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【椿原家の人々】
両親が思う事
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圭と奏の両親である、父・帝と母・静が廊下を揃って歩いている。今さっきロビーの隅っこで家族会議的ものを済ませ、それぞれが仕事に戻るか、帰路に着く為別れてきたばかりだ。定時を過ぎた社内は昼間よりはちょっと閑散としていて、残業に取り掛かろうとしている者達がたまに側を通り過ぎては二人に軽く頭を下げていた。
「ウチの圭が自力で結婚相手を見付けたとは、驚きだわ」
そう言ったのは母の静だ。
「そうかい?私的には、奏の方が心配だなぁ。あの子は恋に全く興味が無いからね。人生において結婚が全てじゃないとわかっているから何も言わないでおいてはいるけど、親心として『誰か伴侶を得て欲しい』とは、どうしても思っちゃうよね。だから静さんが人事に移動したのがさっきの理由でも、私は驚かなかったよ」
「…… あの子達に嘘は言いたくなかったから、ああは言ったけど私、仕事関係で人事の記録を見た時に『この子ならどうかしら?』と思いながら読む以外には特に何もしていないのよ?本当よ?」
「あぁ、わかっているよ。静かさんは『この人にしなさい。母さんが決めてあげたのよ』って押し付けるような真似をしない人だからね。だけど、もしそれが出来ちゃう人だったら、僕らはもっと早く恋人同士になれていたかもねぇ」
「…… そうかもしれないわね。でもどうかしら、そんな性格だったのなら、帝さんは私に惚れてくれたりなどはしてくれなかったんじゃないかと思うわ」
「どうかな、流石に『もしも』の話では何と答えるべきかわからないや」
にっこりと笑い、帝が静の手をギュッと握る。
「ところで、誰かいい人はいたのかい?や、念のため聞きたいだけでね?別に知ったからって、奏に押し付けたりはしないよ?うん」
「…… 秘書課の青鬼君はどうかなと。献身的だし、盲目的だし、仕事も出来る子だし。まぁ『プライベートでは思い込みがちょっと激しいわね』とは感じるけど、全く恋に興味が無い子にはぴったりだと思うわ」
「あぁ、青鬼君か。あの子は面白いなぁ。入社してすぐに『青鬼家の者だが会ってくれ』と言われて会ってみたら、開口一番『湯川大和さんを幸せにしたいから協力しろ』だったからね」
「青鬼君は、社長の事が大好きですものねぇ」
「あぁ…… そこだけがなぁ」
んー…… と二人して遠い目になる。
イイ子なのだが、奏に『イイヒトがいるんだけど、どうかしら?』と言えないのはココが理由なのよねぇ、と静は思った。
「実はね、私もちょっとだけ静さんに秘密があったんだ」
「秘密?あら、何かしら」
「ずっと前にねぇ、圭君が高校の進路希望で悩んでいた時期があっただろう?どこも悪く無いから決められないって。最終決定した学校へ行く様に勧めたのは、私なんだ。青鬼家の娘さんが同じ歳で、しかもあの高校を受験すると知っていたからね」
「あら、そうだったの?だけど、娘さんが合格するのかもわからなかったのに?」
「あぁ、そうだね。合格するかもしれないし、しないかもしれない。したとしても、別の学校へ行くかもしれない。同じ学校に入ったとしたって、知り合うことも無く卒業して終わる可能性だって大いにある。でもさ、もし彼らの運命がつながっているんだとしたら、私の些細な一押し程度でも、いつか一緒になっちゃう事もあるかなーって、面白半分でね。でもまさか、本当に結婚するとは夢にも思わなかったよ」
「あははは」と笑う帝の横で、静が目を見開いて真顔になっている。少しずつ肩が震えだし、彼女が全身を震わせる頃にはすっかり瞳が溶けきっていた。
「帝さん…… 好きぃっ!」
腰を折り、自分よりも低い身長をした夫の顔に大きな胸を押し当てて静が抱きつく。
「おや?惚れ直してくれたの?」
とっても嬉しいが、どのへんが静のツボだったのかが夫として付き合いが長くてもよくわからない。
「そんなのは毎日よ。昨日の貴方よりも、今日の帝さんの方がずっとずっと好きなんですからね」
「奥さんが情熱的でとっても嬉しいよ」
「何歳になっても喜んでいただけて光栄だわ」と言って、社内の廊下だというのに二人が口づけを交わす。
「…… 今夜は帰宅せず、ちょっと違う場所に泊まったりする気は、あるかい?」
「えぇ、もちろんよ」
ふふっと笑い合い、今日の二人はもう残業はしないで帰る事に決めた。
約十ヶ月後。奏と圭にかなり年の離れた弟が生まれたのだが、当然の結果だと言えよう。
「ウチの圭が自力で結婚相手を見付けたとは、驚きだわ」
そう言ったのは母の静だ。
「そうかい?私的には、奏の方が心配だなぁ。あの子は恋に全く興味が無いからね。人生において結婚が全てじゃないとわかっているから何も言わないでおいてはいるけど、親心として『誰か伴侶を得て欲しい』とは、どうしても思っちゃうよね。だから静さんが人事に移動したのがさっきの理由でも、私は驚かなかったよ」
「…… あの子達に嘘は言いたくなかったから、ああは言ったけど私、仕事関係で人事の記録を見た時に『この子ならどうかしら?』と思いながら読む以外には特に何もしていないのよ?本当よ?」
「あぁ、わかっているよ。静かさんは『この人にしなさい。母さんが決めてあげたのよ』って押し付けるような真似をしない人だからね。だけど、もしそれが出来ちゃう人だったら、僕らはもっと早く恋人同士になれていたかもねぇ」
「…… そうかもしれないわね。でもどうかしら、そんな性格だったのなら、帝さんは私に惚れてくれたりなどはしてくれなかったんじゃないかと思うわ」
「どうかな、流石に『もしも』の話では何と答えるべきかわからないや」
にっこりと笑い、帝が静の手をギュッと握る。
「ところで、誰かいい人はいたのかい?や、念のため聞きたいだけでね?別に知ったからって、奏に押し付けたりはしないよ?うん」
「…… 秘書課の青鬼君はどうかなと。献身的だし、盲目的だし、仕事も出来る子だし。まぁ『プライベートでは思い込みがちょっと激しいわね』とは感じるけど、全く恋に興味が無い子にはぴったりだと思うわ」
「あぁ、青鬼君か。あの子は面白いなぁ。入社してすぐに『青鬼家の者だが会ってくれ』と言われて会ってみたら、開口一番『湯川大和さんを幸せにしたいから協力しろ』だったからね」
「青鬼君は、社長の事が大好きですものねぇ」
「あぁ…… そこだけがなぁ」
んー…… と二人して遠い目になる。
イイ子なのだが、奏に『イイヒトがいるんだけど、どうかしら?』と言えないのはココが理由なのよねぇ、と静は思った。
「実はね、私もちょっとだけ静さんに秘密があったんだ」
「秘密?あら、何かしら」
「ずっと前にねぇ、圭君が高校の進路希望で悩んでいた時期があっただろう?どこも悪く無いから決められないって。最終決定した学校へ行く様に勧めたのは、私なんだ。青鬼家の娘さんが同じ歳で、しかもあの高校を受験すると知っていたからね」
「あら、そうだったの?だけど、娘さんが合格するのかもわからなかったのに?」
「あぁ、そうだね。合格するかもしれないし、しないかもしれない。したとしても、別の学校へ行くかもしれない。同じ学校に入ったとしたって、知り合うことも無く卒業して終わる可能性だって大いにある。でもさ、もし彼らの運命がつながっているんだとしたら、私の些細な一押し程度でも、いつか一緒になっちゃう事もあるかなーって、面白半分でね。でもまさか、本当に結婚するとは夢にも思わなかったよ」
「あははは」と笑う帝の横で、静が目を見開いて真顔になっている。少しずつ肩が震えだし、彼女が全身を震わせる頃にはすっかり瞳が溶けきっていた。
「帝さん…… 好きぃっ!」
腰を折り、自分よりも低い身長をした夫の顔に大きな胸を押し当てて静が抱きつく。
「おや?惚れ直してくれたの?」
とっても嬉しいが、どのへんが静のツボだったのかが夫として付き合いが長くてもよくわからない。
「そんなのは毎日よ。昨日の貴方よりも、今日の帝さんの方がずっとずっと好きなんですからね」
「奥さんが情熱的でとっても嬉しいよ」
「何歳になっても喜んでいただけて光栄だわ」と言って、社内の廊下だというのに二人が口づけを交わす。
「…… 今夜は帰宅せず、ちょっと違う場所に泊まったりする気は、あるかい?」
「えぇ、もちろんよ」
ふふっと笑い合い、今日の二人はもう残業はしないで帰る事に決めた。
約十ヶ月後。奏と圭にかなり年の離れた弟が生まれたのだが、当然の結果だと言えよう。
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