫びたい気持ちに。必死に何度も頷いて答えると、カナデは小さな口を精一杯大きく開け、パクッと剛直の切っ先を口に含んだ。

『——っ⁉︎』

 こ、こ、ここ、ここは天国か⁉︎
 ぬめっとした口内の感触があまりに心地よく、声も出ない。両手でカナデの頭を掴み、無理矢理奥へ入れたくなったが、小さな顎が壊れかねないと必死に堪えた。だけどより深く入り込んでしまいたい気持ちからか、脚が開いていき、腰をもぞもぞとさせてしまう。
『も、もっと…… 奥とか…… 無理、だよね』
 そうですね、と言いたいのか、眉間にシワが寄る。そんな顔も可愛いとか、カナデは絶対に私を殺す気だ。心臓が止まってしまいそうな程激しく高鳴り続け、息が苦しい。

 だけどもうソレでもいい。このまま続けて欲しい。舌でそのまま先端部を舐め続け、根本を掴む手で少し強めに弄ってさえもらえれば!

 ささやかながらそう思うのに、カナデは剛直から『ぷはっ』と言いながら口を離してしまった。
 い、息継ぎ…… か、かわ——以下略

 身悶えし、顔面を両手で覆う。もう見ていられない。彼が可愛過ぎて、このままでは蛇の如く丸ごと頭から喰べてしまいそうだ。
 そう思う私の前で、布が擦れる音が聞こえる。シュルッと紐が解かれ、ボタンを外していっているのか、布が床に落ちる音までした。

 でも、何故そんな音が?

 疑問に思い、顔を覆う手を避けると、目の前には自分の着ている服を次々に脱いでいっているカナデの姿が。
『…… 何を、しているの?』
 野暮な事を訊いたものだ。そうは思うも、訊かずにはいられない。目を背ける事も出来ない。好意を持つ相手が、自分の為に服を脱ぐ姿を見ないで流すなど、出来るはずがなかった。

 細くて真白い首や薄っぺらい胸が露わになる。思った以上に綺麗だったが、やはり細い体が痛々しさを感じさせた。よく見れば傷痕も多くあり、『あぁ…… アレは、殺したくらいでは生温かったな』と後悔する。だがもう何にも苛立ちをぶつける事が出来ないのが腹立たしい。
 …… 腹は立つが、やはり目を逸らす事はしないまま、カナデの好きにさせる。手元は震えていて、頬は赤く、恥じらっている事がありありとわかる。私の視線がその先を求め彼を欲している事が伝わっているのか、カナデのこぼす吐息が熱い。
 まるで自慰でも見せてもらえているみたいな気分になってきた辺りで、私は我が目を疑った。

『…… じょ、女性?』

 男性だと言っていたじゃないか!
 あ…… いや、言っていたか?男児の服を着てはいて、お下がりがこれしかなかったとは話していたが、彼女らは一言も『男です』とは言っていなかった気がする。男児の服を着ている事で、私が勝手に勘違いをしただけなのか⁉︎
『なんて事だ…… 』
 いや、でも正直ありがたい。愛らしいカナデ相手ならば男でも全然いけるとは思っていたが、同性との性行為を試した事があった訳でも無いし、どう扱っていいのかも、こちらから始めておきながら実のところ思い付いていなかったからだ。だがまぁ、女性だというのならなんとかなる…… はず、だ。

 一糸纏わぬ姿になり、カナデが腕や手で恥部を隠す。視線は合わせず、ただただ恥ずかしさに頬を染める様子はもう天使にしか見えない。マッチの炎の先には幸せな幻影が見える事があると聞いた事があるが、もしこれがそれなのだったら、絶対に消えて無くなるなと心底思った。
『…… あ、あの』
 そわそわと、カナデが私を見てくる。
『ん?』
『…… この後、どうしたらいいのか、わか、わ…… わからない、の、ですが』
 中途半端にしか知識が無いらしく、素晴らしい格好のまま動けずにいるカナデがひどく吃りながら訊いてきた。
『んー…… じゃあそうだな、私の脚にでも乗ってみようか』
 一瞬顔が強張ったが、コクッと頷き、カナデが私の方へ腕を伸ばし、ギュッと正面から首に抱きつきながら膝の上に座ってくれた。
『かーわいぃ…… 』
 心から嬉しくなりそっと抱き返す。
 だが彼女は全裸で、私は剛直が剥き出しのままだったせいか、すぐに空気はイヤラシイものへと変わっていった。
『カナデ…… キス、してもいいかな』
『え、あ——』
 否定の返事を言わせぬよう、唇を奪う。このまま互いの体が溶け合ってしまえばいいのに。そう思うくらいにカナデの唇は柔らかく、微かに甘い味がして幸せな気持ちで心も体も喜びに打ち震えた。


       ◇


「…… ——うわぁ」
 重い瞼を開けた瞬間、目の前には真白い天井が広がっていた。綺麗で豪華なシャンデリアはどこにもなく、派手な装飾品で飾られた部屋でも無ければ、肝心の兄さんだって此処には居ない。どうやら私は、完全に寝落ちしていたみたいだ。どこまでが妄想で、どこからが夢だったのか境界線も全くわからない。だが、ボクサーパンツの中はかなり気持ち悪く、どうやら夢精してしまったみたいだという事だけは、即座に理解出来た。
「気持ちわるっ」
 のっそりとソファーから体を起こし、浴室に向かう。兄さんの痴態が目に焼き付いて消えず、髪の毛をくしゃりと掴んだ。

「兄さんを女性体にしちゃうとか、夢でも失礼だろ」

「あーもう…… 」と呟きつつ、棚の中からバスタオルを出して、ぱっぱと汚れた服を脱いだ。パンツの手洗いは後でするとして、まずはさっさと体を洗おう。着替えを持って来たりとかも、後でいいや。

 シャワーを頭から浴びながら、兄さんに対する気不味い気分で胸の中がモヤモヤする。でも、兄さんは普段から女性モノの服を愛用しているのだし、むしろ女性体で夢想される方が喜ぶのか?“オトコの娘”という存在がどういった扱いをされたいタイプの人達なのかわからず、首を傾げる。本人達にソレを訊くのは何か違う気がするし、私は疑問点を先送りにする事にした。
 折角買った本はほとんど読めていないが、もう時間も遅いし、これが終わったら今日は寝よう。本はまた時間を見付けて読めばいいか。
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