義弟が私を“オトコの娘”だと言う

月咲やまな

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【椿原家の人々】

ウチの親はどうかしてる

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「あ、待って…… 母さんが人事課の部長ってまさか、ボクが採用されたのって不正採用?鶴の一声とか、忖度されて入った感じなの?」
 もしそうだったのなら、かなりショックだ。実力で、努力した結果採用されたものだと思っていたので今後のモチベーションにまで影響しそうだ。
「圭、母さんがそんな事をするわけがないだろう?」
 父である帝がキリッとした顔で真剣に言う。その言葉でほっとし、素直に『ごめんね、疑って』と両親に謝ろうとした圭だったのだが、彼らの話には続きがあった。

「私達は、ウチの会社が欲しい人材を家でも育てただけよ」

 キッパリハッキリ、母が自慢気に言った。
「いやいやいや、教育方針がおかしいだろ、おい!」
 両親相手に圭は真顔でつっこんだ。
 納得なんかこれっぽっちも出来なかったが、根っからの仕事人間だからの愛情なのだろうと、どうにかこうにか受け止める。家族で一緒に出掛けたりなどの思い出はほとんど無い家族だが、奏や圭が親からの愛情不足を感じた事は無かったので、一応子育ては成功だったのだろう。

「…… おかしいの?」

 母が疑問顔で父を見る。そんな妻の様子を可愛く思いながら、「そうだねぇ、おかしいなぁとは私も思うねー。でも、圭君も就職まで出来たんから、結果よければじゃないかい?」と笑顔で答えた。
「ほら!私は間違っていないわ!」
「待てコラ、おかしいってハッキリと言われてるだろうが」
 誇らし気に胸を張る母に向かい、即座に圭はツッコミを入れた。

「まぁまぁ、いいじゃないですか。私はそのおかげでこうやって父さんや母さんと一緒にお仕事ができる様になったのだから、よかったなと思いますよ」
 ずっと黙っていた奏がヘラッとした笑顔を三人に向ける。普段の無表情が嘘みたいに顔つきが柔らかい。場所が場所だが、久しぶりに家族が揃って嬉しいみたいだ。

「ホラァ!奏だってこう言っているわ!」
「だから、母さんは勝ち誇るなって!姉ちゃんまでが味方になろうが、教育方針的が異常なのは変わらんから!」
「そんな事は無いわ。こうやってグレる事なく二人とも我が社へ入社しているのが、何よりの証拠よ!」
「結果論でしょうがぁ!」

「あはははー。いいねぇ、久しぶりだねぇ、二人とも楽しそうだ」
「そうですねぇ、主任」
「んー?今くらい、『父さん』でもいいんだよ?奏」
「じゃ、じゃあ…… お言葉に甘えて」と一旦言葉を切り、改めて「…… お、お父、さん」と呟やく。ちょっと照れくさそうにする奏を見て、帝は和かに微笑んだ。
「はははは。照れ屋さんめぇ。母さんにそっくりだね、奏は」
 すぐ隣で弟と楽しそうに言い争いをしている母に視線をやり、『え?どこが?』と奏は思ったが、盲目的に母を溺愛している父にはその一言を言えなかったのだった。
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