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【椿原家の人々】
これ以上、家族がこの場に増えるんですか?
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「やぁやぁ、何やらとても楽しそうだね。どうしたんだい?」
よく通る明るい声がロビーに響き、一同が一斉に声の主の方へ顔を向けた。
「——つ、椿原主任!」
「お、おおぉ、お父さんまでっ!」
「主任、お疲れ様です」
「楽しそうだね。私も仲間に入れてはもらえないかな?」
ニコニコとした温かな笑顔を振りまきながら、そう言ったのは奏と圭の父親である。湯川製薬の研究所主任を勤め、会社の実権の大部分を握っていると噂される程のやり手なのだが、奏によく似た小さな体と、眼鏡をかけていてとても真面目そうなうえ、漂う穏やかな空気感がそれを忘れさせる。しかも、口元の笑いジワが無ければまだ子供の様な顔立ちをした人物である為、実は実力者であるとはとてもじゃないが微塵も見えない。
「私も興味があるわ。姉弟で一体何のお話をされていたの?」
横長な眼鏡の縁をクイッと指先で持ち上げ、女史風の女性が椿原主任の後ろに立っている。彼と比べるとかなりの高身長で、立ち姿はまるでモデルだ。纏うのは知的な雰囲気なのに、キリリとした目元や口の下のホクロが妙に色っぽく、真っ赤な唇に花を添えていた。
「か、母さんまで⁉︎」
「お疲れ様です」
焦る圭とは対照的に、奏の方はやけに事務的だ。長年共に仕事をしてきているからだろうか。
「お疲れ様ー。どうたったかな?新人研修は」
「え、待って。ここでこのまま話すの?や、ちょっと場所変えようよ」
父の質問に答えぬまま、圭が周囲を見渡した。ロビーに残っている面子が誰一人として帰る気配も無く、椿原一家のやり取りを、興味津々といった眼差しで見守っている。既に勤めの長い奏達三人は見られ慣れしているからいいのだが、圭はまだ入社したてでそうもいかない。彼は所詮根っこが生粋のオタク気質なので、同僚の前でいくらカッコつけた所で、軽いコミ障は治っていないのだ。
「気にする事は無いわ、圭。さっきの貴方の方がずっと恥ずかしかったから」
キランッと眼鏡を輝かせ、母の静がハッキリ言う。ただでさえゲーム中に毒攻撃をくらった時みたいにジワジワと消えていっていた圭のHPを、ごっそり削る一言だった。
「いいから三人とも、こっちに来てー!」
そう言って、圭が三人の背中をまとめて押してロビーを端まで彼等を誘導する。
そのせいで話の内容が全く聞こえなくなり、ロビーにまだ残っていた者達はちょっと残念な気持ちにはなったが、研修中ずっと大人っぽい雰囲気だった圭の『可愛い姿が見られたわ!』と興奮気味でもあった。
「もぉぉぉ…… 何で家族揃って、ボクの様子を見に来るんだよぉ」
ロビーの一角に置かれたソファーに四人が座り、自分だけが参観日状態になってしまった事を圭が本気で落ち込んでいる。「ごめんなさい。チラッと見たら帰ろうと思っていたのだけど、人が多くて社外へ出るに出られず…… 」
気不味そうに謝る奏に対し、「あぁ、まぁそうだよね。ほとんどまだ残っていて、混んでるよね。でも、出来れば様子すら見に来ないで欲しかったです!」と圭が不満をぶつけた。
「私は静さんの付き添いだよー」と、父の帝が言う。
「私は仕事で来たのよ。人事課のトップとしては、新人社員達の様子が気になっても当然でしょう?」
長い脚を組み、静の口元が緩やかに弧を描く。そんな母を見て、圭は「え、何それ。聞いてないんだけど、ボク」と困惑気味だ。
「母さんも薬剤の研究員じゃないの?え、何で人事課に移動になった事を教えてくれなかったのさ」
「通知ならしたわよ?」
「いつ?どこで?」
「二年前の社内掲示板で」
サラッと母に真顔で言われ、圭は「今年度から入ったボクが、そんな物を読めるかぁぁぁぁぁ!」と叫んだのだった。
よく通る明るい声がロビーに響き、一同が一斉に声の主の方へ顔を向けた。
「——つ、椿原主任!」
「お、おおぉ、お父さんまでっ!」
「主任、お疲れ様です」
「楽しそうだね。私も仲間に入れてはもらえないかな?」
ニコニコとした温かな笑顔を振りまきながら、そう言ったのは奏と圭の父親である。湯川製薬の研究所主任を勤め、会社の実権の大部分を握っていると噂される程のやり手なのだが、奏によく似た小さな体と、眼鏡をかけていてとても真面目そうなうえ、漂う穏やかな空気感がそれを忘れさせる。しかも、口元の笑いジワが無ければまだ子供の様な顔立ちをした人物である為、実は実力者であるとはとてもじゃないが微塵も見えない。
「私も興味があるわ。姉弟で一体何のお話をされていたの?」
横長な眼鏡の縁をクイッと指先で持ち上げ、女史風の女性が椿原主任の後ろに立っている。彼と比べるとかなりの高身長で、立ち姿はまるでモデルだ。纏うのは知的な雰囲気なのに、キリリとした目元や口の下のホクロが妙に色っぽく、真っ赤な唇に花を添えていた。
「か、母さんまで⁉︎」
「お疲れ様です」
焦る圭とは対照的に、奏の方はやけに事務的だ。長年共に仕事をしてきているからだろうか。
「お疲れ様ー。どうたったかな?新人研修は」
「え、待って。ここでこのまま話すの?や、ちょっと場所変えようよ」
父の質問に答えぬまま、圭が周囲を見渡した。ロビーに残っている面子が誰一人として帰る気配も無く、椿原一家のやり取りを、興味津々といった眼差しで見守っている。既に勤めの長い奏達三人は見られ慣れしているからいいのだが、圭はまだ入社したてでそうもいかない。彼は所詮根っこが生粋のオタク気質なので、同僚の前でいくらカッコつけた所で、軽いコミ障は治っていないのだ。
「気にする事は無いわ、圭。さっきの貴方の方がずっと恥ずかしかったから」
キランッと眼鏡を輝かせ、母の静がハッキリ言う。ただでさえゲーム中に毒攻撃をくらった時みたいにジワジワと消えていっていた圭のHPを、ごっそり削る一言だった。
「いいから三人とも、こっちに来てー!」
そう言って、圭が三人の背中をまとめて押してロビーを端まで彼等を誘導する。
そのせいで話の内容が全く聞こえなくなり、ロビーにまだ残っていた者達はちょっと残念な気持ちにはなったが、研修中ずっと大人っぽい雰囲気だった圭の『可愛い姿が見られたわ!』と興奮気味でもあった。
「もぉぉぉ…… 何で家族揃って、ボクの様子を見に来るんだよぉ」
ロビーの一角に置かれたソファーに四人が座り、自分だけが参観日状態になってしまった事を圭が本気で落ち込んでいる。「ごめんなさい。チラッと見たら帰ろうと思っていたのだけど、人が多くて社外へ出るに出られず…… 」
気不味そうに謝る奏に対し、「あぁ、まぁそうだよね。ほとんどまだ残っていて、混んでるよね。でも、出来れば様子すら見に来ないで欲しかったです!」と圭が不満をぶつけた。
「私は静さんの付き添いだよー」と、父の帝が言う。
「私は仕事で来たのよ。人事課のトップとしては、新人社員達の様子が気になっても当然でしょう?」
長い脚を組み、静の口元が緩やかに弧を描く。そんな母を見て、圭は「え、何それ。聞いてないんだけど、ボク」と困惑気味だ。
「母さんも薬剤の研究員じゃないの?え、何で人事課に移動になった事を教えてくれなかったのさ」
「通知ならしたわよ?」
「いつ?どこで?」
「二年前の社内掲示板で」
サラッと母に真顔で言われ、圭は「今年度から入ったボクが、そんな物を読めるかぁぁぁぁぁ!」と叫んだのだった。
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