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【初デートは蜜の味(の予定である)】
お誘い=デートという事でいいですよね!
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社員食堂で、広報課の七尾を含めた三人で食事を済ませた日から数日が経ったある日の事。また今日も食堂内に多々並ぶテーブルの一角に陽と奏が隣り合って座っている。
今日は珍しくお昼時に奏が休憩を取れ、それを監視カメラとセキュリティーのおかげでいち早く察知した陽は社食の入り口前で待機し、彼女と合流した。お昼時だとあって食堂内はかなり混み合っており、席を確保するのは難しそうに思えた。だが、二人が実質的な社長と研究棟主任の子供だというのは周知の事実だった為、親切な一行が譲ってくれ、すぐに座ってゆっくり食事をすることが出来た。
ハンバーグ定食を平げ、奏が満足気な顔をしている。空腹が満たされた事で機嫌がいいのだが、『何となく雰囲気でそう察する事が出来るかな?』程度でしか周囲には伝わらないのは相変わらずだ。
そんな奏が職場内での移動時のみに使う小さな鞄を漁り、中から封筒を取り出し、それをスッと陽の前へと差し出した。だが、陽は奏から何かを受け取る約束は特にしておらず、一言も無いまま差し出されてしまったので彼には何が入っている封筒なのか検討もつかない。
「ん?どうしたのこれ。も、もしかして、兄さんからのラブレター⁉︎記入済みの婚姻届とかが入っていたりするのかい?」
(男同士だから本当には無理だけど、もし婚姻届だったら、例えごっこ遊びでも嬉し過ぎる!)
さっきまで天ぷら蕎麦を食べていた陽が妄想を膨らまし、勝手に喜び、真っ赤に染まる顔を両手で覆う。
「陽さんったら、随分面白い冗談を言うんですね」
口元を手で隠し、奏がクスッと笑う。目元に変化が無く、遠目では笑っているようには見えなかった。
(そういう類の冗談は彼女さんに言ってあげたらいいのに。あ、でも彼女だと変に気を持たせてしまうから逆に言えないのかな?だから、既にもう義姉的立場にある私に、か。なるほど、奥が深いですね冗談というものは)
勝手に一人でそう納得し、奏が「開けてみてもらえますか?あ、でもこれはその、冗談で用意した物では無いので、楽しませてあげられるかは微妙なのですけど」と、少し申し訳なさそうな声で言った。
『何か私も義弟を笑わせてあげられる小ネタでも用意するべきだったかなぁ、でもその類の行為は不得手だしなぁ』と考えながら、首を右に左にと倒し、渋い顔をしながら一人で唸る。彼女の正面にでも座っていればそんなレア顔を見る事が出来たのに、隣に座るという事を選択した陽は彼女の表情を見逃したまま、「何だろう?緊張するなぁ」と言いながら、封筒を受け取った。
「…… 映画の、チケット?」
「はい。圭君からの差し入れです。あの子には『姉ちゃんが買って用意した事にして渡してね』と言われていたんですけど…… でも、ほぼ初月給みたいなお金でわざわざ買ってくれたのに、手柄を横取りするみたいで嫌だなと思って。すみません、こういう事って言うべきではないとはわかっているんですけど、でも——…… よ、陽さん?どうかしましたか?」
奏が横を見ると、陽が肩を震わせながら彼女の腕にしがみついている。人前で抱きつかなかっただけ褒めてあげて欲しいくらい、もうテンションはダダ上がりだ。
「兄さんが可愛すぎて辛い…… 」
取り繕うのも忘れて奏を“兄”と呼ぶ陽に向かい、「姉ですよ?」と久しぶりに釘を刺す。
「兄さんって正直者だね。好き、ホント好き!心底愛してるっ!あぁ…… 何の映画だろう?恋愛物語だったら嬉しいな。隣同士で座って、手を繋いで恋愛映画を観るとか!今から楽しみだなぁ。もうあれだね、デート、初デートだ!」
長身の青年が大はしゃぎしつつも周囲に気を遣い、声を抑えながらも語気だけは強かった。
「喜んでもらえて嬉しいです」
ポンポンと叩くみたいにして、奏が陽の頭を撫でる。気分はもう大型犬を扱う飼い主だ。なので犬が『好き、ホント好き!心底愛してるっ!』と言おうが、奏は陽に対し『はいはい、いい子ねー』くらいの気持ちでしかなかった。
「何の作品だろう?」と言いながら、陽が封筒からチケットを取り出すと、中にはもう一枚紙が。不思議に思いながら彼が紙を開いてみるとそれは、許可済みの印が押された休暇届けだった。
「…… 何?これ」
きょとんとした顔をして陽が奏の顔を見下ろす。すると彼女は、ちょっと誇らし気に瞳をキラッと輝かせた。
「父に頼んで、次の金曜日の有給休暇ももぎ取っておきました。陽さんがおこなうはずだった分の仕事を、他の方達に振り分けて貰ったんです」
「わぁ、これが公務員だったら完全に職権濫用案件だね!」
「私が頼んできた事でちょっと不思議そうな顔をされましたけど、母が父に何かを耳打ちしたと思ったら即了承してもらえて、『青鬼君の首に縄をつけて捕まえて来い』と意味不明な事を言われましたよ。父もそんな冗談をいうのだなぁと思うと、ちょっと楽しくなりました」
陽が喜び、「お、お義父様!」と言いながらガッツポーズを取る。その言葉を頂けただけで、『もう兄さんを娶ったも同義だ!』と思うと、陽は心が喜びに打ち震えたのだった。
今日は珍しくお昼時に奏が休憩を取れ、それを監視カメラとセキュリティーのおかげでいち早く察知した陽は社食の入り口前で待機し、彼女と合流した。お昼時だとあって食堂内はかなり混み合っており、席を確保するのは難しそうに思えた。だが、二人が実質的な社長と研究棟主任の子供だというのは周知の事実だった為、親切な一行が譲ってくれ、すぐに座ってゆっくり食事をすることが出来た。
ハンバーグ定食を平げ、奏が満足気な顔をしている。空腹が満たされた事で機嫌がいいのだが、『何となく雰囲気でそう察する事が出来るかな?』程度でしか周囲には伝わらないのは相変わらずだ。
そんな奏が職場内での移動時のみに使う小さな鞄を漁り、中から封筒を取り出し、それをスッと陽の前へと差し出した。だが、陽は奏から何かを受け取る約束は特にしておらず、一言も無いまま差し出されてしまったので彼には何が入っている封筒なのか検討もつかない。
「ん?どうしたのこれ。も、もしかして、兄さんからのラブレター⁉︎記入済みの婚姻届とかが入っていたりするのかい?」
(男同士だから本当には無理だけど、もし婚姻届だったら、例えごっこ遊びでも嬉し過ぎる!)
さっきまで天ぷら蕎麦を食べていた陽が妄想を膨らまし、勝手に喜び、真っ赤に染まる顔を両手で覆う。
「陽さんったら、随分面白い冗談を言うんですね」
口元を手で隠し、奏がクスッと笑う。目元に変化が無く、遠目では笑っているようには見えなかった。
(そういう類の冗談は彼女さんに言ってあげたらいいのに。あ、でも彼女だと変に気を持たせてしまうから逆に言えないのかな?だから、既にもう義姉的立場にある私に、か。なるほど、奥が深いですね冗談というものは)
勝手に一人でそう納得し、奏が「開けてみてもらえますか?あ、でもこれはその、冗談で用意した物では無いので、楽しませてあげられるかは微妙なのですけど」と、少し申し訳なさそうな声で言った。
『何か私も義弟を笑わせてあげられる小ネタでも用意するべきだったかなぁ、でもその類の行為は不得手だしなぁ』と考えながら、首を右に左にと倒し、渋い顔をしながら一人で唸る。彼女の正面にでも座っていればそんなレア顔を見る事が出来たのに、隣に座るという事を選択した陽は彼女の表情を見逃したまま、「何だろう?緊張するなぁ」と言いながら、封筒を受け取った。
「…… 映画の、チケット?」
「はい。圭君からの差し入れです。あの子には『姉ちゃんが買って用意した事にして渡してね』と言われていたんですけど…… でも、ほぼ初月給みたいなお金でわざわざ買ってくれたのに、手柄を横取りするみたいで嫌だなと思って。すみません、こういう事って言うべきではないとはわかっているんですけど、でも——…… よ、陽さん?どうかしましたか?」
奏が横を見ると、陽が肩を震わせながら彼女の腕にしがみついている。人前で抱きつかなかっただけ褒めてあげて欲しいくらい、もうテンションはダダ上がりだ。
「兄さんが可愛すぎて辛い…… 」
取り繕うのも忘れて奏を“兄”と呼ぶ陽に向かい、「姉ですよ?」と久しぶりに釘を刺す。
「兄さんって正直者だね。好き、ホント好き!心底愛してるっ!あぁ…… 何の映画だろう?恋愛物語だったら嬉しいな。隣同士で座って、手を繋いで恋愛映画を観るとか!今から楽しみだなぁ。もうあれだね、デート、初デートだ!」
長身の青年が大はしゃぎしつつも周囲に気を遣い、声を抑えながらも語気だけは強かった。
「喜んでもらえて嬉しいです」
ポンポンと叩くみたいにして、奏が陽の頭を撫でる。気分はもう大型犬を扱う飼い主だ。なので犬が『好き、ホント好き!心底愛してるっ!』と言おうが、奏は陽に対し『はいはい、いい子ねー』くらいの気持ちでしかなかった。
「何の作品だろう?」と言いながら、陽が封筒からチケットを取り出すと、中にはもう一枚紙が。不思議に思いながら彼が紙を開いてみるとそれは、許可済みの印が押された休暇届けだった。
「…… 何?これ」
きょとんとした顔をして陽が奏の顔を見下ろす。すると彼女は、ちょっと誇らし気に瞳をキラッと輝かせた。
「父に頼んで、次の金曜日の有給休暇ももぎ取っておきました。陽さんがおこなうはずだった分の仕事を、他の方達に振り分けて貰ったんです」
「わぁ、これが公務員だったら完全に職権濫用案件だね!」
「私が頼んできた事でちょっと不思議そうな顔をされましたけど、母が父に何かを耳打ちしたと思ったら即了承してもらえて、『青鬼君の首に縄をつけて捕まえて来い』と意味不明な事を言われましたよ。父もそんな冗談をいうのだなぁと思うと、ちょっと楽しくなりました」
陽が喜び、「お、お義父様!」と言いながらガッツポーズを取る。その言葉を頂けただけで、『もう兄さんを娶ったも同義だ!』と思うと、陽は心が喜びに打ち震えたのだった。
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